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アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
獣と魔女
13/13

敵地潜入

 森の繁みから城門が見える位置に集まり、ゆっくりと進む馬車の列を見ていた。

 二人の門番は特に参加者をチェックすることなく、槍を片手に持って静かに見守っているように見える。


「門を通る時、二人いる御者の片方が降りて馬の横に付いているな」

「参加者は人や亜人、後は見慣れない種族もいるね。馬車さえあれば何とかなる……か」

「交渉出来るなら良いよね」

「交渉なら私の……。って、何でジッと見てるの?」


 ガオールは少し落ち着いたようにも見えるけど、ユーリッドが何か発言するたびに注視している。

 獣人にとって獅子族のカリスマは、抗いがたいものがあるようだ。


 僕たちは来た道を少し戻ると、あと少しの距離だというのに脱輪している馬車を見つけた。

 周りの馬車は我関せずで、「ガオールはチャンスじゃね?」と言っている。

 みんな猫系の顔になってしまったので、誰が行っても同じと全員で助けに向かう事にした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 脱輪で困っていたのは、辺境にある兎人族の貴族の令嬢でエミールという名前だった。

 最初ローズが話しかけ、御者をしている山羊族やぎぞくの老執事がヨボヨボとエミールの前で護衛の真似事をしている。

 そこに登場したガオール――の後ろにいるユーリッドを見た瞬間、二人して急にひざまずこうとした。

 僕とローズが慌てて二人を止め、事情を聞いてガオールと一緒に修理を行った。


「何で俺の顔を知らねぇんだよ……」

「無理言わないの。ガオールくんだって、大国の王子さまの顔は見た事ないんでしょ?」

「あぁ? お前はあるのかよ」

「ふふーん、こう見えても……」


 ユーリッドの『こう見えても』が、ガオールにとってどう見えているのか?

 僕たちのような地位だと、著名な芝居小屋のスターには憧れない。

 それはガオールも一緒で、家格と利敵関係により純粋な『好き』という感情は持てないでいた。

 自由奔放なローズでさえ同じなんだから、ガオールのユーリッドに対する情熱は特別すぎるものだろう。


 ユーリッドは『商人の国』だけあって、大国へも商売に出掛けるようだ。

 ただ商工会という立場上、誰が上で誰が下という扱いはない。

 合議制の形で運営されているので、他国も『他の国の商人』と同様に危険視していないだけかもしれない。

 そんなユーリッドは各所の祭事に顔を出し、キーマンになる上層部と積極的に友誼ゆうぎを結んでいるようだ。


「あの、ユーリッドさま」

「どうしました? エミール」

「詳しい事情はお聞きしません。ここにいると言う事は?」

「そうですね……」

「では、ご一緒できませんか?」


 少しトントン拍子に進みすぎてるみたいだけど、この場面を切り抜けるには事態を打開するしかない。

 これだけ大きな城ならアタリだと思うし、早くあの赤いフードを被った魔女に逢うべきだと思う。

 ガオールの尊大な言動が心配だけど、相手が魔女だと分かっていればそう無茶・・・・はしない筈だ。


 前回会ったリンダは、基本的に優しい性格をしている。

 僕は物語の中でしか存在しないと思っていた魔女について、少し考えを改めるべきではないかと考え始めていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 馬車に乗り、再び城門の前まで来る。

 服装的にガオールを御者にすることが出来ない為、僕が老執事と一緒に御者の真似事をする。

 順番に受付をしているようで、老執事は門番に挨拶をして、エミールがカーテンをスッと開けて会釈する。

 後は入場口と馬車の待機場所の指示を受けて、女性三人は先に会場へ向かった。


 周りを見回すと、僕の恰好はセーフらしい。

 問題はガオールで、ラフな衣装のまま会場へ向かう事は出来なかった。

 ただ衣裳部屋があるようで、特別に貸し出してくれるらしい。

 この城に入れた時点でお客様扱いになったので、僕はガオールに付き添うことにした。


「ガオールくん、分かってるよね」

「あぁ、無茶はしねぇ!」

「そうじゃなくて、礼儀正しく魔女の機嫌を損なわないように」

「お前達は何を損なったんだ?」


 そう言われると少しだけ胸が痛い。

 よくよく考えれば、魔法で姿を変えられたのは僕たち三人だ。

 もし今すぐに帰られたとして、困るのは……。


 ある物語では魔法に時間制限があり、ある話では百年単位で続く魔法があるという。

 短い期間なら僕たちはガオールに匿ってもらう事も出来るけど、ユーリッドはそうはいかないだろう。

 あの姿で獣人の国に連れ帰ったが最後、年齢の近いガオールとすぐに婚約から成婚になるに違いない。

 ガオールは自分の体格に合う、なるべくフォーマルそうな服装をペラペラと探している。


「少し前に会った魔女は、『嘘』を極端に嫌う人だったよ」

「ふーん。で、お前たちはどんな嘘をついたんだ?」

「お兄さまの誕生日のサプライズパーティーかな?」

「あぁ? なんだそれ」


 自分の身体を晒す事を美徳と考える獣人族は、フォーマルには程遠い種族だ。

『何故こんな衣装が?』というような、黒い短パンにホワイトシャツ・赤い蝶ネクタイを前にガオールは考えこんでいる。


「それって、何か違うと思う……」

「あぁ? ここにあるって事はフォーマルだろ? 何だって同じだと思うぞ」

「うーん。ガオールくんが良いならいいけど、ユーリッド……さんと並べるかな?」

「なぬっ?」


 ここは気候的に暑くもなく寒くもない地域だ。

 そして客層を見る限り、高位貴族の身内の集まり程度のパーティーだった。

 ウチは小国でも、それなりに出席しなければならない催し事は多い。

 もし他国まで行くようなら、寝ながら食事をとる獣人の国のマナーまで学ぶ必要があった。


 そう考えるとガオールのマナーは、きちんとした余所行き仕様になっていると思う。

 問題はユーリッドみたいに、全ての国に対応できる知識を備えているかだった。


「それで、ここの魔女は何で怒ったんだと思う?」

「あっ……。そう言えば、最後に何か言ってたね」

「俺的には助けようとしたんだけどな。確か、……何だっけ?」

「『真実の愛でも見つけられれば、その性格も治るかもね』だったと思う」


 要するに『淑女レディーの扱いを身につけろ』という事だと思う。

 ユーリッドに恋心を抱くのが目的じゃなく、ガオール自身が優しさや気遣いを出来るかだった。

 もう少しだけ作戦会議が必要なのかもしれない。

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