第171話『任務失敗』
ペオ・ランサバオン転移室。
「ルィル、やってくれ」
『ご武運を』
イルフォルンに転移する五秒前。
「いいか、転移したらすぐにコクーンを展開しろ」
リィアはメンバー全員に指示を出す。細かい指示はなくとも、この転移すら予期されたとき用の対策だ。
警戒してし過ぎないことはない。
全員が腕に着けたNichiに手をかざす。
瞬間、メンバー同士の位置は変わらないが周囲の景色がパッと変わった。
なにかエフェクト的な動作があっての転移ではない。文字通りの入れ替えで、リィア達は『移動』した感覚がないまま転移を果たしたそうだ。
場所は資料でしか見たことがないイルフォルンの宮殿内部にある地下指揮所。転移技術の悪用として使われやすい本丸に一気に乗り込むことを奴らがやったのを、リィア達はすぐさま察知した。
そして手はず通りに状況確認の前にコクーンを全員が展開し、目の前に赤い発光と煙が充満した。
予期した通り、リィア達が追いかけて来ることを予想してか何かがさく裂したようだ。音も遮断されてよく分からないが、周囲全てが煙で遮断されるほどの爆弾がさく裂したのがNichiからの振動で分かる。外界と遮断するなかで唯一コクーン発生源だけは外界と繋がるから振動が伝わってくる。
『これは爆弾か』
『一瞬爆弾が見えた。多分赤外線タイプ』
『壁やモニターは穴だらけ。奴らここに来て一気に職員を殺したんだ』
『敵地の司令部に直接来れるって卑怯過ぎるだろ』
『床にたくさんの遺体を見た。一方的だったんだな』
『追い爆弾はなさそうですね』
『陛下を助けに急いできたところで不意打ちってところだろうからな。エルマ、出口分かるか?』
煙が充満していて視界が悪い。転移して一秒も掛からずの爆破だから出口の場所が分からなかった。
『その方向に銃を撃つので発光を追ってください』
エルマがそう返事をすると、視界の端で閃光が一瞬見えた。マズルフラッシュで、短いが閃光の向きで進行方向が分かる。
『コクーンを解除して出口に向かえ』
リィア達の身に着けているNichiが発生するコクーンは、Nichiのバッテリーに依存する。常に体温を使って充電するが、コクーンは毎秒一%の割合でバッテリーを使うから適度にオンオフをしないといざというときに使えなくなる。
バッテリー残量を警戒しながらコクーンを解くと、遮断された煙が自分たちを取り囲む。
息を止め、マズルフラッシュその方向へと進む。
煙の中に光が見えた。
「周囲警戒」
指揮所の入り口に差し掛かり、リィアの指示でメンバーたちは入り口の縁に寄りかかって外に向け銃を構える。
「クリア」
「敵影無し。職員が大勢倒れてる。壁には多数の弾痕。デッジロットと思われる大穴もある」
「コクーンで自分たちは身を守りながら銃撃したのか」
「コクーンの仕様を熟知してる俺たちはともかく、ついさっきシステム復旧したイルフォルンじゃどうしようもないな」
「ここの警備室と連絡を取ってやつらの動きを連絡させろ」
「やるけど、いきなりラッサロンの兵士がいると言って警備室は答えますかね」
「ラッサロン経由で連絡が言ってるはずだ」
「リィア隊長、私は別行動をさせてください」
そう意見具申してきたのはエルマだ。
「理由は?」
来たばかりでいきなり別行動と言われてどうぞとは言えない。隊長として理由を尋ねる。
「ここにはありませんがすぐ近くに秘密の通路があります。ソレイがどこで急襲を受けたかによりますが、執務室で受けたなら秘密の通路に逃げてるはずです。そこは一切記録が残っていないのでエミエストロンで調べることも出来ないかと」
「映画じゃよく目にするが、本当にあるのか」
「知ってるのは王室だけで、警護も存在は知っても道順は知りません」
「お前ひとり行かせられるか。行くなら何人か連れていけ」
情報保全で秘密の通路を教えられないのだろうが、殺りく集団がいる中で単独行動は断じて許してはならない。情報漏えいを考えても今はソレイ王の保護が何より優先される。至上命令と言ってもいい。
「シィン、メオスナ、お前たちはエルマと共に秘密の通路を行け」
「リィア隊長」
「文句は無しだ。これ以上仲間の死は見たくない」
「……了解」
「指揮はお前に任せる。俺たちはデッジロットを持ってる奴らを中心に排除して無力化させる。お前たちはソレイ陛下を救出しろ」
「了解。自分たちはソレイ王の救助に向かう」
「よし、最後の戦いだ。いくぞ」
リィア含め七人は武装集団排除。
エルマ含め三人はソレイ王の救助。
明確な目的を共有し、リィア達は隊を二つに分けで行動に移した。
リィア隊でデッジロットを持っているのはマルバンドで、いつでも撃てるよう撃鉄を起こして引き金に指は掛けずとも水平方向に銃身を構えておく。
「隊長、警備室から連絡来た。やつら執務室に向かってる」
移動を開始してすぐにマンローが説明をする。
「警備は一切手を出すなと言え」
「警備はほぼ全滅。非常警戒システムが発動して全ての窓とドアはロックされ、職員は誰も脱出できないとのこと」
「外からの侵入を防ぐ非常警戒システムが逆に逃げられないようにしたってこと?」
「解除できないのか」
「警備室の話では急襲と同時にシステムが起動。その後システムを壊したのか警備室側でシステム解除は出来ないと。開けるには救助用の器具が必要らしいです」
窓は防弾。扉も同様だろう。攻撃に備えて身を守るシステムが逆用されて誰も逃がさない檻となった。
エミエストロンが健在ならそもそも起動すらしなかったから、奴らはそこまで読んでいたとなる。
本当にこざかしい後出しばかりしてくる。
「いま襲撃犯のいる場所は?」
「二階左棟を移動中。分散は無し」
「人数は変わらず十人だな?」
「はい。デッジロットを持ってるのは三人」
全長四メートルもあるデッジロット。重量はレヴィロン機関で何とかなっても長さによる取り回しにくさはどうしようもない。全員が持てば邪魔し合うから三人が限度としたか。
分散しないのは効率より任務遂行を考えてのことだろう。転移した奴らは十人。そしてここは敵地のど真ん中だ。いくらコクーンやデッジロットで攻防共に強力でも物量には敵わない。ソレイを逃がさず、殺すための戦力を確保し続ける戦術だ。
指揮所は宮殿内の地下にあって一方通行だ。浮遊都市への攻撃も備えて内部に設置されており、当然窓などはない。あるのは気を紛らわせる風景を模した壁紙で、その壁には血や弾痕だらけだ。縦横五メートルある通路の床には数十人もの職員や軍の制服を着た人たちが血の池を作って倒れている。
通路を進み続けると一つの扉に差し掛かった。この指揮所に入るただ一つの扉だ。正確には抜け道があるのだが、そこは見ていないし聞かなかったことにする。
リィアはハンドサインでブービートラップに気を付けながら開けるように指示を出す。
ラビオトが答えて入口へと向かう。
指揮所は政府施設でも最重要施設の一つだ。入室するには暗証番号、指紋、網膜など複数の認証を経て入るのだが、出る分には特に制限はない。
あくまで入るのを妨げるシステムなのだから、出るところまで手間をかける意味はない。もちろんデータ流出を防止する設備はあっても、扉の開閉は簡易なものだ。
よってドアのすぐ横には開閉ボタンのみがあった。
ラビオトは扉に近づき、ワイヤーなど開閉に合わせて起動するトラップがないかを調べる。
「罠はなし。内側も特に細工はありません」
「よし、開けろ」
リィア達は銃を扉に向けて構え、ラビオトはNichiに右手を当てつつ左手で開のボタンを押した。
罠はないとしても油断は出来ず、即座に対応できるようにするも扉は何事もなく開いた。
扉の先は吹き抜けた。合金で出来た壁で真上に伸びている。地面には大勢の警備が落ちて死んでいた。
「ラビオト、そのままコクーンを開いたまま行け」
『了解』
チャリオス本島の時のように無人のデッジロットが吹き抜けの上に待ち構えていることを忘れてはいけない。
ラビオトはコクーンを展開した状態で一気に吹き抜けへと飛び出した。
ゆっくり入っては撃たれるための対処法だ。そしてすぐさま仰向けとなって銃を上へと向ける。
「クリア」
「行け行け」
今この瞬間も虐殺は続いている。時間の猶予はなく、リィアの指示でメンバーは猛スピードで地下から地上に向けて上昇し、リィアは最後から二番目の位置で隊列に入った。
「上に隔壁あり」
さすが重要施設に通じる吹き抜けだけあって、上階の入り口から出口まで直通ではないようだ。二十メートル進んだところで隔壁が閉ざされていた。
「ラビオト」
「了解」
指揮所から出るのと同じだ。入る際には認証コードが必要でも、出る分なら開閉ボタンのみである。
それでも開くと同時に爆弾が起動することも考慮でき、結局何もなかったが見事時間稼ぎに嵌りつつも吹き抜けを抜けた。
「――クリア」
「時間を食った。急ぐぞ」
「ひでぇ、非武装の職員もお構いなしか」
床には指揮所と同じで逃げる背中を撃たれて倒れる男女職員。対抗しようとして武器を構えても効かずに胴体を撃たれて死んだ警備員。
互いに使っているからこそ錯覚してしまったが、片方だけコクーンを持っているとこうも一方的になってしまうのかと改めて痛感する。
意味合いは違うだろうが、争いは同レベルでしか起きないと言うのがよく分かる。
「テロリストが国際条約を守るか」
「隊長、映像では生き残った警備が執務室前で交戦中とのこと。でもわずかな時間稼ぎです」
「急ぐぞ」
マンローの言う通り、遠くから銃声が響いて来る。
リィア達は執務室へと急行した。
床や部屋からは職員のうめき声が聞こえる。
まだ生きている者が多数いるのだ。中にはデッジロットを受けて胴体が真っ二つとなった警備もいる。心情的には助けたいが、それによって本命を失っては意味がない。
エルマも別ルートから向かっているとはいえ、これ以上割く余力はないのだ。
リィア達は宮殿中央にあるエントランスホールへと抜け、そこから二階へと上がって左棟へと向かう。
ここはチャリオスと違って構造が複雑ではない。迷路のような構造ではないからすぐに迎えた。
「隊長、生き残った警備が全員やられた。執務室に入られる」
「マルバンド、射線に入ったらすぐに撃て。マンロー、射線上に位置する建物に対して避難を要請しろ。向かいのビルまで弾が貫通するぞ」
「避難誘導間に合うかな。了解」
執務室まで一直線となる角にまで差し掛かり、まずは様子を見るため床すれすれの位置から鏡で先を確認する。
「ドアを開けようとしてる。デッジロットが一丁こっちを向いてる。距離は三十メートル。高さ三メートルで壁から二メートル。そこに向かって撃て」
一瞬しか見れなかったから人数までは数えられなかったが、デッジロットらしき長い武器が三本見え、その内の一本はこちら側を向いていた。さすがに床すれすれの位置から一瞬見られるだけでは感知は出来ないらしい。角を射抜く攻撃はなかった。
「了解。やられたら次頼むぞ」
マルバンドは一度深呼吸をし、敵側から見えないようにデッジロットを壁に向けて素早く体をスライドさせて通路へと出た。
リィアが指示した場所にターゲットをイメージし、いようといまいとそこにいると信じてノータイムでマルバンドは撃った。
離れた弾丸の初速度はバスタトリア砲には劣るも通常の対物ライフルよりはるかに速い。
そしてデッジロット同士だと人類最速の反射速度であっても後手に勝ち目はない。
気づいた時ではなく気づくよりも前に撃ち抜かれているからだ。
放たれた弾丸は、リィア達ではなく警備を警戒していたスナイパーのコクーンを突破。デッジロットごと胴体を貫き、防弾チョッキを貫通して背後の仲間も同じように撃ち抜いた。
敵が叫ぶ動作をする。コクーンを展開しているのか声は聞こえない。無線でのやり取りだろう。
「次のデッジロットを撃て!」
リィア達の脅威はデッジロットだ。マルバンドはボルトアクションを操作して次弾を装填。四メートルと目立つデッジロットに向けて引き金を引いた。
レヴィロン機関によってデッジロットの持ち運び自体は苦ではなくても、その長さにより取り回しの悪さはカバーできない。
そもそも本来の用途は超長距離をそのフィリアの技術にもないバスタトリア砲以下の速度域による狙撃だ。コクーン越しに撃って身を守りつつ一方的に攻撃をし、さらに狭い室内で運用する前提ではないから、狭い通路での使用は難しいだろう。
逆にリィア側は標準修正するのみだから有利だ。
リィア達が来る予測を立てていたか否かでこの奇襲の成功有無は変わるのだが、エミエストロンを破壊してすぐの転移。宮殿急襲の計画は事前に立てても、想定する可能性に自分たちのデッジロットを鹵獲してやってくるを入れるのは難しいだろう。
だから二発目も無事に発射できてコクーンごと二人を撃ち抜いた。
一発必死の弾丸二発で、十人の内四人を倒した。
貫通力抜群だからこそ人が盾にならない。コクーンも防具も人体も全て撃ち抜いてしまう。
「三人目!」
さすがにここで小銃を持つ他の敵兵から弾幕が張られる。
だが、それが有効ではないことを知っているのは奴らの方だ。
マルバンドはコクーンによってデッジロットごと守られていて小銃では貫けない。逆にデッジロットは自身のコクーンすら無視して撃つことが出来る。
マルバンドは三発目を撃った。放たれた弾丸はマルバンドのコクーンを貫いて相手へと向かい、コクーンは常に流動するからデッジロットが開けた穴はすぐに塞がって小銃の弾丸がマルバンドに届くことはない。
三人目のデッジロットを持つスナイパーを撃ち抜いた。
『デッジロット排除』
「よし」
これで脅威は排除できた。あとはせん滅だ。
『敵、執務室に入る』
執務室に通じる扉が開かれ、生き残った敵兵が執務室へと逃げ込む。
「マルバンド、撃てるか!?」
『執務室に入られた。陛下がどこにいるか分からないから撃てない』
「エルマ、聞こえるか?」
無線で向こうの状況を確認する。
『ザ……ザ……』
無線が通じない。ジャミングだとマルバンドとの通話も出来ないからエルマ側の問題か。
「マルバンドはその場で待機。敵が出たら撃ち抜け」
『了解』
「執務室に突入して敵を排除する。陛下はエルマに任せる」
「敵のなりふり構わない特攻の動き、自身の保身は考えずにソレイ陛下を殺すだけで動いていますね」
「ナノマシンで操られてるのか、降伏しても死刑だからせめて一矢報いるためか」
「降伏がない分やっかいです。自爆も止む無しですから」
「エルマがそれに気づいてるか分からないからな。速攻で決める」
マルバンドの射撃で敵の数は半減した。人数で拮抗した以上優位性はリィア達の方が上だ。
しかし、もしやつらにこの宮殿を吹き飛ばすほどの新型爆薬を持って、負けるとして自爆する可能性もありえる。
その時にコクーンは耐えるのか、どこかに避難しているソレイ陛下に被害は出ないのか。と悪い結末の先を考えてしまう。
だからこそその前に決める。
リィアは装備の中から破砕型手りゅう弾を手にし、執務室の入口の前へと立った。
同時に大量の銃弾が襲い、コクーンがそれを防ぐ。同時にNichiを背後に回すことで破壊をさせないようにした。
執務室では執務机を盾に敵兵が銃を構えて乱射をしていた。そのうちの一人は執務室の壁に向かってなにやら作業をしている。
敵もちゃんとコクーンを展開しているようで等間隔で離れていた。
「奴ら抜け道に入るつもりだ」
「手りゅう弾」
弾幕が切れた一瞬を狙い、リィアはコクーンを解除して手りゅう弾を投げた。
投げられた手りゅう弾は弧を描き、多数の弾幕に当たることなく敵陣へと向かう。
この手りゅう弾の目的は敵の一掃ではない。厄介な防御網を突破するためのものだ。
投げる二秒前に手りゅう弾についているピンと安全レバーを離し、投げて敵陣の真ん中で起爆時間が来るようにして投げたのである。
手りゅう弾が敵陣の真ん中で炸裂する。さく裂したことで手りゅう弾を構成する鉄材が熱と衝撃で砕け、放射状に音速の速さで広がった。
当然コクーン相手では手りゅう弾程度の攻撃にはビクともしないが手りゅう弾の狙いはコクーンを突破することではなかった。
交戦がほぼないことから敵兵のコクーン発生装置の位置は分かっていない。腕時計に内蔵しているのか防弾チョッキに組み込んでいるのか、コクーンの波紋を見ないとそれは判別できないが、共通としてコクーン発生パネルは露出している。そこを物理的に破壊できればコクーンは使えなるのだ。
もちろん全員のがを破壊できるわけではなく、一人ないし二人出来れば儲けものくらいの考えだ。
結果として、二人の敵兵の左手が浮き飛んだ。
「撃て!」
外傷を受けたと言うことはコクーンが機能していない証左だ。リスクを負うも攻撃をする価値はあり、リィア達もコクーンを解除して銃を乱射し、再度コクーンを展開して通路の陰へと隠れる。
「二人撃破。あと三人」
「次手りゅう弾投げます」
「やれ!」
確率論だが銃を乱射するより成功率は高い。ガンビは自分の手りゅう弾を手にしてピンを抜いた。
安全レバーとコクーンを解除して床付近に体を沈みこませると執務室の扉の前へと出て投げるモーションを取る。敵の射線から外れたところから投げて身を守る算段だ。
しかし、投げる直前でガンビが後方にノックバックした。
血しぶきが飛び散り、床から十数センチしか浮いて無かったガンビは床へと倒れる。手に持っていた手りゅう弾が床へと落ちた。
「離れろ!」
ガンビの動きからが撃たれたと直感してリィアは叫んだ。
コクーンを展開しつつリィア達は後方に下がり、手りゅう弾が爆発する。
「ガンビがやられた」
デッジロット以外ではコクーン越しの攻撃が出来ない弊害だ。そして隊長としての判断ミスにリィアは自分を憤慨した。
取り逃がした保険としてデッジロットを待機させてしまった。
すでにこちらのデッジロットへの対抗策はないのだから、デッジロットで一方的に攻撃をしてしまえばよかったのだ。
「マルバンド、デッジロットで奴らを撃て!」
これ以上仲間を死なせない。リィアは反省は後程として堅実的な指示を出した。
マルバンドは待機状態を解除して執務室入口へと向かう。
「隊長、やつら壁になにか仕掛けてます。多分、爆弾だ」
「マルバンド、壁の奴を……いや、他の二人を撃て!」
この判断か正しいかはともかく、リィアは指示を訂正する。
射角的に執務室入口から壁にいる敵兵を撃てば、デッジロットの弾丸は敵兵を通り過ぎて壁に当たってしまう。万が一その先にソレイ王が避難していたら目にも当てられない。
抜け道の形状が不明な分、どこにいるのか分からないのだ。執務机の背後は窓で抜け道はないから安全でも、壁の中は警戒して避けなければならない。
だからリィアはまず武力排除を考えた。
マルバンドが執務室の前に立つと当然激しい銃撃が襲う。だがコクーンによって弾丸はマルバンドには届かない。
「敵の手りゅう弾の位置に注意しろ」
もし同じ戦法で投げ込まれても、手りゅう弾の位置と逆向きにNichiがあれば破片が当たることはない。
マルバンドがデッジロットを撃った。
『一人撃破』
「そのまま二人目も……」
『二人が寄り添った』
「なに?」
デッジロットを構えながらの報告を聞き、リィアも確認する。
残り二人となった敵兵ネムラは、コクーン同士が干渉しない距離を保って寄り添っていた。どちらでも撃てば壁に命中してしまう。
「……ネムラ! もう残ってるのはお前たち二人だけだ。抵抗したところで命はないぞ」
「おい、早くセットしろ」
「今頃お前らのボスは全員死んでる。お前らが仕掛けた戦争は終わるんだ。これ以上暴れる意味はない」
「どの道俺たちの行き着く先は死だけだ。なら全部巻き添えで吹っ飛ばす」
降伏をしようとしまいと、結果として待っているのは死刑以外にありえない。彼らの中にどんな心情を抱えてここにいるとしても、それだけのことを組織的にしてきたのだ。
彼らもそれを理解しているから降伏の選択肢がない。自棄とも言えるが止まることが出来ないのだろう。
「マルバンド、吹き飛ばす前に奴らを撃て」
「了解」
淡い期待で降伏を求めても却下するならこちらも打つ手は一つである。
マルバンドはデッジロットをネムラの射線に入らない位置で通路の壁に向け、そのまま水平移動して執務室の中へと入り、二人が同時に射線に入る位置へと移動した。
移動の途中で撃たれるもコクーンに憚れて妨害にもならない。
「おい、急げ!」
「マルバンドやれ!」
リィアの叫びと同時に、最後の二人の胴体が同時に分断した。
二人の背後の壁に穴が開き、四つとなった二人分の体が嫌な水の音を発しながら床へと落ちた。
「……驚異なし。クリア」
執務室中に銃口を向けて脅威が無いことを確認する。
「エルマ聞こえるか? エルマ」
敵の排除は当然だが任務成功条件はソレイ王の生存だ。リィアは勝った余韻に浸るよりも前に無線で問いかける。
「エルマ、答えろ!」
「隊長! まだ生きてる! まだ生きてる!」
仲間の叫び声を聞いてリィアは下を見た。
胴体を真っ二つにされ、即死しておかしくない状態だと言うのに壁に細工を施していた敵兵はまだ動いていたのだ。正確には右腕が動いていて、その右手から一本のコードが伸びて壁へと伸びていた。
「右手を撃て!」
そのコードの先を確認するよりも前にリィアは叫んだ。
つい十数分前にも同じことがあって仲間を死なせてしまった。もう同じ過ちは起こさないと、過剰とも言える弾丸を放った。
しかし、その反省は活かされず二度目の失態を許してしまった。
宮殿左棟が吹き飛んだ。




