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謁見とある種暴言

目の覚めた俺に待っていたのは、国王陛下との謁見である。

正直気が重いし、はっきり言って今すぐかよ、と思わないでもない。

だが貴族王族と言ったやつらが、どこの馬の骨ともわからない庶民の都合なんてものを、本気で考えるわけもない。

俺は起きてちょっとだけ食事をとったと思ったら、もう。


「陛下がお待ちです」


なんて言われるわけだ。

げんなりしてしまうぜ。俺は病み上がりみたいなもんなんだよ。

そんな気力を使う事っぽい、国王陛下とやらとの謁見なんて、もっと体力が回復してからにしてくれよ。

色々言いたくなるのだが、俺はぐっとこらえた。

言ってどうする。

なーんにも意味がないってわかり切っているわけだ。

俺は溜息を隠し、魔素がやたらに多いばかりの、味付けは塩と酢なのか、と思ってしまう、ぶっちゃけうまみなんて感じられない料理に、未練を残さず立ち上がった。

俺が作ったカレーの方がうまい。絶対に。


「わかりました。どちらにいらっしゃいますか」


「こちらです、もうお食事はいいのですか?」


「国王がお待ちなのでしょう」


急かしておいて、食事がもういいのか、なんて。

聞くんじゃねえよ、お前あほか。

俺は突っ込みを飲み込み、この俺の言葉の毒に気付きもしない使用人の後を追う事になった。

その時だ。


「待ってくれ、オレも行く」


フォーマルハウトが席を立った。

そう。

俺とキャシー、そしてフォーマルハウトは食事をとっていたのだ。

俺がお腹が空いたと訴えれば、そう言えば昼食がまだだったと言い出したキャシー、そしてならみんなで食べればいいと言い切ったフォーマルハウトというメンツだから、起きた事である。


「私なんかはいけないわね、国王陛下の御目通りなんて」


いいや、美の頂点にして豊穣の女神であるあんたが、たかだか一国の国王に遠慮なんて、と俺はうっかり言いそうになったが、思い出す。

キャシーも、自分がウェーニュスだという事は秘密にしているのだ。

俺が暴露してはいけない事実である。

そのため俺は、キャシーに見送られて、そして隣にぶーちゃん、脇にフォーマルハウトという、謎の並びで使用人の後を追っていた。

というか、なんでフォーマルハウトはついてきたいんだよ。

ぶーちゃんはまだわかる。

この可愛らしく、意地らしい豚ちゃんは俺がまだ顔色が悪いのを心配しているのだ。

うっかり倒れた時、自分の背中に乗せようとも思っているかもしれない。

事実。


<親分調子悪いのに。大丈夫? ぶーちゃんに乗る?>


と、さっきから訴えてきているのだ。


「大丈夫、まだ大丈夫。立って歩けるから」


<つらくなったら言ってね、親分>


つぶらな瞳が、俺を心配そうに見つめてくる。

本当に、お前はいい豚ちゃんだよ、ぶーちゃん。

話はそれたのだが。

問題はフォーマルハウトである。

ついてこられる理由が皆無だ。

それとも。

俺は脇に立っている、イケメンを観察した。

こいつには、何か俺に言えない秘密があって。それのために、俺に引っ付く事にしているのだろうか。

しかし俺が、ギギウス・ブロッケンだったという事実は、キャシー以外誰もわかっていないはずである。

多分嗅ぎ付けられるへまも、俺はしていないと思う。

だからわからんのだ。

……もっと別の理由だったら、俺の杞憂だけれども。

そんな事を思った後、俺はおそらく問いかけられるだろう、国王の疑問に何と答えるか、じっくりと考える事にした。





壮麗な造りの、玉座の間である。

金が全く使われていないから、豪華絢爛とはちょっと違う感じ。

でも、金は間違いなくかかっている。

そこかしこの魔法銀のきらめきが、俺にそんな事を思わせた。

道案内の使用人は、ここで終わりらしく、立ち去って行った。

俺どうすりゃいいんだよ。

国王との謁見のための、礼儀作法なんて一ミリも知らないぞ。

無礼だって言われても、どうしようもないぞ。

説明不足ないろんな奴らに、俺は心から文句を言いつつ、玉座の間で唯一金色をしている物を見た。

とはいえ、これも純金じゃないな。

金メッキかもしれない。だって輝きがちゃちい。

そんな、しかし金というものを知らない人間が見たら、確実に威光を感じさせる玉座を見る。

そこには金髪の男が座っていた。年のころあいは中年前後。

二十代の子供がわんさかいても、俺は驚かないだろう。

そんな年齢の男は、昔は男前だったような空気感だ。

俺は挨拶も何もしない。

だってここで、玉座に座っている、つまり国王だろう相手に、なんと言葉と挨拶を述べればいいのか、さっぱりぽんだからだ。

つうか、うかつに話しかけたらそれだけで、無礼物じゃなかろうか。

俺は色々と考え、そして、宰相だろうか、それなりの女性と話し合っていた国王が、俺に気付いた事を確認した。

彼が怪訝そうな顔になる。

そんな面されても、俺は何をすればいいのか全く分からねえんだよ。

本気で困る。


「おぬしが、魔物を一掃したという少年か」


俺はどこをどう訂正したらいいのか、本気で悩んだ。

性別? 一掃した事? 年齢?

俺は女だし年齢はもう十八だし、第一あれは魔物を一掃したのではなく、浄化及び消滅させたんだよ。

一掃なんて、かるーい言葉で終わらせるな。

俺は言いたい事を、また飲み込んだ。

そして内心で、必死に礼儀作法、良識、モラル、親方に迷惑がかかる、という単語を回転させた。

どれも大事だろう。

俺が黙ったまま何も答えないからだろう。

国王は機嫌を損ねた顔になった。

それは王者の傲慢とも言っていい表情だ。

さらにそれは、ついてきたフォーマルハウトにも及ぶ。


「西の歌うたい、そなたはお呼びではなかっただろう」


「この者はまだ体が回復していないので、倒れた時に助けられるように」


フォーマルハウトは、内心の読めない一礼をして、そう答えた。

取りあえず、その言葉も事実ではあるのだろう。


「ふん」


国王は続いて、泥だらけのぶーちゃんに、嫌悪をあらわにした。


「なんだその、汚らしい獣は。追い出せ」


「失礼ながら、陛下。この獣は、魔物はびこる中、瘴気漂う中、主人の命令を忠実に実行し、子供たちを助けた獣です」


フォーマルハウトのフォローだが、ぶーちゃんはペットじゃない。

俺は親分であり、主人というものじゃない。

事実、ぶーちゃんは不満げに鼻を鳴らした。

そして、俺にすり寄る。


<あれきらい、親分帰ろ>


国王はぶーちゃんに嫌われたらしい。

俺は視線で、まだ我慢して、とアイコンタクトを取り、ぶーちゃんをなだめた。

そして。国王を観察した。

まず金髪。そして碧眼。元男前の中年で。腹がぼってりと膨らんでいる。

そのふくらみは脂肪じゃない。

魔素だな。

魔素太りだと俺は判断した。

脂肪のつきかたとは、ちょいとばかり違うのが、魔素太りなのだから。

俺はその姿の、絢爛豪華に仕立て上げた服の贅沢さに、ある意味げんなりした。

金使い過ぎだ。

貧乏人生活が長かった俺にして見れば、信じがたい贅沢である。

まあ、一昔前の地球だって、肥っているのは金持ちの特権だったわけだが。

それをここで議論するつもりはない。

国王は、ぶーちゃんに少しばかり興味を抱いたらしい。


「瘴気の中を。ただの獣が。そうか……我が息子の騎乗する獣にうってつけというわけか」


その、大きすぎる独り言は、妙に背筋が寒くなる言葉だった。

いいや、あんたの息子に、ぶーちゃんは乗りこなせないぜ、たぶん。


「さて。……少年、此度の活躍を誠にうれしく思う。バルザックに、魔物を一掃させられる魔術使いがいる事を幸運だと思うぞ」


魔術。そんな腑抜けた力じゃないんだよ、あれは。


「褒美を遣わそう。そして質問に答えれば、我が息子たちの部下にしてやろう」


いらねえ。心底いらない。褒美もいらない。あんたの息子の部下になるなんて、冗談じゃない。

俺はどう言ったら、断れるかを頭の中でフル回転させた。

うかつに言ったら不敬罪だ。間違いなく。

この、身勝手な空気が漂う王様相手に。

何といえば穏便に……おっと、まずは質問に答える方が先か。

俺は国王を見つめた。

国王は為政者の青い瞳で、俺を見つめて問いかけてきた。


「少年、お前は何者だ?」


俺はその言葉を聞いて、国王の内心が読めた気がした。

そして、どう答えても意味がないという事実に。

フォーマルハウトが、俺が何と答えるかと、見つめている。

俺は、口を開いた。


「陛下。何と答えれば、陛下は納得してくださるのでしょうか」


国王の脇に立っていた、宰相がじっと俺を見つめてきた。

俺は視線を跳ね返し、国王の瞳だけを見ながら、逆に問いかけた。


「何と答えれば、陛下のお気に召しますでしょうか」


「……何?」


「私がどう事実を言っても……きっと陛下は納得しませんし、お気に召す事もありません。ですから、どういう答えなら、お好みかと」


何者だと聞くのは、真実を聞くためともう一つ。

“これにちがいない”という自信をつけるためだ。

俺は国王の瞳の感じから、国王は答えを自分で決めつけていると感じたわけだった。

どう答えたって、気に入られるわけがないなら。

俺はこう問いかけるしかないのだ。

言ってから無礼だよなと思う。

でも、俺はほかに答えが見つけられなかった。

沈黙は肯定と思い込みかねない外野がいる中で、俺は沈黙という拒否もできなかった。


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