『エラーログの逆襲』
目を覚ますと、世界は「正解」に書き換えられていた。夜の公園には血痕一つなく、砕かれたはずのベンチも、新品のような顔をしてそこに鎮座している。俺の手の中には、灰すら残っていない。昨夜、リッパーに叩き込まれた胸の奥が、ドクンと脈打った。それは巴先輩の最期の鼓動であり、設計者が俺に押し付けた「呪い」の拍動だ。学校へ着くと、吐き気は頂点に達した。巴先輩のいた教室。その席には、見知らぬ男子生徒が座っている。「なあ、ここ、巴先輩の席だろ?」俺の問いに、クラスメイトは心底不思議そうに首を傾げた。「トモエ? 誰だよそれ。最初から佐藤の席じゃん」世界から、先輩がデリート(削除)されている。あんなに懸命に生きていた一人の人間が、システムの都合で「なかったこと」にされたのだ。視界にノイズが走る。人々の頭上に、無機質なウィンドウが浮かび上がった。【個体識別:一般市民C/エネルギー期待値:低/次回更新時に廃棄推奨】「……ふざけるな」設計図が見える。俺たちの夢も恋心も、奴らにとってはただのパラメータに過ぎないのだ。放課後、その「ノイズ」が激しく弾けた。「やめて……来ないで!」悲鳴の方へ走ると、そこには昨夜と同じ光景があった。白い毛を血で汚したウサギ――リッパーが、少女を追い詰めている。「無駄だよ。君はこの座標で『失踪』すると、既にログに書き込まれている」リッパーが指を鳴らす。少女の背後の壁が、消しゴムで消されたように消失し、底なしの暗黒が広がった。「やめろ……ッ!!」俺は叫び、二人の間に割り込んだ。「また君か。デリートの手間を増やさないでくれるかな」リッパーが再び指を鳴らす。瞬間、俺の胸の中の『核』が爆発的な熱を持った。脳内に巴先輩の悲鳴が、エラーログが、濁流となって逆流する。――あんな奴らの「正解」になんて、なりたくない!!「……上書き、しろ……ッ!!」俺が虚空を掴んだ瞬間、指先から黒いノイズが溢れ出した。パチンと音が響いたが、俺の体は消えない。それどころか、消失していた壁が、無理やり「再構築」されていく。「なっ……!? 書き換えを、拒絶した……!?」初めて、リッパーの目に驚愕が走った。「効率だの設計だの、知ったことか。俺は、お前らの綺麗な設計図を、ドロドロの血で塗り潰す『バグ』になってやる」俺の右腕が、黒い異形へと変貌を始めていた。それは、システムを蝕む「毒」の腕だった。




