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異世界眼鏡っ娘計画  作者: T-time


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つかの間の休息

 月の木漏れ日亭に留まって一週間が過ぎた。

 例の悪徳クランはそのほぼ全員が実刑に処されることになった。

 結局クラン長であった魔法使いは、意識が無いまま運ばれたが、首謀者ということもありそのまま死刑にされたそうだ。

 また、リリーやローランドを嵌めたグースを含む数人が、公開処刑になり。

 残りは奴隷落ちにされたそうだ。


「犯罪奴隷の行く末は悲惨ですし、それは知っている筈なのに、なかなかこういった犯罪は無くならないのですよ」

 矯太郎の横で、ローランド・サンロッドが優雅にお茶を嗜んでいる。

 月の木漏れ日亭の中庭に吹き込む柔らかい風が、短い猫っ毛の金髪を揺らしているのが絵になっている。


「どこの時代の、どの場所でも、人間というのは変わらないものだな」

 本を片手に、同じお茶を飲んでいる矯太郎も、絵にはならないものの、落ち着いた良い年配者ではあった。

 まさか眼鏡が絡むだけで狂人に変貌するとは思えないほどの枯れっぷりだ。


 そんな矯太郎にとって奴隷という制度を日本で体感することはまず無かった。

 しかし、この世界では、人足、店番、小僧と称されるあらゆるシーンで奴隷が重用されていたのだ。

 幸い大きな町に落下してきたから良かったものの、辺鄙な町等ではモンスターの恐怖に怯えながら暮らすものや、収穫や稼ぎが足りずに困窮している村も多いのだそうだ。

 そんな村は大抵子供を多く産み、そのうちの数人は奴隷として子供の頃に売られる者が出てくる。


「奴隷の人生も一般の人間とさほど変わりませんよ。言うなれば、人権だけを質に入れているような状態ですから」

 ローランドは優雅な仕草の中に、当たり前のように重い話題をぶちこんでくる。

「寒村で毎日を生きる事に精一杯な人生を送りながらも、人間として生きる方が良いか。栄えた街の奴隷として人間を捨てるも、衣食住が担保された生活を送る方が良いのか……その答えに明確な回答などは無いのですよ」


 奴隷と聞けば悲惨なイメージを持っていた矯太郎も、それが機能している社会での観念に触れると、一概に自分のエゴを通すことは出来ないと思い知ることになる。

 もちろん、幼い子供が性の捌け口にされたりする場合も無い訳ではならしいので、一概に肯定する気にはなれなかった。


「この学園都市シグナールの勢力の範囲内では殆ど起こらないでしょうね……ただし、同じ領土内であっても、北方地域ではそれも変わってくるようですが」

 ローランドは空になったティーカップを、野外用にしつらえた武骨なテーブルに置くと立ち上がる。

 腰に下げた青い刀身の剣が、丸太を輪切りにしただけの椅子に当たって高い音を奏でた。


「申し訳ありません矯太郎さん、客人が来たようなので、お話はここまでで」

 そういう彼の目線を辿った矯太郎にも、月の木漏れ日亭の表が騒がしくなっていることがわかったようだ。


「ようやくお出ましかな」

 立ち上がると同時に、腰を反らして『うーん』と唸るのはどうにもオジサン臭さはある。

 とはいえ、日本ではずっと研究に没頭していたし、シグナール魔導学校でも書物を読み漁るのに生活の時間の大半を割いていた彼が。

 最近はというと、小さな村のあちこちの飲食店巡りをするだとか、木漏れ日亭のまさに木漏れ日の下で、勉強うとは違う娯楽の読書をするといった、まさに休日のような過ごし方をしている。


 以前考えていた、魔法の理念の解析などは、もっと腰を据えて取りかかりたいという事なのだろう。

 一方時間が余ってしまったリリー・フロマージュ等は、魔法を使った頼まれ事などで地道に小銭を稼いでいる様子。

 ライフ・グリンベルも、その治癒師の資格を持って、近くの治療院へとアルバイトに出掛けている。

 錬金術師であるシャーリー・アルクウォールも、近くの錬金工房へ足を運んでいるようだが。

 こればかりはさすがにメイという手綱が必要なようだ。

 そして最後のひとりは……。


「キョウさん、キョウさん!」

 矯太郎の頭の上から声をかけてきている。

 本来彼の頭上には、月の木漏れ日亭のシンボルである大木が生えているだけなのだが。

 矯太郎が上を見上げると、そこには銀髪の女の子が居た。

 垂直の幹に、直角になるように立っており、一見して完全に物理法則を無視していた。

 しかしその足元は、うまいこと木のコブなどを捉え、指の力などでその姿勢を維持しているのだとわかる。

「流石、フェンリルの一族だな」

 矯太郎は陶器製のカップをローランドのものも集めて、いまだ騒がしい店の入り口の方へと運ぶ。

「キョウさんってば、ボクはどうしてれば良いの?」

 少しふてくされたような、置いてけぼりを寂しがるような声色で口を尖らせる、リンド・ウル・フェンリル。

 享年16歳を再度見上げて矯太郎は口を開く。


「お役人に見つかるとどうなるかわからないから、この木の上の方で遊んででくれないか」

 と伝える。

「わかったー!」

 元気良く返事をした後は、そのまま垂直の巨木を走って上っていき、地上30m程でブロッコリーの頭のように、もさもさ繁っている葉っぱの中に吸い込まれて行く。


 悪徳クランの首謀者は意識を失ったまま死刑になったことで、この事件にネクロマンサーが関わっていることは上手く闇に葬れていた。

 しかし、ある程度は化粧でごまかしているとはいえ、死体そのもののリンドが表をうろうろしていれば、いつかはその正体が見破られるかもしれない。

 彼女の回復の目処が立っていない以上、今のところは隠れて貰う以外にないのだから。


 その姿が見えなくなったのを確認した矯太郎は、改めて宿の入り口方面へと足を進めるのだった。

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