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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ3 ユーストル決戦偏 全36話

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184/193

第173話『任務終了』

『こちら宮殿前です。見ての通り宮殿の左棟が崩落して瓦礫の山が出来ています!』


 ユーストル時間十八時十五分。

 時差によってまだ地平線に明るさが残るイルフォルン。システムが復旧したことで四週間ぶりに都市全体に明かりが灯り、漆黒の夜は終焉を迎えた。

 しかし、静寂とは程遠く、イルフォルンの中央に位置する宮殿には大勢の苦難を生き延びた人々が集まっていた。


『爆発があったのはシステムが復旧した十二時四十分から、一時間十五分後の十三時五十五分ごろ。宮殿からは十二時五十分に警察にテロリストに襲撃を受けていると通報があり、警察の特殊部隊が宮殿に突入を試みましたが出入口が全て封鎖されて立ち入れられませんでした。建物全体で防弾使用になっているためで、警察はドアを開ける工具の準備をしていたところ、左棟が爆発しました』


 テレビ局はその仕事柄システムダウンしてもアナログで仕事を続けており、多種多様ある数多の民間の業種の中では比較的早く復旧から仕事に乗り出していた。

 全世界ブラックアウトと言う特大のニュースを、どこよりも早く放映しようと大手テレビ局は動くも、その一時間後に宮殿が吹き飛ぶと言うどちらが上か即答しずらい事件が続き、テレビ局は総出で報道をする。

 イルリハラン王国の大半のチャンネルで報道するのは宮殿爆発による報道で、その他はユーストルについての報道だ。


『現在警察、消防、軍による救助作業が行われています。情報では襲撃当時、ソレイ陛下は宮殿内にいたとのことです。ソレイ陛下の安否は未だ判明していません』


 宮殿周辺には大量の光源が設置されて照らされ、日が暮れても宮殿だけは昼間のように明るい。そこでは大勢の人々が地面に崩れ落ちた瓦礫を、フォロン搭載のリフトや重機を使って持ち上げてどかしていた。


『消防の発表では中央棟と右棟の捜索でソレイ陛下、ラネス王太后は発見されていません。左棟には執務室があり、そのことから左棟にいた可能性が高いとのことです』

『おい、この瓦礫を先にどけてくれ!』

『ここ気を付けろ、まだ電線に電気が通ってる』

『電気は止まってるはずだろ』

『別系統なんだろ。電気局に連絡してくれ』


 などとがれきの撤去作業に関わる人々の掛け声が飛び交う。

 テレビでは映されないが、少し離れた広いスペースの地面にはテロの被害に遭って亡くなった宮殿職員が横になってシーツが被されている。


『爆発から四時間二十分が経過しており、若年のソレイ陛下の体力が心配されます』

 レポーターの締めくくりに合わせて、画面はスタジオへと変わる。


 どのテレビ局も四週間ぶりの再開ともあって突貫の雰囲気が見え隠れしていた。キャスターも急ごしらえでスタジオ入りして、数時間の間で入手した国内、各国、ユーストルの情報を世間へと伝えている。

「ソレイ陛下とラネス王太后。そして生き埋めとなっている宮殿職員の救助が急がれます。防務省から入りましたユーストル情報です。防務省は日本からの連絡を受け、ユーストル内での戦闘行為は終了したと発表しました。元凶のテロリストであったチャリオスは我が国のラッサロン浮遊基地と日本との合同軍事行動によって無力化した模様です」

 実際はより複雑な経緯が防務省より伝えられているが、それを説明するには難しいため簡易的な内容に留める。

 過酷な原始的生活を四週間を過ごし、復旧後に宮殿爆破に加えてチャリオス本島が転移して大爆発を起こした、などと詳細な説明が必要な報道はさすがに出来ないのだ。

 もちろん詳細な内容はするが、それは専用の特番を構築してである。今は「何が起きた」のかを伝えるのが先決だ。

「ユーストルにはチャリオスの誘導によってムルートが一羽入り込んだとのことです。ムルートは現在ユーストル内を遊弋しており、ラッサロンはムルートから五十キロ離れた位置を維持し、日本はムルートには手を出していない模様です。ですが軍事行動上五十キロ以内に入らざるを得ず、条約に加盟していない日本は五十キロ圏内で活動を継続しています」

 少々棘のある報道だが、ムルートは世界的に共有された聖獣で聖獣と定めるミストロ教を信仰していない国ですら立ち入らないようにしている。それを無視して活動するのだから中立であってもやや批判的な文言となる。


 ただ、全世界ブラックアウトと言う非常事態から脱却に大いに貢献したのも日本だ。その引き金が日本首相の会見だったとしても、遅かれ早かれ起きていた事態。世界的宗教の聖獣への対応は、世間の疲弊と脱却への貢献と絡まって黙認と言う雰囲気が広まった。

 ミストロ教総本山であるアヴラも立て直しが急務で、ムルートへの対処も優先順位ではトップであるが日本が率先して駆除に乗り出さないことを過去の実績から予期していた。

 もちろん戦場で邪魔となれば駆除したとなればアヴラと日本は決定的に決裂してしまう事案となるが、幸いムルートが邪魔になる前にチャリオスが無力化出来たことで日本も手を出さなかったことで、世間同様沈黙して注視するに留まった。

「続きまして各国の情報です。全世界ブラックアウトが開けてから五時間半が経ち、各国の状況が少しずつですが入ってきています。シィルヴァス共和国は各浮遊都市で暴動や内乱が発生。軍による一部離反で内戦が発生しています。首都のテオロールは内戦によって地面に墜落し、大統領以下閣僚は死亡。他の浮遊都市にいた生産相が大統領を継承しました。メロストロ合衆国も同様で、燃料不足によって多くの浮遊都市が地面に落下。大統領以下閣僚は巨木林都市に政府機能をを移して政権運営をしています」

 各国それぞれで尋常ではない犠牲者が出ているだろうが、アナログで集計するには各都市で距離が離れていて困難な上、回復してもすぐに把握するには情報が錯綜している。

 正確に数を集計して公表するには数ヶ月は掛かるだろう。国家の威信や面子を気にして公表すらしない国もいるはずだ。

 そして被害規模は先進国であればあるほどひどく、新興国が中規模。後進国が軽微である。

 システムがアナログからデジタルに置き換わり、そのデジタルがネットに接続されているほど被害が大きいからだ。

 皮肉であるが、このブラックアウトによって各国のパワーバランスは多少の違いはあれど横並びとなった。


      *


「どこだ……どこにいる」

 百名を超える人々が山となった宮殿の瓦礫を撤去する。

 割合としては救助に特化した消防が多く、次に警察。最後に軍人だ。三者全てが所属が違うから連携が難しく、いたるところで指揮系統の混乱が見られた。

 その中で唯一と言っていい三者とはまた別の小部隊も救助作業に参加していた。

「隊長、少し休憩をしてください」

 ヘルメットについているライトで瓦礫の山を一部照らしつつ、ラビオトは四時間以上休むことなく瓦礫の撤去をしているリィアに問いかけた。

「俺はいい。お前たちは適度に休憩を挿め。俺はエルマ達を見つけるまで続ける」

 ネムラが仕掛けた爆薬は、抜け道の扉を開けるだけでなく左棟を吹き飛ばすほどの威力を持っていた。量と威力が釣り合っていないから式典会場を爆破した新型爆薬であることは容易に分かる。

 爆心地から距離にして数メートルと離れていなかったにも関わらず、リィア達六名が無事だったのは、ひとえにコクーンのおかげだ。

 通常の爆薬以上の威力でもデッジロット以下の貫通力であればコクーンはその中身を守る。さすがに爆風によって宮殿の外に弾き飛ばされてしまったが、熱と衝撃波からはリィア達は守られて生存を果たした。

 それからは瓦礫の撤去兼救助作業をひたすら行っている。

「いやいや、五分でもいいから休憩してください。じゃないとエルマ達を見つける前に隊長が潰れちまうよ」

「今まさにエルマ達が潰されてるんだ。五分でも休んでられるか」

 言いつつリィアは自分と同じ体重はあろう瓦礫を両手で持ち、全力で浮遊して安全な場所へと投げ捨てる。


 すでに電熱ベストのバッテリーは尽きていた。充電をしようにもシステム復旧したばかりと、発電機は他のに回されてコンセント一つ確保するのも困難な状況で、よって自力での浮遊をせざるを得ず、リィアは補助なしで何トンもの瓦礫を撤去していた。

 基本的に生体レヴィロン機関のみで持ち上げられるのは自分の体重と同じくらいで、それ以上は筋力量によって増大していく。

 自分の体重のみならば持続時間である体温は新陳代謝で維持できるが、自分の体重の倍を持つとなると体温をより持っていかれて空に立つことも難しくなる。

 そのための電熱ベストなど補助具なのだが、リィアはそれを無しで四時間以上酷使し続けていた。常人であれば空に立つことは困難で体温を温めることを優先される。

 しかしリィアは軍人として鍛え上げた肉体で、常人以上の活動を無理やりねん出していたのだった。

「隊長……」

 ラビオト他五名は順次休憩をしながら救助作業をしている。しかし水や食事にはありつけておらず、全員呑まず食わずでの作業だ。休んでいても疲労が抜けてる様子は見えない。

 システムが復旧しても上下水道はまだ時間が掛かるだろう。システムが大きいほど復旧には時間が掛かる。その一つである浄水施設は四週間止まっての稼働では飲料水としてはまだ使えない。出来れば水くらいは飲んでほしいが、ある意味部外者であるリィア達に回せる水や食料は無かった。

 リィアが無理をしてでも作業を止めないのは他にも理由があるも、命がけの任務を果たしてくれた部下には休んでほしい気持ちもあった。


「……これは重いな。レヴィロン機関を貰って来て持ち上げるしかないか」

 大きな瓦礫が邪魔をする。数百キロはありそうで一人では持ち上げられそうにない。

 レヴィロン機関を対象にネジ一本でも固定出来れば浮遊して持ち上げることが出来る。実際、救助活動でもキューブ型の素体レヴィロン機関を用いている。

 リィアが周囲を見渡すが、消防や警察もレヴィロン機関よりは自身でがれき撤去を行っていた。レヴィロン機関を回す余裕もイルフォルンにはないのだろう。重機も三機と多くない。

 リィア達は早期にラッサロンの復旧に入っていたから分からなかったが、四週間の原始的生活は相当大変だったのがうかがえる。

「みんな、これを一気に持ち上げるぞ」

 気づくと休憩に入っていたラビオト達五人が集まってきて数百キロはあろう瓦礫の縁に手を当てた。

「お前ら……」

「せーのっ!」

 六人は同時に腕に力を込めて自身を上昇させる。疲労や体温低下が合わさって持ち上がったのは十数センチだ。それでも持ち上げられて、六人は横にスライドさせて放置場へと落とす。

「はぁ……はぁ……」

 体温を一気に持っていかれてシバリングが始まる。寒さで手が震え、上半身も増えだしてしまった。

 これ以上は危険だと本能が訴えてくるのが分かる。

「隊長、これ以上は本当に危険だから休もう。体動かしてるのあんただけじゃないんだから」

「……分かった」


 本音を言えば動かしたいが、精神が肉体を上回れないのが嫌でも伝わる。精神は肉体を時には凌駕して限界を超えるも、その限界を超えているからこれ以上は死も視野に入ってしまう。

 なにせ昨日のチャリオス本島潜入から一睡もしていないのだ。訓練で極限状態で不眠不休での行動は幾度としても、実戦と訓練ではその密度が違う。

 部下たちも精神的に限度で、これ以上わがままを言えばキレて口論にもなる。それを察してリィアは部下の意見具申を聞き、撤去しなければならない瓦礫の上に腰を下ろした。

「ふぅ……。ラビオト、指揮は任せる」

「了解。ヤリット、なんとかレヴィロン機関と飲み水を手に入れてきてくれ」

「分かった」

「マルバント、テジ、マンローは俺と一緒に大きめの瓦礫を取り除くぞ。マルバント、いつまで壊れたデッジロットを持ってるんだ」

「壊れた物として持ってかれたらどうする」

 デッジロットは宮殿を半壊した爆発によって破損してしまった。本体がひん曲がってしまい、もう二度とライフル以上、バスタトリア砲以下の銃弾を発射することは出来ない。

 だが既存とは違う超技術が盛り込まれているから、下手に於いていて処分や持ち去りをされないようにマルバントはそれを背負っていたのだ。壊れていてもこれを調べるだけで新兵器がいくつも出来るだろう。だからこそマルバントはそれを手放さない。

「マルバント、デッジロットは俺が預かるから作業を続けてくれ」

「……了解」

 マルバンドは背負う四メートルもあるデッジロットを瓦礫に座るリィアの隣に置くと撤去作業に戻っていった。

 手は震えている。体温が下がったことで上げようと無意識に震えているのだ。


「エルマ……ソレイ陛下、無事でいてくれ」

 リィア達はソレイ王を守るために一万キロ以上転移して来たのに、それが果たせなければ何のために来たのだ。

 任務失敗に言い訳はない。任務の達成難度が高かろうが、不意のトラブルがあろうが、軍人はあらゆる困難を乗り越えて成功しなければならない。

 宮殿を守ることには失敗しても、本命である王の命は助ける。

 ガンビ、フォーラ。この戦いで戦死した人々。お前たちを死なせてしまった上官は恨んでいい。代わりに王たちの命は守ってくれ。

 リィアは体を震わせながら情けなくも虚空に祈った。

 部下たちが突入する前、例え誰がどんな形で戦死したとしても恨まないと誓い合っていたことは知っている。しかし、上官として死なせてしまった責任から逃れるわけではない。

 だからこそ祈る。未来を紡ぐためにもこれ以上の犠牲は出さないでくれ。

「……おい、何か音が聞こえるぞ!」

 テジが瓦礫に頭を近づけ、大声で叫んだ。

「何か叩く音だ!」

 その音に周囲の人々が集まってくる。リィアも向かった。

「間違いない。ここで何か叩く音がする」

 指さし先も瓦礫だらけだ。しかし何かがあると分かれば動きやすい。救助のプロである消防の救助隊が工具をどかし、集まった人々らも瓦礫を集中的に取り除いていく。

「隊長、デッジロット貰います」

 とマルバントが言いながら近づいて来て、リィアは手に持つ今では邪魔物であるデッジロットを渡した。

「行って」


 救助に誰よりもどん欲に動いていたことを知っているからこそ、マルバントは出番を譲ってくれて、リィアは邪魔と言われようと救助作業の最前線へと向かった。

「閉じ込められているのは俺の部下だ。通してくれ」

 確信的にエルマはソレイ王のそばにいると分かっていた。リィア達が捜索していたのは執務室があった場所で、その近くの抜け道にいるならば可能性が高い。

 よって音の発生源はエルマ達だと、リィアは妄信的に分かっていた。

 救助隊員が瓦礫にレヴィロン機関を取り付けては持ち上げ、人力で持てるものは人海戦術で運んでいく。

 リィアも手伝いたかったが、日が暮れて気温も下がったのに加え、まだ基礎体温も下がったままだから浮遊しているのでやっとだった。

 何か叩く音が聞こえて来た。

「おい、誰がいるか!」

 救助隊員が叫ぶ。声での返事はないが叩く音が返って来た。

「喋れないのか!?」

 帰ってくるのは叩く音だけだ。

「何か箱の中に入ってるのか?」

「机の下とかなら声は通ってるだろ。打撃音だけだと密閉した個室か?」

 救助隊員は宮殿の見取り図であろう地図を取り出す。

「だがここら辺に密閉するほどの個室なんてないだろ」

 そう話し合いながらも瓦礫の除去は続く。

 数分間撤去が続くと、四角い物体が現れた。四角い物体と言っても部屋ほどに大きく、その全てが鋼鉄製の外見をしていた。


「こんなの見取り図にはないぞ」

「ってことは秘密の部屋か! 本当にそんな部屋があるんだな」

 フィクションでよく目にする公式になっていない部屋だ。あってしかるべき程度の存在だったが、抜け道同様避難部屋か秘密部屋か実在していたらしい。

「待て、もしこの部屋にいるのが陛下たちだけでなくテロリストもいたらどうする」

 誰かが疑問を投げかけた。

「それはない。テロリストは俺たちが相手をしたが、そうした部屋に入る前に爆破した。入ってはないはずだ」

「テロリストを相手にしたって、あんたらどこ所属だ」

 同じ軍人。イルフォルンに常駐している中佐が訪ねる。

「モトレート浮遊基地より治安維持に来た、フォン・ロー・ハーケット大尉です」

 リィアは嘘の身分を説明する。

 なにせリィア達は世間一般では式典会場爆破に関与していると疑われているのだ。馬鹿正直に説明した暁には身柄を拘束されてしまう。

 いまはシステムが復旧したばかりと宮殿が吹き飛んだ混乱を利用して、尤もらしいウソをついてこの場を回避しようとしたのだ。

「モトレート浮遊基地だと? そこから治安維持の補充が来たとは聞いていないが……」

「システムダウンして手続きに行き違いがあったかもしれません。気になるようでしたら基地に連絡を取ってください。経緯については他の隊に説明してあります」

 もちろん全部嘘だ。混乱のどさくさで救助作業をしているだけで誰の許可も得ていない。だが、イルリハラン軍の軍服を着て救助作業としていれば注意は引かない。

 基地に確認を取ろうとしてもその前にエルマ達を助け出せる。

 助け出した先は考えていないが、自分たちの保身より王の安否の確認が優先だ。

「部屋なら扉があるはずだ。そこを探してくれ」

 リィアは中佐から秘密部屋に顔を向けて指示を出す。

「おい、話は終わってないぞ」

「陛下を助けるより優先する話がありますか? 文句がおありなら基地司令に仰ってください」

「おい、扉があるぞ。ここら辺の瓦礫を除けるぞ」

 瓦礫の山から見つかった鋼鉄の部屋は横五メートル、縦十メートルと隠し部屋としては大きい。高さは分からないが数メートルはあろう。さすがに天上の出入り口はないとして部屋の周辺を人々が掘り返す。その中の一画で入口らしい場所を発見。人が群がって集中的に瓦礫を取りのいていった。

 リィアは瓦礫の中から棒状の物を手にし、入り口付近の天井を先端で九回叩いた。

 そしてすぐに耳を天井に当てる。


「なにを……」

「しっ」

 ただの音なら近づけなくても聞こえるが、知りたいのは回数だ。

 ガンガン、と打撃音が返って来た。

 数は十二回。

「よし。中にいるのは味方で敵はいない。脅威は無しだ」

 確認したのはルィルと事前に決めた暗号だ。九回は「安全」で、その返事である十二回は「問題なし」である。

「よし、扉が開くスペース確保。開けられるぞ」

「俺が行く」

 絶対に安全と分かっていても、任務状現場での責任者はリィアだ。同じ公務員である救助隊員でも非戦闘員を先に行かせるわけにはいかず、リィアが率先して部屋と瓦礫の間に出来たスペースに降りる。

 隠し部屋の全高は二メートル。平均的な身長より低いから避難用だろう。宮殿の部屋と部屋の合間だからこうした作りなのかもしれない。

 人ひとり分が通れるほどの正方形の扉には埋没式の取っ手があり、その脇に生体認証用パネルがひびが入りつつも点灯していた。避難用ともあって別電源のようだ。そのパネルの上部にはカメラがあり、そのカメラに映るようにリィアは顔を覗かせた。

 避難用であれば内部から外部を覗いて安全かどうか確認するはずだ。それでリィアの顔を見れば中から開けてくれる。

「エルマ、俺だ。中にいるのがお前ならドアを開けてくれ。ここに脅威はもうない」

 ライトが持ち込まれたのか、頭上から熱を感じるほどの光が注がれる。

 中から鍵が開く音がした。

 ゆっくりと扉が開く。

 大丈夫。暗号で返したのだから中に脅威はいない。

 分かっていながらも自分を安心させる材料を反芻し、空いた扉から出る手をリィアは掴んだ。

「リィア隊長、待ってました」

 出て来たのはエルマだった。傷らしい傷は見えず、爆発があっても汚れてもいない。秘密部屋が守ってくれたのだろう。代わりに狭い扉を通るためかザック類は身についていない。

「よく耐えたな。ソレイ陛下は?」

「いますよ。ソレイ、大丈夫だから出てきて」

 完全に外に出たエルマは振り向き扉に手を伸ばす。同じように伸びた手がエルマの手を握り、幼きにして王となったソレイ王が出て来た。

 瞬間、周囲から歓声が沸いた。

「……任務終了」

 外に出てエルマに抱き付くソレイ王を見て、リィアはボソッと呟いたのだった。



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バスタトリア砲発射からソレイ王救出までの時系列。

12時35分 核爆弾1発目発射

12時38分 核爆弾2発目発射

12時39分 2発目核爆発

12時40分 全世界でシステム復旧

12時43分 復旧を日本政府が認知

12時49分 日本を守る5隻のコクーン搭載護衛艦が爆破

12時53分 チャリオス本島大爆発

13時00分 リィア隊チャリオス司令部に到着

13時05分 チャリオス司令部制圧

13時10分 ルィル合流、703再結成

13時15分 自爆カウントダウン開始

13時27分 ハオラ死亡。

13時42分 リィア達イルフォルンへ転移。

13時45分 ペオ起動。カウントダウン0。チャリオス本島自爆。

13時55分 イルフォルン宮殿左棟爆破。


18時15分 セーフルーム捜索中

18時30分 セーフルーム発見

18時35分 ソレイ王救出

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― 新着の感想 ―
解決まで更新お疲れ様です。 状況終了は訓練だからなので、実戦なら任務終了でもいいと思いますよ。
更新お疲れ様です。 熾烈を極めた救助作業の果てに・・・・ 無事でよかった!! 次回はエルマとソレイの再会の様子と謝罪&状況説明かな? 次回も楽しみにしています。
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