十四話 導きの声 (2)
「私を待っていたって、どういう……」
「小春殿、どうかされましたか?」
彪基に声をかけられ、小春ははっとして顔を上げた。
「いえ、何も……」
「そうですか。独り言をおっしゃっていたので」
彪基は小春の顔を覗き込む。
「何か困ったことがあるのでしたら、遠慮なく私におっしゃってください」
「……ありがとうございます」
小春はそう答えながら、もう一度辺りを見回した。
先ほどの声は、もう聞こえない。
──誰だったんだろう。
しかし、それ以上に気になるのは、あの言葉だった。
あなたには、その力がある。
小春はそっと左目に触れる。
「彪基さん」
「はい」
「……宮殿の地下に、水晶ってありますか?」
「水晶……ですか?」
彪基が眉を寄せた。
「さっき、見えたんです。蒼瀾様と……黒い靄に覆われた、大きな水晶が」
その言葉を聞いた瞬間、先ほどまで黙っていた守衛が顔を上げた。
「なぜ……」
「え?」
「なぜ、あなたがそれをご存じなのですか」
守衛の顔から、明らかに血の気が引いていた。
「私にもわかりません……ですが、あの靄が原因で蒼瀾様は病に伏せってるのかも」
守衛の顔から、明らかに血の気が引いていた。
「私にも分かりません……。ですが、あの靄が原因で蒼瀾様は病に伏せっているのかも」
「……靄?」
守衛が聞き返した。
「はい。水晶が黒い靄みたいなものに覆われていたんです。それに、水晶から何かが伸びていて……」
小春は、先ほど左目に映った光景を思い返す。
暗い地下。
黒い靄に覆われた水晶。
そこから大地へ、脈のように伸びていた無数の光。
「たぶん……あれが龍脈なんじゃないかって」
守衛は言葉を失った。
「本当に、あるんですね? あの水晶」
「……ございます」
やがて、観念したように答えた。
「宮殿の地下深くに、この国の龍脈と通じる水晶が」
「やっぱり……」
「ですが、おかしい」
守衛が眉を寄せる。
「あの場所へ立ち入ることが許されている者は、ごく僅かです。ましてや、瑞穂国から来られたあなたが知っているはずがない」
「私だって、今日初めて知りました」
「では、なぜ……」
「分かりません。ただ、この目に映ったんです」
小春は左目に触れた。
「蒼瀾様が寝台に伏せている姿も……水晶も」
「なっ……」
守衛の顔色が変わった。
それだけで、小春には十分だった。
天翔車で聞いた話は、ただの噂ではない。
「……蒼瀾様は、本当に病気なんですね」
守衛は答えない。
だが、その沈黙が何よりの答えだった。




