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邂逅

”すべての生きとし生けるものよ。跪き、その心をヒプノスの御前に捧げたまえ”「ステホ!」

 魔法使いナトスは眠りの呪文を唱えた。しかし、地獄の亡者達は眠らなかった。赤髪の魔法使いは青い目を曇らせて言った。

「駄目だ。こいつら、眠らなねぇ。」

 敵は五匹、こっちは四人、相手は小柄だとしても少し分が悪い。眠りの呪文が効かないとすると逃げた方が得策かも…。

「大丈夫だ、力押しでいける。」

 パーティーのリーダー、大柄で鎖帷子を着てロングソードを持った剣士のガイールは言った。

 ガイールともう一人の剣士、やはり鎖帷子を着てロングソードを持ったグリル、その二人は地獄の亡者を切りつけた。そこら中に亡者の骨が転がった。しかし、亡者達は元の姿に戻ってしまった。そして、俺たちを短剣で切りつけてきた。

「危ない!」

 俺は叫んだ。

「う!」

 ナトスは声を上げた。よりによって魔法使いの所に2匹、亡者が向かっていった。ろくな防具もつけてない上に、防御魔法も使いこなせていない。そんな魔法使いは格好の餌食になってしまった。俺たちはダンジョンを甘く見てたのかもしれない。

「逃げるぞ!」

 ガイールが叫んだ。しかし、亡者達に取り囲まれてしまった。三人とも背中合わせになり、攻撃をかわす俺たち。グリルは2匹の攻撃をかわしきれず、下半身を刺され、深手を負ってしまう。吹き出る血。

「俺が後ろの二匹をぶっ叩いて壊す。その隙に逃げろ!」

 ガイールは叫んだ。

「もう、俺は無理だ。走れない。」

 グリルの声は弱弱しかった。

「諦めるな!」

 ガイールは励ますつもりかもしれないが…。

「ご、ごめん…」

 グリルは倒れ、息絶えた。残った俺とガイールは前にいた三匹を叩き壊して、何とか逃げ出した。


 俺たちは薄暗いダンジョン内を走り抜けた。たった二人のパーティーでは、モンスターに出会ったとき、勝てる公算はものすごく低いからだ。運良くモンスターに出会わずに、俺たちはダンジョンの入り口まで来た。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 息が荒いガイール。

「何とか…助かったみたいだ…」

 俺は言った。俺とガイールはダンジョンの床に寝そべった。

「…ナトス…グリル……俺のせいだ…俺が、力押しで行けると思ったばっかりに…」

 ガイールのほほを涙がつたった。しばしの間、沈黙が二人の間を流れた。俺は二人を思い返した。ナトスは、赤髪、青い目の魔法使いで、背も高く、魔法使いにしてはやんちゃな性格だった。グリルはパーティーで一番若いメンバーで、長い前髪がトレードマークだった。二人とも良い奴だった。

「これから、どうするか…、仲間を…また、探さないと…」

 俺は呟いた。

「…もう…やめないか…冒険の旅…」

 ガイールの言葉は途切れ途切れだった。

「俺は、そういうわけ、いかない…」

「父さんか?」

「ああ、俺は親父がこのダンジョンの中で、まだ生きている。そう信じてるんだ。」

「いなくなって、何年だっけ?」

「3年。」

「そうか…。」

 再びの沈黙。そして、ガイールは起きて立ち上がった。俺も立ち上がる。

「すまん。やっぱり、俺、冒険、やめようと思う。これ、ダンジョンの一階のマップ。」

 ガイールはすまなそうに言った。

「ありがとう…。そうか…わかった。じゃあな。」

「じゃあ。」

 ガイールはダンジョンの出口を出て行った。俺はそれを一人見送ると考えこんだ。


 自己紹介が遅れた。俺、キム・ルファルド。15歳。シーフをやってる。俺の親父もシーフで、このダンジョンで冒険の旅に出たまま、三年も帰ってこない。巷ではもう死んだんじゃないかと言う噂も流れている。でも、俺は信じている。親父はこのダンジョンのどこかできっと生きてる。

 そうこうしているうちに冒険者のパーティーが一組、ダンジョンの入り口からやってきた。女性二人、男性二人の四人組パーティーだ。何か、見覚えのある人がいるような…。

「キム!」

 聞き覚えのある声、幼馴染のファーだ。魔法使いらしい紫色のローブを着ている。きれいな黒くて長い髪、少しだけ縦長の丸い顔、澄んだ黒い瞳。三年前まで隣同士だった。

「やあ、ファー、三年ぶり」

 俺の声には覇気がなかった。ファーはそれに気づいたのか、心配そうに聞いた。

「どうしたの?」

「ああ、ダンジョン一階から二階へ下る階段に行ったんだけど、そこでアンデットの魔物に出くわして、眠りの呪文も剣の攻撃も効かないで、パーティー四人のうち、二人死んじゃって、逃げてきたんだ。パーティーのリーダーは責任を感じちゃって冒険をやめるって、さっき別れたんだ。」

 俺は話しているうちに少しだけ元気が戻ってきた。

「そう…」

「パーティーにプリーストはいたの?」

 ファーと一緒にいた茶髪でショートカットの女性が聞いた。赤色のローブを着ている。魔法使いらしい。ローブを着ているせいで体の線はあまりはっきり見えないが、プロポーションはファーより良いかもしれない。

「あ、彼女、親友のカール。」

 ファーが彼女を紹介した。

「いや、いなかった。」

 俺はカールの質問に答えた。

「そう…。それはお気の毒…。で、あなたはこれからどうするの?」

 カールが聞いてきた。

「俺は今、父親を探してるんだ。このダンジョンのどこかで生きていると思うから。だから、冒険を続けようと思う。」

「あの…、あなたさえ良ければ、うちのパーティーに加わらない?」

 カールが誘ってきた。何故だろう?別にいいが…。

「いいけど。」

 俺は答えた。

「じゃあ、自己紹介。私、カール・マトファー、魔法使い。フラヌス出身。」

 フラヌスはここからちょっと遠くにある都市。俺やファーも以前、そこにいた。

「俺、ワルマ・シャガール、プリースト、ザカリオン出身。」

 ワルマは、法衣の上に茶色の皮の鎧を着ている。堀の浅い小顔で、唇も薄く、男にしては少し長めの前髪が特徴の青年だ。ザカリオンはこのダンジョンのすぐ近くにある港町である。

「俺、ザイド・レキューム、シーフ、ザカリオン出身。」

 ザイドは童顔で、茶色っぽい髪の毛をしている、皮の鎧を着て小型の盾を持った青年と言うよりは少年と言った雰囲気の男性だ。

「俺、キム・ルファルド、シーフ、フラヌス出身。ファー・ミステンローゼとは幼馴染。よろしくお願いいたします。」


 そんな時、ダンジョンの入り口の方から声をかける男がいた。年齢は四十歳ぐらい。刈りあがった黒い髪の毛、小さめの目に広い額の小柄な男だ。武器も持っていないし、風貌からは冒険者ではないようだ。

「ちょっと、いいかな?」

 男は近づいてきた。

「え!?}

「君たち、冒険者だよね?」

「はい。」

 俺たちは答えた。

「直ぐでなくてもいいんだが、ダンジョン地下四階にいる”アンナ”って少女を殺してほしいんだ。殺してくれれば、お金はいくらでも出す。」

 男は写真を見せた。写真には長い黒髪、黒い瞳の何処にでもいるような少女が写っていた。

「殺す?」

 カールは聞いた。

「そう、実はその少女、本当はとんでもない化け物で、戦いになると変身するんだ。俺の兄弟はそいつに廃人にされたんだ。」

 変身…ワーウルフか何かか…。でも、あまり首を突っ込んでる余裕はないな。

「引き受けてくれるかい?」

 俺たちは顔を見合わせた。

「済みません。先を急ぐので…。」

 俺は答えた。そして、俺たちはそこを離れた。

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