カオス
アル、ファー、親父のパーティーは戻ってこなかった。これはもう探しに行くしかないか。しかし、俺一人じゃあ、ダンジョン歩けない。また、チャーマーの力を借りなければならないのか。貸してくれるだろうか。俺はダメもとで頼んでみようかと、校長を訪ねた。
「また、やられたわ。」
校長は言った。
「どうしたんですか?」
「泥棒よ。腕のいいシーフだわ。ただ、なにも盗まれてはいないけど…。資料が荒らされてる。」
「何か、狙ってるんですかね…。」
「警察署長に相談してみようかしら?」
警察署長!あまり、良い印象無いな…。まあ、俺が悪いのかもしれないけど…。そう言えばマナミさん、どうしてるかな…。
校長は電話を掛けた。ここドリームランドでは、電話は普及していないが、特殊なところでは使われている。
「あ、リカ。こんにちは。」
「あ、ユキ、何?」
「最近、泥棒が多くて…。」
「泥棒?チャーマースクールに?」
「そう。腕のいいシーフらしいんだけど…。」
「腕のいいシーフ?それ…。」
「どうも、リングオブテラの資料を探してるらしいのよ。」
「…うーん、わかった。今から側近連れてそっち行く。」
警察署長が側近を連れてやってきた。こう見ると、警察署長も美女だ。あの時は気が付かなかったけど、あの力、多分、チャーマーのものだ。でも、いまだにお酒に弱いんだろうか。
「ユキ、久しぶり。」
警察署長の声。
「リカ。久しぶり。忙しいの?」
校長の声。
「うん、あのリングオブテラ盗難事件犯人、まだ、捕まってないのよ。」
「そう…。もしかしたら、その犯人がチャーマースクールに忍び込んでるのかも…。」
「その可能性があるから、来たのよ。その犯人は、チャーマーの技術を盗んでる可能性もあるのよ。」
「わかった。今日は私も見張る。」
話は終わったようだ。警察署長はこっちを見た。俺はちょっと気まずそうに会釈した。
「彼は?」
「ああ、キム君。ゴーストジェネレーターを停止させる魔法機械を作ってくれたパーティーのシーフ。」
「シーフ!?」
「ええ。…大丈夫よ。彼、いい子だから。」
「そう…。なら、良いけど…。」
危ない危ない、マナミさんが記憶を消してくれてたから、良かったけど…。今度、俺の記憶を調べられたら、マナミさんのこともばれてしまう。
夜は更けた。校長と警察署長、その側近、そして、急遽集められた警官四人はチャーマースクール校長室と事務室に隠れた。すると、怪しい人影が三人、現れた。どこかで見たことがある。あれは…、マナミさんとその仲間だ。どうして、こんなことを…。
マナミさんたちは資料を探し始めた。そこで部屋の明かりが点き、警察長官と側近、警官が出てきた。
「おとなしくしなさい!」
マナミさんたちは無視して資料を探している。どうしたんだろうか。いつものマナミさんなら、もっと作戦立てて来るはず…。
警官隊は三人を取り押さえた。マナミさんは警察署長と側近が。残りの二人が警官たちに。おかしい。あの二人なら、戦えば警官なんて、一撃でのせるはず。何か変だ。彼らの思考が変えられてしまっている。そんなことができるのは…、チャーマーと…、魔王、ラミア…。
その場で取り調べが始まった。まず、マナミさん。警察署長が取り調べている。それを校長も見守っている。校長はそれだけの権限を持っているんだ…。俺は取り調べの様子をこっそり陰から見ていた。
警察署長は、マナミさんの対面に座り、マナミさんの目を見つめた。数秒後、マナミさんの目から意思が消えた。
「さあ、何もかも正直に話してもらうわよ。まず、リングオブテラを盗んだのはあなたね。」
警察署長は尋ねた。
「はい。」
マナミさんの覇気のない声。
「盗んだリングオブテラはどうしたの?」
「カオス様のところへ持って行きました。」
え!魔王を倒すって、言ってたのに…。
「そう…。魔王に言われて盗んだの?」
「いいえ。盗んだ後、カオス様に出会って、それで渡したんです。」
「じゃあ、何故、盗んだの?」
「最初は、カオス様を倒すために盗みました。」
「気が変わったってわけね。」
「はい。」
「では、何故、今、チャーマースクールに盗みに入ったの?」
「賢者の石とリングオブテラがくっつかないので、その原因を探りに来ました。リングオブテラを分解した場所がチャーマースクールだと聞きましたので。」
「そう…。」
取り調べは終わった。仲間二人の取り調べも行われたが、内容は変わらなかった。校長と警察署長は校長室で椅子に座り話し合った。申し訳ないけど、俺は陰から立ち聞きさしてもらった。
「魔王を倒そうとして、魔王の術中にはまったっていうパターンね。」
警察署長は言った。
「でも、これでリングオブテラが魔王の手中にあることが、判ったわね。」
校長は言った。
「魔王の術、解けるかしら?」
「うーん、アンナに頼んでみるわ。」
「解けるなら、魔王討伐に協力してもらえるかも…。」
「魔王討伐?できるかしら?」
「やらないとまずいでしょう。もう、重要なアイテム、三つの内、二つ揃えちゃってる…。」
「そうだけど…。」
「ユキ、まだ、あいつを元に戻そうとしてるの?」
「ええ。やっと、方法がわかったのよ。ミキジロウ・エモトさんの救出に成功して。」
「方法って?」
「”リングオブテラにクリスタルで出来たアンクを掛け、悪魔退散の呪文を詠唱する”って聞いたわ。」
「リングオブテラって合体した?」
「そう。三つを合体させた…。」
「危険だわ。もしそれが上手くいかなかったら、それこそ魔王の思うつぼ…。」
「そうよ。でも、その時は、私、命を懸けて、魔王を倒すわ。」
「あなた…、まさか、美神を召喚させる気じゃ…。」
「ええ。そのつもり…。」
「やめて!どうなるかわかってるの? あなた、死ぬのよ。」
「仕方がないわ。もう、それ以外に手はないのよ。」
「あなたがやらなくても…。他に誰か…。」
「他のチャーマーは若い子ばかりだし…。それに、彼の暴走を止められなかった私達にも責任はあるのよ…。」
「それは…そうだけれど…。」
「とにかく、彼を元に戻す作戦は実行するわ。暫くこのチャーマースクールを空けることになるから、裏口の警護、お願いします。」
「…わかったわ。」
「校長!」
俺は二人の視界に入った。
「キム君…。」
校長の声。
「済みません。お二人の会話、聞かせてもらいました。校長、魔王の所に行くなら、俺も連れて行ってください。ファーたちが魔王に捕まっている可能性が高いんです。助けに行きたくても、俺一人じゃどう仕様もなくて…。」
校長は考え込んだ。
「危険よ。」
「もう三回、ダンジョン最深部に行っているから、充分、判ってます。」
「…わかった。連れて行きます。」
「ありがとうございます。」
俺は校長室を出た。背後から警察署長の声が聞こえた。
「ユキ、ちょっと甘すぎるんじゃない?」
「大丈夫。それに、彼にはマジックブレーカーを作ってもらったり、ミキジロウさんを救出してもらった恩があるわ。」
ひと眠りした後、俺は校長に呼び出された。校長室には、校長の他に、ヒロエ・エモトやアンナ、後もう二人のチャーマーらしき女性がいた。二人のチャーマーらしき女性のうち、一人は冒険者たちが大勢詰めかけた時に見た人だが、もう一人は初めて見る人だった。その人は、銀色のレオタードスーツのようなものを着て、銀色のボブヘアー、神秘的な瞳、整った鼻、情熱的な唇と言った出で立ちだった。
「このメンバーで魔王浄化計画を行いたいと思います。何か、問題ある人いますか?」
校長が聞いた。
「あの…。」
ヒロエちゃんが、手を上げた。
「はい、エモトさん。」
「この魔王を元に戻す儀式?ですか?これを行う時に、一時的に魔王の動きを止める必要があるんですが、何か方策はあるんですか?」
「それは…、今、考えてるところです。」
「じゃあ、私に考えがあります。」
「エモトさん、発表してください。」
「魔王の武器の一つは、その魅惑能力です。これは女性の目を二秒以上見つめることで、相手を魅了する能力です。この二秒以上と言う点がある意味、弱点となり得ます。つまり、魔王と見つめ合う時間が一秒以内なら、魔王に魅了されずに済むと言う事です。ここがポイントです。そこで、我々チャーマー四人で魔王を取り囲み、魔王を空中浮遊させて回転させ、四人が自分の方を魔王が向いたときに、自分の魅力を魔王に注ぎ込むのです。そうすれば、我々は魔王に魅了されずに、魔王を魅惑することができます。」
「なるほど。」
「ただし、問題があって、誰が空中浮遊の呪文を唱えるかです。」
しばしの沈黙。
「マホちゃんしかいないな…。彼女なら、魔王たちと面識がないから、魔法使いだってばれないし、チャーマーの能力があるから、チャーマーらしい格好をさせればばれる心配もない。沈黙の呪文を唱えられる心配がない。」
マホ!?…ものすごく心配。大丈夫か?…魔法使いとしての能力は疑問だぞ。
「誰か、マホちゃん、連れてきて。」
校長が言った。アンナが部屋を出た。そして、マホを連れてきた。
「マホ、空中浮遊の呪文、使える?」
校長はマホに聞いた。
「え!?誰かを浮かせるんですか?…多分、出来ると思います。」
ホントか!?
「今、出来る?」
「出来ます。」
「じゃあ、今、キム君を浮かせて見せて。」
おいおい、俺が実験台かよ。
”大地に住まう重力の精よ。その力を消し去り給え”「フロエ!」
珍しい!一回でうまくいった!俺は浮かび上がった。
「うまくいったわね。後は、連携を練習するだけかな。マホ、回転させるのはできる?」
「はい。」
”すべての動きを司る精よ。その力を解き放ちそのものを回し給え。”「ロテト!」
うーん、これも一発でうまくいったな…。腕を上げたのだろうか?
「もう、いいわ。止めてあげて。」
「はい。ロトテ! あれ? トロテ! あれあれ?」
回転、止まらない!前言撤回!相変わらずだ…。
「トテロ! はぁ…止まった。」
う…目が回った…。こりゃ、魔王もたまったもんじゃないな…。
「マホ、浮遊も止めて。」
「はい。エロフ!」
はあ…。こっちは一回で決めたか…。俺は着地した。
「さて、相手は多分、総力戦を仕掛けてくると思う。だから、最初、あなた達は四天王とその護衛の相手をしてもらうことになります。最大の問題点であるファルファウデンだけど…、ファラフォーナ、お願いします。」
校長が続けた。
「わかりました。」
あの初めて見る銀色のボブヘアーの女性が答えた。大丈夫なのだろうか。アンナも言ってたけど、チャーマーの技は殆どあいつに効かないぞ。マホの凍結魔法…危険だな。こっちが凍りかねない。
「次は、暗黒竜ナース…、ヒロエちゃん、お願い。」
「はい。」
「次は、カスラオ・ヘッケラー、カズミさん、お願いします。」
「はい。」
「次は、デミス・ガミラン、アンナちゃん、お願い。」
「はい。わかりました。」
「後は、護衛の部隊、マホ、お願い。」
「はい。あのー、魔法は使って…。」
「駄目よ。魔王にあなたが魔法使いだって悟られないようにしないと。沈黙の呪文を唱えられたら、元も子もないわ。」
「はーい。」
「私は、ラミアと戦うわ。後、魔王の所にはロバルト・ハウゼンさんを連れてゆきます。」
なるほど。ラミアの能力を鈍らせるのか。
「以上です。じゃあ、各自、準備してください。出撃は明日の朝です。」
「校長、心配なことが二点。一つは、あの化け物ですが、大丈夫でしょうか?チャーマーの技は殆ど効かないみたいですが。」
俺は聞いた。
「うーん、確かにね…。これは多分、一か八かなんだけど…。ファラフォーナにはウィルスって言う、技があるのよ。生命体の機能を狂わせるという…。ファルファウデンがどれだけ生命体としての機能を持っているかは、未知の部分が多いけど、やってみるしかないわね。もし、効かなかったら、その時点でこのプロジェクトは終わりね。勝ち目、無いわ。」
「もし、効かなかった場合を想定して、マジックライフルを用意しておきましょうか?」
「お願いします。あ、町へ行くのに、チャーマーの力が必要ね。後でカズミに一緒に行ってもらうわ。」
「ありがとうございます。後もう一点、マホは、大丈夫でしょうか?また、呪文の詠唱、失敗しなければいいんですけど…。」
「あの子、私が見てると、結構、間違わないみたいよ。」
「そうですか…。それならいいんですが…。」
「あ、そうだ。町に行くなら頼みたいことがあった。アクセサリー屋へ行って、”アンク”って言う頭部が円状のクリスタルで出来た十字架、買ってきて。そして、そのアンクに、この間行ったレンフォールさんに”プリンのアンサタ十字”と言う呪文をかけてもらって。」
「わかりました。”プリンのアンサタ十字”ですね。」
「校長、ウィルスをあいつ用にチューンアップしようと思います。済みませんが、手伝っていただけますか?」
ファラフォーナと呼ばれたチャーマーらしい女性が校長に尋ねた。
「わかった。手伝います。」
校長は言った。俺は校長室を出た。
二時間後、校長がチャーマーの一人を連れてきた。虹色半袖のタイトスカートスーツを着たショートカットの可愛い女性だった。
「彼女が、町まで同行します。」
校長が紹介した。
「カズミ・ナカヤマと申します。よろしくお願いします。」
「キムです。よろしくお願いします。」
「じゃあ、よろしく。」
校長はそれだけ言うと、出て行った。
俺とカズミさんは、チャーマースクールを出た。ダンジョン入り口までの道のり、何回かモンスターと出会ったが、全部彼女が倒した。今までのチャーマーと異なる点としては、金縛りの術を持っていたり、仲間割れを起こさせたりできる。
「やっぱり、強いですねぇ。」
「いえいえ、それ程でも…。」
「尊敬しますよ…、チャーマーの皆様方、みんな強くて…。」
「私、プロトタイプの一人なんです。」
「一人?」
「最初は三人ぐらいいたらしいんですけど、二人は上手くいかなかったらしくて、どうも、プロトタイプ唯一の成功例が私みたいなのです。」
「そうですか…。」
「プロトタイプの開発者である父は、その後、魔王に殺されてしまうんですが…。」
暫くの沈黙。
「校長はどう思っているか知りませんが、私は魔王が許せなくて…。」
彼女は言った。
「そうですか…。校長も”魔王は倒しちゃってもいい、彼はそれだけの罪を犯している”と言ってました。ただ、研究者仲間だったころの思い出を引きずっていることは確かみたいですね。」
「はあ…。」
「でも、校長は今回のことが失敗したら、自分で倒すようなことを言ってました。」
「そうですか。」
「ただ、それは校長の命と引き換えに…と言う話らしいですが。」
そうこうしているうちに、俺たちは町に着いた。まずはアクセサリー屋に行って、クリスタル製のアンクを探した。少し探すと、奥の方の棚の上に、クリスタル製のアンクはあった。それを購入して、今度は武器屋に向かった。武器屋で、マジックライフルを弾丸を三発購入すると、レンフォールさんのお宅に向かった。
俺は呼び鈴を鳴らした。
「はい。」
今度は家政婦さんが出てきた。
「レンフォールさん、ご在宅でしょうか。」
「はい。あ、あなたはこの前の…。また、頼み事でしょうか?」
「はい…済みません。まず、これですが、また最上級の凍結魔法を施して欲しいんです。」
俺は弾丸を三発、渡した。
「次に、この十字架なんですが、”プリンのアンサタ十字”と言う呪文を施して欲しいんです。」
「”プリンのアンサタ十字”ですか…。わかりました。しばらくお待ちください。」
親切な家政婦さんで良かった。扉が閉まり、家政婦さんは奥に入って行った。
暫くすると、家政婦さんが戻ってきた。
「はい。これと、これ。レンフォールさん、人使いが荒いって怒ってらっしゃいましたよ。」
「わかりました。校長と相談して、何か対応します。」
「では。」
「どうもありがとうございました。」
俺たちはレンフォール宅を後にした。そしてダンジョン四階チャーマースクールに向かった。
チャーマースクールに着いた二人は、夕食をとって休んだ。
翌日、決戦の日。アンナは美女の姿になり、ロバルト・ハウゼンさんの目を数秒見つめ、ロバルト・ハウゼンさんにかかっていた術を解いた。
「…マイ…マイ…マイ!」
最後は絶叫だった。ハウゼンさんの声がチャーマースクールに響いた。
「魔王から、取り返しに行きましょう。」
校長は言った。アンナは少女の姿に戻った。
その後、俺は、マジックブレーカーとマジックライフルを持って、五階への階段前にいた。校長とチャーマー四人、マホ、ロバルト・ハウゼンさんも出てきた。校長は、アンクなどが入っていると思われるバッグを持っていた。五階からレイハさんが上がってきた。どうやら彼女が案内するらしい。大人数のパーティーは、ダンジョン最深部に向かった。
途中、何回かモンスターと出会ったが、チャーマーが交代で倒していった。そして、ダンジョン八階の最初の広間の前まで来た。俺と校長が中を覗き込んだ。中には、魔王、ラミア、四天王、魔術師が十人ぐらい、プリーストが十人ぐらいいた。
「やっぱりね。情報は筒抜けだわ。でも、ここまで来た以上、やるしかないわ。まず、マホ、ファラフォーナ、アンナちゃん、ヒロエちゃん、キム君が入って。その後、私とナカヤマさん、ロバルト・ハウゼンさんが入るわ。マホ、中の人間にキッスを投げて。ファラフォーナ、アンナちゃん、ヒロエちゃんはそれぞれ四天王の行動を阻止して。キム君はマジックブレーカーをお願い。みんな、魔王とは絶対に目を合わせないで。後、キム君、ラミアとは…。」
「わかってます。」
マホは、上着やスカートを脱いだ。少しだけ魔法使いっぽい黒のビキニ姿になった。マホは入るとキッスを投げた。四天王のうち、化け物を除く二人と一匹は、とっさに後ろを向き、マホの直視を避けた。チャーマー三人は入るや否や、四天王のもとに走り出した。俺は入ると、マジックブレーカーを取り出した。アンナとヒロエは美女になった。
”すべての大気に住まう神よ。力を遮る壁となり給え”「ディハ!」
カスラオ・ヘッケラーの防御呪文。
”すべての心に住まいし精よ。その力を怒りに変えて、心を切り裂き給え。”デミス・ガミランが呪文を詠唱し始めた。
「いれじすてぃぶる・てんぷていしょん。」
美女がビキニ姿になった。そして、ガミランの前に回り込み、ウィンクした。呪文の詠唱は止まった。あの化け物は、美女二人に、触手を伸ばして、攻撃しようとした。
「あなたの相手は私よ。」
ファラフォーナが言い、両手でハートを作って、化け物に触れた。彼女が触れた部分は赤いハート型の印ができていた。
「何だ、これは?」
化け物は両手でファラフォーナを攻撃しようとした。彼女はそれを軽々とかわすと、化け物にウィンクした。すると、赤いハート型の印が大きくなった。化け物は危険を感じたらしく、そのハート型の印の部分を身体から切り離して捨てた。ファラフォーナは再び、両手でハートを作って、化け物に触れようとした。化け物はグネっと体を曲げて避けたが、彼女はそれを見透かしていたかの様に、身体を回し、化け物に触れた。化け物にはハート型の印ができた。そして、彼女はもの凄い速度で動くと、次々と化け物に触れていった。七つぐらい印が付いたころを見計らって、彼女は化け物にウィンクした。付いた印全部が大きくなると、化け物の体表面の三分の一が印に囲まれていた。そして、全ての印はまるで鼓動しているかの様に動き始めた。
「う!ば、馬鹿な…。」
化け物は焦って、印が付いた部分を全部取り除こうとした。ファラフォーナはその間にも、化け物に触れていった。化け物の身体はどんどん瘦せ細っていった。化け物の体表面の二分の一が印に囲まれるようになると、彼女は触れるのを止め、右手を頭の後ろへ左手を腰に当てポーズをとって、魅惑的な微笑みを浮かべながら化け物にウィンクした。化け物の身体の印は全て大きくなり体表面の四分の三を占めるようになって鼓動のごとく速く動き出した。化け物の動きは止まった。
「フィニッシュ。」
彼女はそう囁くと、もう一度、片目を閉じた。化け物の印は身体全体を覆い、化け物は倒れた。やった。これで難関は魔王とラミアだけになった。
ファラフォーナが化け物と戦っていたその時、美女となったヒロエはドラゴンの前にいた。
「チェンジ・フルムーン」
美女が銀色のビキニ姿になった。ドラゴンはブレスを吐いた。美女は間一髪、それを避けた。
「ムーンライトイリュージョン」
美女の姿が二重にも三重にも見え始めた。何人もの美女がドラゴンを取り囲んだ。ドラゴンはブレスを吐いた。しかし、美女には当たらなかった。美女たちはドラゴンにキッスしたり、ウィンクしたり、ポーズをとって挑発したりした。ドラゴンは狂ったようにブレスを吐き続けた。
「落ち着け、ナース。あのシーフを狙うんだ。」
魔王は叫んだ。しかし、ドラゴンは狂ったようにブレスを美女に向かって吐きまくり、やがて吐き疲れたのか、倒れてしまった。美女二人は少女の姿に戻った。魔王は美女から少女に戻ってしまったアンナを見つめた。アンナはそれに気付くと、逃げた。
ヒロエがドラゴンと戦っていたその時、俺の前にヘッケラーが来た。ヘッケラーはメイスで俺の持っているマジックブレーカーを攻撃してきた。二度ほど攻撃をかわしたとき、ナカヤマさん、校長、ハウゼンさんが入ってきた。
「あなたの相手は、私よ。レインボーフラッシュ!」
ナカヤマさんは、俺とヘッケラーの間に入ると、虹色のビキニ姿になった。その瞬間、ヘッケラーの動きが止まった。彼女は両手を腰に当てると、ヘッケラーの瞳を見つめ、目が合うと、そっと片目を閉じた。そして、彼女は目を開くと、両手を胸の谷間の所に持ってきて、もう一度、ヘッケラーにウィンクした。
ナカヤマさんがヘッケラーと戦っている時、校長はハウゼンさんと一緒にラミアの前にいた。
「マイ。今度こそ一緒に帰ろう。」
ハウゼンさんがそう言うと、ラミアの瞳が一瞬、優しさを取り戻した。しかし、次の瞬間、元のラミアの目に戻り、ハウゼンさんにウィンクしようとした。慌てて校長が間に入り、戦闘が始まった。校長は金色のロッドをバッグから取り出し、それで殴りかかた。ラミアはそれを黒のロッドで応戦した。何回か、二人のロッドが火花を散らした。
「マイ…。もうやめよう。こんなこと…。あの頃の二人に戻ろう…。」
校長の瞳から涙が零れ落ちた。
「ふ。今更、何を言うのやら…。」
ラミアの冷たい言葉。
「マイー!」
ハウゼンさんは、ラミアに抱き着いた。
「離せ!」
その一瞬の隙をついて、校長はラミアの後頭部をロッドで殴った。ラミアは気絶した。そして、校長は泣き崩れた。
校長がラミアと戦っている時、魔王が俺に近づいてきた。
”すべての大気に住まう神よ。力を遮る壁となり給え”「ディハ!」
魔王の速い詠唱が聞こえた。俺は、マジックブレーカーを床にそっと置いて短剣を持った。
魔王はメイスでマジックブレーカーを狙ってきた。俺は短剣でそれに応戦した。強い。本当にこいつ、プリーストか?俺は、何度か倒されそうになるのを、必死でこらえた。魔王は周囲を見渡した。これでは埒があかないと思ったのか、突然、言葉を発した。
「スティル=ス。」
「は。」
闇から一人の眼鏡をかけた男が現れた。
「あの女魔法使いを連れてこい。」
「はは。」
魔王は、離れていった。そして、あの眼鏡をかけた男は、ファーを連れてきた。
「ファー!」
俺は叫んだ。
”すべての氷に住まう精よ。その冷気を今解き放ってすべてを凍らし給え”
まずい!凍結呪文だ!ファーは魔王の術中にいるらしい。
「アイギ!」
大人数だったため、完全凍結は免れたが、寒い…。震えてきた。すると、ヒロエは美女に戻り、囁いた。
「チェンジ・マーズ」
美女のドレスが赤色のものに変わった。すると、何故か、暖かくなってきた。そして、暖かいを通り越して暑くなりそうな時に美女は少女の姿に戻った。俺は、ファーに近づいた。アンナは何か感じ取ったらしく、美女に姿を変えた。
「ファー、俺だよ。キムだよ。」
俺は、ファーを見つめた。ファーは俺のことを見ると、微笑み、ゆっくりと片目を閉じようとした。しかし、俺とファーの間に美女が割って入った。かろうじて、俺はファーのウィンクを受けずに済んだ。
美女はファーをじっと見つめた。一分ほど経つと、ファーは正気に戻ったみたいだ。
「キム…。私…。」
美女は一旦少女に戻った。魔王は校長に近づいた。
「なあ、ユキ。また、あの頃に戻ろう。戻って、幸せになろう…。」
顔を背ける校長、また泣き始める。
「その為には、完全なリングオブテラが必要なんだ。」
校長は涙を手で拭った。チャーマー四人は魔王を取り囲んだ。ヒロエとアンナはビキニ姿の美女になった。魔王は周りを見渡し、誰に術をかけるか、迷っていた。美女は左手の小指で、投げキッスをしてハートの幻を出した。
「マホ!やって!」
校長の涙声が響いた。
”大地に住まう重力の精よ。その力を消し去り給え”「フロエ!」
”すべての動きを司る精よ。その力を解き放ちそのものを回し給え。”「ロテト!」
マホ、凄い!一発でうまくいった。魔王は五センチほど宙に浮き、回り始めた。美女は左手を回し、ハートの幻を魔王の回転と同期する様、動かした。
四人のチャーマーはそれぞれ魅惑的なポーズをとりながら、魔王が向いた時だけ、ウィンクしたりしている。アンナだけは左手を動かしたままのポージングやウィンクだが。
「やめろ…心が…心が…蕩ける…。」
魔王は言った。
「トテロ!」
「エロフ!」
二分後、魔王の回転は止まり、美女は少女の姿に戻った。チャーマー達は目を瞑り、頭を振っていた。どうやら、魔王の目を見るのは、一秒でも影響があるらしい。その魔王はふらふらになりながら、膝をつき、放心状態になっていた。
「リングと賢者の石はどこにあるの?」
校長は魔王に尋ねた。
「ここにある。」
魔王は自分のポケットから箱を取り出し、校長に渡した。校長はバッグから何かを取り出した後、箱を開けリングと賢者の石を取り出し、それらを接続した。どうやら、バッグから取り出したのは賢者の石とリングの間に入る何からしい。そして、校長はリングオブテラを魔王の指にはめ、バッグからアンクを取り出してアンクを賢者の石の部分にかけた。
「今から、悪魔退散の儀式を行います。」
校長は言った。そして、呪文の詠唱が始まった。




