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一方そのころの話。

あんな料理を食べたのは初めてだった。セレウコス国第二王子、陸軍所属にして魔導学園三学年トップ、クリスチャン・ディ・セレウコニィは未だに口の中によみがえりそうな味を思い出していた。

彼は好き嫌いはなかったが、王族に出されるものは決まって最高級の食品だったので、それなりに味が良かった。

そして魔素がふんだんに含まれていて、体にもいいものなのは間違いがなく、平民であれば二日で病気が全快するだろう魔素量の食事を常にとっていた。

彼が得意としているのは、攻撃に特化した火炎魔法で、彼の二つ名を劫火とつけられたほどだった。

火炎魔法は魔素の消費が激しく、そのぶん魔素を多く摂取しなければならない。

だが。

最近彼は体の不調が著しく、自分でもどうなってしまったのかと考えてしまうほど、衰弱していた。

体が衰弱したならば、通常よりも魔素を摂取しなければならないと言うのに、魔素が濃い食材を食べると戻し、ものが食べられないせいで魔素がふんだんに含まれた薬草酒をよく飲むようになった。

だが体は回復せず、どんどん体は悪くなっていく一方であった。

それを隠して食事を続け、しかし人前で戻す事を押さえ込み、体を余計に悪くしていき、何をしても体調を戻す事ができなかったのだ。

だというのに。

あの料理は、するすると口にする事ができた。

見た目はあまりよくない煮込みだったが、味はその見た目を裏切る驚くべき味をしていた。

ふんだんな、なんと言えばいいのかわからない美味しさ。いくらでも口に入るこの感覚。

そして。

「……私は食べ物を受け付けなかったというのに」

あの料理は、胃から逆流する事がなかった。

それが、彼にとって忘れられない要因の一つになりそうだった。

「あれをもう一度食べれば、この体の不調の理由がわかるだろうか」

彼は一人つ呟いてから、そうだ、と思いだした。

「聖女どのはどうしているだろうか」

可憐な風情の、黒髪を長く伸ばした、ちょっと天然の入った少女。

戦いの欠片も感じ取れない生活を、してきたらしい、この国の救世主になるであろう少女だ。

彼女はこの世界に召還されて数日だが、故郷を恋しがっている。

「彼女もあの料理を口にすれば、慰めになるだろうか」

彼女がほほえむ様を、この王子は見たことがなかったが故に、見てみたいと純粋に思った。





「この報告は本当か」

「はい、信じ難いのですが」

「いったい何が信じられないのだ?」

そこ、城の会議室ではそんな会話が始まっていた。

「今し方入ってきた最新の報告なのだが」

そう言ったのはこの城の防衛を一手に担っているといっても過言ではない、近衛隊の隊長の上司、団長だった。

「先日、神級魔法が行使された」

その言葉が周りの脳味噌に染み渡ったとたん、誰も彼もが仰天した。

神級魔法とは、上級魔法のさらに上、最上級魔法を遙かに越えるとされている、まさに神のみに許されていると言っても言い魔法なのだ。

それが行使されたなど、いったい何の冗談なのか。

誰もがそう言いたくなるほど、それはあり得ないはずの魔法だ。

「そ、それはいったい、どこで?!」

声が裏がえったのは宰相補佐で、彼ほどの人物であってもこの報告は声がひっくり返るのだ。

それほど、あり得ないはずの報告である。

「この、王城で」

報告をする団長が、苦々しい声でそういった。

「王城で? 隊長、それは真か? ならばそれほどの力を有する人物が、この王城に暮らしていたという事だろう。なぜ今まで気付かなかった?」

「そこが問題で。探知部隊がこれを感知し、駆けつけた時にはもう」

「もう?」

「いなかったのです。その人物らしき人物は、どこにも。そしてこれが残されていました」

そういって取り出されたのは、金の粒である。

「これは……黄金ではないか!!」

王が驚嘆した声を上げる。彼であっても、この素晴らしい金属の物を見たのは、王宮の国宝の中でのみだ。

こんな風に、ころりと転がされるものではない。

しかも一粒ではなく、掴むほどあるではないか。

こんな事があっていいのか。王が思うほど、それは異常な量だった。

「そうなのです。ゴミ箱の中に、ええ、多少古めかしい装飾のゴミ箱に……これが入っていたのです。そして」

そういってもう一つ差し出されたのは、扉の一部である。くりぬかれており、鍵の部分だけがそこにはあった。

「これが残されておりました。その神級魔法を行使したであろう誰かは。何故か扉を開ける呪文を使わずに、このような方法をもってして、この王城から出て行ったとみられるのです」

「なんと……黄金の錬成ができるほどの人物が、この王宮から出て行ったと?!」

王が声を荒げる。それ位に重大な事が起きていたのだから仕方がない。

黄金は、それほどの価値を持っている。黄金を錬成できる誰かがいれば、この世界の勢力図がひっくり返ると言われているほどの物なのだ。

全ての金属の頂点とされている黄金は、それだけの物なのであった。

「探しておるだろうな?」

「無論です。しかしそこは……物置だったのです。そしてそこから出て行った人間を見た人物が一人もいないという状態で、まさに雲をつかむ様な難しい状況なのであります、陛下」

「……不思議なのはなぜ、その物置に誰かがいたかという事じゃな」

「はい。なぜ、誰も入らないようなガラクタばかりが置かれている物置に、そのような人物が入り込んだのかも、我々は調べているところなのです」

団長が締めくくり、会議はしばし沈黙される事となった。


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