第1話 ベッドの上で目覚める。
R15作品を初めて投稿しました!
楽しんでいただけたら幸いです。
目を覚ますと、知らない天井があった。
……天井?
私は、薄くほこりの積もったベッドから身を起こした。
……ベッド?身を起こす?
辺りを見回すと、ひっそりとし、色あせた空間。
……えええ!?
ちょっとまて、ゲーム開始からいきなりバグとか勘弁してちょうだいよ!
本来なら、ゲームを始めて最初の出現地点は街の中央広場のはずでしょ!?
何でこんな人気のない場所に転移してんのよ!
とりあえず静かに息を吐き、落ち着く。混乱していいのは1秒まで。そのあとは、慌てるのではなく状況を見て、次にやることを考える。今回のケースは……開始地点がずれたから、ほかにもひずみが起きているかもしれない。それらがないか確認しよう。
自分の体には、共通初期装備の簡単なアーマー。ログイン前にホログラムで見たデザインと一緒だ。ベルトにつられた革袋には、両刃の短刀が入っていた。これも、ログイン前に選択した装備と、何ら変わりはない。アーマーを押し上げるのは、現実より盛った胸。現実がぺったんこという意味では……断じてない。胸の上にふわりと波打ってかかっている髪の毛は明るい栗色だ。両手は雪のように白い。顔は確認できないが、肌と髪の色が選んだものと同じなところを見ると、顔にも違いはないと考えていいだろう。自分を鑑定してみると、認識下に、
名前:コユキ 女
という文字。スキルも何もなく、情報としてはかなりそっけないが、こちらにも不具合がないことがわかった。
インベントリには、初期装備の地図と、わずかばかりのゴールドが入っている。
……ふむ。おかしいのは転移場所だけのようだ。ひとまず安心。
ところで、ここは一体どこだろう?見た感じ、病院のようだけれど……。
インベントリから地図を出すと、ほどなくして自分の所在地を示す点が表示された。街の広場からはやや離れた、白く四角い建物の中だ。ここはどこだろう、という風にその建物を認識してみると、
廃病院
以前は腕がいいと評判の病院だったが、院長はじめとするスタッフが突然行方不明になり、廃業となってしまった病院。一度入ると二度と出られないといわれている。
と出た。つまりいわくつきのスポットだったわけか。大体のゲームでは、こういうところにはレベルの高いモンスターがいて、経験値やらアイテムやらががっぽがっぽ手に入るもんだけど……
さすがにこの初期の初期から始めるには荷が重すぎる。
よし、決めた。ここから出よう。
立ち上がって目の前のドアを開ける。その先の部屋には、小さな丸椅子が散乱していた。もともとは待合室だったのだろう。ということはさっきまでいた部屋は診察室ってとこかな。そういえば、私が寝ていたところも、もしかしたらベッドじゃなくて診察台として置いてあったのかもしれない。
そして、その部屋の一番向こうには、ちょっとしたベルのついた扉!
何だか喫茶店みたいとかどうでもいい!とにかく、ここから出られる!
喜び勇んでドアノブに手をかける。ガチャリと回る手ごたえを感じる……が、ドアは開かない。
鍵がかかっているようだ。鍵はこの病院のどこかにある。
ご丁寧にガイドが表示される。おいこらちょっと、私、ここから出られないじゃない。あー、ゲーム開始からこんなに詰むなんて……
……ん?
ここって、いわくつきダンジョンなんだよね?ちょっと、おかしいような。
まず、2つも部屋を見て回ったのにモンスターが1匹もいないこと。ダンジョンなら、普通は雑魚の1匹や2匹でもいそうなもんなのに。そして鍵がかかっていること。誰かが入ってクリアしたら、再び鍵がかかる仕様?それともまだ誰もクリアしたことがない?
後者は考えづらいけどなあ。このゲーム、ひと月まえに発売されたから、やりこんでいる人がいてもおかしくないのに。
でも出られない以上は、内部を探索するしかない。
はあ……なんでこんなトラブルに……。
ため息をつきつつ、私は診察室へと引き返した。