確信
ライブは、成功だった。
フラメンコとのコラボが良かった。
母親のアイディアも、棄てたもんじゃない。
楽屋に戻ったら、真っ先に母親に電話しようか。
そんな事をしたら、先ほどの女性に、がっかりされるだろうか。
「あの・・・終わるまで、待ててくれますか?」
もう少し、話したいと思った。
目が見えないんだと思った。
それでいても、それを感じさせない振る舞い。
自分の能力で、世界に向かおうとしている。
今まで、自分に寄ってきた女性達の中に、そんな子がいただろうか。
興味本位で、近づいてきた子。
自分の父親の七光に近寄ってきた子。
とにかく、興味を惹く子はいなかった。
部屋に戻ると、ガランとしていて、室内の温度すら、冷たく感じてしまう。
「帰ったのか・・・」
待っててくれると思った。
まさか。きっと、ライブを見てから、また、戻ってきてくれる。
そう思ったが、そんな感じはなかった。
スタッフが、お祝いの言葉や差し入れを持って、訪れるだけだった。
「・・・しばらく、こっちにいる」
母親に連絡した。
父親の生まれた国で、活動してみたい。
「パパは、帰りたがっていた」
電話の向こうで、母親が話していた。
「パパの生まれた街を見たい」
母親が、よく言っていた。
一緒にくればいいのに、と言うと、仕事が詰まっていて来れないと言う。
それなら、僕が、代わりに見に行って来る。
蒼は、そう答えた。
祖父母の顔も、見てみたい。
「それで・・・そちらで、お世話になる社長さんは、どうだったの?」
母親の質問に、蒼の声が弾んだ。
「思った通りだった。雑誌で、見た事があるけど、魅力的な人だったよ」
蒼は、自分が興奮している事に気がついた。
「どうしたの?嬉しそうね」
蒼の様子に、母親は、気がついた。
「いい人なの?」
「多分・・・そう」
その叔母さんは、怪しいけどね。そう言いそうになるのを堪えた。
「・・・それと、謝らなければいけない事があるんだ」
「どうしたの?」
母親に、取り違えたバイオリンの事を言おうか、迷った。
言わなければ、バレた時に、大変な事になる。
「あの・・・大事にしていたバイオリンだったんだけど、不思議な事があって」
「なあに?」
蒼は、ライブ前に、バイオリンを取り違えた事。ケースに同じイニシャルがあった事、ライブで、弾いたが、思いの外、言い音色で、好評だった事を伝えた。
「同じ・・・イニシャルなの?」
「そうなんだ。僕も、うっかり、見間違えた」
「そんな事があるなんて・・・」
母親は、言葉を失った様だ。
「蒼。やっぱり、そちらに行くわ」
「え?」
さっきまでは、行けないって言っていたじゃないか?
「どうしても、そちらに行って確認したい事があるの」
「別に、構わないけど」
慌てた様に、切れる電話。
取り違えてバイオリンを巡って、様々な事が起こり始めていた。




