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報告-17の月、9日、1枚目

驚くべき早さ

サクラはいつも通りの時間に起きたつもりだった。

ベッドで寝返りを打った時に、ノックする音に気付き、慌てて扉に向かう

「ペアンくん、守ってくださいね」

小声で首元の魔物に伝える。


そっと扉を開けると、東の王妃が立っていた。

――――なんでここにいるのっ!

「・・・王妃様、大変失礼ではありますが、ご挨拶させていただきます。おはようございます」

「えぇ、おはようございます。少しお話させて頂いても良いかしら?」

「・・・はい」


本当は断りたい。

化粧どころか寝間着の姿である。

けれど幽閉の身であるので、何も言えない。

そして、礼をしたときにサラリと落ちた金色の髪で、メッツェンの擬態まで済ませて置いてくれたことに気付く。

首元の魔物の優秀さに感謝する。

要件は国王夫妻とサクラが一緒に朝食をとるということであった。



用意された赤いドレスを持った女性陣に囲まれ、準備に取り掛かられた。

「貴方のことは国王より聞いています。東の国の王女でないことは知っていますし、本来の姿ではないことも、事情があることも聞き及んでいます。今日のドレスは本来の姿の方が合うと聞いていますので、姿を戻していただいて結構ですよ」

「・・・えぇっと・・・・」

返答に悩んでいる隙に、鏡に映るメッツェンの姿が、サクラの姿に変わる。

全員が目を見開き、動きが一瞬止まったが、何事もなかったかのように、各自の仕事を進め始める。

衝撃の事実を目の当たりにしているのに、動揺を感じさせず、優雅に振る舞う職人たちを、サクラは尊敬の念で見つめる。


「・・・ゴホン。・・・クラ嬢と呼ばせていただきますね。今のは貴方が寵愛を受ける魔物殿のお力と聞いています。・・・どこか不調はありませんの?」

「はい、見た目だけの変化ですので、体調には影響いたしません。名を呼んでくださりありがとうございます」

「いえ、本来ならば人外者の寵愛を受ける方の方が位は高いのです。我々の国にはその知識は引き継がれなかったと伺いました。そして、西の国での騒動が落ち着き次第、旅立たれるとのことで、急遽国王との食事会を開くことになりました。前触れもなく、申し」

「あの、コッヘル様との婚約の件は、破棄となってしまいますでしょうか!」

王妃が謝罪しそうな雰囲気を思いっきり遮ってしまう。

一国の偉い人が軽々しく頭を下げる訳に行かないだろうと焦っていまい、失礼にも大声を上げてしまった。


言葉を遮る失礼があっても、王妃はそのまま言葉を続ける。

「その点は、国王と人外者殿とのお約束があるようで、まだコッヘルはクラ嬢の婚約者となります」

「ありがとうございます。でも、王妃様から見たら、私は詐欺師ですので、快くは感じていないかと思います」

「・・・正直なところ、騙されてしまったという思いはあります。しかし、王族も、貴族も常に嘘偽りで固められています。私の見抜く目がなかったということです」

「いえ・・・コッヘル様をお慕いしているのは、偽りではありません。あの方と近くにいる皆様が笑ってくださるように、自身の出来る限りを尽くします」

「コッヘルは・・・実の息子のように思っています。東の国での王意承継権は破棄されましたが、西の国での活躍を期待しています」

「期待・・・その言葉をそのまま受け取りますね。コッヘル様には健やかに長生きして頂きたいので」

「えぇ、体が弱かった理由を突き止めてくださったと聞いています。よろしくお願いしますね」

凛とした空気を纏う王妃が、少しだけ口角を上げて微笑んだ、とサクラは感じた。


ドレスの着付けとメイクが終わり、王妃と共に食堂に向かう。

メッツェンの背格好よりも、サクラの背格好にあうドレスの色合い、サイズは、本当にサクラのために用意されたものだと感じた。

ただ、ふんだんに赤い布地が使われているため、コッヘルの隣に立つためのドレスだったのかもしれない。

ペアンの尻尾がサクラの背中に強く打ち付けられていて、苛立ちが伝わってくるが、今だけは我慢頂こう。


食堂に入ると国王は既に着席しており、料理もまさに並べ終わったところであった。

サクラと話がしたいということで、三人と一匹だけの朝食を設定していた。

非常に早い時間の朝食を取りながら、国王と王妃はサクラに話しかける。


「率直に聞きたいのだが、クラ嬢はコッヘルをどんな人間だと考えているだろうか」

「穏やか、朗らかという雰囲気を持っていらっしゃいますが、芯の強さや冷静沈着な部分も見えます。ただ、体質の関係で様々なご経験があるようですので、計り知れない方だとも考えています」

「・・・そうか、クラ嬢はあれの弱い部分も気にかけてくれているのだな」

「そうですね。私も他の仲間たちもそれぞれ強みと弱みを持っていますので。一緒に居られる所まで、皆で協力しあえれば良いと思います」

国王は小さく頷く。


「もし・・・もし、道を違えることがあったならどうするんだ?」

「道を違える・・・そもそもの前提が違っています。私たちの国のための協力体制は長くて五年ほどです」

「五?五年?」

「そんなに短い期間でなにが出来るというのですか」

国王夫妻は目を見開くが、カトラリーを落としたりはしない。

優雅な姿勢も崩れず、これまでの訓練の賜物とはこういうことを言うのだろうと、サクラは感心する。


「それで良いのですよ。我々が検討して、作り上げた企画を、別の者がより良い形にしていけるのが、新政権の政です」

「必ずより良い形になるのか?」

「代表者を選ぶのも、監視するのも、評価するのも国民です。隣の家で暮らす人が国の代表になるかも知れないのです。そして代表の期間が終われば、また一国民に戻るのです。中途半端な形にしては自分の生活が苦しくなるだけですね」

「その一国民の生活をコッヘルも送るつもりなのか」

「はい、楽しみにしておられるようです。畑を耕し、魚を釣り、旅に出て、買い出しをしたいと話していました。夢物語に思いますか?」

「・・・現実味のない話のように思いますが、クラ嬢はそのような国を知っていると聞いているのだ」

「そうですね。経済力や学力に差はありますが、貴族と平民のような大きな身分の差はありません」


「そうか・・・それならもし私が移住したらどうなるんだい?」

「住む場所を探して、家具を購入して、新たに仕事を得てという生活になりますね。ご近所づきあいも必要になるでしょう。災害時に支援を受けることもあると思います」

「なるほど。一国民だから国からの支援を受けることもあるのか」

「クラ嬢・・・もし東の国で刑を受けた者が、そちらの国に移住した場合はどうなりますか」

「刑を受け、務めを終えていれば一国民として受け入れます。再犯があれば西の国の法律で裁きます。脱走したのであれば、東の国に強制送還ですね」

「なるほど」

サクラが答えた質問に王妃は深く頷く。


やや間があって、国王は口を開く。

「・・・クラ嬢。コッヘルには黙って、人を雇い入れてくれないだろうか」

「西の国にということですよね」

「あぁ・・・その・・・コッヘルの周りにいた使用人たちをまとめて収容している集落がある。始めは毒殺や呪いを考えたのだが、乳母はコッヘルの母親の妹なのだ。どうしても彼女が計画したことだとは思えなくて、幽閉の形を取り、コッヘルが体調を崩すたびにそこに収容される者が増えていった」

「そのような方々がいらっしゃったのですね。ですが、皆様はコッヘル様の近くで過ごすことを苦にされないのですか」

「クラ嬢のいた国での価値観は分からないし、本人たちの本心ではどう考えているかは分からない。だが、王族の殺害未遂となれば、どの国も処刑が適当だ。しかし、今後は身分が保証され国の仕事に従事できるとなれば、喜ばしいことだと言われた」


サクラはコッヘルに恨みのある者も含まれる不安があったが、王城で働き王子の身の回りを任される身分の人材を手に入れられるのは大きいと踏んだ。

「・・・本心は分かりませんが・・・いきなりコッヘル様の近くに配属するのではなく、まずは西の国での生活になれて頂き、それぞれの能力に合わせた部署に配属してもいいでしょうか」

「それはクラ嬢が身元を引き受けるということかな?」

笑顔の国王の問いに、満面の笑みになったサクラが答える。


「私は身元を引き受けることはありませんよ。東の国王が推薦する人であり、東の国王が派遣した人たちに、西の国が力を借りるだけです。そして、私が派遣を承認したとしても、能力が足らないと評価されれば、帰国して頂きます。その条件であれば、人員の派遣案をありがたく承ります」

「あくまで、東の国が派遣する形をとるのだな」

「えぇ、東の国管轄特別自治領『西の国』ですからね」

「・・・食えない人だな」

顔を引きつらせながらも、愉快そうに笑う国王。


「当たり前だ。我が恩寵ぞ」

「まっ・・・魔物殿っ」

「ひぃっ」

サクラの膝に丸くなって眠っていたペアンが、人型を取りサクラの後ろに現れる。

サクラを椅子ごと後ろから抱きしめながら、国王を見据える。


「大人しく聞いていたが、我が恩寵を試すとは良い度胸だな」

「・・・試すなどとは・・・」

「試されていませんよ。仕事の交渉です。お菓子食べて待っていてください」

「あむ」

サクラはデザートに用意されていた焼き菓子を、ペアンの口に突っ込んだ。

一口サイズよりも大きな焼き菓子に、ペアンは話すことが出来ない。

「えっと・・・うちの魔物が失礼致しました」

「・・・いや・・・その・・・」

サクラは心から謝罪をしたが、規格外の謝罪であることを自覚しておらず、国王夫妻は何も言えなくなった。

人外者を『うちの』扱い出来る人間など、東の国にはいなかった。


「東の国から人材を派遣して頂けるのは有難いことです。すぐに手続きをしていただけますか」

「早急に・・・速やかに・・・」

「ありがとうございます。重ねて御礼申し上げます」

「ぁ・・・クラ、連絡が届いたぞ」

「はい。状況が変わったようです。すぐに合流して話し合いを始めたいそうです」

「もう出発されるのだな」

「はい、コッヘル様たちからも声が掛かりましたので」

「・・・そうか。息子たちをよろしく・・・お願いします」

「健やかにお過ごしいただけるよう、尽力致します」

この後の挨拶は不要で、好きなタイミングで西の国に向かっていいと許可が下りる。

サクラとペアンは自室に下がり、準備を整える。


約一か月間の東の国滞在を終えて、西の国の王女宮へサクラは降り立った。

事情の複雑さはあれど、関係改善ができる機会を逃してほしくないとサクラは思うのでした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時にアップ予定です。

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