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報告-11の月、7日、アドソン

アドソン視点

「あいつら、何してんだ?」

 街での買い出しを進めているうちに、サクラが姿を消したそうだ。

市場の中央にある広場で待っていたら、珍しく慌てたゴッセと、殺気だっている猫の使い魔が走り込んで来た。

まぁ、サクラがきちんとメッツェンのネックレスを着けてたから、すーぐ場所が特定出来たけどな。

市場のすぐ近くの細い路地裏の広場に、俺とゴッセがこっそり近づくと、サクラの姿が見えた。

ゴッセの魔術で風に音を乗せて集めてくれ、会話を拾って様子を伺う。

――――この魔術便利だよなー。



「なぁ姉ちゃん、お前は高く売れそうだなぁ」

 見える範囲だけで6名の男に囲まれて、サクラは何かの箱の上に座っている。

上手く顔は見えないが、背格好からサクラと特定し、声で断定した。

「・・・んーあなた方は、悪い人ですか?」

「そうだな!お嬢ちゃんのいう悪い事をしている人かもしれないな。まぁ金のために何でもやるだけの集まりだ。聞いたことはないか?『金の亡者団』だ」

 アドソンは名前を聞いて、眉を顰める。

女一人に暴力を振るう者たちではないが、金を詰めばどんな汚いことでもやってのけるという話は聞いている。

最近も、どこかの貴族の家から金品が盗まれ、金の亡者団が関わっているのではないかと報告を受けたばかりだ。


「ほう。では、あなた方に依頼を出したいときは、お金を積めばいいですか?」

「あぁ、全ては金次第だ」

 悪事を働く者に国の金が流れるのは阻止したいので、話に割って入ろうとすると、ゴッセが制した。

まだ突入のタイミングではないと踏んでいるようで、しばし様子を見る。

一応魔力だけ溜めて置くかな。

準備体操がてらステップを踏んでおく。


「では、この国をください。いくらですか」

 サクラは昨日・今日では見せたことがない清々しい笑顔を張り付けて、取り囲む男たちに向かっていった。俺やゴッセを含めて、その言葉を聞いた者たちの動きが止まる。

――――えっ、何言ってんの、この子。


「はぁ?・・・何言ってやがんだ?」

「んーお返事がないですね。では、この国の王の首をください。いくらですか」

また笑顔でサクラは言う。

王の首は金と引き換えになるものではないだろう、とアドソンは心の中で突っ込む。


「えーそれもだめですか・・・では、この街の領主の首をください。いくらですか」

やはり笑顔でサクラは言う。

誰も言葉を発しない。


「それでは、この国で一番高い宝石をください。いくらですか」

 段々と、皆がサクラを理解できない魔物のように見ているのが分かる。

ここまで来ると、ゴッセは楽しそうに笑いだし、アドソンも楽しくなってきていた。

――――サクラ、宝石欲しいの?


「では、この国で伝説の宝剣をください。いくらですか」

 完全にサクラのペースに飲まれている。

ここで男たちが武力に出ても、スタンツェの使い魔がこっそりとサクラの傍に戻ったので、怪我をすることはないのだろうと、アドソンは判断した。

傷一つでもつけたら、ボッコボコにして、色々と後悔させてやりたいところだ。

力も溜められているし、次で突入しようとゴッセとアイコンタクトを取る。


「はぁぁぁぁぁ、何もできないじゃないですか。本当に全てはお金次第なのですか?しっかりしてください!」

 急に会話の方向性を変えたサクラの質問に、一瞬肩が揺れ、アドソンとゴッセは出遅れたことを感じた。

――――何してんの、あの子っ!

 サクラのとんでもない一言に煽られてカッとした男どもが、本当は何でも出来ると息巻くが、残念なことに説得力はない。

小さく溜息をついたサクラはもう一度微笑む。


「では、私を護衛しながら市場を案内してください。いくらですか」

あまりに小さな提案に一瞬全員が黙る。

「あれ・・・すべては金次第なんですよね?」

「・・・あっ、あぁ」

先程まで息巻いていた男が小さく頷く。

一気に小さな質問になったため、皆の情緒が追いついていない。

混乱した空気が流れている。


「それなら良かったです。いくらですか?」

「半刻で?そんなに安くて良いんですか?」

「わぁありがとうございます。よろしくお願いします」

ゴッセの魔術は切っていて、物理的に近づいていくが、誰もアドソンとゴッセに気付かない。

聴こえる範囲の会話を拾うと、猶もサクラのペースで話がまとまっていて、苦笑してしまう。


「サクラー」

 俺はのんびりとサクラに声を掛ける。

ここで怖い顔でもしていたら、サクラを怯えさせてしまうかもしれないから。

「あ、探していたお二人に会えました。皆さん、ご案内ありがとうございました」

サクラはこちらを向いて、笑顔を見せてくれる。

ゴッセもほっとしたように息を吐きだし、小さく手を振る。

案内は全くしていない上に、サクラを利用して金を巻き上げるつもりだった男どもは、こちらの姿を見て顔を白くする。

――――何人か知ってる顔があるなー。


「あ、それとこちらは感謝の気持ちです。助けてくださってありがとうございます。」

 サクラは青白い顔の男たちのことは意に介さず、提示された金額に加えて、紅茶屋で購入していたお菓子を付けて渡した。

さすがにお菓子を喜んでもらう年ではないと言い張る男たち。

「言い張るのそこかー」


「そういわずに。また遊びに来ますので、その時はぜひご案内お願いします」

 サクラはほのぼのとした笑顔で話しかけるが、男どもの表情は暗い。

化けの皮をはがされると、こうも哀れに見えるのか、とアドソンは学んだ。


騎士服は着ているが、本日のメインの仕事は買い物だ。

まぁ悪事を働いていた訳ではないので、ここで拘束はしない。

現行犯の時は容赦なく捕まえるけれども。


「・・・じゃぁ、お嬢ちゃん、気を付けて帰れよ」

 奥の方から、何度か街で見かけたことがある男が声を掛けた。

右目の上に刀傷があり、オレンジの瞳は夜でも輝きを失わないと、金の亡者団の頭に担ぎ上げられている男で、アドソンの記憶では名前はホプキンスだったはずだ。

サクラはホプキンスにも菓子を渡している。

渋々という表情を隠さずに市場を後にする男たちと、微笑ましく手を振るサクラ。

転生という衝撃的な出来事といい、今日の騒動と言い、サクラの順応能力と対処能力を見直す。


 三人と使い魔で市場に戻る。

「さて、サクラ、市場に来られたから、昼食にしよう!何か希望はある?」

「んーとても美味しい予感がしますが、何があるか分からないので、全体を把握してから決めても良いですか?」

キョロキョロとお店を覗こうとしているサクラを一旦落ち着かせる。


「あぁ、俺様のお勧めは奥の魔鶏サンドイッチだ」

「俺は左側の魚介類のパスタだ。中の食材は日によって変わる」

「わぁ美味しそうです。ここは果物や野菜も売っていますか?」

「うん、王都の人たちの胃袋を支えている市場だよ。王女宮では個別のルートで仕入れているけれど、ここは王都の普通の人たちのための市場だ」

「よぅし、では、まずは左周りに見ていきますね。迷ったら左です」


 結局、一周回っても決めきれなかったサクラは、持ち帰りや歩き食べが出来る品をいくつか選び、中央の広場で分け合って食べることにした。

向こうの世界にある食べ物とこちらの世界の食べ物、食べ方の違いなどを話ながら、サクラは笑う。

ゴッセものびのびと過ごしている。

アドソンは二人を見て、胸のあたりが温かくなる。

久しぶりの感覚に戸惑い、しばし考える。

あぁ、こいつは面白いって感情だ。

ここしばらくは忙しくて、面白いなんて感情は忘れていた。

「サクラはおもしれーな」


仲間を大切に思い、美味しい物と楽しいことが好きな騎士なんです。

ちょっとだけ脳筋の気がある。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時にアップ予定です。



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