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戦闘力ゼロから始める曲がり曲がったVRMMO 。生産をしつつテイマーと弓の両立は欲張りすぎ……?  作者: kanaria
3章.VRMMOを遊びつくせ

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45.悩ましい事態

 ログアウト中にたらふくサワガニの素揚げを食べ、ビールを飲み、満足した私は再びゲームに戻った。堕落しきった生活だけれど、憧れる人の多い生活のひとつだろう。

 リアルではまだ1か月ほどしか経っていないのに、もう随分と自由を謳歌している気がする。今更会社員に戻れる気がしなかった。


「ふぃー、サワガニ美味しかったぁ」


「…………ぷぅ」


 ログインしても顔のにやけ具合がなおらない。

 2駅先まで足を延ばしたけれど、その甲斐がある味だった。また食べに行きたい。


 食べたい時に食べたいものを食べれるのは幸せだなぁ。

 美味しいものは世界を平和にするというのも間違いない。


 こんな幸せを感じていて良いのだろうか。いや、良いに決まっている。


 謎の反語をしつつ、ゲーム内で食後のお茶を飲む。

 揚げ物を食べたからか、不味いと評判のゲーム内のお茶もいつもより美味しく感じる。品種がいけないのかまだスキルレベルが低いのか苦めのお茶まで美味しく感じるなんてビックリだ。


 リアルとは別に満腹度のあるゲーム内では感じたことのない、ふわふわした気持ちのままソファーに寝転ぶ。

 豚や牛になりそうなことをしていてもゲームだから大丈夫だ。リアルでもVR機の中で寝ているとか考えてはいけない。


「うーん、やっぱ健康のために散歩しようかな」


 今日、久しぶりに外出をして自分の筋力が落ちていると実感したのだ。


 まさか駅まで歩いて電車に乗り、2駅移動するだけで息が上がると思わなかった。

 さすがにこのままでは不味い。


 思い返してみれば最近は食材もネットスーパーで購入している。

 元々引きこもり気質だったこともあり、外に出たいという欲求を感じなかったせいだ。むしろ外出するために着替えたり化粧をしたりすることが面倒くさい。


 青空はゲーム内でも広がっているし、朝に家のカーテンを開けているから余計にそう感じるのかもしれない。

 仕事をしていた時も長期連休中に外出したいと思わなかったし。


 むしろ外に出ない方が楽で良いとまで思っていた。

 根からの出不精なのだろう。


 でも、このままだとマズイよね……。

 アバターのお腹はつまもうとしてもお肉がつまめないのに、リアルだと余裕でつまめちゃう。

 早めに手を打たないと、お腹がぶよんぶよんになりそう。


 私は薬草ダンジョンで手に入れた種に水をあげる薬草丸を眺めながら、口を尖らせた。


 やらなければならないと分かっていても初めの一歩が重い。やりたくないと思っているから余計にブレーキがかかっている。


 仕事終わりにジムに通っている人は本当にすごいなぁ。

 どうしてあんなに運動できるんだろ。 


 私とは違って活動的な人たちが眩しい。

 彼らは神様から何らかのスキルを貰っているのだろうか。きっと前世でかなり徳を積んでいたに違いない。


 種の世話を終え、自らも植木鉢に潜り込む薬草丸を眺めながら今度はため息をついた。


「まあ、明日からがんばろー」


 ソファーの上で思う存分ゴロゴロした後、【調合】を始める。

 頑張る気になる明日が来るのかとか考えてはいけない。頑張ろうと思うことが大切な一歩なのだ。


 起き上がったばかりなのにソファーに吸い寄せられそうになる体を動かし、【調合】をする。

 うん。頑張ってるぞ、自分。


 私は消費した以上のポーションや状態異常回復薬を作り、素材の在庫を確認する。今のスキルレベルで作れるものは目をつぶってでも作れそうな程成長していた。


 そろそろ新しいレシピにも挑戦してみたいなぁ。

 これ以上のレシピとなると、第3の街?

 弟子入りしたら派生するかもしれないから、そっちも調べないと。


 『もうぼっちとは言わせない』に卸す分も作り終え、薬草ダンジョンに【採取】しに行くか考えていると、レイから個チャが来た。

 なにやら緊急招集らしい。


 首をひねりながらも指定された拠点のリビングに向かう。

 そこには厳しい表情のレイがいた。


 レイがこんな顔をしているのは珍しいかも。

 何があったんだろ?


 どうやらログインしているギルドメンバー全員が呼び出されたようで、明日はきっとくる(アズキ)、ザオ、ジローがリビングに居る。中々全員呼び出されることがないので気になるものの、誰も何も言わない。

 リビングのドアを閉めて近寄るとようやくレイが重い口を開けた。


「ナツミとハルカはログインしてなかったら後で言うけど、第一の街のNPCがプレイヤーにアイテムを販売してくれなくなりそうなんだって。今、アクアとフレイアがその状況に陥ってる。うちもNPCが嫌な顔をするから、結構ぎりぎりらしい」


 言われて、第一の街の商業組合に行った時のことを思い出す。あの頃から組合内は騒然としていた。さらに第二陣が増えたことで対応の限界を迎えつつあるのかもしれない。


「くふふ、だからさっきまで大手ギルドのギルマスたちが居たんだねぇ。驚いたよ」


 全然驚いてなさそうなアズキに逆に驚く。

 アイテム販売がなくなるのは生産職にとってかなりの痛手だ。それなのにいつも通り、読めない表情で笑っている。


「……第一の街のNPCがアイテムを販売しなくなっても俺たちに直接の影響はない。それなのに嫌な顔をしているということは第二陣用のアイテムを作れってことか?」


「えっ? 私たちには関係がないの?」


 糸目をさらに細めるジローに思わずツッコム。

 けれど良く思い返してみれば私も第一の街のNPCからアイテムを購入していなかった。


「このギルドは基本、最前線からの供給と自分たちで何とかなってるじゃん。わざわざNPCから素材を購入している人はいないんじゃないかな? いても暫定的に買ってるとかだと思うよ。その場合も第一の街じゃなくて第二の街だと思うしね」


 ああ、第一の街じゃなくて第二の街のNPCか。

 確かにそうかも。


 レイの説明には説得力がある。私ですら第一の街のNPCから素材を購入していない。私よりレベルの高いギルメンはもっとNPCから購入していないだろう。

 そうなると余計にレイが何を言いたいのか分からない。普段は簡潔に話すのに、らしくない。


 中々次の言葉を発しないレイを見ていると、レイが唇を噛んだ。

 ゲーム内だから血は流れていないけれど、HPが削れたようなので下級ポーションをプレゼントする。レイはお礼を言いつつも難しい表情で下級ポーションの瓶を眺めていた。


「で、俺たちは何を求められてるんだ? 素材の【採取】か? それともアイテムの作製?」


「……どっちもかな。ただ、大手ギルドや最前線組は協力的じゃない。ぶっちゃけ、第一の街のNPCにそっぽを向かれて困るのは後続のプレイヤーばっかりだ。一般的なギルドはメンバー全員が第二の街に来ていない割合が高いし、第二陣を受け入れていることが多いから打撃になる。でも、大手は第一の街のNPCとほぼ関わりがない。大変なことだという実感もなさそうだったよ」


 どこか疲れた様子でレイが肩をすくめる。


 この様子では議論が紛糾したのだろう。結論も出ていなさそうだ。

 なぜうちのギルド拠点を使用して会議が行われたのか分からないけれど、助けるかどうかすら定まらなかったのかもしれない。


「うちとしてはどうするつもりなの?」


 レイの考えが聞きたくてそう問いかけると、レイの眉間に皺がよった。


「そこを相談したくてみんなを集めたんだ。現状、僕たちは第一の街の物流が止まっても痛くない。ただ、何もしなければ未来のお客様になり得る第二陣の顰蹙(ひんしゅく)を買うことになる。みんなはどうしたい?」


「…………俺は第二陣用のアイテムを作りたくない」


 真っ先に拒絶したのは無表情のザオだ。

 あまり口数の多くないザオが最初に意見を言うのは珍しい。余程引き受けたくないのだろう。


「くふふ、私は少量なら作っても良いよぉ。材料が向こう持ちならね」


 アズキも笑っていない目でレイを見る。少量なら作ると言っているけれど、本当は作りたくなさそうだ。

 ザオもアズキもNPCに弟子入りしているので、第二陣の救済に割く時間がないのかもしれない。


「残念ながら、助ける場合は材料も各自負担になるね。今、第一の街は深刻な素材不足だ」


「……話にならない」


 珍しく糸目を開いたジローが鋭い目でレイを睨む。

 こんな話を相談してくるなんておかしいという副音声が聞こえてきそうだ。


「たとえ今回の件で不評を買ったとしても、それ程影響はでない。むしろそんなことに参加してスキルレベルの成長を止めたらそっちの方が悪影響になる」


「……俺も、そう思う」


 ジローの意見にザオも頷く。

 アズキだけが読めない表情でジローとザオを見ていたけれど、さっきの発言的に2人と同じことを考えていそうだ。


 うーん、みんなが嫌がるのも当たり前なのかな。

 このギルドは最前線向けのアイテムを作成しているから、スキルレベルを上位のままキープする必要があるし。


 それに、普段作らないせいで初心者用のアイテムを作るための伝手がない。スキルレベルは満たしていても素材を入手するルートがなければ自分で【採取】や【採掘】を行ったり、プレイヤーから購入する必要がある。

 当然私も自力で【採取】する必要があった。


 大手ギルドが嫌がる中、そんなことをしていたらスキルレベルが最高位から落ちてしまう危険性がある。しかもNPCから素材を購入したら赤字になるのだからやってられない。


 逆にスキルレベルさえ高い水準のままなら第二陣が最前線に来た時もうちを頼るはずだ。それなら協力しないことで多少悪評がついても諦めてしまった方が良い。

 ゲーム全体で見ても生産スキルのトップレベルを維持していることが『暇人の集い』の強みなのだから、歩みを止めたくないのは分かる。


「シオンはどう?」


「うーん、私はどちらでも。ただ、『もうぼっちとは言わせない』にポーション類を大量に卸してるから、第二陣用を作り続けるのは厳しいかも。期限も分からないし」


「…………だよねぇ」


 レイが重い溜息をつく。

 もっとギルメンが多いのなら分担して初心者用アイテムを作成することができたかもしれない。でも、『暇人の集い』は少人数で、最前線の生産に特化し過ぎていた。


「レイはどう思っているの?」


 レイもギルマスである以前に生産職のひとりだ。彼が初心者用アイテムを作りたいと言うのなら負担にならない範囲で協力しても良い。

 じっと見つめると、レイが重い口を開いた。


「僕も協力することに賛成できないかな……。数日だけ初心者用のアイテムを作って欲しいとかなら作るけど、期限がないのはちょっと」


 ため息をつくレイに部屋の空気も重くなる。元々重かったのに更に重く、苛立った雰囲気だ。

 さすがに雰囲気を変えたくて、頭をフル回転させると妙案が浮かんだ。


「あ! それなら、このギルドの設備を貸し出すのはどう? 個人用の部屋は難しくても【解体】用スペースと【細工】なら貸し出せるんじゃない?」


 何もしないのが心苦しいと言うのなら何かはすれば良い。

 そう思って放った発言だけれど、レイの目が丸くなった。レイにはない発想だったらしい。


「そうか! アイテムは渡せなくても場所の提供はできるのか!」


 急に元気になったレイが急いで何かを確認する。

 そしてにっこりと微笑んだ。


「それなら第一の街に生産所兼販売所を作っちゃお! ついでに買取もすればお得だよね」


 にこにこと笑うレイはすでにその作戦で行く気満々らしい。部屋の雰囲気も一気に明るくなる。

 みんな協力したいとは思っていたようだ。


「くふふ、良いアイディアだねぇ。ギルド資金をあまり使うギルドでもないし、お金で解決できるのなら良いと思うよ」


 アズキの意見にみんな頷く。

 アイテムを作って直接販売する訳ではないので不満はでるだろうけれど、何もしないよりはましだ。


 でも、確かうちのギルドってお金がないから隣に販売所兼買取所を設置できなかったんじゃなかったっけ?

 どこからお金を出すんだろ。


 疑問に思ったけれど、レイは何か作戦があるかのようににんまりと笑った。

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