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左と右

その男にとって左と右という言葉とは……。

 その男は現在、左と右をどちらにするのか迷っている。



(うーむ、どうするかな……迷うな)



 その男にとって、左と右というものは、一度選択をしたら二度と戻ることができない、選択したら消える道なのだ。



 《ガヤガヤ(もう早く……――――待たせるんだよ、後ろ見ろよな)ガヤガヤ》



(何か聞こえた気もするが、でも……左と右で迷うな)



 その男は、自分がどれぐらい左と右で迷っているのか、左を選んだ場合なぜ右は選べないのか、逆に右を選んだ場合、なぜ左を選ぶことができないのかを未だに迷っている。



 その時。

 左と右で迷うその男に対し、今もその男の後ろにいる者が、その男のどちらかの肩を叩いてきたのだ、とその男は感知した。


「は? あなた誰ですか?」


 その男の返事を聞き、肩を叩いたその者の顔は、未成熟な緑色のトマトから瞬間熟し機を使ったかの如く、顔を真っ赤なトマトに成熟させた。

 完熟トマトの顔と化したその者はその男に返事を返した。



「おい! お兄さんさー、それを選ぶのにそんなに時間がかかるのか? 後ろ見ろよ!」

「は? 僕にとってこれは重大な出来事ですよ! なにか文句でもあるんですか?」


 その男にとって左と右で迷うのは、人生の選択の自由であり、人にとやかく言われる筋合いのない聖域なのだ!

 しかし完熟トマトのその者は、その男に対し次の様に述べた。



「ならどっちも頼んで食べれば良いじゃないか! 早く注文してくれよ! 昼休憩が終わっちまう!」



(昼休憩……あっ! ほんとだ! もう昼休憩が終わるじゃないか!)


 その男が迷っていたのは、牛丼の左盛と牛丼の右盛と書かれたメニューだった!



 その男は、ついにメニューを注文したのだ。



「すみません。ネギ玉牛丼、並盛りでお願いします!」



 終。

ネギ玉牛丼、美味しいですよねー……食べたくなって来ました。

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