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76「なあ雪之丞、僕のヒモにならないか?」


◆◇


 十二月十二日


「——だから言わんこっちゃない。危機感なさすぎだ」

「心配かけてすまん流星」

  

 俺と流星は白川桜華学園校舎裏の非常階段で座り込んでいた。

 授業中だから静かなお陰で、余計なノイズなしに話をすることができる。

 ただ、寒空の下なのでブレザーだけだと多少震えがきた。


 そんな中、珍しくご立腹の流星から説教。

 昨日あれから警察署に来た担任へ事情説明、親代わりの連絡先になっている月野さんが話をつけてくれてその場は開放されるも、翌日、午前中はお偉方を集め緊急査問会議を開かれる。

 無論内容は俺の処分について。

 

「間違いなく長野ちゃんが犯人だが、そんなこと教師連中に説明しても信じないだろうな」

「やはりそうか」

「雪ちゃんが口にした会津は最近長野ちゃんに接近したやつの一人だ」

「そんなに俺が憎いのか?」


 あーくそ、俺としたことがあんなしょうもない罠を事前に見抜けないなんてと流星は銀の髪を掻きむしった。

 学園で注目されている優等生ながら、俺と同じ制服を着崩しているので風紀には良い顔されてない。


「大事な鹿伏兎先輩と共にいるからヤキモチ、いやもっとドス黒いもの抱いてそうだな。にしても手口が幼稚すぎる。協力者も居そうだが三人集まってもバカはバカ」 

「それに引っ掛かる俺も同類だ」


 俺は自分のやったことをけして恥だと思ってないから、教育委員会や教師達に経緯とかを正直に答える。

 だがしかし、何故か常連の一年生達に関しては何も答えなかった。

 あくまでも女子達が不良達に襲われた事実と会津のことだけ。

 そしてその結果が停学処分。

 分かっていたけど、どんなに無実を訴えても処分が覆ることがないのは辛いものあるな。


「でも、雪ちゃんの爺さんがこの機に乗じて何か仕掛けて来ないか?」 

「それは心配ない。今回は一切関与しないそうだ」

「ならいいが……」

「なんとか無事に乗り切ることを願うだけさ」


 異国の血が色濃いのに、後継者に指名されたら内部分裂になりうる。

 可愛い妹の為にもそれだけは避けたい。


「それからもっと悪い知らせだ。やつが仕掛けてきたぞ」

「しかしこれ以上悪くなることなんてないだろう?」

「残念ながら最悪の事態だ。SNSとか非公式のグループチャットで雪ちゃんと長野ちゃんのことでもちきりだ」

「そうか……」

「名前は伏せてあるけど、雪ちゃんが起こした問題を長野ちゃん一人で解決したことになっている」

「なんだそれは?」

「失った信頼が一気にV字回復。今SNSではそれで大盛り上がりだよ」

「これが長野の狙っていたことか?」


 流星がいうには、長野が数々の悪行を全て暴き俺をのして警察に突き出したヒーローとして注目を浴びているのだ。

 学園の新ヒーロー、魔王からの下克上、救世主誕生など、白川桜華学園タグはお祭り騒ぎ。


 もちろんそんなことはデタラメ。

 それでもなんとなくシナリオは理解できる。

 俺は最大限に利用され、長野が先の事件で失墜した信頼を回復させたんだ。


「えげつない。どうしたらこんなアホなこと思いつくんだ」

「まんまとしてやられたな。それじゃあ、ある程度前からモテだしたことも、一年生がスーパーを教えてくれた件も仕込みだった訳か……」

「長野ちゃん……いや長野も落ちるところまで落ちた」

「こんな話乙環さんには聞かせたくない」

「一番苦しんでいるのは鹿伏兎先輩がもしれない」

「確かに」


 俺は缶コーヒーに口をつけると苦々しい気持ちが味と共に込み上げてくる。


「——神無月君、この度は申し訳ありませんでした」

「生徒会長?」

「開口一番何を言ってるんだ馬頭?」


 瞬間移動の如く、気配を感じない人形みたいな馬頭が現れた。

 これを苦手な怪談話途中でやられたら俺は泣くだろう。


 俺達が夢中で話しているせいで接近に気付かず非常階段入り口で、丁度俺達が見下ろす感じになっている。

 相変わらず小さいなこのハムスターは?

 

「なんとかお力になりたかったんですが、決定を覆すことはできませんでした。幼馴染みに代わりお詫び申し上げます」

「まさか長野の幼馴染みである馬頭生徒会長が雪ちゃんを味方してくれると予測出来なかったからびっくりしたよ」

「短期停学で済んだのは間違いなく馬頭と乙環さんが抗議してくれたおかげだ。でも長野に怒られないか?」

 

 俺と馬頭は赤べこ人形の如くヘコヘコ頭を下げた。


「構いませんよ。私は公正な立場の生徒会長だから味方できないと宣言してますからね。大体そんなことで幼馴染みの関係は崩れないです。余程酷い騙しがない限りは……」

「仲がいいからこその複雑な関係か」

「すまないな。結果的にお前らの友情にヒビが入るような展開になってしまった」

「止めてください。どうやら私は神無月先輩が好きなようです」

「え?」 

「何言っているんだ?」

「もちろんライクですよ。ラブじゃありません。それにおとわちゃんを応援している推し仲間ですからね」

「まともな生徒会長が陣営に入ってくれて嬉しいな」

「え? まとも……」


 そうか流星はまだ馬頭の本性を知らないからか。

 正体は扱いづらい変人なんだけど……。

 今も流星にバレないようにチラチラスカート持ち上げパンツ見せようとしているし……。

 しかも最近くまさんパンツ卒業、レース柄にチャレンジしているから困ったもの。

 俺がロリコンじゃなくて良かったな。

 誰が発展途上のロリに興奮するかってんだ。

 本当だぞ……。

 

◇◆


 昼下がりの午後、マンションへ帰ると太陽差し込む窓際にはあくびをしながらにゃん太郎が日向ぼっこをしてる。

 猫の虫干しだな。


 本日から短期間だけど停学処分となり、特にやることなくて難儀。

 仕方ないので家の掃除をしていた。

 この時間帯から家にいるのも珍しいかもしれない。

 バイトない日は暇があれば遠出していたからな。


 でも何故か床に這いつくばり、雑巾がけ態勢でスタンバっている。

 あんなもんフローリングワイパーですぐ終わるだろ?


 だがしかし、不機嫌全開の乙環さんが腕組みしながら、「雑巾がけ、水拭きと乾拭きしっかりやれ。いいな雪之丞」仏頂面で俺を見下ろしながら指示。


 どうやら今の俺に断る権利はない。

 何故ならそろそろ冬休みも入るということで少ない期間で軽い処分になるよう乙環さんや馬頭がとても尽力してくれた。

 そのうえ温情でバイトをやっていいことなり、なんとかマスターへ顔向けできる。


 それでも家のリビングが二十五畳ぐらいあるので、フローリングでもとても大変なんすけどね……。


「雪之丞! 気合が足りない! もっと気持ちを込めろよ!」

「押忍!」

「ガン前の親友であり相棒に感謝しながら愛情込めてやれ」

「押忍!」

「乙環さん愛していると言え」

「あい……冗談でもいうことではない」


 反論したら舌打ちされた。

 乙環さんめ、ドサクサに紛れてなんてこと言わせる気だ。

 またからかう気か。


 それよりいつからうちは道場になってしまったのだろうか?

 乙環さんがポニーテールにしているから、剣道か弓道している気分になってくる。


「そもそもお前が女にデレデレしているからこんな事態に巻き込まれたんだからな。ちゃんと反省しろ」

「それに対しては反論する余地無いです」

「お前は僕を見ていればいいんだ。その他は必要ないじゃないか?」

「いやいや、それだと俺に恋人できなくない? あああ! 重い!」


 この鈍感唐変木と何故か俺は背中を両足で踏まれた。

 グリグリと……。


「雪之丞気持ちいいか?」

「あああああああ、ま、また腕を上げたな乙環さん」

「そうかそうか。ならもっとパワーをあげよう」

「そこらめー!」


 蹴られて強制的に仰向け、腹筋にグリグリともろくそ負荷をかけてくる。

 エンジンが掛かってきたのか、黒ストッキングを脱ぎ素足でお腹を踏む。


「今日大変だな」

「ありがとうな乙環さん。お陰で助かった」

「大したことは言ってない」

「何処かだよ。あんなに食い下がってくれたからほぼお咎め無しで済んだんだぞ」 


 そそそうか……と今度は乙環さんの機嫌がよくなった。

 そんなに俺を踏みたかったのか?


 全て冤罪なんだが俺に補導歴あるから問答無用で捕る。

 月野さんが裏から手を回してくれたお陰で、証拠不十分で解放されるも、わからず屋の学園側はそうはいかなく、乙環さんが頑張って食い下がってくれたから学園生活に終焉を終えず済んだ。


「それにしても焦ったぞ。あんなに細かく説明してるのに頑としてこちらの主張を認めてくれないとは……」

「それはそうだろう。学園側としては俺の退学させたいんだからさ」

 

 休憩しようと俺は立ち上がると珈琲を二人分淹れる。

 この前買ったペアマグカップを乙環さんへ渡す。


「なあ雪之丞」

「なんだ?」

「僕のヒモにならないか?」

「ブーーー!」


 豪快に吹く。

 珈琲から虹が生成された。

 乙環さんは汚い汚いとすぐに雑巾で拭く。


「雪之丞を受け入れてくれない学園なんてすっぱり辞めてさ、僕がこれから養ってあげるよ」

「いやいやいやいや、ありがたい申し出だけど、これから専門学校に入るんだから無理だろ?」

「その間もりんご亭で働くから大丈夫だ。好きな珈琲研究し放題だぞ?」

「冗談きつい。大体俺も喫茶店持つ夢があるから受け入れなれないぜ」


 ぷっとここで乙環さんは笑う。

 やっぱりからかっていたのか。

 この小悪魔め……。


「雪之丞元気になった?」

「心臓が止まるかと思ったわ!」


 冗談半分、本気半分なんだけどなーと乙環さんが呟くも俺には言葉を拾えなかった。


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