リングオブテラ
俺たちはダンジョン一階を歩き始めた。
「このダンジョン、初めて?」
俺はファーに聞いた。
「うん。」
ファーはちょっと俯いた。
「じゃあ、俺が案内するよ。」
俺は先頭を歩き始めた。もう見慣れてしまったダンジョンの灰色の天井。
「ねえ、君の父親って、シーフなの?」
ザイドが聞いてきた。
「そう。ジェームス・ルファルドって言う…。」
俺は歩きながら答えた。
「え!?あの凄腕の?」
ザイドは声を張り上げた。
「凄腕かどうかは知らないけど、シーフ。」
「ジェームス・ルファルドって言えば、ここのシーフ界じゃ知らない人いないよ。なにしろあの”賢者の石”を盗んだって。」
「”賢者の石”って?」
俺は初めて聞いた言葉を聞き返した。
「”リングオブテラ”の一部だって噂されている宝石だよ。」
「”リングオブテラ”って?」
「君、何も知らないんだなぁ。」
「ごめん。三年前にこの地に来たばっかりなんだ。」
「シーフ学校は?」
「行ってない。父親におさわったのと、独学。」
「うーん、そうか…。リングオブテラは昔ダンジョン内で見つかった究極のアイテムって言われている。その力は強大でこの世界を左右するとも言われているんだ。」
仕方なさそうにザイドは言った。ザイドはどうも、こういうの、面倒くさいらしい。
「ふーん。」
俺の親父が「リングオブテラ」に関わった可能性があることはわかった。後は「リングオブテラ」の保管場所を探して、そこで新たな親父の手掛かりを探そう。そう考えた俺は、ファーたちのパーティーに加わることを決め、ダンジョン一階を案内した。途中、何回か戦闘にあった。このパーティー、戦士はいないが、魔法使い二人は結構強力で、眠りの呪文と火炎呪文を同時に使うことで、大概片付いた。
一階を半分ぐらい回った後、俺たちは町に戻って眠りについた。
翌日、パーティーは町で落ち合った。
「俺、今日、ちょっと図書館で調べものしたいんだ。」
俺はちょっとすまなそうに言った。
「わかった。私達も手伝う。で、何を調べたいの?」
カールは快諾した上、手伝うと言ってくれた。
「リングオブテラの保管場所。」
「うーん、あまり図書館検索は得意じゃないな…、俺、シーフ学校へ行って、情報集めてくるよ。」
ザイドは少し、面倒くさそうに言った。
「了解。じゃあ、私達四人で図書館の文献を調査しましょう。」
カールは微笑んだ。ファーとは対照的に社交的な人だ。
「リングオブテラの保管場所か…、アイテム関連か、ダンジョンの歴史関連かな…。」
ワルマは言った。
「じゃあ、私はアイテム関連を調べる。」
カールが言った。ファーも頷いた。
「俺は歴史関連かな…。」
俺は言った。
四人は二手に分かれて、図書館の各書庫に散っていった。俺とワルマはダンジョンの歴史関連書籍がありそうな場所に行った。本棚に歴史書らしき本が並んでいる。ダンジョン関するタイトルがあるかどうか眺めた。ドリームランド(俺たちがいる国名)史、ザカリオン史、うーん、無いなあ。取りあえず、ザカリオン史を見てみるか。うーん、ダンジョンのことは書いていない。ただ、付録の地図には今ダンジョンのある場所に「ファズファルド遺跡」と書いてある。これはどういうことだろう。
「おい、ワルマ、ファズファルド遺跡って何だ?」
俺は、この地域出身のワルマに聞いた。
「ファズファルド遺跡?」
どうやら彼も知らないらしい。
「そう。ちょっとこの地図、見てくれ。」
俺はワルマにザカリオン史の付録地図を見せた。
「うーん、ここってダンジョンがある場所だな…。」
ワルマは呟いた。
「そうなんだよ。」
俺は言った。
「うーん、もしかするとこのダンジョン、この遺跡を改造して作られたのかも…。」
ワルマは考え込んだ。
「近代史、特にこの十五年ぐらいを調べてみるか。」
俺とワルマは近代史が書いてある本や資料を探した。有ったのはザカリオンジャーナルと言う小冊子だった。二十年前ぐらいから見ていくと、十五年前の号の記事に「レジャーパークがファズファルド遺跡に誕生」とあった。「レジャーパーク」!?何か、イメージが全然違うが。その後の号には、特にダンジョンらしい記述は無かった。「レジャーパーク」に関する記事をよく読むと、
”スリル満載のアクション体験。魔物を倒してお宝ゲット”
と書いてある。これは…。
「なにか!?あのダンジョンって、元々は人々の遊び場だったのか?」
俺は言った。
「かも、知れない…。」
ワルマは考え込んだ。
それ以上、ダンジョンに関する情報はなかった。俺たちはカール達のいる場所に向かった。
「何か見つかった?」
俺はカール達に聞いた。
「うーん、リングオブテラに関する記述はあったんだけど、保管場所までは載ってなかった。」
俺はカールにアイテム図鑑を見せてもらった。
”リングオブテラ。精神力、魔力を無限大に近く増幅するアイテム。また、ある種の召喚魔法を使うこともできる。召喚できるのは女神、もしくは邪神。六年前ファズファルド遺跡で発見される。”
後は、シーフ学校からザイドが帰ってくるのを待つしかないか…。俺たちは図書館の椅子に座って、ザイドを待った。
ザイドは程なく帰ってきた。
「リングオブテラはダンジョンの地下一階のどこかで、番人が守っていて保管してあるらしいぞ。」とザイド。
「ありがとう。でも、一階にそんな場所無いぞ。」
俺の記憶が正しければ…。
「え!?」
「これがダンジョン一階のマップ。それらしき部屋はなかった。」
俺はザイドにダンジョン一階のマップを見せた。
「どういうことだろう…。」
「シーフ学校の情報が間違っているか、もしくは…このマップに記されていない隠し部屋があるか…」
「うーん、そっちの結果は?」
ザイドが尋ねた。
「わかったのは、ダンジョンがファズファルド遺跡を改造して作られたことと、リングオブテラはファズファルド遺跡で見つかったこと。」
俺は答えた。
しばらく沈黙が流れた。そして俺は気が付いた。
「そうか。確かめる方法は、ただひとつ。あのダンジョンがファズファルド遺跡を改造して作られた以上、ファズファルド遺跡の地下一階の地図とダンジョンの一階のマップを見比べることだ。見比べて、違っているところがあれば、それが隠し部屋になっている可能性がある。」
そして、俺たちはファズファルド遺跡に関する資料を図書館で探し始めた。しかし、全く見当たらなかった。俺たちは司書の人に聞くことにした。
「ファズファルド遺跡に関する資料、ありますか?」
司書の人は、一瞬、嫌そうな顔をした。
「ファズファルド遺跡ですか…。あるにはあるのですが、残念ながら、お見せするわけにはいきません。」
司書は答えた。
「何故です?」
「あれは…政府から”見せるな”と言うお達しが出ているのです。」
「そうですか…。」
「済みません。」
司書の謝る声を聴いて、俺たちは帰路についた。
仕方がない。最後の手だ。
俺は夜中の図書館に忍び込んだ。指紋がつかないように手袋をして。まず、図書館の入り口の鍵をピッキングで開けた。そっと扉を開けて中に入る。夜の図書館は不気味な雰囲気だった。俺はペンライトをつけ、司書室に入り込んで、図書目録を調べた。ファズファルド、ファズファルド…。有った!「ファズファルド遺跡マップ」保管場所は、図書金庫の中…。よし、図書金庫は有った。俺はダイアル式の金庫の鍵を何とか開けると、中の本を取り出した。そして、ファズファルド遺跡マップの地下一階の地図とダンジョンの一階のマップを見比べた。この二つ、ほとんど構造は一緒だが、ダンジョンのマップにはない部屋が二つあった。俺はその部屋の入り口をダンジョンのマップに記して、本を元に戻し、金庫の鍵を閉め、急いで図書館を出た。




