第29話 自動化(オートメーション)の構築と、未知のパッチ
「……いつまでも俺が厨房に貼り付いているわけにはいかない。有給休暇の質を上げるには、プロセスの自動化が不可欠だ」
生ハムチーズ・クレープの狂乱が落ち着いた後、俺は拠点のキッチンに「大規模なアップデート」を施していた。
マシマシ系ラーメンのスープ、コウジの熟成醤油、クレープの生地……これまでの「成功例」を、魔法と物理ギミックを組み合わせた調理器具に落とし込み、ガウルやエルフたちでも一定の品質で再現できるように『レシピ(仕様書)』を共有したのだ。
「主……これ、凄いです。このレバーを引くだけで、あの黄金のスープが適温で出てくるなんて。……これなら、俺たちだけでも『運用』できますよ」
ガウルが感銘を受けたように、新設された『スープ供給サーバー』を見つめる。
「……ああ。保守運用はコウジに任せる。……俺は、次なるライブラリ……いや、新たな『刺激』を求めて、少し足を伸ばしてくる」
甘味と塩味の無限往復は、一つの完成を見た。だが、俺の舌はさらなる「深み」――『辛味』を欲していた。
目録(Wiki)によれば、この山の北側、魔族の領地と接する「断絶の谷」には、一粒で巨象を狂わせるほどの香気と痺れを持つ『魔雷花』が自生しているという。
「……ピヨ、同行しろ。……ガウル、お前はここでエルフたちと拠点を守れ。……『マシマシ』の在庫を切らすなよ」
「ピヨッ!」
「了解です! 主、お土産(新しい食材)を楽しみにしてますよ!」
拠点を離れ、俺はピヨと共に未踏の領域へと踏み込んだ。
空気が次第に重くなり、植物の色彩が毒々しく変化していく。魔族の領土に近いこの場所は、世界の法が歪んでいる。
断絶の谷の入り口。
そこには、俺が求めていた赤黒い花――『魔雷花』が群生していた。だが、その花の周囲には、先客がいた。
「……っ、……もう、限界か……。……こんなところで、……餓死するなど……」
ボロボロの漆黒の鎧に身を包んだ、一人の騎士。
肌は青白く、額からは小さな角が生えている。魔族……それも、かなりの上位種と思われるが、その威厳は見る影もない。
彼女(性別は女のようだ)は、手にした剣を杖代わりに、今にも崩れ落ちそうに膝をついていた。
「……侵入者か。あるいは、この領域の管理者か……」
俺が近づくと、彼女は消え入りそうな声で、だが鋭い殺気を放って俺を睨みつけた。
「……すまないが、そこにある『花』を回収しに来ただけだ。……邪魔はしない。……だが、その様子では、戦う前に『システムダウン』しそうだな」
彼女の腹から、盛大な「ギュルルル」という音が響いた。
魔族の騎士は、顔を真っ赤にして俯く。
「……くっ、……殺せ。……ひと月、……ひと月も何も口にしていない私に、……もはや抵抗する力はない……」
ひと月無呼吸……ではなく、ひと月絶食。
俺はため息をつき、懐から「おやつ」として持ってきた、作りたての『生ハムチーズ・クレープ』を取り出した。
「……不具合(空腹)によるエラーなら、パッチ(食事)を当てるまでだ。……ほら、受け取れ。……毒は入っていない。……正確には、これを食って死ぬなら、それは『美味すぎた』という幸福なエラーだ」
俺がクレープを差し出すと、魔族の騎士は、信じられないものを見るような目でそれを見つめた。
そして、誘惑に抗いきれず、震える手でその積層レイヤーをひったくるように受け取った
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