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君の心に映る人

澪は、決めていた。

やっと、イメージ通りの声の持ち主に出会った事。

幾つもの、偶然が重なったやっと、出会えたシーイに、少しだけ、興奮していた。

「何か、いい事でもあったの?」

気づくと、鼻歌が出ている澪に、母親は、声を掛けた。

「別にないけど」

慌てて、平静を装う。

どうしても、母親には、バレてしまう。

あの日の事もあって、母親には、心配を掛けた。

「少しだけ、いい事があったの」

「少しだけって?」

「うん・・・まだ、少しだけなの」

「そうなの?父さんが、勧めている人といい事?」

「違うわよ」

高岡の名前を出すと、急に不機嫌になる。

「嫌なら、無理しなくて、いいのよ」

澪が、高岡に好意を抱いていない事は、よく知っている。

「でも、父さんの気持ちもわかってね」

軌道に乗った会社を自分の子、以外に継がせたくないのは、よくわかる。

障害のある一人娘を、片腕と言える高岡に任せたいのだろう。

「だけど」

自分の、心に嘘はつけない。

あの時の彼を追い越せる様な恋。

それがないと、先に勧めない。

彼を忘れていいのか。

様々な思いが、澪の中にある。

自分にとって、シーイ。海って人は、どうなのだろうか。

まだ、彼の事は、よく知らない。

そう、顔さえも。

彼の匂いや声や仕草は、わかるけど。

どんな瞳をして、どんなふうに、自分を見つめるのか、わからない。

わかるのは、自分を包む、五月の風の様な、彼の声。

「あのね。サロンのCMをする事になったのは、知っているでしょう?」

「えぇ。イメージに合う人が見つかったって、言っていたわね」

「それで、ロケに同行する事になったの」

「ロケに?大丈夫なの。あなたが、行かなくても」

「いいえ。イメージに合うのか、確認したいの。こう見えても、センスがいいのよ」

「大丈夫なの?」

「企画室の後輩達も、一緒だから。大丈夫」

「そのシーイって、人も同行するの?」

母親は、シーイに関心がある様だ。

あんなに、酷い過去を持つ娘が、ようやく、心を開いた人物に、興味があるのは、当たり前だ。

「もちろんよ」

「大丈夫なの?」

再度、母親は、念を押した。

「大丈夫」

澪は、返事した。

シーイ。事、海が来る。

シーイの声が流れる。

姿は、撮影NGだけど、シルエットの撮影だけでも、十分だ。

公園以外で、会えるのは、初めてなのだ。

企画室の女の子達も、一緒に行ける。

そう、澪は、思っていた。

だが、この企画。

高岡が、考えたものだった。

実際、シーイが現れる事はなかった。

だって、シーイは、別の誘いを受けていたから。

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