懸念
そこでは既にローランドと、この土地を納める王様より派遣された兵士がやり取りをして居た。
簡単に用件をかいつまむと、コカトリスの討伐報酬と、それに伴う犯罪集団の撲滅に対しての報奨の授与、それに……
「ローランド・サンロッド様率いるメンバーに、国王からの直々の召喚状を承っております」
という兵士の思わぬ言葉。
討伐報酬だけ貰えば、それぞれに活動しやすい拠点へと移動する予定だったのに、大きな寄り道をすることになってしまう。
「しかし、王様からの直令であるなら……断るわけにもいきませんね」
ローランドがその尖った顎に指を当てて考える。
「いいじゃないか、王様に会うということは、王都へ行くということだろう?」
店内の食器返却口に、先ほどのティーカップを返して来た矯太郎は、むしろテンションが上がり始めていた。
そこにはきっと新たなこの世界の知識があり、物流があり、文化がある。
矯太郎の知識欲が駆り立てられるものばかりだ。
「ここから王都までどれ程かかるのかな?」 後から現れた熟年の男性に、若い兵士は少し怖じ気づいたようだが、すぐに姿勢を正して答えを弾き出す。
「はいっ、馬車で3日というところです」
「軽荷の馬車であれば時速10km。一日8時間移動するとして3日……200km。東京大阪間の役半分というところか……」
口の中でぶつぶつと計算をする矯太郎に、周囲の人物が若干引き気味なのは仕方がないとして。
「よし、その話に乗ろうではないか!」
矯太郎の鶴の一声で、次の予定が決まってしまったのだ。
夕暮れも更け、晩夏の虫のオーケストラが開催されている。
夕食の際には皆が集まって食卓を囲む。
昼間には散り散りだったメンバーに、そこで今後の予定を打ち明けると、三者三様顔色を変えるのだった。
「お供致します、ヨツメ様」
矯太郎の横から、その腕を抱き抱えるようにリリーがくっつく。
肘に柔らかいものが当たるのを矯太郎は意識しないように、目線をはずす。
「僕は反対です。王族に一目置かれるというのは良いこともある反面、逆らえない面倒事を押し付けられる事にもなりかねないですからね」
彼はこのメンバーの中で唯一貴族籍を持つ男だ。
男爵という低い地位ながらも、歴代の血筋は、剣の名手を産み出す家系であり。
王族との関係性もゼロではないのだ。
だからこそ、一般人がそれらと関わり、面倒事に巻き込まれるという事態も見てきたのだろう。
彼の立場なりの心配という点に置いて、的確な助言ではある。
「私は賛成です。王都はまだ行ったことがないですし、新しい出会いもあるかもしれません!」
先ほど夕食をとった筈のライフの口の端からヨダレが出ているところを見ると、彼女の言う出会いというのが、異性などという不純なものではなく、食欲に由来するものだというのが一目瞭然だ。
「ボクも、ボクも!」
リンドに関しては、内容が分かっているのかいささか疑問だが、矯太郎から離れるのを嫌がるように、常に一緒に居ようとする。
「まだ、師匠と同じ窯で錬金してないわ!」
立ち上がって宣言するリリーを、メイが優しく着席させる。
このコンビもひとつの形になりつつある。
こうして全ての意見が出揃い。
ローランドは一人でこの決定に反抗している形になってしまう。
「ローランド殿の意見も肝に命じておく事にするさ、それでも、それぞれが得るものは多いのではないかと、俺は思っているんだ」
矯太郎は多数決を取ったわけではない。
全員の意見を纏めて、納得して出発したいのだ。
それを汲んだローランドは、仕方なく降参することにした。
「分かりました、しかし、王族は身分が全てです。申し訳ありませんが、このパーティーの取りまとめは僕ということで話を進めさせていただきます」
矯太郎に取ってはむしろ好都合ではある。
ローランドの日陰で好き勝手できるのだから。
ローランド自身もそれを理解した上で、先ほどの言葉を言ったのだ。
なにせ、その命は矯太郎に救われたもの。
その恩に報いるためには、こういった体の張り方が一番良いのだろうと感じたからだった。
ローランドにしても、王様の直令を断ろうものなら、どれだけ貢献している名家でもお取り潰しにされかねない一大事だ。
市制からは『賢王』と呼ばれるアルフォンス・ドラグレイブとはいえ、他の貴族への軋轢なども鑑みると、そういった沙汰を出さざるを得ない状況もあるだろう。
「きっとローランド殿は、一人で王様の元へいくつもりだったのだろう?」
矯太郎は難しい顔を崩せずにいるローランドへと投げ掛ける。
「いやはや、隠せませんでしたか」
後ろ頭を掻くローランドは、矯太郎が自分の思惑など見抜いている上で、先程のやり取りを行ったのだと確信をして、ふっと肩の力が抜ける。
「ローランド殿は剣士の名家。……たしか叔父上殿は近衛のお偉いさんだった筈だ。しがらみや厄介事の一つや二つ見聞きしてきたのだろう?」
流石は矯太郎、他人のパーソナルデータは完璧だ。
「はは、一つや二つで足りないくらいには聞いていますよ」
とは言え、叔父の口からアルフォンス王の愚痴を聞くことはなかった。
基本的にはそれを取り巻いている仕官や文官のいざこざや、高位の貴族のわがまま等についての愚痴ばかりだったように記憶している。
むしろ、叔父はプライベートでもアルフォンス王とやり取りをしていて『自分の事はアルで良い』とまで言われたと、困りながらも嬉しそうに話していたのが印象深い。
「今回の徴集に関して、僕の考えるところでは……悪徳クランの摘発を公表し称賛することで、他のクランへの悪事を牽制する効果や、一般の冒険者に手柄を取られてしまった、騎士団や領主の治安兵達への奮起を狙ったものでしょう」
ローランドの言葉に、矯太郎が反応する。
「当て馬みたいなもので、実際は王族と懇意になるような事はないってことかな?」
「ええ、顔くらいは合わせるでしょうが、話をする機会などにはならない筈です」
矯太郎はその言葉を引き出すと、ふっと笑う。
「だったら、そう心配することも無いだろう?」
そういって立ち上がり際に、ローランドの肩をポンっと叩く。
「誠実な部分を尊敬はするが、気を張りすぎなくて良いよ」
そう言って自分の部屋へと戻っていった。
心遣いに感謝するローランドではあったが、これまで生きてきた20年間が、貴族社会での息苦しさが彼に染み込んでいたためか。
あまり楽天的には考える事はできずにいたのだった。
かくして一行は国王の兵士が用意した駅馬車に乗り込むと、一路王都までの道のりを駆け抜けて行く。
途中でライフが食い倒れを敢行したり。
シャーリーが何故か走っている馬車の中から忽然と姿を消したりとハプニングには見舞われたが、なんとか目的地へと到着するのであった。




