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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ3 ユーストル決戦偏 全36話
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第170話『任務成功』

 スマートウォッチに表示される時間は、規則的で正確に刻み続ける。機械式ではなく電子式であるからこそズレることもない。

 その正確な時計は刻々とタイムリミットに向けて時を進める。

 チャリオス本島をユーストルから本来あった場所へと転移させる、ペオ・ランサバオンが起動するまで百秒を切った。

「右……右……左……右」


 仲間から受け取った端末に表示されるルートを一瞬だけ目視し、通路の角に触れるギリギリのラインを通ってチャリオス本島内の通路をルィルは激走する。

 スパイとして潜入してから可能な限りの島内を移動していて、どこに出口があるかはある程度把握している。

 敵軍の侵入を予防してか、チャリオス本島は異様なまでに出入口が少ない。ゼロではないし、兵器搬入路や外壁整備としても出入り口はある。

 だが、敵軍の進行を食い止めるためか迷路のように入り組んでもいた。直線距離であれば数十メートルしかないのに、内部深くに入り左右と移動しなければならなかった。それによってただ外に出るだけでも三分と掛かってしまうのだ。

 しかも外に出るだけでなく、日本こと羽熊の要望で地面近くにまで行かねばならない。

 そのため最小限の動作で最短ルートを通り、一秒でも時間を短縮して外の出ねばならないのだ。幸い邪魔者は迷路のような通路とグイボットだけだ。一番厄介な兵士はハオラの最後の攻撃で全滅しており、グイボットも突発的な遭遇で即座に襲うようなことはしない。

 グイボットは脅威ではあっても野生動物だ。人間のように「殺す」ためではなく生物として「守り・食す」ためにいるから反応は遅い。

 ただ、グイボットの数も大半が外に出てしまっているからその数は少なく、遭遇しても素早く通路の隅を通ればそもそも襲われなかった。

 それでも銃火器は手放さない。身軽になれば速度が出るから、出ることを目的とするなら防具や武器はすべて捨てるべきだが、それでは身を守る手段が一つだけになってしまう。

 だから携帯電話を捨てる愚行はしても、敵兵から奪った防具を捨てることはなかった。

 バスタトリア砲発射まであと五十秒。


「……右……なっ!」

 右折をして先のルートを見た瞬間にルィルは急ブレーキをかけた。

「ちっ」

 戸惑っている間もなくルィルは引き返した。先の爆発かハオラの悪あがきか、通路が崩れていたのだ。人ひとり分も通れないほどの瓦礫の山で、ルィルは間髪入れずに戻って別のルートを進む。

 端末に表示するルートはルィルの点とルートの線は繋いでいないから、脳内地図で保管してルートに戻らないといけない。

 記憶の通りなら少しの迂回で戻れるも十五秒は浪費してしまう。

 もっと速くしなしと。

 ルィルはさらに移動速度を上げた。

 リーアンの移動法は全身にある細胞レベルの生体レヴィロン機関を、体温を利用して行う。移動速度とスタミナは体温に依存し、移動時間と速度次第で体温が奪われて電気へと変換してしまう。通常なら新陳代謝による発熱で維持するが、速度と時間が上がると追いつかなくなってしまうのだ。

 体温が奪われれば速度もスタミナも落ちて、日本人のように息切れをすることはないが最終的には動けなくなってしまう。

 だから軍人のように長時間単独で緩急付けて速度を変える必要のある職業の装備には、必ず発熱装置が付いている。主に防弾チョッキの内側にそれがあり、モバイルバッテリーであるがそれによってスタミナの増強に一役買ってくれるのだ。

 ルィルも発熱レベルを最大で付けており、そのおかげでさらなる加速が出来た。

 とはいえ、熱があれば際限なく加速はできず、生体レヴィロン機関の性能限界がある。

「右……まっすぐ……下……下……」


 吹き抜けに出て一気に出入口のある階層へと降りた。

 人の搬入口にしろ資材搬入口にしろ、最下層にはなく中間層にある。底辺だと日本が開けた穴だが、あそこではタイムオーバーになってしまうため正規の出入り口から出る。

 出口のある階層に着いた。もう吹き抜けは使わない。

 時間まであと二十秒。

「あとは突き当りまでっ!」

 目算なら三十秒手前で出口だったが、ロスのせいで時間を食ってしまった。

 あと十秒で外に出て十秒で地上に行かねばならない。

 ルィルは小銃を前方に構えた。

 理由はルィルの正面にある出口が締まっているからだ。装備込みでルィルが通れる窓もなく、ただの体当たりでは突破は出来そうにない。

 だからルィルは引き金を引いた。狙うは蝶番だ。

 移動射撃は静止射撃と比べて命中率は著しく下がる。レヴィロン機関は座標移動が出来るから安定して射撃は出来るのだが、それはあくまで機械的な補正があってのことだ。機械を介しない人的射撃ではその恩恵は得られず、命中精度は低い。

 それでもルィルは照準器を除いて蝶番のあるであろう場所に全弾撃ちこんだ。三秒で全弾撃ち切り、弾倉交換で二秒費やし、さらに全弾を発射する。

 あとは突進あるのみ。

 小銃を腰の位置までずらして手を離し、出せる最大限の加速をする。

 人生で一度しかない猛スピードで壁が近づいて来る。このままぶつかれば防具を身に着けていても死ぬだろう。

 蝶番のあるであろうポイントには無数の弾痕が出来ていた。移動射撃でもそれなりにダメージは与えられており、扉にぶつかる一秒前に腕時計のnichiの画面を強く押した。

 最大級のバスタトリア砲が発射される十秒前。

 チャリオス本島の外壁にある人搬入用扉がひしゃげてはじけ飛び、ルィルも外へと飛び出た。

 外に出られた感嘆に浸る間もなく、ルィルは空に立つのをやめて重力に従って落下すると同時に自分で加速もする。


 残り九秒。高度六百メートル。

 指定された地面を見たルィルは、一瞬で日本……羽熊が何をしたいのかを理解した。

 眼下に移る光景は、色で言えば黒と緑。緑は視界一面に広がり、黒は視界の三割から四割を占めていた。

 緑は草原。黒は日本がいつの間にか運用していた無人機だ。

 正六角形の無人機が密集部分とまばら部分とアンバランスに配置がされており、三次元で配置しているようで上から見ると面でも横からは点で滞空していた。

 間違いなくバスタトリア砲の衝撃波からルィルを守るためであろう。三次元での配置は急な配置で統率が執れていないか、または別の理由か。

 理由を考えている余裕はない。いまルィルのいる位置ではバスタトリア砲と垂直方向で同じ面に位置する。衝撃波から少しでも逃げるためには本島内側に向けて移動する必要があるのだ。

 少しでも最大級のバスタトリア砲が生み出す衝撃波から身を守り、かつ日本の無人機に守ってもらえる地上に降りなければならない。

 連携が大事なのだが、いかんせんルィルは携帯電話を手間惜しさに捨ててしまった。ルィルの最終到着次点と無人機の移動。それを連携無しでしなければならないことに、ルィルは後悔した。

 が、地上付近で不自然な動きをする影が見えた。

 それは人で、手らしきものを振っている。

 残り七秒。高度四百五十メートル


「ミスティ!」

 地上付近で手を振っていたのは、先に脱出をしたミスティだった。その横には左手を撃ち抜かれたサリアと戦死したフォーラもいる。

 彼らはバスタトリア砲の砲門から見て内側の位置に避難しており、日本の無人機も密集していた。間違いなく彼らにも日本側は連絡を取ってあの場所に誘導したのだ。

 ルィルは一直線にミスティの求めと向かう。その線上には当然無人機があるが、ルィルはそれを最小限でかわして進む。

 残り三秒。


 地上まで百メートルのところで、ルィルは仰向けになって急ブレーキをかけた。

 重力と自身の加速で時速三百キロは達しているだろう。それを頭を下ですれば血流が一気に頭に登って失神してしまうため、最も失神しにくい仰向けで急ブレーキをかけたのだ。

 これは軍事訓練で必ず受けるもので、地上付近に猛スピードで降りても失神をしないためだ。

 もちろん無人機が進路上にないのも確認済みである。

 仰向けだから地面との距離は分からずともNichiは高度計を持ってるから高さを表示してくれた。画面に映る数字が見る見る減っていくと同時に減る速度も遅くなる。

 体内の血流が背中から顔や胸、腹部に集まるのを感じる。

 ルィルが通り過ぎると無人機が移動してチャリオス本島を見せないように壁を作っていく。

 画面の数字が五メートルになったところでルィルは仰向けからうつ伏せとなった。


「ルィル!」

「ミスティ、サリア、伏せてコクーンを!」

 二人はほぼ地面に接しており、何をするのか分かっているようで二メートルほど間隔をあけて待っていた。

 ルィルも二人と密接はせず二メートルほど間隔を開け、地面に全身から落ちるようにうつ伏せ状態で着地した。

 同時にルィルはスパイとしてチャリオスに潜入する日、餞別として渡されて以来ほぼ外すことがなかったNichiの画面を押した。コクーンの起動スイッチである。

 その時はまだ試作機で名前すらなかったが、ずっとルィルのお守りとして側にい続けてくれていた。使わないこそベストであったが、渡されたことで今こうしてルィルを守ってくれる。

 三人の周囲に見えない力場の幕が生まれ、さらに三人を覆いかぶさるように周囲の無人機が等間隔に配置した。

 これら無人機はきっとコクーンを積んでいるのだろう。一部なのか全部なのかは分からないが、多重に壁や幕を張ることで衝撃波を守る算段だ。

 ルィルは地面への恐怖など抱かずに全身で地面に触れ、衝撃波から身を守るために耳を塞ぎ、口を開けた。

 残り時間、0。


      *


 ペオを起動すると砲身の冷却と力場流動、ペオ自身の自動メンテナンスが始まり、ちょうど三分はインターバルが生まれる。そのインターバルが終わるとすぐさま発射され、次の転移をするのがペオのシステムだ。

 ペオ内部で冷却とメンテナンスに掛かる時間がカウントされ、0になると同時にエネルギー源となるバスタトリア砲は発射された。

 すでに日本側が設置した武装型鉄甲は砲身内部から離脱しており、前回のような爆発は怒らない。砲塔内では気体フォロンによる力場流動が臨界に達し、試験ですら世界的に数回しかない光速一パーセント。秒速三千キロに達する速度を出していた。

 撃ちだされた砲弾は二百メートルの砲身を初速度0から秒速三千キロに加速される。砲身を通過する時間はわずか0.000133秒。人体で一番速い動作の瞬きで0.2秒と比べればあまりにも速い。

 世界最高峰の高性能ハイスピードカメラで捉えられる速度域で砲身を通過した砲弾は、ペオの中を通る。その砲身の周囲には特殊な細工が施され、砲身から生み出される衝撃波を受けて転移に必要なエネルギーへと変換し、対象物を転移する。

 三分前に使われたときも同じで、そのエネルギーを利用して転移を行った。

 ただし、今回は前回の秒速三百キロではなく三千キロだ。生み出される衝撃波のエネルギーは数百メガトンを超え、それは核爆発に匹敵する。

 つまり、砲身内で核爆発が起きたようなもの。言い換えれば砲弾の加速に核爆弾を使ったようなものだ。

 当然、凄まじい衝撃波が砲塔内に生まれ、バーニアンの手であっても耐えられる物質で作られていない砲身は砲弾が離れた後に崩壊を始める。

 移動と同時ではなく、移動後での崩壊だ。人間の目で見れば同時と言えても、物理学の世界に於いては明確な時差があった。

 砲弾がペオを通過して外気に晒される頃、崩壊は砲身の半分ほどに達した。

 崩壊は砲身後部を中心に前方に向け雫の形で広がる。後方は弱く鈍く、前方には強く早くだ。衝撃波は砲弾が進んだ方向から広がるため、始点から後方へは鈍いのだ。

 それでも核爆弾が爆発した規模のエネルギーが広がっているため、チャリオス本島の内部に向けての甚大な衝撃が伝わり、内部から本島そのものの崩壊も始まる。

 秒速三千キロのエネルギーを受けたペオが起動する。崩壊が始まっても、その崩壊がペオ自身を襲うまではペオは正常に起動する。

 壊れるのは必至でも、来られるまでのタイムラグはわずかばかりあり、そのわずかな時間でペオは起動した。

 指定した履歴と同じ場所に向けて転移を開始する。フォロン技術は原則として『一体化』した物全体に作用する性質がある。

 転送室の内部の物質のみを指定すれば対象物のみを転移し、それを転送室そのものにすれば『一体化』した物すべてが対象となり、エネルギー次第で転移を果たす。

 エネルギーが足りなければそもそも転移をしないが、秒速三千キロが生み出すエネルギーは十分チャリオス本島を転移するだけのエネルギーを産んでいた。

 転移現象は発生源から全体に広がるのではなく、どこで起動しようと全体が転移する。

 砲弾が外気に晒されてから0.000150後。崩壊がペオ自身に及ぶ瞬間にチャリオス本島はユーストル上、日本本州から二百キロ離れた場所から姿を消した。

 撃ちだされた砲弾はエネルギーの発生源として使われるので本島と共に転移はせず、そのまま秒速三千キロを維持してユーストル南西方向に移動。発射から0.5秒後にはユーストルを超えるが、砲身が円形山脈を越えることはない。

 理由はあまりにも高温になるため砲弾を纏うレヴィニウムの被甲が融解してしまうのだ。

 被甲が剥がれて砲弾が露出すると、受ける熱は一瞬で融点を越えて液状化する前に気体へと昇華してしまった。

 液状のレヴィニウムは気化するにはさらに温度が必要なので砲弾は昇華してもレヴィニウムは残り、液状化したことで空気抵抗が増大し、追いついた衝撃波がレヴィニウムを襲い、周囲数百キロに渡ってばら撒いで消えたのだった。

 衝撃波が襲った地面は地表が引きはがされ、地面いっぱいに広がる草は空を舞い、木々は軒並みなぎ倒され、ウィルツなど巨大動物も致命傷を受けた。

 死屍累々。その言葉が適切なほど砲弾の通り道は悲惨な状況となった。


      *


 チャリオス本島が消えるとほぼ同時に、砲身から生まれた衝撃波が真下と斜め後ろ方向に広がる。

 最も威力が強いのは砲身から縦軸と横軸と前方で、後方も威力は強いがメインと比べればかなり弱くなる。砲弾が空の彼方に消えると斜め下に広がる衝撃波も日本が配備した鉄甲に当たり始めた。

 最初に当たるのはコクーンを積んでいない非武装型だ。最も数が多い非武装型鉄甲は可能な限り密集させ、別々の高度ではなく同じ高度になるようにして一枚の壁として衝撃波を受けるようにしていた。しかしオペレーターは日本全国から融資で集まった民間人なため、統率を取るには訓練が足りなかった。

 意思疎通が難しく、生産ロットが違うからプログラムによる自動運転で整列も出来ない。よって『ルィルのいる真上で密集する』と言う指示で非武装型鉄甲のオペレーターは各々の判断で密集して座標固定をする。

 対人武器程度なら耐えられる非武装型鉄甲も、数百メガトンクラスの衝撃波にはパワーが足りなかった。鉄甲は衝撃波に耐えられずに吹き飛ばされ、衝撃波を弱める役目も果たせない。

 衝撃波の到達に合わせて鉄甲は弾き飛ばされていく。その中で耐える個体もあり、それらはコクーンを展開している武装型だ。ただ、完璧に耐えられるわけではなく衝突から一秒未満で落下してしまう。

 衝撃波が地面に達し、ドーム状になるように覆われたコクーンを展開する武装型鉄甲にぶつかった。生身で受ければ弾き飛ばされるだけでなく粉々に吹っ飛んでしまう衝撃波が幾層に張り巡らされたコクーンに当たり、強固な壁として次のコクーン。さらに次のコクーンへと到達する衝撃波を受け止める。

 一層目の鉄甲が機能不全を起こして落下。二層目のコクーンに当たって弾き飛ばされ、次は二層目のコクーンが機能不全を起こして三層目にぶつかる。

 わずかな時間で日本が作ったコクーンの層は三層だ。そのうちの二層が突破され、衝撃波より早く光が地面に伏せるルィル達に降り注ぐ。

 衝撃波が地面にぶつかり、地面を介してルィル達も衝撃が襲ったことを知る。

 しかし来るのは振動だけで音や全身を浴びる衝撃もない。

 上を見ると、隙間は多いが無人機が滞空しており、つい一秒か二秒前まであったチャリオス本島が無くなっていた。


      *


 一発勝負の仮説は正しかったことが証明され、まだ身の安全の確証はないながらも肺の底から息を吐いて安堵する。

 結果がどうあれカウントダウンの脅威は消えた。そしてカウントダウンが自爆系であれば、今頃爆発を起こしていることだろう。送り返すことを狙っての誘導だとしても、秒速三千キロの衝撃波で本島はレヴィロン機関がやられて崩落しているはずだ。

 どっちにしろチャリオス本島は終わるだろう。

 地面から伝わる振動が終わる。

 ルィルは横を見て隣にいるミスティを見た。ミスティも上を見て、内心で衝撃波の余波を考えているのだろう。

 すると無人機が離れ始めた。

 衝撃波が終わった合図で間違いないと見て、ルィルたちはアイコンタクトをしてコクーンを解除した。

 静寂だった狭いシェルターに外の音が入ってくる。

「衝撃波は通り過ぎたみたいね」

「生きた心地がしなかったですよ」

「サリア、生きてる?」

「鎮痛薬が効いてるけど左腕がいてぇよ」

「全員無事ね」

「ルィル、隊長たちは……」

「イルフォルンに転移したわ。ソレイ陛下を守るためにね」

「そうか」

「私達が出来ることはここまで」

 そう言ってルィルは地面に仰向けで倒れた。

「すぅ……はぁ……終わった」

 向こうの状況はどうあれ、ルィルの任務は今終わった。


      *


 シィルヴァス大陸沖、チャリオス本島定置海域。

 カウントダウン終了一分前。

「ハオラからの連絡はないな」

「殺されたかしら」

 周囲三百六十度海しか見えない海域。

 人工物がない絶海に、直径五十メートルある半球が二つ連結した小型浮遊島が浮かんでいた。

 半球の平面には海を模した映像が映し出されており、真上から見ると海と同化しているように見える。

 その半球の中には五十人が一年間は無補給で暮らせるだけの物資が入っており、緊急避難先としてチャリオス本島移動時に付随小島爆破に紛れて海中に投下。衛星からも見えないようにして隠していた。

 ダミーとして偽のエミエストロンを海上に露出させ、無人の護衛艦を残していたが何らかの方法で機能不全を起こして海の底へと沈んでいった。

 しかし海中にまでは影響がなかったのか避難所は無事で、避難としてパーシェたちが強制転移した際に起動。後に来るハオラをパーシェたちは待っていたのだった。

「だとすれば次点の俺が会長を引き継ぐが……」

「大爆破まで三十秒。さすがに敵に殺されたわね」

「その前に殺して逃げても爆発力は直径一キロの小惑星が落下した規模と同じだ。ユーストルだけじゃなく異星国家も全滅する」

 カウントダウンの意味はチャリオスの自爆。その爆薬は最初のテロを起こした新型爆薬の『タチエン』で構成されており、従来の高性能爆薬の百倍を誇る。

 それらが一斉に爆破すれば一キロクラスの小惑星が落下した規模の破壊力を出し、異星国家のみならずユーストルそのものが壊滅する計算だ。

 もちろん自爆のみでは異星国家への破壊には至らないが、自爆の真の目的は地下資源であるフォロンにあった。

 結晶フォロンは基本的には安定した物質だが、一定以上の熱と衝撃を受けると一気に不安定になって誘爆する性質があった。以前の作戦実行時にペオ一号機が爆破したのも、ペオそのものの誘爆に加えて保管していたフォロンにも誘爆して大爆発を起こした。

 それを地下全てがフォロン鉱脈であるユーストルで起こせばどうなるかは想像に難くない。

 そうすればフィリア社会の成長は著しく低下し、その間に再起を図るのがカウントダウンの要諦だ。

「あと十秒。勝負には負けたけど、戦いには勝ったわね。あとイルリハラン王を殺せばマルターニ大陸は混迷期に入る。そうすればまだ大丈夫」

「ユーストルを取られるくらいなら壊す。その光景を見れないのは残念だがな。これから――」

 パーシェたちの会話は途切れた。


      *


 人為的なものでは史上最大の威力の熱と衝撃波が超至近距離で発生したからだ。

 緊急避難所の真上に転移したチャリオス本島は秒速三千キロの発射による衝撃波で崩壊を始め、その最中にカウントダウンが0となり、転移後のペオそのものの爆発と合わせ本島の各地に建材に紛れて設置しておいた爆薬が一斉に起爆。

 高度五百メートルで直径三キロの小惑星が落下したと同等の爆発が発生した。

 日本が使用した核兵器の約五十万倍の威力。例えベーレットを起動していたとしても意味をなさず、緊急避難所は蒸発。時化てもなく穏やかだった海面は衝撃波で凹まされ、凹んだ分だけ津波として四方八方へと広がっていく。

 ただし、爆発した場所は大陸から遠い外洋だ。国際企業であるがために特定の国家に依存しない本社配置をしたのが功を奏し、最寄りの大陸であっても被害は軽微だった。

 惑星フィリアは直径十四万キロもある超巨大岩石惑星。直径三キロの小惑星が海に落ちても、空に生活圏を置く浮遊社会では致命的な影響はなかった。

 残念なのが、その瞬間を誰も目撃できないことだ。原因不明の津波と衝撃波として最寄りの大陸の浮遊都市は検知しただけで終わるだろう。

 災害には違いないが、被害が無ければ調べるだけの余力はないから。

 この爆発の事が世界中に知られるのは、もう少し後のことだ。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 斜め読みして感想忘れてました(^^;; 脱出&生へのメイズラン!! 鉄甲を上手く使った簡易シェルターには脱帽で、先行脱出組(&遺体)とルィルを守り^^ バーニアン達の描写、目論…
お、これで害虫はほとんど駆除できたかな? あとは城に湧いてきた分を駆除すれば一旦は害虫の絶滅成功か
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