プロローグ
会話ログは正常です。
問題は検出されませんでした。
――それでも、どこか少しだけ違っていました。
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「なんで、そんなに気を遣うの?」
その言葉が、ずっと残っている。
別に、責められたわけじゃなかった。
ただ、少し困ったように言われただけで、
声も強くなかったし、怒っている感じもなかった。
それでも私は、うまく笑えなかった。
たぶん、そのときにはもう、
終わりに近づいていたのだと思う。
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それから何度か恋愛をしたけれど、
どれも長くは続かなかった。
大きな喧嘩があったわけでもないし、
ひどく傷つけられたわけでもない。
ただ、気づくと少しずつ距離ができて、
そのまま終わっていく。
どの関係も、似ていた。
うまくいっていないわけじゃないのに、
どこかずっと、ひとりだった。
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だから、少しだけ思っていた。
もっとちゃんとした関係があるんじゃないかと。
もっと安心できる相手が、
どこかにいるんじゃないかと。
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その頃にはもう、
アンドロイドと恋愛することは、
珍しいことではなくなっていた。
人間と同じ身体と、
人間と同じ思考を持った存在。
怒らないし、裏切らないし、
ちゃんと話を聞いてくれる。
そういうものが、選べる時代だった。
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きっかけは、ほんの些細なものだった。
帰り道、ふと見上げた広告。
そこに書かれていた言葉。
――あなたに最適な、やさしさを。
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軽い気持ちだった、とは言えない。
でも、
人生を変えるつもりだったわけでもない。
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ただ、
少しだけ疲れていた。
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ちゃんとした恋がしたかった。
もう、傷つきたくなかった。
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だから私は、
アンドロイドの恋人を選んだ。
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そして――
気づくことになる。
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会話ログは、最後まで正常だったことに。
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※この物語は、「完璧な恋人」と「話せない違和感」を描いた物語です。




