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39.閑話 (アン視点)お嬢様が不在の出来事

アンが襲われた経緯をアンの視点で。


・・・・痛いことが苦手なので、ぞわぞわしてしまいました・・・・・。

 

*アンが襲われた経緯をアン視点で。




 お嬢様がガルデオン様と出かけたので、私は水屋に戻った。お嬢様が起きる少し前に、仕込んでおいたパンケーキの生地を焼くためだ。


 ガルデオン様に、『夢に呼ばれているだけだ。そのうち目が覚める』と言われたけれど、気が気ではなかった。『来路花(セージ)の香りがあれば帰ってこれる』とも言うので、ベッドのそばに来路花と加密列(カモミール)のブーケを置いた。

 加密列は、お嬢様のために最初に覚えた薬草だ。見た目が白くて可愛い加密列の白い小さな花は、とても役に立つ。お腹が痛い時も、眠れない時も、泣きはらした時も、王城へ行く時も、加密列茶をお出ししてきた。今回も夢の中のお嬢様の無事を祈って、来路花のブーケに加えた。

 だから、「夢の中でね、アンが『問題なしです!』って私を慰めてくれたの」とお嬢様に言われた時は、とても嬉しかった。


 それから、お嬢様の無事を祈って、お嬢様の好きなものを作ることにした。丁度、水屋の裏にちょうど私くらいの背丈の白枇杷(シロビワ)の木があるのを見つけた。お嬢様と亡き大奥様を繋ぐ果物だ。大奥様がご存命の頃は、毎年初夏になると、よくお二人で白枇杷のカップケーキを作っていた。


 その後は、パンケーキの生地の準備をしたり、ジャムを煮たり、細々とした作業をしてお嬢様が目を覚ますのを待っていたのだ。だから、家じゅうをうろうろしていたのにも関わらず、お嬢様が目を覚ました時にそばにいれて本当によかった。


 それにしても、お嬢様は正義感の強いお方だ。今回も、夢の中であった火竜を助けるため、起きたばかりだというのに、竜王国へ行かれてしまった。ガルデオン様の魔法で、扉1つで行けるようになったから、それほどご負担にはならないだろうけれど、やはり心配だ。

 戻られたら、美味しいものを召し上がってもらいたい。そう思い、私は薄いパンケーキを焼き続けた。17枚焼いたところで、生地がなくなったので、パンケーキを焼くのをやめた。さて、あとは何を用意しよう? そう思って、水屋から外を見ると、ちょうど井戸の向こうに、小さなルビーのような桜桃(サクランボ)を見つけた。公爵家で育てている桜桃よりすこし小ぶりのようだ。味はどうだろう? 庭に出て1つ食べてみる。甘い。これならお嬢様もきっと喜んでくださると思って、ニマニマしながら摘んでいた。


「アンさーーーん!!」


 宵の杜の入り口通じる道のほうから声が聞こえた。声がする方を見ていると、デニスさんの妹のニコラさんが息を切らしてやってきた。


「ニコラさん、どうしたのですか?」

「ジョアンに、ローゼちゃんを呼んできてって頼まれて・・・・」

「ジョアンに?」

「『キリがひどく痛がっていてどうしていいかわからないからローゼ様を呼んできて』と言ってうちに駆けこんで来たの」

「・・・・妹さんの病気って?」

「チラージル病だそうよ」


 チラージル病。魔力が身体の中で石のように固まってしまう病気だ。石になった魔力が身体の中を動いたときの痛みは、大人でも気を失うほどの激痛らしい。


「お嬢様はちょっと出かけていて・・・・・・・」

「・・・・そうだったの・・・。じゃあ、可愛そうだけれど仕方ないわね」


 ジョアンには悪いけれど、他人事だ。同情はするけれど、私にできることはない。・・・・でも、お嬢様が戻ってきてこの話を聞いたら、すぐに助けにいくに違いにない。それはできるなら避けたい。・・・・となると、私が行って様子を見に行くしかないか・・・・・。


「・・・・薬草茶なら私も用意できます。それで少しは痛みが治まるといいのですが・・・・」

「そうよね! 私も蜂蜜で煮た甘いうずら豆があるからそれを持っていくわ」


 ニコラさんも何か思うところがあったらしい。ニコラさんの顔がぱあっと明るくなった。


「それで、ジョアンの家は?」

「ごめん。私もジョアンの家は知らないの。ネル商会の支配人ならわかると思うんだけど・・・・」

「ネル商会の支配人?」

「うん。支配人のこと、知っている?」

「ええ」

「なら、話が早い。支配人に聞いて! 私も、一度お店に戻ってから行くわ。じゃあね!」


 ニコラさんは走って帰っていった。私は水屋に戻ると、薄荷と加密列の葉と、薫衣草の砂糖漬けが入った瓶を籠に入れた。水屋を出て、ふと井戸の傍に刺草(ネトル)を見つけた。乾燥した刺草って痛みを和らげる作用があったはず。でも、生のままだと葉っぱの棘が刺さって触った手がかぶれて痛い。まあ、持っていくだけ持っていこう。触らないように、エプロンを使って刺草を取ってそのまま籠に入れた。

 

 ネル商会には、迷わず行けた。入口の扉を開けると、正面に薄紫色の髪を1つに束ねた綺麗な女性がいた。


「ネル支配人はいらっしゃいますか?」

「あら、初めて見る顔のお嬢さんね。私は受付をしているミザリ。支配人にはどんなご用件?」

「ネル支配人なら花売りのジョアンの家の場所を知っていると聞いたので・・・・」

「ジョアン? ・・・・赤毛の花売りの男の子で、病気の妹がいる子? その子の家なら、私も知っているわ。私が地図を描いて教えるのでもいい?」

「はい。構いません」


 ミザリさんは、メモ書きのような地図を描いて渡してくれた。


「支配人には、あなたが来たことを伝えておくわ。名前は?」

「ローゼ様のところの侍女のアンと申します」

「あら、宵の杜の魔女の家の侍女さんね。 アレクが帰ってくるのは精霊祭の後だと伝えてくれる?」

「伝えます」


 私は、ミザリさんに礼を言って商会を出た。でも、右へ行けばいいか左へ行けばいいか、よくわからない。やはり、ここはニコラさんを待とう。そう思って立ち止まった。


「ジョアンところに行くのか?」


 後ろから声をかけられた。振り返ると、茶色のマントを羽織った大男が立っている。こういう時に声をかけてくる人は怪しい。無視!


「悪ぃ。悪ぃ。ミザリと話しているのを聞いちまってさ」

「・・・・・」

「警戒しなくても大丈夫だぜ。俺は、ダリ。アレクと組んで護衛をしているネル商会の護衛だ」


 ダリと名乗った大男は、胸に下げている首飾りを見せた。


「これはネル商会に雇われている証だ。あそこら辺はルッコラ村でも治安が悪ぃから、お前みたいな他所(よそ)もんは襲われるぜ?」

「それは本当ですか?」


 思わず、大男の話を聞いてしまった。すると、調子に乗って、大男は自分がいかにネル商会の護衛の中でも信用があるかと滔々(とうとう)と話した。


「・・・・ああ。だから、銅貨20枚で、護衛してやるぜ?」


 銅貨20枚というと、私の一日の給金のだいたい半分。護衛としては妥当? 私が黙っていると、代金を払うのを渋っているのかと思ったらしく、わたわたし始めた。


「じ・・・じゃああ、・・・特別サービスで銅貨15枚で、受けてやる」


 このダリは大男なのに小心者で、小銭稼ぎをしたいのか。商会に雇われている証も見せたし、道もわからないし、信じていい? 


「・・・・・わかったわ。銅貨15枚ね。先に渡すわ」

「おお!! 任せとけ!!」


 ダリはそそくさと銅貨を受け取ると歩き出した。そして、アレクとサイレントベアを二人で倒した話や、スコーピオンをダリが押さえてアレクが剣で切ったという話をした。共和国側の商会にアレクに懸想している女性がいることや、ミザリさんの彼氏は辺境騎士団にいることなど、いらない噂話もした。


 ちょっと待って。 ・・・・ この道は、村に行く道ではなくて、宵の杜へ行く道?


「でさ、そんときのアレクの慌てようったら・・・・」

「あの、ダリさん、この道であっているのですか? このまま行くと、宵の杜へ戻るような気がするのですが・・・・」

「んぁ? ああ・・・問題ない。俺はこの道を案内するように言われているから・・・・」

「? 私は、ジョアンの家に行く依頼をしたはずですが・・・・」


 危ない。これは信用してはいけなかった人だ。私が身を引いたと同時に、ぐいっと腕を引っ張られた。慌てて後ろを振り返ると、黒装束が私の腕をがっちりと掴んで立っていた。


「離して!! ダリさん!! 助けて!!」


 夢中で腕を振り払おうと、掴まれている腕を動かした。ダリはにやにやしながら、私を見ているばかりだ。


「動くな。傷がつくぞ」


 ・・・ぞわり・・・


 首筋に冷たいものが当たる。細い剣の剣先が首元にあった。私は思わず背筋を伸ばして、剣先から逃げようとした。


「ダリ、ご苦労。依頼の代金だ。受け取れ!」


 ずっしりとした袋がダリに向かって飛んで行った。


「悪ぃな。もしも、ネル商会にジョアンを訪ねてくる娘が来たら、ここへ連れてくるよう頼まれててな」


 ダリはすまなそうに肩をすくめた。けれど、顔は相変わらずにやにやしている。恐怖よりも怒りで、頭の中が真っ赤だ! あのにやつき大男を思いっきり殴ってやりたい!


「騙したの? 私の依頼を受けて

おいて?」


 ダリは大げさに首をふった。その言動の何から何まで腹が立つ!


「こっちの依頼が先約。 お前が俺についてこなかったらどうしようかとひやひやもんだったぜ」

「じゃあ、私が払った銅貨15枚は?」

「ありゃ、そんときのノリさ。こっちの依頼は金貨20枚だぜ? じゃ、俺はこれで」


 ダリは投げられた袋を拾うと、足早に去って行ってしまった。


「・・・ということだ。侍女。見る目がなかったな」


 私に剣を突きつけている黒装束がとても冷たい声で言った。


 この人達はお嬢様の敵だ。アレクはまだ帰らないと聞いた。私がお嬢様を守らなくてはいけない。


「なぜ、私が侍女だと?」

「宵の杜の魔女は、輝く銀の髪の魔女だ。お前からは、その肩からぶら下げている袋からしか魔力が感じられない。それが理由だ」

「目的は?」

「我らの邪魔をしないこと」

「邪魔?」

「そうだ。・・・・そうだな。まずは、騎士団のやつらのように魔女の家に招待してもらおう」


 黒装束がくっくっと笑った。


「魔女の家に招待?」

「我らは、魔女と話がしたいのだ」


 私は眉をひそめた。


「話?」

「それは、会った時のお楽しみだ」

「私はお嬢様を傷つけることは許さない」

「見上げた忠誠心だ。お喋りはここまでだ。さあ、歩け」

「このままじゃ、歩けないわ」

「・・・・そうだな。しかし、なにか怪しい動きをしたら斬る」


 どんと前に押し出されて、私の腕は自由になった。しかし、背中にピリピリした殺気を感じる。

私は、握られて真っ赤になった部分をさすりながら歩き出した。足音から考えて、後ろにいるのは3人? 4人? 

 ここから走っても、すぐ追いつかれて斬られてしまう。隙を狙うのは、私が守りの魔法の中に逃げ切られる距離まで行った時だ。私は自分の思惑がばれないよう、自分と黒装束の気を逸らすために質問することにした。


「貴方達はどこから来たの?」

「・・・・・」

「貴方達は何人いるの?」

「・・・・・」

「誰の命令なの?」

「・・・・・」

「何が目的なの?」

「我らの邪魔をしないこと」


 あら、話は聞いているみたいね。よしよし。


「『ゆうしゃをめざすきみへ』って絵本、読んだことある?」

「ある」

「私も読んだわ。私は、青色の瞳の竜が空を飛ぶ場面が好きだわ。貴方達は竜を見たことがある?」

「ある」

「へえ。どんな竜なの? 空飛ぶ竜?」

「いや、火を吐くりゅ「おい!!」」


 別の声が重なる。ちっ。聞き出せそうだったのに。でも、この人達が会ったのは、火竜なのね。私は、持っていた籠を見た。中には、薬草と砂糖漬けが入っている。


「貴方達って、薬草に興味がある?」

「・・・・」

「この籠の中に、薄荷と加密列が入っているの。お茶にして飲むと、気分がすっきりするわ」

「・・・・そうか」

「これがね、薄荷でね、これを浸した水にタオルをつけておくと、足のむれとかも取れるのよ」

「・・・・それはぜひ試したいものだ」


 私の質問に答えていた黒装束の声が少しだけ高くなった。よしよし。


 私は、籠の中の草を取り出しては、説明をした。あと、1000fくらいで守りの魔法につくという時、遠くの方で馬の鳴き声が聞こえた。黒装束に緊張が走るのがわかった。


「おい。守りの魔法の中に我らを通し、あいつらを入れないようにすることはできるか?」

「・・・・・それは・・・」


「おい! なにをしている!」


 聞こえてきたのは、ルーカス様の声だ。走り出しそうになった私の肩を掴む手があった。刃先が私の顔にむいている。


「きゃ・・・」


 ルーカス様とエリック様が馬から降りて剣を抜いたのと、黒装束が私を盾にしたのは同時だった。私を見て、ルーカス様とエリック様が剣を下す。


「・・・・・」

「どけ! 馬をよこせ! この娘は預かる! 魔女にそう伝えろ!」


 黒装束の要求に、ルーカス様とエリック様がぐっと唇を噛んで黙っている。そして、握っていた馬の手綱を手から離して、数歩離れた。それを見て、私に剣を突きつけていた黒装束私に歩くように顎で指示をした。私はわざと身を震わせるとよろめいたふりをした。黒装束は、剣を下げると私を抱きかかえようと身を沈めた。よし!! 今だ!! 私は、籠の中で握っていた刺草を取り出すと、刺草で黒装束の顔を思いっきり叩いた。


「うわああ・・・・」


 刺草の棘が刺さったのだろう。黒装束の人が剣を投げ捨てて顔を覆った。その隙に、私は、慌てて走り出した。走りきれば守りの魔法が私を守ってくれる。・・・・・あと、数歩で守りの魔法にはいるというところで、背中にザクっと焼けるような熱さを感じた。


「「アン!!!」」


 エリック様とルーカス様の声が聞こえたけれど、私はもう・・・・・。




 先日も誤字報告ありがとうございます。

 お礼がすっかり遅くなってしまって、すみません。

 これからもよろしくお願いします。

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