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37.秘密の扉(2)


「ここへは、主に二つのことを教えていただきたくて来ました。一つ目は白来路花(ホワイトセージ)の入手場所、二つ目は悪しき精霊をおびき寄せるクロッシェの種類です」


 私の言葉に、ファニール様がゆっくりと頷いた。


「ローゼリア、白来路花は私の部屋にある」

「えー、ファニールが持っていたの? ボク知らなかったぁ」


 ガルデオン様がびっくりした声をあげた。幻の薬草という白来路花を持っているなんて、さすがファニール様。私は尊敬の念をファニール様にむけた。しかし、ファニール様の声色は幾分か沈んでいるような気がする。


「ああ。1株しかないから、部屋の中で育てている。・・・・・・昔、アナが宵の杜から分けてもらったのだがうまく育てられなくてな・・・・」

「そんな貴重なものを頂いてもよろしいのですか? 昔、アナ様が宵の杜から分けてもらったというなら宵の杜を探したほうがいいのでは?」


 アナ様から分けてもらった株を分けてもらうのは忍びない。そうだ。魔女の家では見つけられなかったけれど、もう一度よく見てみよう。それから、ジョアンに手伝ってもらって、探してみよう。私があれこれ考えていると、ファニール様は私を見てきっぱりと言った。


「幼い火竜を助けるためだ。構わない」

「助かる。ファニール」


 今度はドラゴネット様がファニール様に頭を下げた。ファニール様がドラゴネット様に頷くと、私の方を向いた。


「白来路花の魔力で、ドラゴネットが羽織るケープを編むのがよいだろう」

「ドラゴネットが羽織るケープ?」

「白来路花の魔力糸で作ったものを身に着ければ、白来路花の作用が生じる。編み方は魔力を集めたら教えよう」


 そうか。枝をたくさん持っていかなくても、魔力糸で体を覆うことができるものを作れればいいのね。でも、ケープってどう編むのだろう? 純粋に新しい編み方を知ることができるのは嬉しいわ。1つ目の白来路花の問題も解決しそうで、私は自分の頬が緩むのを自覚した。


「ただ、・・・精霊をおびき寄せるクロッシェに使う魔力糸だが、どの花を使えばいいかわからない。すまない」

「ファニールも知らぬのか? 我も残念なことに知らぬ」


 ファニール様と竜王様が、すまなそうな声で答えた。私は緩んだ頬を引き締めなおした。問題は簡単に解決するわけではないのね・・・・。

 幸いここの温室には薔薇(バラ)茉莉花(ジャスミン)梔子(クチナシ)といった香りの高い植物も沢山ある。手がかりがないなら、温室にある花をいろいろ編んでみるしかない。私がよしやるぞと気合を入れていると、ガルデオン様の能天気な声が聞こえてきた。


「綺麗な花だったらいいんじゃない? 精霊って花が好きなんでしょ? ボクだったら、薔薇がいいなあ。温室の薔薇は香りも形も味も最高だもの!」

「ガル、それはお前の願望だ。精霊と竜では嗜好も違う」


 竜王様があきれたように笑った。


「じゃ、いろいろ試してみるの?」

「編み手はローゼ一人だ。ドーラのケープも編むのだろう?」

「じゃあ、どうすんの?」


 竜王様とガルデオン様が、ああでもない、こうでもないと話しだした。確かに、これから白茉莉花のケープを編まなくてはいけない。これは必須。

 ちらっと、ファニール様を見ると、ファニール様は目を瞑って考え込んでいる。


「・・・・・・ス・・・・・・・ラン・・・」


 あれ? 竜王様とガルデオン様も話すのをやめて、お互いの顔を見合わせている。


「たしかに、声が聞こえたよね?」


 ガルデオン様がみんなに聞いたので、みんなも頷いている。


「なんだろう? 誰かいるのかな?・・・・怪しいのは・・・・ローゼの籠だな!」


 ガルデオン様がぱたぱたっと私の方に近づいてきた。私は、籠を床におろすと、かかっていた布を外した。そこには、おいてきた籠にいたはずの綿埃(精霊)がカップケーキの上にふわふわっと乗っていて、ぼおっと光っていた。玉虫色って言うのかしら?その光は見る角度で複雑に色が絡み合っているような感じがする。


「これは・・・・・」

「あー。やっぱり、綿埃、ついてきたんだー」


 ガルデオン様の声につられて竜王様がやってきて、籠の中を覗き込んだ。


「噂の綿埃精霊か? 我にもみせてくれ」


 綿埃(精霊)がさっきより心なしか大きくなって、ぼわわーーと光った。竜王様は籠の中に手を入れると、カップケーキごと綿埃(精霊)を取り出した。


「確かに、綿埃にしか見えないな」


 竜王様が目の高さまでカップケーキを持ちあげてしげしげと綿埃(精霊)をみている。なんとなく口角があがってきたような気がする。すると綿埃(精霊)は、纏っていた光を赤くしてきゃんきゃん言い出した。


「ええい、うるさい! うるさい! うるさい! 綿埃と呼ぶな! もう助けてやらんぞ!」

「それはこっちの台詞だが?・・・・綿埃・・・もとい、わが友、シーフウィル?」


 竜王様が意地悪そうに目を細めた。


「わかっているなら、綿埃と言うな! レヴィアタン!!」


 シーフウィルと呼ばれた綿埃(精霊)は、竜王様の顔のあたりで発している光をチカチカさせた。


「しかし、何があった?」

「話せば長くなる。実はな、「長くなるなら後で話せ。今は、幼竜を助ける算段をしている」」


 シーフウィル様が話し出そうとしたところに、ドラゴネット様が声を乗せて遮った。


「あいかわらず、ドラゴネットはせっかちな奴だな」

「それで? 精霊をおびき寄せるには何の花のクロッシェを編めばいいのだ?」


 ドラゴネット様は、はやく幼竜を助け出したい。その思いがひしひしと伝わってくる。


「精霊にとって、一番の花は鈴蘭だ!」

「はあ? 鈴蘭なのぉ? だっさー」


 ガルデオン様が横やりをいれた。あいかわらず空気を読まない方だ。


「なにおぉー!! 花の中で鈴蘭が最高だろうが!」

「ボクは薔薇の方がいい!!」

「薔薇なんか、おおぶりで破廉恥(ハレンチ)ではないか!!」

「なにお!!」


 シーフウィル様が、ガルデオン様の鼻の先でちかちかっと光った。ガルデオン様がそれを押さえようと腕を伸ばす。すると、シーフウィル様は器用に爪と爪の間をすりぬけて、ガルデオン様のまわりを飛び回り始めた。ガルデオン様がシーフウィル様を追いかけて、ぐるぐるする。


 竜王様がはあっとため息をついて、ガルデオン様の首を捕まえた。


「ガル、シーフ、そのくらいにしろ。ガル。竜と精霊では嗜好が違うのだ。精霊の好きなものを『ださい』とか言ってはいけない」


「ふん」

「ふん」


「あの・・・・。シーフウィル様。はじめまして。私、ローゼリア=リッチモンドと申します。今回、悪しき精霊をおびき寄せるクロッシェの種類についてお聞きしたくて、ここに参りました」


 私は、シーフウィル様のまえで、スカートを摘まんで腰を落とした。


「ああ。次代の編み手か。堅苦しい挨拶はいらない。世話になった。ここまで回復できたのは、お前のクロッシェのおかげだ。あとは、姿を取り戻すために、もう少しクロッシェをもらいたいところだが・・・「幼竜の件が先だ」」


 ドラゴネット様がシーフウィル様の言葉の上に声を重ねる。ドラゴネット様がシーフウィル様を睨みつけている。睨みつけられていない私が足が竦んで震えそうだ。


「・・・・わかった。ドラゴネット。ローゼといったな、精霊を呼ぶには、薄紫色の鈴蘭の花の魔力で鈴蘭のブーケを作るがいい」

「薄紫色? あの、薄紫色の鈴蘭とは?」

「知らぬのか? はあぁ・・・・未熟者め。鈴蘭だからと言ってなんでもいいわけではない。白や桃色の鈴蘭よりも薄紫色の鈴蘭の芳香は何倍もあり、その魔力の甘さは薔薇よりももっと甘い。精霊のためにある鈴蘭だ」

「精霊のための鈴蘭・・・・」


 精霊のための鈴蘭と言われても、薄紫色の鈴蘭を見たことがない。どこへ行けばいいのかしら? 温室? 私はちらっとファニール様を見た。ファニール様は難しそうな顔をしている。


「申し訳ありません。私は薄紫色の鈴蘭を見たことがないのです。ファニール様はご存じですか?」

「私も話を聞いたことはあるが、見たことがない。つまり、この竜の世界にはないということだ。・・・・精霊のための鈴蘭ならば、宵の杜にあるのではないか?」

「宵の杜の鈴蘭は、・・・・全滅した・・・・・。今は、赤黒い毒をもつ鈴蘭しかない」

「えっ・・・?」

「黒装束の人間達が、宵の杜の泉に毒をいれたのだ。だから今は宵の杜には薄紫色の鈴蘭はない。他を探すしかない」

「ほか・・・?」


 他と言われても、竜王国にも宵の杜にもないとなると、あとは皇国全土を探さなくてはいけなくなる。薄紫色の鈴蘭があったら、かなり話題になっているはずだから、薄紫色の鈴蘭は存在しないのかもしれない。可能性が薄いので心の中が暗くなっていく・・・・ううん! 私は頭をぶんぶんとふった。否定的な考えはやめよう!! 私が知らないだけかもしれないから、探そう!

 私は、だめかもしれないという悲観的な考えを捨て、希望にかけることにした。


 鈴蘭と言えば、ルーカス様にお見舞いの花でいただいたわわ。そうだ! ルーカス様に聞いてみよう。騎士団なら、あちこちを訪れているはず。鈴蘭の噂も聞いたことがあるかも。そう考えたら、薄紫色の鈴蘭も探せるような気がしてきた。白来路花も薄紫色の鈴蘭も手に入れて、幼い火竜を助ける! 私は決意を新たに、竜王様を見た。


「・・・・あの! いったん、宵の杜に戻って、アン達に薄紫色の鈴蘭のことを頼んできます」

「そうだな。薄紫色の鈴蘭の探すには時間がかかりそうだから、頼めるところは頼んだ方がいいだろう」


 竜王様が頷いてくれた。


「それでは、私は、白来路花の鉢を図書館に運び込んでおこう」


 ファニール様はそういうと、神殿を出ていった。


「ボクはローゼについていく!」


 ガルデオン様は竜王様の腕の中で叫んだ。


「いや、ガルは残れ。シーフウィルを元に戻す方法を考えなくてはいけないから手伝え」

「えー。綿埃は綿埃でいいよー。それより、ローゼについていって、クロッシェを・・・じゅる」


 ガルデオン様はごつんと竜王様に頭を叩かれた。ガルデオン様は涙目になって、竜王様を見たけれど、竜王様は冷たかった。


「決定事項だ」

「そんなあ・・・・。横暴!! ケチ!!」


 ガルデオン様が竜王様の腕の中でバタバタしていた。けれど、竜王様から逃れられなかったらしく、がっくりと尾を垂らしている。


「あ、レヴィアタン、お・・俺は・・・?」


 ドラゴネット様が両手をもじもじさせながら、竜王様に聞いた。


「ドーラは、火竜の鱗とラーシュとの思い出の品を持って図書館に行け」

「思い出の品?」

「何かないのか? ・・・・そうだな、・・・・ローゼ、ラーシュに会った時に、何か言っていなかったか?」


 私は、ラーシュに会った時のことを一生懸命思い出した。ニンゲンガキライ・・・・それから、ゴメンナサイ・・ それから、・・・・ボクノセイ・・・・それから・・・・。


「・・・・・・セイトウ・・・」

「星糖か。それならば、ラーシュとよく食べた。だが、あれはアナスタシアが作っていたもの。俺には用意できない・・・・」


 ドラゴネット様がじっと床を見ている。ラーシュとのつながりがわかったけれど、自分では用意できないことがわかってがっくりきているのだわ。

 今の星糖なら、デニスさんかアンに頼めば作れるかも。


「私が知っている星糖は、表面に凸凹の突起がついて星のような形をしているお砂糖菓子ですが、同じものですか? 色は無色やピンク、黄色、と様々な色がついています。」

「俺が知っている星糖には色はついていなかったが、ローゼリアが言うように表面に凸凹の突起がついて星型の砂糖菓子だ」

「宵の杜に戻って、作ってくれる人を探してきます」

「頼む」

「それでは、一度、宵の杜に戻り、アン達と話をしてきます。すぐもどります」


 そう竜王様達に挨拶をすると、神殿をあとにした。


 図書館の奥の小部屋で、言われた通り、手の甲を壁に近づけると、魔方陣が現れた。私はそれをくぐって、薬草室にもどってくることができた。


「アン! アン! どこにいるの?」


 薬草室からでて、寝室、水屋と探してもアンがいない。どこかに出かけたのかしら? お買い物かしら?

私は、広間でアンを待つことにした。その間に、少しクロッシェを編んでおこう。今から来路花と万年朗の魔力を混ぜた魔力糸を作るのは大変だから、両方から糸をとって2本の糸を編むことはできるかしら? それならば、いつも使っているかぎ針より少し大きめのかぎ針を使えば編めるかもしれない。

 いいことを思いついた私は、うきうきしながら、編み始めた。細長い四角を編んでみよう。このクロッシェは治癒のために使うから、包帯みたいに使えるといいのだけれど・・・・。そう思いながら編み進めていた。






バタン


 乱暴に扉が開く音がしたので、私は、慌てて扉の方を見た。するとそこには、白いシャツを真っ赤に染めたアンを抱きかかえたエリック様が立っていた。あまりのことに何も考えられなくなって真っ白になった私の頭に、カシャン・・・と編んでいたかぎ針が床に落ちる音が届いた。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


  なるべく、早く更新できるよう頑張ります!

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