2 天国でしょうか?
よろしくお願いします
「お兄様この方大丈夫かしら?酷く顔色が悪いわ
「医者に診せたら栄養失調だそうだ。デビュタントに出る年齢にしては小柄すぎるし肉が付いてない」
「栄養失調……!どこの家のご令嬢かしら。虐待されているのね」
シルビアは込み上げてくる熱いものを飲み込んだ。
孤児院や路地裏でやせ細った子供を見ることはあったがまさか王宮のデビュタントの会場で見つけるなんて衝撃すぎた。
「今調べさせているところだ。心配しなくていいよ」
言うとシルビアが気絶するかもしれないので告げなかったが、寝間着に着替えさせたメイドによると身体には鞭の傷が何ヶ所も残っていたそうだ。やせ細った体にそれはあまりにも痛々しい。
王宮の魔術師に光魔法で傷痕を治癒してもらった。
今日は妹シルビアのデビュタントだった。まだパートナーがいないので兄のウイルフリードがその役目を引き受けていた。
ハミルトン公爵家は父が前王の弟だ。父は女性が苦手で母も婚約するまでに色々あったらしく王族の血筋なのに恋愛結婚をしても良いという珍しい家柄だった。
そのせいかウイルフリードは女性の扱いが上手くなっていた。主に躱す方にだが。
公爵家嫡男でイケメン、妹の面倒見が良いウイルフリードは従兄弟の王子以上に人気が高かった。
夜会に出ると直ぐに令嬢に囲まれた。そこから逃げ出すには口が上手くなるしかなかった。
ぼんやりとした意識の中で人の声が聞こえた。
「あの……ここは…」
目を開くと白い天井が見えとても綺麗な男女の心配そうな顔が目に入ってきた。
「ああ良かった。気がついたのね。ここは私達の屋敷よ。安心してね」
「私は天国にいるのですか?女神様やっとお父様とお母様に会えるのでしょうか」
いつの間にか着替えさせられていて柔らかい肌触りの良い寝間着になっている。
「貴女は生きているしここは天国ではないわ。お水を飲んだ方が良いわ。さあ起こすわよ。兄様お願い」
私を起こして背中にクッションを当ててくれたのは神様と間違えた綺麗な青年だった。コップに手を添えられてお水を飲むと美しい女性が口を開いた。
「私の名前はシルビア。こっちは兄のウイルフリードよ。貴女のお名前は?」
「助けていただきありがとうございました。シルビア様、ウイルフリード様。私はローズマリー・ウインザーと申します。宮殿からこちらまで運んでくださったのでしょうか?」
どうやら生きているようだと思った私は丁寧に返事をした。美しい兄妹は顔を見合わせた。何か失礼なことを言ったのだろうか。
「ええ、騎士に運んでもらったのよ。ローズマリー様貴女には栄養と休養が必要だとお医者様が言われたわ。ここは安全よ。心配しないでゆっくりして欲しいの」
「お手間を取らせて申しわけありませんでした。あの、知らないお屋敷で見知らぬ方に親切にしていただいて良いのでしょうか?」
「良いのよ、偶然貴女が倒れた時にいたのも何かの縁よ。今日が私のデビュタントだったの。あなたもそうでしょう?」
「デビュタントと言いましても私は特に何も思うこともなかったです。数年ぶりに外に出られた方が嬉しくて…」
「数年ぶり……!ローズマリー様絶対家には帰ってはいけないわ」
「シルビア、何か食べてもらってはどうだ」
美青年が口を挟んだ。声が良い。低くて心地のよい声だ。やっぱり神様ではないかしら。
「そうね、マリー消化のいい物を持ってきて」
「はい、お嬢様」
ずっといたのだろうか、侍女さんがさっと部屋から出ていった。気配にも気が付かなかった。
侍女さんが持って来てくれたのはパン粥だった。
「マリーお食事のお手伝いをして差し上げて」
「いえ自分で食べられます」
「手が震えてるのよ。溢れたら火傷をするわ」
「あっ、すみません。よろしくお願いします」
とても高級そうな寝具だ。汚してはいけない。言われた通りにしなければ。
「ごめんなさい。言い方がきつかったかしら?私達はローズマリー様に危害を加えたりしない。だから安心して」
シルビアが優しく諭している。ローズマリー嬢はこくこくと頷いていた。
ウイルフリードはその様子を見て、小さかったシルビアが大きくなったものだと感動した。
「見ていると食べにくいだろう。出ていくからゆっくり食べるといい。気がつかなくてすまなかった。布団にはタオルを掛けておくから溢れても安心だ」
ウイルフリード様が言ってくださったおかげで緊張が緩んだ。
「ありがとうございます。頂きます」
行儀が悪いがふうふうして口に入れた。熱々の物は何年も口にしていない。
野菜が蕩けるまで煮込まれ牛乳とチーズの味がする。優しい味だった。涙が零れてきた。どうやら私は良い人に助けられたようだ。
申しわけがないので天国じゃなくてがっかりしたのは内緒にしよう。
早く直してご恩返しをしなくては。それから修道院に行こう。あそこに帰るのだけはもう嫌だった。
読んでいただきありがとうございます!「裏切りはいらない」のノアとミルフィーヌの息子ウイルフリードと娘シルビアの登場です。お楽しみいただけましたら嬉しいです。




