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宴が悲劇に変わる ―― プルム③

「何か、ハマルの周りでみんなで騒ぐらしいよ」


 アキがそんな情報を持って来た。


「騒ぐ?」

「バーベキュー的な催しらしい」

「バーベキュー?」

「大晦日だからみんな騒ぎたいんじゃ無い?」

「へー」


 そんなイベントがあるのか。

 牧歌的なんだな。


「行くの?」

「酒持参で行くよ!」

「じゃ、まず戻らないとね」


 ここシェラタンからハマルまで。


「うへぇ……」


 露骨に嫌そうな顔をするアキ。

 そんなアキを引き連れ、ハマルに向け街道を戻る。

 ついでに配達の依頼を受けながら。


 ◆


「あれ?」

「見たいね」


 街道の先、ハマルの郊外には普段見かけないほどの人出になって居た。


「こんなに人が居たんだ」

「普段は分散されてるのよ」


 と、アキは何とかシステムの説明をしてくれた。

 よくわからなかったけど。


「私、ギルドに依頼品届けて来るけど?」

「私は先に行ってる!後で合流しよう!」

「了解」


 一旦アキと別れ、ハマルの冒険者ギルドを目指す。

 これを届けてしまえば三万G貯まる。

 次の島へ行けるのだ!


 ◆


 遡る事二日前。

 この島の次の島である、アルデバラン郊外で、プレイヤー主催の大規模なイベントが開催された。

 それは、イベント戦闘の勝利を記念した祝勝会を兼ねた物であり、名の知れたプレイヤーも多数参加し、盛況のままに幕を降ろす。

 その会に参加したプレイヤーの何人かが急遽同様の催しを開催した。

 ゲームの出発地、ハマル郊外で、プレイヤーの交流イベントと言う趣旨で。

 同様の盛り上がりを期待して。


 その試みは、集まるプレイヤーの数だけ見れば大成功と言える。

 しかし、初心者プレイヤーの集い。それは大惨事のままに幕を下ろすのである。


 ◆


 ギルドに向かう途中で、酒場から出て来た集団とすれ違う。

 下品な笑いを浮かべながら話し合っている。


 良からぬことを企む下品な笑い。

 五年経っても、ゲームが変わってもそう言う連中は変わらない。


 そして、終わる前から感情を制御出来ないような輩の企ては大抵、中途半端な結果で終わるのだけれど。


 一瞥して、そして、再びギルドを目指す。

 どうせ街中では戦闘にならないのだから。


 ◆


 ギルドに依頼品を渡し、報酬を受け取る。

 目標額である次の島への船賃が貯まった。

 アキとは一旦別れよう。

 彼女の飲みのペースには合わせられない。

 それを伝える為、再度フィールドへ。

 バーベキューをやっていると言う会場へ向かう。


 そう言えば、あと30分くらいでメンテナンスだったっけ。

 そんな事を考えながら歩く私の前方から小さの爆発音。

 そして、微かな悲鳴。


 いつの間にか私は全力でハマルの街を駆け出して居た。剣を手に。


 ◆


 逃げるプレイヤー達の人波に逆らい走りながら、ハマルの街からフィールドに出た頃には既にその場は戦場になって居た。

 どれが敵でどれが味方なのか?


 ……わからない。


 わかんないなら、全部斬っても良いよね!


 取り敢えず一番近くに居た奴の首を後ろから撥ねとばす。

 この剣、良い感じ!


 一人死んで、私の存在に気付いた何人かが一斉に襲いかかって来る。


 ダメだな。

 そう言う時は他人を犠牲にして隙を作り出させる物なのだよ。

 少しは考えな?

 仲間の動きを見ようともしないその連中をまとめて斬り殺して行く。

 最後の奴は逃げた見たいだけど。


 もっと、歯ごたえのある奴、居ないかな。

 今日の殺害数キリングランキング、楽しみだな!


 私は人が固まっている方へ走り出した。

 絶対に、笑っている。

 誰かに言われなくてもわかる。

 だって、楽しいもん!


 ◆


 戦い散っていく者、離脱で逃げる者。

 瞬く間に、一帯からプレイヤーの数が減って行く。

 この後21:00より予定されている年末年始メンテナンスの少し前の出来事だった。


 ◆


 あれ?

 もう、終わりかな?

 周りに人が居ない。


 死体も残らないのか。

 何人斬ったっけ?

 二十までは数えたんだけど。


<ポーン>

<メンテナンス開始時間になります>

<プレイヤーは強制ログアウトとなりますのでご了承ください>


 え。

 それって……。


 ◆


 プルムはメンテナンスに伴う強制ログアウトにより、LPを一つロストする。

 プレイヤーたちにはメンテナンス開始までの時間が視界の端にオレンジの数字で目立つように表示されており、彼女も例外ではなかったのだが、戦闘に没入していた彼女がそれに気を取られることは無かった。


 PKを目論見、催しを襲撃したプレイヤーが、相手は初心者の集まりと高をくくって襲いかかったこと。

 しかしその中に何名かの中堅プレイヤーがおり、彼らが、相手は所詮徒党を組むことしか出来ない屑の集まりと決めつけ侮っていたこと。そうした事から乱戦になり離脱の判断が遅れ、結果、そのLPを紛失することになる。


 プルムが前のゲームで培った人の急所を正確に突く技術、そして、彼女の手にした新しい剣が対人特攻の特性を持っていた事、更には、彼女の使用しているVRデバイスが独自改良を加えられた特製品である事などの要因もあり、結果として、23人のプレイヤーが彼女の剣の餌食となり、彼女のレベルを17まで押し上げ事になるのである。


 そして、彼女が殺害したプレイヤーの中に臙脂色の鎧を纏った者が二名混ざっていた事が、後に降りかかる災難の切っ掛けとなるのである。

 彼らはタウラス自由騎士団というゲーム内で組織されたプレイヤー集団の一員だった。


 ◆


 強制的に現実に戻された……。


 やってしまった……。


 フィールドでの強制ログアウトは……LPロスト。


 うわーLPが1になっちゃったよ。


 うーん。ま、しょうがないか。それにしても、良い剣を貰ったな!


 さて、着替えて出かけるか。


 ◆


 仕事終わりのミツルと合流。

 蕎麦を食べ、除夜の鐘を聞き、そして初詣。


 去年と全く一緒。

 二年連続でゲイと年明け!

 何だこれ!?


「来年こそはイイ男と過ごしたいわ」


 人混みの中でミツルがボヤく。

 それは、こっちの台詞だ!

 そして、去年も聞いた。


「男でも女でもアンタ以外と過ごしたいわ」


 悔しいのでそう言い返す。

 そんなアテ、全く無いけど。


「女なら紹介するわよ?」

「冗談よ」


 意外そうな顔でミツルが言う。

 そこに食いつくな。


 今年は良い年でありますように。

 顔も知らない神様にそうお願いして、引いたおみくじは吉だった。

 『再縁あり』その言葉に目が止まる。

 そう言えば、去年も同じこと書いてあった気がする。

 当てにならない……。


 ◆


 そのまま元旦はミツルと飲んで過ごし、二日は酒が抜けずベッドの上で死人の様に過ごす。

 去年と全く一緒。

 多分、来年も一緒なんだろうな……。


 ◆


 新年、明けて一回目のログイン。

 1月3日、夜の日。


 最初にステータス操作。

 何とレベルが17になっていた。

 ポイントを全部敏捷値に振って完了!

 軽く腕を振ってみる。

 うん。

 いい感じ。


 さ!

 船に乗って次の島へ行こう!!


 ◆


 空飛ぶ船。

 すごい!

 舳先に立って全身で風を受けてみる。

 なびく黒髪にエリスさんを思い出した。

 彼女と乗ったバイク。

 あの時と全く違う爽やかな風が私の全身を包んでいる。


「気持ちいいなぁ……」


 目を閉じ、そう呟いた。


 そして、目を開け、空に瞬く星と、近くに光る島の明かりにまた感動する。

 でも、荒野で見上げた星空も変わらないくらいに綺麗だったな。


 そんな風に感傷に浸っていると、後ろから良い感じにイチャついた二人組が現れたのでその場を譲ることにする。

 まとめて死ね。


 ◆


 次の島の港町、アルデバランに到着。

 仮想ウインドウから街の地図を見ることが出来るということを学んだ私は早速冒険者ギルドへ。

 全て船代に消えたので手持ちのお金が無い!


 仕事をしないと宿代も無いのだ!

 世知辛い世の中だ。


 ◆


 モンスター討伐と隣のエルナトへの配達依頼を受けてギルドを出る。


 いざ!

 エルナト!


 ステーキが美味しいらしい!

 てことは、ワインも美味いはずだ!きっと!!


 一人テンションを高めつつ、エルナトへ向かう。


 討伐対象である狼を倒しつつ、街道を進む。

 敏捷値のお陰か、獣の動きも全然苦にならない。

 あっさりノルマ分を討伐し、鼻歌交じりで街道を進む。

 でも、あれだ。

 獣討伐はやっぱり投射系の武器が向いている。

 ボウガンとか銃とか。


 そう。こんな風に風切音を上げながら、標的に向かってく物が……。

 標的は、私か?

 暗闇より飛来する物体を視界の端に捉えた瞬間、その軌道から外れるように動く。


 しかし、その矢は、物理法則を無視して推進する方向を変え私に迫る。

 咄嗟に剣で叩き落とすが、つつけざまに迫るもう一本の矢を避けきれないと悟った私は左の手を犠牲にしてその矢を受け止める。


 そっか。

 こんな風にデタラメな攻撃方法があるのか。

 武技って言ったっけ。

 覚えておこう。

 予断は禁物、と。


 手の甲を貫いた矢は、引き抜く間もなく消滅した。

 大したダメージでは無い。

 回復も、要らなそうかな。

 それより優先すべきは反撃だ!

 矢の飛来した方を見やる。

 遠くに人影が一つ。


 剣を抜いたまま、その人影目掛け全力で駆ける。

 初撃が失敗したことを悟ったのか、後退しながらも二の矢、三の矢を放ってくる標的。

 それらを全て剣で叩き落としながら、敵に迫って行く。


 あと少し。


「た、助けてー」


 標的が情けなく命乞いする声が耳に届く。

 死ぬ覚悟が無いならこんなことしなきゃ良いのに。


 しかし、その声に耳を貸す者が現れる。

 揃いの鎧を身に着けた二人組。


「どうした?」

「PKかい?」


 私より先にその弓使いに近寄る二人組。


「アイツが、急に襲ってきて」


 お手本のような嘘。

 その言葉の真意を探るように二人組が私を見る。


「オイ……」

「アイツ、まさか……」


 何だ?

 その二人が顔を見合わせる。

 何?

 可愛い私に驚いた?


「オイ、お前!」


 しかし、見知らぬ奴からいきなりお前呼ばわりされて、返事をするほど丸くはないのだ。

 そこの、お嬢さん、と声を掛けるのが常識だろう。

 しかも、剣先をこちらに向けるなど、戦線布告に等しい

 知らないなら身体に覚え込まえせて上げよう。

 私は、二人に向き直り改めて剣を構える。


 鎧の隙間。それを確認しながら。


「やる気だぞ!?」


 一人が驚いたような声を上げる。

 殺る気だよ?

 他にどんな理由で武器を手にする必要があるの?


「待て、話を」


 そう言うのは、屈服させた後に口を開かせるものでしょ?

 脱力、そして、一気に間合いを詰める。

 一瞬、目を見開いた男の首を一閃。

 頭が落ちる。

 その勢いのまま、背を向け逃げに体勢を取ろうとしている弓使いに斬りかかる。

 呆気なく、二人が粒子になって消えた。

 残りは一人。


離脱リーブ


 剣を向ける間もなく、そいつは敗走した。


<ポーン>

<レベルアップしました。メニューよりステータス操作を行って下さい>


 仮想ウインドウを開いてステータス操作。

 敏捷に全部、っと。


 このゲームはこうやってレベルを上げていくのかな。

 牧歌的な街の雰囲気と裏腹に割を物騒な感じなのかも。

 ま、これはこれで楽しいけれど。


 ◆


 目的のエルナトの街が見えてきた。

 だけど、その前に街道を塞ぐように人影が。

 それも、だっさい揃いの鎧を身に着けた一団。


 何だろう。

 ま、私には関係ないか。


「ちょっと待て」


 関係ないこと無かった。

 いきなり命令口調で声を掛けられる。


「アイツか?」


 五人で横並びの集団。

 その中心に立つ、小さな女の子。

 胸を強調するような、いやらしい感じで偉そうに腕組みをしている。

 そいつが、隣のやつに確認するように問い掛ける。


「はい。アイツです」


 あ、さっき殺し損ねた奴だ。


「何か、御用?」


 剣に手を掛けながら問い掛ける。

 用があるならさっさとして欲しい。

 そろそろ、一回ログアウトしたい。

 その為には街に入らなきゃいけないの。

 全部、殺してもいいけど。


 私の声に、真ん中の巨乳が一歩進み出る。


「PKの件で少し話を聞きたい」

「ヤダ」


 そう言う高圧的な態度は気に食わない。


「私等を敵に回すとどうなるか知らないわけじゃないだろう?」

「知らない。誰?」


 あくまで上から目線の巨乳。


「知らないだと!?」

「ハッタリだ」

「強がりやがって」


 取り巻きから野次が出る。

 いや、本当に知らないんだけど。


「私達はタウラス自由騎士団。この国の平和と秩序を守る存在! まったく、昨日今日始めた奴じゃないのに知らない訳無いだろう」

「知らないよ。一週間しか経ってないもの」


 逆に何で知ってると思ったのか。

 いや、実は超有名人なのかな?

『魅惑の巨乳騎士』とか言う二つ名でランキングに入ってるとか?

 でも、知らないものは知らないし。


「一週間!?」

「ハッタリだ」

「ありえない」


 私の返答に取り巻きがざわつき始める。

 で、何の用なんだろう。

 そろそろ通してくれないかな。


「新人か。じゃ覚えておくと良い。このゲームでPKは重罪に当たる」

「そうなの?」

「そうだ。だからお前を連行する」

「やだよ」

「聞こえなかったか? 暴力沙汰は面倒だから大人しく従え」

「やだよ」

「……栄養不足は頭も胸も貧相にするのだな」


 見下すような目つきで巨乳が言ったその一言に、取り巻きが一斉に笑い声を上げる。

 直後、その巨乳の頭が地に落ちる。

 過去、生きてきた中で一番鋭い反応を見せた私の身体は振り抜いた剣で、下らない台詞を吐くそいつの首を一閃していた。


 一拍遅れ、取り巻きの笑い声が悲鳴に変わる。

 それは、ボスが殺されたことに対する悲鳴。

 自分が殺されることに対する悲鳴は、上げる暇すら与えなかった。

 五人はほぼ同時に粒子になって消えて行った。


 ◆


 ムカつくムカつくムカつくムカつく。

 何なのアイツ。

 何でいきなりあんな風に煽られなきゃならないの?

 馬鹿なの?

 死ね。

 もう死んでるけどもう一回死ね。


 私の怒りは現実に戻っても収まらず。

 ミツルを呼び出そうとするが、翌日から仕事始めだからと無下にされる。

 死ね。


 諦めてふて寝する。

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