表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトラーが告げる  作者: 猫提督
収容所の怪
33/39

ベルリン

1958年 ドイツ第三帝国 ベルリン




 苛立った表情のままに総統府官邸の廊下を歩くハインリッヒ・ヒムラー長官は、「執務室」の扉前に立つと、そこにいる守衛をどけて中に入っていく。


 「これは、一体どういう事だ!」


 ヒムラーの目の前にいる男は、総統たるアドルフ・ヒトラー以外が座ることのなかった革張りの椅子に腰かけている人物に大声で尋ねる。


 「これは、親衛隊長官殿。いったい何の御用でしょうか?」


 椅子に腰かけた男は、ヒムラーに対して馴れ馴れしく話し始める。


 側にいた顔に傷を持つ男は、ヒムラーに向かって冷たい眼差しを送った。


 この二人こそ「総統の子供たち」計画に所属する機関の主要人員であるボルツ・ダーヴィトとカイ・パルナバスであった。


 彼らは、アドルフが動けない時や代理などをすぐに準備できない時などに親衛隊とともに活動する特務機関の一つであったが、次第に表舞台にも影響力を持つようになった。


 そのためか、ドイツ上層部にもかなりの発言力を有しており、「第二の親衛隊」とも揶揄される組織となっている。


 アドルフ亡き後の代役は、先にルセフ・ヒトラーたちが処理したクローンを使って対応したが、ルイス・シャイドルが強制変異コードを入力した事により、全ての模造体が消失してしまいった。


 ベルリンに居た模造体は、国会において討議を行っている最中に倒れてしまい、そのまま体が溶けてしまっていたことで、大問題になっていた。


 「総統が死亡した」という話は、親衛隊が止める事もできない位に拡散しており、ドイツ国内では混乱が起こっていた。


 「彼の死を隠すことは、これ以上できない。副総統や宣伝大臣にもこれ以上は、抑えられないぞ」


 ヒムラーが額に汗を浮かべながら最悪の現状について”子供たち”に伝えると、ボルツが立ち上がってヒムラーを見つめた。


 「総統は、あきらめましょう。今後の政治運用については、我ら『総統の子供たち』にお任せを」


 「な!貴様にだと」


 ヒムラーが震えるこぶしを机に叩きつける。


 彼のこぶしに反応してかカイが懐に手を伸ばす。


 痛々しいやけど傷が彼の片目にまで伸びており、異様さを助長していた。


 「我らは、生前の総統閣下にも信用されている機関です。親衛隊がいかに抗議しても、私たちを止める事はできないですよ」


 「貴様ら・・・・」


 ヒムラーは、総統の息子たちにへ抵抗しようとすると、扉を警護していた守衛に連れ出された。


 「ヒムラー長官。今後は、我らのためにご助力くださいね」


 ボルツが笑顔で見送ると、席から立ちあがって総統府の端置かれている布のかかったに手をかける。


 「長官では、この計画は進められませんからね。カイにも頑張ってもらいますよ」


 「承知しております」


 そう言って、目の前にあるショーケースを見つめる。


 「全ては、偉大なる帝国のために」


 「1000年帝国繁栄のために」


 二人は、そう言って目の前に作られた新生帝国首都「ゲルマニア」のミニチュアの前でほくそ笑んだ。


 不審な動きをしている総統の子供たちとは別に、政局内を動き回っていたルドルフ・ヘスは、完全に引退をしていた元副首相フランツ・フォン・パーペンの屋敷を訪ねていた。


 「これは、珍しい。ヒトラーの古女房が、わざわざこの家に来るとはね」


 フランツが手に持ったコーヒーをルドルフの前に置く。


 「先生も長年ドイツの尽くしてくれていた重鎮です。私よりもこの国を愛していらっしゃるのでは」


 ルドルフがそう言ってコーヒーを受け取ると、フランツに一枚の紙を手渡す。


 「・・・・親衛隊ではないのか?彼らは一体何者なのだ」


 「総統閣下が亡くなって以降、この国のかじ取りはすべて親衛隊と彼らが仕切っています。治安機関は、完全に彼らの言いなりになってしまい、軍の者たちもどこまで頼れるかわかりません」


 フランツは、しばらく頬を撫でてからルドルフの顔を見る。


 「内部組織が頼れない時は、よその連中を頼るものだ」


 「ですが、我が国の外交状況から考えるに、ユーラシア大戦以前のような関係ではございません。いったいどこの国を頼れというんですか」


 「我が国が、外交的に孤立しているのは知ってい。だが、それはどこの国もであろう」


 フランツがそう言って、勢力図を広げながら続ける。


 「欧州においては、我が国とイギリス、ソ連の三つ巴になっているがその実、仕切っているのはアメリカだ。奴らは、自身の国が有利になるように動き回っている。奴らを使えば、彼らも黙っていなくなるだろう」


 この頃のアメリカは、大戦に参加しなかったことで、国内においの不満分子がドイツ第三帝国か大日本帝国への戦争を計画していた。


 その為か、大日本帝国やドイツ第三帝国の協力・傀儡国家にCIAやNSA職員が潜伏しており、諜報活動を行っていた。


 「アメリカを利用するにしても、奴らの思い通りに動かれてしまう訳にはいきません。抑えの組織が必要になります」


 「そうだな。SSのように動ける組織で、ヒムラーなどの影響を受けていない組織を作るとなると、かなりのコストが掛かるな」


 二人が困った顔をしながらしばらくの時間を過ごしていると、不意にルドルフが思い出したかのように声を上げる。


 「そうだ!いますよアメリカの力を借りないで動いてくれるまとまった組織勢力が」


 「一体誰だね?」


 「今は、このベルリンにおりません。ですが数万の訓練された兵士を集めることができる人物ですよ」


 ルドルフは、その人物についてフランツに話した後、彼はルセフについて説明した。


 「・・・・彼にそこまでの政治が出来るのかね。アドルフには他を引き込める演説力と政治的センスがあったが」


 「彼ほどのセンスがあるかは、わかりません。ですが、彼の後継者として指名さている人物では、あります」


 ルドルフに伝えたフランツは、しばらく腕を組んで沈黙すると奥の本棚に向かって歩いていく。


 「この帝国は、戦争と混乱を繰り返し、安定期と呼びる期間は少ない。これは、我が国定めなのだろうが、今回の戦争での死者の多さに見合うことを我らがせねば歴史の笑いものとなろう」


 「だからこそ、彼に期待したく思っているのですよ」


 二人が見るベルリンの町にかぶる黒い雲から淡い雫が降り始める。


 まるで、これから起こりえる混乱により、大勢が流す涙のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ