一方そのころの話。2
新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!
今回は気持ち短めです。
一方そのころ(2)
「所長、本当に、よかったのでしょうか」
一人の青年が、魔法研究所の一室で口を開く。それを聞いてその部屋の主である所長が返す。
「ああ、よかったんだ。第一、証拠がどこにもない以上証明もできない」
その言葉を聞き、青年がかすかに苦い顔をした。
「……やはり、見つかりませんか」
「まったくだ。いったいどこをどう隠れたのか、あの子供は見つからない。見つからない以上、こちらが武神召喚に半分成功したという事実を伝える事も出来ない」
所長は深く溜息を吐いた。
「まったく、内側からは開けられない扉をいとも簡単に開けて出て行ったあの、子供はどういう神経をしていたのか。第一あの扉には強力な呪文がかけられていて、なまなかな刃物は太刀打ちできなかったはずだというのに」
「あの切り口は信じられませんでしたね。すっぱりと切られていましたから」
青年はそう言って、その子供を閉じ込めていた扉を思い出した。鍵の所だけくりぬかれていた、扉を。
「普通あのような方法は思いつきもしないでしょう。一体あの少年は何を考えていたのやら」
「わからない。とにかく、この事は他言無用だ。言ってしまったらこちらの首がいくつ飛ぶかわからない」
そういった所長は、どこにでもいる責任者でしかなかった。
「我々が武神召喚を行った事も、子供を召喚した事も、そしてその子供が行方知れずになっている事も、我々がいくら探知の魔術を使っても見つけられないという事も、お前は誰にも言ってはならない」
所長はその事実を隠し通すつもりだった。
所長は知らなかったのだ。その子供だと思っている人間が神級魔法を行使したらしく、黄金を錬成した事も、その子供を探すために王宮が動き出している事も。
あちこちと連携が取れていない、いわば隔絶されていると言っていい魔法研究所の所長と言えどもそれが分からないという事実こそが、この国の問題であるかもしれなかった。
「王宮からの命令が来ている。武神召喚を彼らの前で行うようにとの事だ」
「では、今度こそ本物の武神が召喚できるという事ですよね? あのようなちびの子供ではなく」
「ああ。今度こそ成功させる。武神ギギウスを、今度こそ呼び出して見せる」
所長は固い決意を表明し、その準備のために歩き始めていた。
一方の青年は、子供の姿を思い出していた。
小柄な黒髪に黒い目の少年だった。歳は背丈から考えて十三ほど。そのくせ瞳は不思議な程老成した光を宿しており、少年の年齢をあやふやにさせていた。
この国では見られない黒の上下を身にまとい、自分を容赦なく蹴り飛ばした少年。
食事を届けに行くのが諸事情で遅れ、やっと届けに行けば行方知れずになってしまった、ギギウスを召喚したというのに現れた子供。
あの子供は何者なのだろうか。
我々の探知の魔法をかいくぐるその力はまるで。
「……上位存在のようでもある」
青年は一人呟き、所長の補佐をするべく歩き出した。




