第63話 アオバとサクラの鬼ごっこ
レン君が帰って行ったあと、私は設定画面を開き、アオバに姿を変える。
「アオバさん、今日の特訓も、よろしくお願いします!」
白衣を脱いだサクラは、セーラーカラーのコスチュームの襟を整える。
「……いや、サクラ。今日の特訓は、無理にとは言わない。」
「?」
首をかしげるサクラを見ながら、私はボロボロでメーメー君と戦っていたかつての彼女と、イベント中にレンやジョーと笑いあっていた彼女、そして打ちひしがれた様子でここに来たレンを心配そうに見ていた彼女を思い出す。
「サクラ……お前は、ここ最近でずいぶん強くなった。最初に会った時とは、比較にならないくらいに。そして……何といったものか、もう、後戻りがきかないところまで来つつあるんだよ。今お前がいるところより先は、殺意やたくらみ、妬みや辛さが渦巻く世界だ。今とは別世界といったっていいかもしれない。子供だからと言って手加減はしてくれない。倒せる敵も増えるが倒せない敵も増える。さっきのレンみたいに、潰されてしまうこともある。そんな世界……お前が足を踏み入れたいなら、私は止めない。そんな苦労、そんな気持ちは、あまり味わってほしくないから……。」
知らず知らずのうちに下を向いてしまったようだ。ポンと肩に手を置かれ、私は顔を上げる。
「そんなことですか、アオバさん。私が、メーメー君と戦った時から、ずっとわかってたことじゃないですか。」
「いや、想像よりもずっと……」
「それは、私が勝てない敵を相手にしたときのものと比べて、どれほどのものだとおもいますか?」
「……。」
年齢制限の関係から、サクラは恐らく、飛び散った自らの血を見てはいない。しかし、自分の攻撃は相手に届かないのに相手の攻撃で自分の身が傷つく様子は、わかっていたのではないか。
「もう、あの日、『ビーチ』に入りたい一心で、メーメー君に挑んだ日から、すべては決まってたんです。」
……こういう雰囲気に、メーメー君って単語は不適切すぎやしないかい?
「それに……私は約束したんです。」
腰のフルーレ剣を抜き、真横に突き出した。
「必ず、レンに見合うような強さを持って、バトルするって……!」
「……ふっ、そうか。恋というのは人を強くするな……。」
「え、恋じゃないですよ?」
「へ?でもさっき、レンが『好き』って……」
「あれ、ライバルとしてって意味だったみたいです。でも、私はそれでも、すごい嬉しかったんで。」
「ふふふ……いいじゃないか!よし、最後の特訓に行くぞ!」
「はいっ!」
「ミャーン!」
猫のシキが、しっぽをピンと立てて見送る。その雰囲気にどこか見覚えを感じ、私はドアに向きかけていた視線をシキに戻すが、彼(彼女かもしれない)は、もう普通の猫のように、背中を丸めてそっぽを向いていた。
ドアを開けると、庭にはステルスをかけられたメーメー君がいる。サクラによると、この毛にもどうやらシールド系の薬効があるらしい。来週末はたっぷり準備期間に当てようと思ってるから、その時に毛刈りだな。
「メーメー君、私強くなってくるですよ!」
ちょっと前は殺意むき出しでにらんできたメーメー君も、今ではサクラが鼻先を撫でたら気持ちよさそうに目を閉じている。平和は動物を変えるらしい。
「…あれ?そういえばアオバさん、何で無理に訓練しようと思ってなかったのに変身したんですか?」
「そっ、それは…個人の鍛錬で…」
雰囲気づくりなのは内緒。
森についた後で、サクラに課題を伝えた。
「今から私は森のどこかへ姿をくらます。10秒間数えてから追いかけて、模造剣で刺せ。私に当たったらその時点で終了だ。」
「はい。」
「そして、これがその模造剣だ。」
サクラに自作のフルーレ剣を渡す。
「何か不格好じゃないですか?」
「……まぁ気にするな、間合いは一緒だ。」
「……では、いきますよ。10、9、8……」
私は「透明化」と「気配消し」、それから草の音を消すために「ドッティング」を使って地面から少し上を走り、サクラから離れていく。私のスキルも、ちょいちょい練習したりしてるから、実は結構練度があるのよ。
そろそろ10秒経つか。
私は「ドッティング」を解除し、「気配消し」を少しだけ緩めて辺りを歩く。
サクラの気配は……今のところ、なし。
辺りを警戒しながら歩いていく。
ここの森も、初心者向けの難易度なので、今の私やサクラのレベルで倒せないモンスターはいないといっていい。例外はメーメー君。彼はたぶん、ゲームの初期設定でここに棲んでいたんだろう。初心者ダンジョンの裏ボス的存在だったんじゃなかったかな。今整体院として使っている「廃病院」を探索して毛皮と彼の関係性を考察しない限り倒せない。そんなヤバいボスだから、きっと出現確率は低い。練度が低いうちに、倒し方を知らないうちに出会ってしまったならアンラッキーというしかない。でも、私もサクラも、まだまだ始めたばかりのうちに遭遇した。しかも二人同時に。
これは何かしらの縁があったのかな。
ひかれあうものが。
ヒュッ!
「!!」
何かが私の後ろから突き出された。反射でよけるが、それは右腕をわずかにかすった。
「……あ、外しちゃいましたね……また10秒、数えます……。」
「あ!?え、サクラ!?」
「はい。アオバさん、何か気配がずっと停滞してたので、狙い目だなーって。でも、あと一歩届きませんでした……」
「……いいや、さっきのは確かに、私の腕をかすった。かすっても、当たりは当たり。もう、十分だよ。さ、整体院に戻ろう。今日は終わりだ。」
「はい!」
この子、下手したら私より強くなるぞ……。
恐怖と期待を抱きつつ、私は整体院への帰路に就いた。
連載1周年!やったね!
で、思ったんですが……
しばらく休載して書き溜めに徹しようと思います。
あんまり間隔開きすぎると、ストーリー忘れちゃうでしょうし……。
再開するときにはあらすじも載せておきますので、その部分から読み始めてください。
今後は、怒涛の更新→休載→また毎日更新のような流れになると予想されますが、また読んでいただけると嬉しいです。




