第28話 甘味の飽和(オーバーフロー)と、塩気の救済
「……計算通り、いや、計算以上の負荷だな。……糖分が、限界値に達している」
俺は、自らビルドしたチョコバナナクレープを完食し、僅かに眉をひそめた。
最高級の素材、完璧な積層。だが、あまりにも濃厚な甘みの連打は、脳の報酬系を麻痺させ、胃壁に「重い(ダルい)」という名の警告を刻み始めていた。
ふと横を見ると、あんなに熱狂していたアフロディテやエルフたちも、その場に力なく横たわり、
「もう……一歩も動けない……」
「一生分の甘みを摂取した……」と、幸せな廃人のようになっている。
「主……最高でしたけど、……流石に、口の中が『砂糖の海』です。……何か、こう……リセットできるものはありませんか?」
ガウルが、甘さに当てられた顔で俺を見上げる。
「……分かっている。……この『甘味の飽和』を解決するには、対極の属性による強制終了(強制上書き)が必要だ。……コウジ、冷蔵保管していた『あれ』を出せ」
「ふん、待っておったぞ。……これこそが、この積層の真の完成形というわけだな?」
俺が取り出したのは、スイーツ用のホイップではない。
スカイエルフから献上された、長期熟成による強烈な塩気を持つ【天空山羊のハードチーズ】。
そして、北の山脈で仕留めた魔獣の肉を、コウジの菌の力で数ヶ月分乾燥・発酵させた【極薄の生ハム(熟成肉)】だ。
「……よし。……甘味モードから、食事系モードへ移行する」
俺は再びフライパンを熱し、クレープ生地を薄く焼き上げる。
だが、今度はバターを多めに使い、表面をカリッと香ばしく「仕様変更」した。
その熱々の生地の上に、たっぷりのチーズを散らす。チーズが溶け始め、芳醇な獣の脂の香りが立ち込めた瞬間、極薄にスライスした生ハムを贅沢に敷き詰めた。
「……仕上げだ。ブラックペッパー(魔界の黒胡椒)を少々。……完成だ」
甘い香りに支配されていた調理場に、一気に「食欲をそそる暴力的な塩気」が割り込む。
その香りを嗅いだ瞬間、死体のように転がっていた神々とエルフたちが、ゾンビのように起き上がった。
「……な、何よ、その『卑怯な匂い』は……! 胃袋はもう閉じたはずなのに、勝手に再起動がかかってるわ……!」
アフロディテが、震える手で差し出された『生ハムチーズ・クレープ』を受け取る。
一口。……パリッ、という生地の音と共に、強烈な塩気とチーズのコクが、甘さにダルくなった口腔内を一掃した。
「――っっっ!? 最高……最高じゃないのこれッ!! 甘いのが、この塩っぱさを引き立てて……また無限に食べられる……!!」
トート神も、ガツガツと齧り付きながら目を見開く。
「……恐ろしい。……『甘い』から『塩っぱい』へのコンテキスト・スイッチ。……このループから、永遠に抜け出せる気がしないぞ……!」
おじさんの有給休暇、第2章。
甘味と塩気の無限往復に、神々はついに完全な陥落を見せたのだった。
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