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Ⅴ. スキンヘッド+ポニーテール

「リグーリオね、素敵な名前だわ。それで、まずあなたに何があったのか、聞かせてくれるかしら。」


 マキュリがそのリグーリオという青年の悲鳴を聞いてここまで駆けつけたことを軽く説明すると、リグーリオはゆっくりと話し始めた。だいぶ落ち着きを取り戻してきたらしい。


「俺は…。」


 リグーリオの話によると、先程まで職場で仕事をしていたのだが、急に身体が熱くなり、次の瞬間この地に吹き飛ばされてしまった。すると目の前に先程の魔物がいて、襲われそうになっていたという。


「俺一人じゃ今頃はもう...。さっきは取り乱しててごめん。まず先にお礼を言うべきだったな。本当にありがとう。」


 リグーリオはぎこちない笑顔をつくって見せた。しかしマキュリは口をポカンと開けたまま驚愕の表情をしていたため、リグーリオも驚いた。


「待って。…あなたも、その…体が熱くなって、気が付いたら知らない場所に飛ばされてた…?」

「も、ってことは、君も?」

「そうよ!」


 マキュリとリグーリオは互いに顔を見合せて数瞬言葉を発せないでいた。しかしマキュリは不可解なことに気がついた。リグ-リオは、一見すると普通の人間の身体で、どこも何か別の個体と変わっているようなところは見られないからである。


 しかし月明かりに照らされたリグーリオの頭部は、月光を反射して光り輝いている。その頭部に、何やら模様のようなものが描かれているのが見えたため、マキュリは尋ねた。


「あれ、その頭の模様は何かしら?タトゥー?」


 よくよく見ると、その模様は目のような形をしており、瞳と思われる部分には「!?」のマ-クが刻まれているようだ。

 しかしマキュリに指摘されたリグーリオは、自分の頭部に触れたまま、目を大きく見開き固まっていた。


「無い──」


 無い、無い、とブツブツ呟きながら、リグーリオの息遣いが徐々に荒くなっていく。


「え、何が...もしかして…髪のこと……?」


 マキュリは恐る恐る尋ねたが、正解だったらしい。

 リグーリオは涙目になっていた。


「ど、どうなってんだ俺の頭は!?」

「か、鏡見てみる…?」


 マキュリは自分のカチューシャから、先程自分の姿を見る際に使用した鏡を取りだした。


 リグーリオはその鏡を手に取り、恐る恐る自分の頭部を確認した。見た瞬間、リグーリオは眉毛を八の字にし、目にはじんわりと涙が浮かんできている様子が窺えた。そしてそのまま1分ほど沈黙し、マキュリも何も声をかけることができないでいた。


「うっ、ううぅ~。」


 ようやく言葉を零したように思えたが、それは号泣から来る嗚咽音であった。


「そ、そんな…お、俺には、俺には…ぐすっ、自慢の綺麗な髪があったのに…うっく。何が…何がどうなって……。」


 マキュリは声をかけようとしたが、どのような言葉をかけるのが正解なのかわからず、何かを言おうとしては口を紡ぐを繰り返していた。


 リグーリオは鏡を両手で強く掴んだままひとしきり泣いていたが、その気まずい空気を打破したのは、ずっとリグーリオの様子を眺めていたネアスであった。


「おいお前。その頭、後ろの方をよくよく見てみろ。」


 急にネアスに声をかけられ、リグーリオは驚いていたが、言われるがまま、鏡を見直した。


「…あれ?」

 マキュリもネアスの言葉でようやく気がついた。


 ツルツルとした頭部と、そこに描かれている目のような模様が一際目を引くため、気が付かなかった。が、さらに不思議なものが頭頂部と後頭部の間にはあった。


「なにこれ……?」


 頭頂部と後頭部の間。そこから、小さな骨のようなものが生えており、その先には、髪の毛のようなものが一束ぶらさがっている。


 そしてその骨の部分から、青紫色の炎のようなゆらゆらとしたものが小さく揺らめいていた。そう、マキュリやネアスの身体の間の、骨が剥き出しになっている部分と似たようなものであったのだ。


 全体の見た目はまるで、スキンヘッドから突如生えているポニーテールのようであった。


 そしてそれは突然起こった。


 マキュリの馬の部分の胴体が光出したのだ。ぼんやりと青紫色の光を放っている。


「んな、なに…!?」


 マキュリは驚いた。ネアスも少し目を見開いており、驚いているようであった。


「何が起こってるの…。」


 マキュリはそう言いながらリグーリオを見た時だった。


 リグーリオのポニーテールの部分も、馬の胴体と同じように青紫色に光っていたのだ。


「うわぁ!なんか光ってる…俺もう死ぬのかな……自慢の髪を失って死ぬのか…そういう人生か…。」


 リグーリオは頭を抱えながら1人ぶつぶつと独り言を言っていた。


「ちょっと!死ぬとか物騒なこと言わないでよ!きっと大丈夫よ!ねぇ?ネアス!」

「んんむ……。」


 マキュリは振り返ると、ネアスは神妙な面持ちで唸っている。


「ネ、ネアス…?」


 ネアスは数瞬何かを考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「うむ、これはあれだな。この馬の胴体とその馬の尻尾は、おそらく同一個体のものだろう。」

「「え?」」


 ネアス以外の2人の声が重なった。


「同一個体…?」

「そうだ。リグーリオのポニーテールは本物の馬の尾で、マキュリの馬の一部なのだ。首から上の頭部はまた別でどこかにあるんだろう。おそらく誰かの頭部と入れ替わって。」


 誰かしらの人間と馬の頭部が入れ替わっている様を想像してマキュリは身震いした。無意識に夢想体現の槍に力を込めていたら危ないところだった。それが目の前に現れてしまうのだから。

 しかし同時にリグーリオの頭部が滑稽に思えてきて、


「ほ──」


 マキュリは突然声を震わせながら何かを発しようとした。


「ほ?」

「ほ、本物の…これが本物の…ポニーテール……ふっ。」


 マキュリは自分の口と腹部あたりを抑えながらそう零した。笑うのをこらえているようである。


「わ、笑いたいなら笑え!!失礼な奴だな!!」


 自分が笑われたことと、この状況を全く理解できないことで、リグーリオはかなり気が立ってしまった。


 マキュリは思ったことを正直に口に出してしまう性格で、リグーリオは喜怒哀楽が激しいタイプなのだな、というネアスの冷静な性格分析が入る。


 お互いに少し気まずい空気が流れ、マキュリはこの場をどう収束させようか考えようとした。しかし先に落ち着きを取り戻したのはリグーリオだ。


「でもなんで、俺のとマキュリのが同じ個体だってわかったんだ?」


 リグーリオはネアスに疑問を投げかける。


「お前悪魔なんだろ?これらはお前が仕組んだこととかじゃないのか?」


 先程マキュリがネアスにしたような、疑惑の目がリグーリオからも向けられる。


「……まぁ疑われるのは慣れているさ。けど、俺じゃない。ただ、悪魔だから、その馬の胴体から出る魔力の波長と、その尾から出る魔力の波長が同じだということくらいはわかるのさ。悪魔は人間にはできないことがいろいろできるからな。」


 マキュリはなるほど、とうなずく。しかしリグーリオは未だ晴れない表情のままであった。それを見たマキュリは、「とりあえず」と言いながら、依然として地面に尻をついたままのリグーリオに手を差し伸べる。


「ここじゃなんだから、場所を変えましょう。私の家が、ここから少し行ったところにあるわ。もう夜も遅いし、休んでいっていいわよ。混乱してると思うから、私の家でゆっくり話をしましょう。」


 差し伸べられた手に、リグーリオは一瞬戸惑いながらも、ゆっくりと手を伸ばした。


「…俺はまだお前らのことは信じられないけど…。さっき助けてもらったし、うん、家お邪魔するよ。」

「決まりね!ありがとう!」


 マキュリの無邪気な笑顔にリグーリオは少しどぎまぎする。

 リグーリオが握ったマキュリの手は、柔らかかった。


 リグーリオが立ち上がり、臀部の土埃を払っている時、ネアスはマキュリに尋ねた。


「で、こいつはどうすんだ?」

「こいつ?」


 振り向くマキュリに、ネアスは顎で方向を指す。その先には、先程眠らせた魔物の姿があった。


「あっ。どうしよう...。」

「永遠に眠れって言ってるわけじゃないから、そのうち起きるだろうな。」


 ネアスはニヤリと笑いながら言う。マキュリは魔物をじっと見つめたまま答えた。


「そうね…。起きてまた誰かに被害が及ぶのは避けたいところだけど、だからって殺す訳にも…。そうだ、絶対に壊されない箱とかイメージで作って、それに入れておきましょうかしら。」


 我ながら名案!と内心思ったマキュリだった。が、


「どのみちその箱の中から出られなくて餓死して死ぬぞ。」


 ネアスからの鋭い指摘にうろたえた。


「うっ。な、なら、ありったけの餌も一緒に入れておきましょ!そうしましょ!」


 そう言うなり、マキュリはすかさず持っていた槍で今話したことを実現してみせた。


「これでひとまず魔物の処理は完了ね!さ、私の家へ行きましょう!」






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