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チャーマースクール

 裏口はすぐに見つかった。俺たちが入っていくと事務員らしきショートカットの年齢二十五歳ぐらいの女性が迎えた。

「何か御用でしょうか。」

「いえ、彼女が道に迷っていたので、連れてきました。」

 俺はマホを連れてきた。

「え?あ、マホちゃん。どうも済みません。あの、今校長を呼んできますので、お待ちください。」

「校長って?」

 俺がマホに尋ねた。

「私の今のお母さん。」

 マホが答えた。

「今のって?」

「前のお母さん、私が六歳の時に死んじゃったんだ。」

「そうか…。」

「どうも。チャーマースクールの校長・セイレーン・ユキです。この度はうちのマホがお世話になりまして…。」

 年齢は三十ぐらいだろうか。白いスーツ姿の品の良さそうなお姉さんが出てきた。長身で、長い黒髪が良く似合う人だ。美人に見えなくもないが、鼻に特徴がある。

「いえいえ。」

 俺は言った。

「ご迷惑おかけしませんでしたか?」

「うーん、一度全員死にかけましたけどね…。」

 俺は交渉を有利に進めるため、正直に話すことにした。ファーとアルは”え!?話すの?”と言った感じでこっちを見た。

「え!?」

 校長は驚いた。

「はい。マホさん、呪文の詠唱、間違えるもんですから…。それも何度も。」

 俺は溜息を混ぜた。マホは俯いてる。ファーとアルはこっちを睨んだ。

「はあ。この子、ドジなくせに自分は魔法使いだって信じ切っていまして。どうも済みません。お詫びに何かお手伝いできることはありませんか?」

「一つ、お聞きしたいことがあるんです。」

「はい。」

「”ジェームス・ルファルド”って人、御存じないですか?」

 校長はちょっと嫌な顔をした。

「”ジェームス・ルファルド”、その方が何か?」

「私の父なのですが。」

「”ジェームス・ルファルド”があなたの父親!?」

 校長はもっと顔をしかめた。

「ええ。これはある人から聞いた話ですが、私の父が”賢者の石”を盗んだ罪で、ここに捕らわれているらしいんです。」

 校長は考え込んだ。そして事務員に何か伝えた。そして事務員はマホと、俺以外のうちのパーティーを連れて別の部屋に行ってしまった。

「こちらにお座りください。」

 校長は椅子を持ってきた。

「はい。」

 校長は俺の真向かいに座った。

「マホがご迷惑をおかけしたこともありますし、ご親族であることも踏まえて、真実をお話ししようと思います。ただし、絶対に口外はしないでください。」

「わかりました。」

「あなたの父親、”ジェームス・ルファルド”はここに幽閉されています。」

「何処にいるんですか?」

「このチャーマースクールのある一室にいます。」

「会えますか?」

「会うことは可能ですが、果たして彼があなたを認識できるかどうか…。」

「え!?」

 俺は驚いた。親父が俺を分からない??

「順を追って説明しましょう。彼が三年前、このダンジョンを探索しに来たことまではご存じですね。」

「はい。」

「彼はこのダンジョンの最深部、今では”魔王”と呼ばれている男の所に到達しました。そこで彼は、魔王の罠にはまってしまったのです。彼は魔王の副官”ラミア”の虜になり、ラミアの命令でダンジョンの一階から”賢者の石”を盗みました。そしてその後、彼が”リングオブテラ”を盗もうとした時に、我々が捕えたのです。」

「”ラミア”の虜…。」

「ええ。ラミアは、そう名乗る前は、私たちの仲間、私とは親友の仲…でした。私達と一緒に”チャーマー”と呼ばれる能力者を研究していました。彼女自身が一流のチャーマーだったのです。しかし、魔王に…まだ、彼が魔王を名乗る前に…魅入られてしまい、ラミアとなってしまったんです。」

 校長の瞳が少し曇った。

「チャーマーって何です?」

「ある種の”心の魔法”みたいなものを使う人の事です。ただし、”心の魔法”と言っても呪文は使いません。ある意味、催眠術と超能力を足し合わせたようなものと考えてください。この能力を使うと”人の心を奪う”と言うことが容易くできてしまいます。そういう大変危険な能力です。」

 マナミさんや警察署長、そしてマホの能力の謎がこれでかなり解けた気がする。校長は一息ついた。

「父はその能力を使って心を奪われたと?」

「ええ。」

「どうすれば、元に戻ります?」

「私も、元に戻そうとしてみたんです。でも、術が深くて、元に戻せなかった。戻す方法はただ一つ。ラミア自身が術を解くしかないと思われます。」

「では、ラミアをここに連れてくればいいと?」

「ええ。でもそれは至難の業です。何しろ、魔王軍の中枢から副官を連れ去ろうって言うんですから。ラミアを相当長い間、眠らせるか何かしないと、実行できません。しかも追手は強力です。魔王には配下の四天王がいて、チャーマーの力すら通用しない敵もいますから…。四天王のうち、二人はダンジョン内を自由に動けます。残りの二人は結界により八階に縛り付けられていますが。」

「そうですか…。ほかに手は?」

「あなたの父親を、ダンジョン最深部にまで連れてゆくという手があります。そこでラミアに何とかして術を解かせる。この方が、まだ、危険度は低いです。でも、危険には違いない…。」

「ラミアに術を解かせる方法は?」

「考えられることが一つだけあります。それは彼女がラミアになる前の、彼女の”元の恋人”、ロバルト・ハウゼンに彼女を合わせることで、魔王の術の影響力を弱めることができるんじゃないかと思っています。そのためには、ロバルトをダンジョン最深部に連れて行かないといけませんけど…。」

「けど?」

「彼は冒険者じゃありません。戦力にはならない。このダンジョンの中を戦力にならない人間を連れて歩くことは、やはり、危険なことです。しかも、この計画ではダンジョン最深部まで生かして連れて行かねばなりません。あなた達のパーティーだけでは危険すぎると思います。私達から、助っ人を出してあげたいんですけど、ここもある組織に狙われていますしね…。」

「わかりました。俺たちだけで何とかします。」

「あ、ちょっと待ってください。あなた達のパーティーに女の子、いましたね。」

「はい。」

「その子、三日間ほど貸してくれるかしら?」

「え!三日間ですか?」

「ええ。そうすればその子をチャーマーにすることができます。そうすれば、この作戦の危険度も低くなります。」

 あの力をファーに持たす。悪魔をも魅惑する力を。そうすれば、ダンジョン攻略は容易くなるかもしれない。やはり俺たちは三日間待つしかないのか。

「わかりました。待ちましょう。あ、後、魔王軍の情報、教えてくれませんか?」

「わかりました。後で資料をお見せしましょう。」


 ファーとアルが事務員と一緒に戻ってきた。

「ファー、頼みがある。俺は親父を連れて迷宮最深部に行かなければならなくなった。しかも、ロバルト・ハウゼンさんと言う人も連れて。」

「ロバルト・ハウゼンさんって?」

 ファーが聞いた。

「魔王の副官が正常な人間だったころの恋人。」

 俺は答えた。

「何故、その人が必要なの?」

「俺の親父、魔王の副官に術をかけられていて、正常じゃないみたいなんだ。で、副官に術を解いて欲しいんだけど、解かせるには副官の元恋人が必要なんじゃないかと言う話なんだ。」

「ふーん、で、頼みって?」

「ファーには、ここの校長から”チャーマー”の講習を受けて欲しいんだ。」

「え!?」

 ファーは驚いた。

「それが危険を回避する唯一の方法だって言われた。」

 ファーは考え込んだ。熟考するファー。暫くの沈黙。

「わかった。キムが望むなら…。」

 ファーはしぶしぶ引き受けた。


ー俺の知らないファーの視点ー


「まずは、この薬を飲んで。そして、一晩寝れば力を使う素養が身につくわ。後は、経験を積み、自信をつけ、成長あるのみよ。」

 校長はそう言うと、一錠の薬を手渡した。私はそれを水と一緒に飲み込んだ。そして、ゆっくり体を休めた。

 翌朝目覚めると、何か少しだけ良い気分がした。

「おはよう。よく寝れた?」

「はい。」

「じゃあ、講習、始めるわよ。」

 校長は口火を切った。校長と私は白い机を間に、向かい合って座った。

「この技術は相手の心を操るものです。ですから、使いようによっては非常に危険なものとなってしまいます。だから、どうか使い道を誤らないでください。」

「はい。」

「この技術の基礎は、相手の目を見て相手の心を読むところから始まります。練習してみましょう。」

 私は事務員相手に練習をした。私、人の目を見るのが、恥ずかしくて、怖くて…。

「駄目よ、ファー。もっと自信を持って!」

 自信か…。対人関係に、自信、無いな…。

「そんなこと言っても…。」」

 暫くの沈黙。

「うーん。分かった。私、あなたのことが知りたいわ。教えて、くださるかしら?」

 私は、この人に心を開く以外はないと思った。キムの為にも…。

「わかりました。」

「じゃあ、幼い頃のあなたって、どうだったの?」

「幼い頃は…、よくいじめられてました。私、もともと大人しくて、人に話しかけることなんてできなくて。ある日、友達に伝言を頼まれて、それを伝えそびれちゃって…。私、謝ったんだけど、それ以来、その友達とその友達の友人からいじめられる様になっちゃって…。キムはかばってくれたんだけど…。」

「そう…。」

 校長は暫く考えていた。そして、

「いい。今から私の目を見ていて。じぃーっと、じぃーっと…。」

 私は校長の目を見た。すると何か気持ち良くなってきた。気持ち良くって、気持ち良くって…天国にいる気分になって、周りが…周りが幼かったあの頃の生まれ育った町の風景になった。そして、遠くの方に人影が見えた。それはゆっくり近づいてきた。よく見るとその人影は、あの時いじめられた友達とその仲間達だった。私は怖くなって逃げ出そうとする気持ちをぐっとこらえた。彼女たちは話ができるほどにまで近づいた。彼女たちの目から涙が流れた。

「ご、御免…。」

「…。」

 私は黙って彼女たちを見つめた。

「ゆ、許してくれる?」

 私はゆっくり頷いた。私の頬にも涙がつたった。その後、私たちは笑顔で語り合った。そして、長い幸福な時間が過ぎ去った気がした。

「ファーさん、講習を続けましょう。」

 突然、校長の声が聞こえてきた。

「え!?」

 今のは夢だったのか…。でも心が少し、軽くなった気がする。頬には涙の跡が…、

「さあ、もう一度、相手の心を読む練習、してみましょう。」

 校長は優しく言った。

 私は、もう一度、事務員の目を見た。不思議なことに今度は恐怖感は少し薄れた。しかし、心に癖があり、どうしても目を逸らそうとしてしまう。私は何度か試してみた。目を見続けられるのは、二秒から三秒ぐらいだった。

「午前中は、この練習、ここまでにしましょう。」

 講習は、一旦、休憩になった。私と校長は飲み物を飲んだ後、また、席に着いた。

「こっから、少し、難しい話をします。私たちの心の大部分は脳によって作られています。相手の心を操るということは、相手の脳の状態を操るということを示しています。ここまで、判りますか?」

「なんとなく。」

「脳は場所によって機能が分かれています。視覚、会話、恋愛感情など…。私たちはある種の力によって脳のある部分を刺激したり、抑制したりする方法を見つけました。」

「ある種の力って何です?」

「うーん、超能力的なものね。」

「ふーん、それで?」

「あなたに昨日、飲んでもらったお薬は、その”力”の素養を身に着けるためのものです。」

「じゃあ、私もその力を…。」

「使えます。ただ、まだ使い方が分からないだけです。」

「そうですか…。」

「だから、今から練習しましょう。まずは簡単なところから。あの薬にはナノマシンと呼ばれる生体機械が入っていて、それが薬を飲んだ人間のあるアクションに反応するよう設定されています。つまり、あなたがあるアクションをとると、力が自動的に発動します。」

「へー。あるアクションって?」

「投げキッスとウィンクです。」

「なるほど。」

 これでマナミさんの謎が解けたわけである。

「何で、そんなアクションにしたんですか?」

「これは…、ある意味、開発者の趣味ね。」

「趣味!?」

「そう。勿論、”アクションしやすさ”や”アクションの短さ”もあるけど、開発者の趣味が大きく反映されているわね。」

「ふーん。」

「投げキッス、ウィンク、どちらも相手の脳の恋愛中枢に働きかけ、相手を魅惑します。」

「ウィンクと投げキッスの違いは?」

「投げキッスは対象が複数人数でそれを見た人、全員です。ウィンクは対象が目があった人、一人です。また、投げキッスが効力若干弱めなのに対して、ウィンクは効力若干強めです。」

「なるほど。」

「では、実際、モンスター相手にやってみましょう。」

 私たちは別の部屋に移った。

「ここに召喚したモンスターがいます。それをあなたの力で魅惑してみてください。」

「はい。」

 部屋には一階で見たモンスターが三匹いた。私はモンスターに投げキッスを投げた。確かに、モンスターの動きは鈍くなった。

「囁いてごらんなさい。モンスターがあなたの虜になっていれば、囁きで操れます。」

 私は囁いてみた。

「後ろを向きなさい。」

 駄目だった。試しにモンスターと目を合わせて、ウィンクしてみた。それでもまだ駄目。もう一回ウィンクしたら、囁き通りに動いた。

 その後、練習は一時間ほど、続いた。

「先生、上達するコツって、何かありませんか?」

「うーん、上達するコツね…。この技術は、その特性上、使う人の”魅力”に影響を受けます。」

「魅力…。」

「そう。魅力的な人間が使うほど、この技術は効力を増します。」

「魅力的な人間になるには、どうしたらいいですか?」

「うーん、難しいけど、”研究と自信”ね。」

「研究と自信?」

「研究は、自分を他人にどう見せれば、魅力的になるかを研究すること。自信は、いかに自分の心に自信を持てるかです。」

「研究は…できますけど…自信は…。」

「一朝一夕にはできないわね。自信は少しづつ積み上げていくものですから。」

 暫くの沈黙。

「ファーちゃんは、自信があるものって、ある?」

「はい。魔法は、多少…。」

「そう。じゃあ、何故、魔法に自信が持てたのか、考えるのも良いかもしれないわね。」

 なるほど。魔法を覚えるのは好きだったけど、自信になったのはそれを唱えて、実際に効果が出て、魔法学校で褒められたから。だとすれば、チャーマーの力も練習さえすれば、自ずと自信はついてくるはず…。

 私はモンスター相手の練習に戻った。


 三十分後、私は一息ついて、校長に質問した。

「先生、一つ聞いてもいいですか?」

「何?」

「リングオブテラと言うアイテムの説明で、召喚呪文が可能だと書いてありましたけど、詳しくご存じないですか?」

 校長は暫く考え込んだ。そして口を開いた。

「あのアイテムは危険な代物よ。確かに、あのアイテムを使えば、もの凄い存在を召喚出来るわ。しかし、その代わり、使用者の命を奪うことになるのよ。」

「そうですか…。」

「一説には、チャーマーがリングオブテラを使うと、”美神”を召喚できると言われているわ。」

「美神?」

「そう。邪神すらその美しさで虜にすると言われている存在よ。」

「ふーん。」

 午前中の講習はこれで終わった。昼食後、午後は午前中にやった目を合わせて心を読む練習と、モンスターを魅惑する練習をして、終わった。夜は自分がどんな風に行動すれば魅力的かを考えた。そして眠りについた。


 翌日。午前中のメニューは昨日と一緒。昼食をとり、午後からの講習である。

「今日は、相手の心を誘導したり、ある状態にしたりする方法を教えるわ。まず、相手の目を見つめて。そして、誘導させたい内容を囁きかけるのです。」

「どんな風にやるんですか?」

「今から例を示すわ。」

 校長はいつものモンスター相手に練習する場所に連れて行った、中にはコボルドが一匹いた。

「まず、モンスターの目を見つめて。そして、囁くの。”お手をしたくなる、お手をしたくなる、お手をしたくなる…”」

「お手!」

 コボルドはお手をした。

「なるほど!」

「さあ、やってみて。」

 私はモンスターの目を見た。やはり、慣れない。でも、必死に目を見た。そして、”お座りがしたくなる、お座りがしたくなる、お座りがしたくなる…”私は囁いた。

「お座り」

 コボルドはお座りをした。

「他のモンスターでもやってみて。」

 私はほかのモンスターでも試してみた。やってみたら成功した。午後はこれの練習と、モンスターを魅惑する練習で終わった。夜は昨日同様、魅力の考察で終わった。


 翌日。

「今日は、目が無い様なモンスターを魅惑する方法を教えるわ。」

「どうすればいいんですか?」

「相手の心を感じるのよ。そして、相手の心を自分色に塗り替える様にイメージしてゆくの。」

「うーん、難しい…。」

「考えるよりやってみた方が速いわ。」

 いつものモンスターを魅惑するための練習室には、二階から三階に下りる階段の前にいた霧状のモンスターがいた。

「まず、目を閉じて。相手の心を感じるのよ。」

「感じる…心を…。」

 私は必死に感受性を研ぎ澄ませた。すると不思議なことにモンスターの心が感じ取れるようになった。これも薬の影響だろうか。

「感じ取れたら、今度は、その心を最初はゆっくりとあなた色に塗り替えてゆくの。」

 私はイメージした。感じた心を、私色に塗り替える。塗り替える。塗り替える…。

「いいわよ。いいわよ。もう少し…。」

 私は更に強くイメージした。塗り替われ!私色に。

「はい。合格。」

 目を開くと、黄色だったモンスターがピンク色に変わっていた。


 午前中は、この練習と、モンスターを魅惑する練習、モンスターの心を誘導する練習をし、午後からも、この三つの練習を行った。

「後は、実践あるのみね。おめでとう。卒業よ。三日間ご苦労さん。」

 校長は笑顔で私にそう伝えた。

ー-------------


 ファーがチャーマースクールの講習を受けている間に、俺は親父がどんな状態なのか、見せてもらうことにした。今、ファーはモンスター相手に何かの練習をしているらしい。

「この中に、あなたのお父さんは幽閉されているわ。」

 校長はチャーマースクールの中にある一室の扉の前で言った。

「出せ!ここから出せ!」

 中から大声が聞こえてきた。親父だ。間違いない。俺は中に入った。俺が入ると鍵は閉められた。オールバックの黒い髪、黒い瞳、精悍な顔立ち、茶色の皮の鎧を身に着けた人がそこに拘束されていた。

「親父…。」

「お前は誰だ?」

 やはり、俺が判らない様だ。

「親父…。」

 俺の頬を涙がつたった。

「いいからここから出せ!俺はラミア様のためにリングオブテラを盗まなければならないのだ。」

 俺はその部屋を後にした。


 ファーが講習を受けている間、俺たちにはチャーマースクール内に、各人、一つづつ、宿泊用の小部屋が用意された。そこで、俺たちは魔王軍の資料を見て、作戦を練った。

 まず魔王。別名「カオスプリンス」、チャーマー?こいつ、男じゃないのか?プリースト全般の呪文を使う。得意は「ステマ」「ディハ」「アブファ」「アブマ」…。

「アル。呪文で、アブファ、アブマって何だ?」

「吸収系。アブファが体力吸収、アブマが魔力吸収。」

「ふーん。」

 次、ラミア、チャーマー。美女。精気を吸い取ると言う噂あり。魅了と記憶操作、感情誘導が得意。次、デミス・ガミラン、魔術師。「ファギ」「アイギ」が得意。次、カスラオ・ヘッケラー、プリースト。魔法機械の製作が得意。魔法機械って何だ? 次、ファルファウデン、液体金属生物。自分の身体の硬度を自由に変えることができる。うーん、厄介そうだな…。次、暗黒竜ナース、火炎ブレスと魔術師系呪文を使える。もっと厄介だ。

「ドラゴンのブレスか…。」

「防火防具があった方が良いかもな…。」

 アルは言った。

 次、スティル=ス、闇から現れ闇に消える。何だぁこれは。戦闘力は皆無。こいつは魔王の「目」か。これで資料は終わり。

 各個撃破すれば何とかなるかも。もし、相手もパーティーを組んできたら、その時は…逃げるしかないか。作戦失敗だ。俺は、資料を見ていて疑問が湧いたので、校長室をノックした。講習はちょうど休み時間で、ファーも校長室にいた。

「はい。」

「キムです。入っていいですか?」

「いいわよ。」

 俺は、校長室に入った。

「校長、一つ聞いていいですか?」

「ええ。」

「チャーマーって女だけなんですか?」

「うん。基本女だけ。」

「じゃあ、魔王は?」

「あー。あの人は…、あの人はこの技術の生みの親だから…。」

「生みの親!?」

「そう。あの人が魔王になる前に、チャーマーの能力を研究していたのよ。」

「魔王になる前!」

「彼は、魔王になる前は、”ドクターテクノ”と言うプリーストだったのよ。彼は、暴力的な方法を用いずにモンスターや悪人を退治する方法を望んでいたわ。そこで、”心の自由を奪う”ことで相手の自由を奪うことを思いついたのよ。それがチャーマー研究の始まり。」

 校長は一息をついて、手に持った紅茶を口にした。

「それから私達も研究に協力して、何体かのチャーマーが完成したわ。そんなある日、彼の心の中にある種の「魔物」が住み着いたの。それが徐々に大きくなることに恐怖を覚えた彼は、自分自身をダンジョン奥底に幽閉することを望んだわ。それで魔王が誕生したの。」

 校長の目は虚空を眺めた。

「魔王は、自らに自分の技術を使用してしまったわ。それが、今の魔王よ。」

 校長は悲しい目をしながら言った。

「なるほど…。」

 俺は納得した。

「まさか、ファズファルド遺跡をレジャーパークに改造したのも…。」

 俺は呟いた。

「ええ。彼よ。彼が陣頭指揮を執ったわ。」

「魔王がすべての元凶…。」

「ある意味、そうよね。悲しい話…。」

 暫くの沈黙。校長は再び悲しそうな眼をした。魔王が魔王になる前、校長と何があったのだろう?敢えて聞かないけど。

「後、モンスターなどの情報はありませんか?」

 俺は聞いた。

「モンスターね…。そう、直視すると見たものを石化するモンスターがいるって話、聞いたことがあるわ。」

「へー。」

「そいつは、見た目がかなり邪悪だという話よ。」

「そうですか…。」

「後、モンスターで空腹の時だけ、相手を襲うという奴もいるらしいわよ。」

「空腹の時だけ?」

「そう。そいつは毛皮に覆われた太った身体とヒキガエルのような頭を持った巨大な奴よ。」

「他には?」

「私が聞いたのは、この二つよ。」

 再びの沈黙。校長は手にした紅茶を飲みほした。

「ところで、ファズファルド遺跡の地図ってあります?」

「あるけど…ああ、ダンジョンのこの下の階の地図ね。でも、五階、六階はかなり改造されているという噂よ。」

 校長は本棚から地図を取り出し、俺に渡した。俺はそれを受け取ると、校長室を後にした。

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