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マホ

 俺は四階を目指して急いでいた。早く親父に会いたい。会って助け出したい。そう思うとどうしても先を急ぎたくなるのだった。

 俺たちは二階から三階に降る階段の手前まで来た。階段の手前には不気味な黄色の霧のようなものが、頭の上から天井付近まで充満している。どうやらこれがモンスターらしい。しかも、階段の前には透明な壁があって、先に行けない。どうやらこのモンスターを倒さないと先に行けないらしい。

 ”すべての炎に住まう精よ。その熱を今解き放ってすべてを焼き尽し給え”

「あ、カール、待って!」

 ファーが制止したが、時すでに遅し。

「ファラ!」

”ドッカーーン”

 炎は霧のようなものに引火し、大爆発を起こした。とっさに俺とワルマは、女性たちをかばい、女性たちを押し倒して覆いかぶさるように伏せた。四人とも火傷を負い、特に俺とワルマは重傷だった。”大地に住まう聖なる神よ。その優しさをもって傷を癒し給え”「ディボ」

 ワルマは弱弱しい声で回復呪文を詠唱した。ファー、カールは全快したが、俺とワルマには傷が残った。

「ごめん、私のせいで…。」

 カールは涙を浮かべた。

「一旦、町に戻ろう。」

 俺たちは引き返すことにした。しかし、弱り目に祟り目、突然、モンスターにでくわした。しかも野球の審判の格好をした吸血鬼が三体。奴らは先手を打ってきた。

”すべての炎に住まう精よ。その熱を今解き放ってすべてを焼き尽し給え”「ファラ!」

 モンスターは呪文を唱えた。

「まずい!」

 俺たちは炎にまかれた。そして、敵の攻撃、鋭い爪で手刀を繰り出してきた。俺は何とか剣で受け止めたが、ワルマとカールはもろに攻撃を受け、さっきの火傷の跡が災いしたのか、ワルマが死んでしまった。

「ワルマぁぁぁぁぁぁ」

 カールとファーが叫んだ。泣き叫ぶ二人を強引に連れて、俺は逃げ出した。

 俺は嫌な予感がした。プリースト・ワルマを失った俺たちは、一階の階段前に待ち受けるアンデットの攻撃をかわす手段がない。回復呪文をかけることもできない。下手をすれば、もう一人、死にかねない。

 俺たちは急いでダンジョン二階を駆け抜け、二階から一階に上がる階段に来た。この上には奴らがいる。

「この上にはアンデットがいる。どうする?」

 俺は聞いた。

「私が道を作る。二人は先にダンジョンの入り口まで行ってて。」

 泣き止んだカールは言った。

「カール…」

 ファーの涙交じりの声。

「大丈夫。絶対に追いつく。」

 カールは自信満々に言った。暫しの沈黙。

「わかった。信じよう。」

 俺は承諾した。ファーは目を伏せた。

 俺たちは一階に上がった。地獄の亡者五匹が出迎える。

「うりゃぁぁぁぁぁぁ。」

 カールは杖で前の三匹を叩き壊した。アンデットはすぐに元に戻ったが、元に戻る間に俺とファーはそこを駆け抜けた。アンデットは追おうとしたが、カールが叩き壊した。

「待ってるぞぉ。絶対来いよぉ!」

 俺の叫び声。俺たちは走った。途中、何度かモンスターにであったが、ファーの眠りの呪文で眠らせて、逃げた。そして入り口に着いた。しかし、いくら待ってもカールは戻ってこなかった。時間が一時間ほど経過した頃、

「どうする?まだ、待つ?」

 俺はふさぎ込んでいるファーに聞いた。

「うん。」

「探しに行った方が良いかも知れないな…。でも、プリーストのいない状態で探しに行っても危険だしな…。」

「ワルマ…。」

「俺、新しいプリーストを探してくるよ。」

「わかった…。」

「ファー、ここで待ってる?」

「うん。」

 しかし、入り口とはいえ、ここはダンジョン。モンスターと遭遇することも考えられる。多分、ファーの魔力もそろそろ尽きてくるころだ。一人で置いていくのは危険な気がする。これでファーを失ったら、もう、冒険どころではなくなる。また一人になるのは、耐えられない。

「ごめん。やっぱりそれは無理だ。一緒に行こう。俺、ファーまで失いたくない。」

「カール…、カール!」

 俺は泣き叫ぶファーを引っ張りながらダンジョンを後にした。


 俺とファーは、俺の家に来た。家に着いた頃には、ファーも泣き止んでいた。

「おばさん、ご無沙汰しております。」

 ファーはおふくろに力無く挨拶した。おふくろは、少し着古してはいるが清潔な白のブラウス、デニムのロングスカートを着ていた。

「あ!ファーちゃん。久しぶり。どうしたの?」

 俯くファー、おふくろはブロンドの長い髪をかき上げた。そして、少しの時が流れた。その間、俺は考えた。カールを探しに行こうにも、プリーストがいないとどう仕様もない。早く新しいプリーストを探さないと…。考えあぐねた俺は、おふくろにプリーストの件を相談した。

「プリースト…。心当たりがあるわ。」

 おふくろは言った。

「え!?」

「ちょっと待ってて。」

 俺たちは十五分ほど待った。おふくろは一人の若者を連れてきた。その若者は、ブロンドの短髪、やや面長で、鼻が高く色白、輪郭がシャープだった。紺の法衣を着ていた。

「彼、ジェームスのパーティーのプリースト、マリア・オージェムの息子さん、アル・オージェム。母親と同じようにプリーストやってるそうなの。」

「よろしくお願いいたします。」

 若者はお辞儀をした。

「じゃあ、君のお母さんも…。」

 俺は言った、

「ええ。三年前に行方不明のままです。」

「おふくろ、親父、もしかしたら見つかるかもしれない。」

 俺はおふくろに親父の話をした。

「え!?」

 おふくろは驚いた。

「ある人から聞いたんだけど、ダンジョン地下四階で捕らわれているらしいんだ。だから、君のお母さんも…。」

「そうだと、うれしいけど…。」

 若者は呟いた。

「ダンジョン四階か…。うーん。難しいわね…。」

 おふくろは考え込んだ。

「俺、今からダンジョン四階に行って確かめてみようと思っている。すまないけど力、貸してくれないか?」

 俺は紹介された若者に頼み込んだ。

「うーん、判った。協力さしてもらう。」

 彼は最初、考え込んだが、許諾してくれた。

「了解。じゃあ、今すぐ出発しよう。仲間が一人、ダンジョン一階ではぐれてしまった。探しにも行きたいんだ。」

「わかった。」


 俺たちはダンジョン一階を探し回った。しかし、カールは見つからなかった。

「駄目か…。」

「カール…。」

 ファーはため息交じりに呟いた。

「ごめん…。先に進もう。」

 俺は謝り、そして決断した。

 俺たちは、一階から二階に下りる階段の手前にいた。アルは手際よくアンデットを倒してくれた。しかし、ここにもカールの手掛かりはなかった。二階に下り、部屋には入らずに三階に下りる階段に向かう。あの霧のようなモンスターを今度こそ、倒さねば。

”すべての氷に住まう精よ。その冷気を今解き放ってすべてを凍らし給え”「アイラ!」

 ファーが呪文を唱えた。モンスターは固体化して、下に落ちてきた。

「何処がこいつの”コア”だろう?」

 俺は考えた。

「うーん、調べてみるか。」

 アルは呪文を詠唱した。

”大宇宙の真理を司る神よ。今ここに下りてこのものの真実を告げ給え”「リサモ!」

 モンスターの一部が光り輝いた。

「そこだ!」

 アルは叫んだ。俺は短剣でそれを打ち砕いた。モンスターは粉々になって、跡形もなくなってしまった。見えない壁は消え、俺たちは三階に下りて行った。三階に入ってまず最初に、四階に下りる階段を探した。一刻も早く四階に行きたい。しかし、三階から降りてどこの部屋も入らずに階段を見つけることはできなかった。何処かの部屋から通じる道の先に、もしくは何処かの部屋の中に階段がある。面倒だが部屋を一つ一つしがみつぶしに見ていくしかないようだ。まず、二階から降りてくる階段から一番近くの部屋に入った。体がサイコロで出来ている大男が現れた。顔の「一の目」の所に短剣を突き刺すと倒れた。部屋には宝箱が置いてあった。俺は先を急ぎたかったが、アルがダンジョン三階を解くのに必要なアイテムがあるかもしれないと言うので、開けてみた。中には短剣が一つ、お金が少々入っていた。俺は短剣を手に取った。何とも言えない感触があった。俺はそれを使ってみることにした。

 その後も、部屋に入ってはモンスターとの戦闘が続いた。そんな中、俺たちは一人の俺たちと同じぐらいの歳の女の子と出会った。青いローブを着た背の高い、黒いロングヘア、整った顔立ちの大きな瞳の子だ。少しミステリアスな雰囲気がある。ダンジョンの中に女の子が一人で歩いていること自体、異常なことだが…。

「どうしました?」

 俺は尋ねてみた。

「あ、ちょっと道に迷っちゃって。地下四階に通じる階段って、何処にあります?」

 女の子は尋ねた。

「あの…済みません。どちらにお住まいですか?」

 俺は尋ね返した。

「四階です。」

 女の子は答えた。

「え!?」

 俺たちは驚いた。

「あ、だから、ここの四階です。この下、」

「ええ!?だ、ダンジョンの中に住んでいるんですか?」

「はい。…おかしいですか?」

「ええ。普通の人、ダンジョンの中には住みません。」

「そうですかあ?うち、お父さんもお母さんもダンジョンの中に住んでますけど…。」

「あの…、それ、かなり特殊だと思います。」

「そうですか…。」

 暫くの沈黙。

「あの…済みません。四階の”チャーマースクール”まで連れて行ってもらえないでしょうか?」

 女の子は言った。

「え!?そこに住んでいるんですか?」

「はい。」

 どうも目的地は一緒らしい。

「今日、たまたま、場所をおしえるマジックアイテムを忘れてきちゃって、私の事、迎いに来てくれなくて…。」

 女の子は続けた。

「わかりました。連れて行ってあげましょう。」

 俺は承諾した。ほかの二人も頷いた。

「私、マホって言います。よろしくお願いします。」

 結局パーティーはまた、四人になった。俺たちは四階への階段探しを再開した。また、部屋に入ってみる。案の定、スライム状のモンスターが出てきて戦いになった。

”すべての炎に住まう精よ。その熱を今解き放ってすべてを焼き殺し給え”いきなりマホが呪文の詠唱を始めた。その時、”ん?”と言った表情でファーがマホの方を見た。

「ファラ!」

 本来であれば、モンスターが火だるまになるはずであるが、何故か、俺たちが火だるまになった。

「あちちちちち…おい!」

「あちち。あれぇ?」

 熱がりながら首をかしげるマホ。また詠唱を始める。

”すべての氷に住まう精よ。その冷気を今吹き込んですべてを凍らし給え”また、ファーが嫌な顔をしてマホを見た。

「アイラ!」

 またしても、俺たちは凍り付く羽目になった。

「うー、寒い…。火は消えたが…。」

「あなた、本当に魔法使い?」

 ファーは言った。

「おっかしいなぁ。何時もだとちゃんとできるのに…。」

”すべての炎に住まう精よ。その熱を今解き放ってすべてを焼き払…”また詠唱を始めるマホ。

「やめろー!」

 アルが、マホの口を押さえた。マホの詠唱は止まった、

”すべての氷に住まう精よ。その冷気を今解き放ってすべてを凍らし給え”今度はファーが詠唱した。「アイラ!」

 モンスターは凍り付き、砕け散った。

”大地に住まう聖なる神よ。その優しさをもって傷を癒し給え”アルが唱える。「ディボ!」

 俺たちは半分ほど回復した。

「あー、死ぬところだった。」

「うーん、なんでだろう?」

 マホは首をかしげた。

「あなたぁ。ファラは、”焼き殺す”でも”焼き払う”でもないわ。”焼き尽す”よ。そして、アイラは”吹き込む”じゃなく”解き放つ”よ。」

 ファーは珍しく怒った。

「え!?そうだっけ?」

 マホは更に首をかしげた。こいつ、自分がしたこと、判ってない。

「はー…。」

 脱力感が激しかった。この女の子、本当に一人でこのダンジョンの中、歩いてきたのだろうか。信じられない。

「マホ! とにかく、今後、呪文を詠唱するのは、やめてくれ。」

 俺はあきれた。こんなこと、できれば言いたくない。

「…はぁーい…。」

 俺たちはそこを後にした。次の部屋では、翼竜が出てきた。今回はマホもおとなしくしていたし、なんとか倒すことができた。入ってきた入り口の反対側に扉があったので、そこから出ると、長い廊下に出た。壁に何か書いてある。

”これを押せ”

「何、これ?」

 マホが壁に何かを見つけた。それに触れる彼女。

「あ!駄目!」

 ファーが叫んだ。”ゴーーーー” その瞬間、床がすごい速度で動き始めた。どうやら魔法が発動したらしい。俺たちは振り落とされないように、這いつくばった。床は凄い速度でダンジョン内を動き回り、五分後停止した。俺たちは完全に自分たちのいる場所を見失った。

「ご、御免なさい…。」

 俺、ファー、アルはしかめっ面をした。仕方なく一からマッピングをする俺たち。幾つかの部屋を通り過ぎた。毎回戦闘になったが、マホは今度も呪文を唱えなかった。

 そして、何とか四階への階段を見つけた。四階への階段の前には、三匹のゾンビがいた。沈黙の魔法を唱えてきたりしたが、アルがモンスターの呪いを解いて、一件落着。俺たちは四階に下りた。

「マホ、チャーマースクールは、どこにある?」

 俺は聞いてみた。

「うん。ここからならわかる。案内する。」

 マホは自信たっぷりに言った。俺は嫌ぁな予感がした。俺たちはマホを先頭に歩き出した。しばらく歩いてからマホが部屋の入り口の前で立ち止まった。

「あれぇぇえ?おっかしいなぁ。」

「どうしたの?」

 ファーが聞いた。

「ここに”チャーマースクール裏口”って書いてあるはずなんだよ。何でないんだろう?」

 暫くの沈黙。

「まあ、いいや。入ってみよう。」

 マホは言った。部屋に入る俺たち、モンスターが出迎えた。

「あれ?」

 首をかしげるマホ。モンスターは大きなイカの化け物、触手が襲い掛かってきた。

”すべての氷に住まう精よ。その冷気を今解き放ってすべてを凍らし給え”「アイラ!」

 ファーは呪文を唱えた。イカは触手の動きが鈍くなったが、致命傷には至らなかった。これは逃げた方がいいかも、その時である。

”すべての炎に住まう精よ。その熱を今解き放ってすべてを焼き焦がし給え”「ファラ!」

 マホが呪文を唱えた!

「やめろー!」

 時すでに遅し、俺たちは火だるまになった。俺たちは部屋の出口から逃げ出した。

”大地に住まう聖なる神よ。その優しさをもって傷を癒し給え”アルが唱える。「ディボ!」

「バカヤロー!何度言ったらわかる!お前は俺たちを殺そうとしているのか!?」

 俺は激怒した。その時、マホの瞳から涙が零れ落ちた。

「…御免なさい…」

 マホは一人、駆け出した。

「キム…、ちょっと言いすぎ。」

 ファーが呟いた。俺は一人、マホのことを追いかけた。ダンジョンの角を曲がったところで、俺はマホを見失った。

 俺は周りを見渡したが、マホは見つからなかった。そんな時に、俺はモンスターに襲われた。敵は三体、俺はあっという間に、取り囲まれてしまった。

”すべての炎に住まう精よ。その熱を今解き放ってすべてを焼き尽し給え”「ファラ!」

 敵が呪文を使ってきた。やばい。こいつら、悪魔族だ。俺は火だるまになったまま、逃げだそうとした。しかし、できなかった。まずい、俺の命もここまでか…。

「お母さん、御免なさい。」

 その時、マホの呟く声が聞こえた。やめろ。お前が来ても勝てない。

 マホは現れ、突然、悪魔たちにキッスを投げた。不思議なことに、悪魔たちの動きが止まった。悪魔たちはマホに見とれている。すると、マホは悪魔、一匹一匹と目を合わすと、片目を閉じて言った。

「魔界に帰りなさい。」

 マホが囁くと、悪魔たちは消えてしまった。信じられないが、俺はマホに救われた。

「この力、お母さんに、”むやみに人に見せては駄目”って言われているの。だから、このこと、私とあなただけの秘密にしてください。」

 マホはそう言うと、片目をそっと閉じた。それは今まで怒っていたことを完全に忘れるほど、魅力的だった。彼女が何故、ダンジョンを一人で歩けたか、その謎が解けた気がする。

 俺とマホはファーたちと合流した。そして、結局一からチャーマースクールを探すことにした。


 やっとのことで、チャーマースクールの看板を見つけた俺たちは、そこに入っていこうとした。

「駄目!ここから入ると、死ぬ!」

 マホが叫んだ。

「え!?」

「強力な門番がいるの。だから駄目!」

 マホは言った。

「じゃあ、どうやって入るんだ?」

「裏口があるの。そこから入れば大丈夫。」

 俺たちは裏口を探した

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