第167話『対峙』
ミスティとサリアを司令部に残したリィア達はチャリオス本島の南西へと向かった。
司令部だけあって保有していた情報量はリィア達が得た物より多く、精密な本島の地図もあってこれは低レベルアクセス権で手に入ることが出来た。
地図によればペオは外から入る手段はなく、中からしか入る方法はない。
そして転送する対象を置く場所もペオにあることが分かっている。
疑れば際限がないから司令部に置いてあるデータすら偽装の可能性もあるが、転機となったあの大爆発から司令部突入まで時間がない。事前に用意していなければまずないだろう。
保険をいくつと用意するのも、ある境を越えれば敗北を認めるも当然だ。天才と謡う連中にとって司令部にまで入られることは屈辱の極みなはずである。
希望的観測は否めないが、勘で司令部の情報は問題ないと判断した。
タブレットには立体図での最短ルートが表示され、ルートをタップすると数字がさらに表示される。衛星を使っての現在位置が表示されないから、壁に書かれている数字とタップして表示させたルート上の数字を一致させることで現在位置を確認する。
「次を右だ」
司令部に着くのと同じで先頭から三番目の位置にいるリィアが道順を指示する。
『リィア隊長』
無線にミスティの声が入った。
「ミスティ、どうした。送れ」
『監視カメラシステムとアクセス出来ました。ルート上の状態が把握できます』
「了解した。今グイボットはルート上にいるか? 送れ」
『いる。あと百メートルで会敵。しかもこのグイボット、チャリオス兵士を食べてる』
「……ルート上に餌を置いてグイボットを誘導してるのか、遭遇したか……」
『それと高レベルのアクセス権を持つオペレーターを見つけた。これからデータをラッサロンの特製サーバーに送る』
「気を付けろ。トラップがあるかもしれない」
『それはお互い様でしょ』
「また何かあれば連絡をくれ」
『了解。終わり』
「ヤリット、あと六十メートルでグイボットだ。コクーンで体当たりしろ」
「無茶言うなもう。了解」
弾薬は限られている。グイボットのくちばしは硬く、小銃では撃ち抜けないのだ。脳を一撃で狙うのは生物を相手にしては難しく、鹵獲したバーニアン製次世代ライフルの『デッジロット』(銃身に名が刻印)は撃ち抜けても、その奥まで撃ち抜いてしまう。
もし射線上に重要機関があれば困るから、ここは手堅く手前の装備で突破を図る。
「次の突き当りを左。その直後にグイボット」
「曲がった瞬間に遭遇なんて悪趣味だろ」
ヤリットは愚痴をこぼしながら構える小銃を背に回してコクーンを展開する。
ミスティの報告通り、曲がるやすぐさま床に落ちた兵士をむさぼるグイボットがいた。くちばしを器用に使って兵士の体を食いちぎり、上に放り上げて丸のみにしている。服や防具など一緒に食べて腹下しなしないのか。
グイボットはリィア達に気づくを嘴を大きく開け、そこにヤリットは飛び込んだ。
グイボットからすれば餌が飛び込んだのかもしれないが、ヤリットの周囲には物理現象なら悉く螺旋の渦に絡み取られてはじき飛ばすフォロンが流体している。触れるだけで絡み取られてしまうものを全周で覆えばどうなるか。子供でも危険だと言うことは分かる。
案の定、ヤリットを食べたグイボットの顔は直後に内側に向かってめり込み始め、食べて二秒も経たずに体組織が流動するフォロンに逆らえきれずに引きちぎれて吹き飛んだ。
硬く砕けなかったくちばしは壁に突き刺さり、血が飛び散り、吹き飛びきれなかった胴体は床へと落ちる。
グイボットの顔があった場所には血や体液をまき散らすヤリットがいて、見る限りでは問題はなさそうだ。コクーンによって汚れてもいない。
「ヤリット、生きてるか?」
『生きてるけど生きた心地はしないよ』
コクーンの性能を信じての特攻であるが、工程と成果が釣り合ってないのは確かだ。しかし、節約を考えると再利用がしやすいコクーンが対グイボットで有利なのは間違いなかった。
「次は俺がやるから許せ」
コクーンにまとわりついた体液が吹き飛んだところでヤリットはコクーンを解き、後方へと回って進軍を再開する。
「コクーン、すごい便利ですね。私も欲しい」
「そうね」
隊列の中でリィアの背後にいさせているルィル組のティアがボソッと呟いた。表向きは利害の一致または敵の敵は味方の体なため、リィア達はルィル達に装備を渡していない。彼女らは彼女ら自身が入手した武器のみで武装しているからコクーンを持っていなかった。
ルィルはともかくティアは日本がコクーンを開発したことをここ数日で知っただろうから、身を守る装備が身近にあると知ればそう思うのも無理もない。
「ルィルさんがユーストルを離れるときは貰ってないんですか?」
「なんで国を裏切った女に、戦況を変えるほどの道具を渡すのよ。なにも貰ってないわ」
「リィアさん、そのコクーン、私たちにの分ってありません?」
「悪いが持ってきていない。だから君たちを間に挟んでいるんだ。正面でも背後でも他のコクーンで守れるからな」
いくら利害の一致から共に行動しても表向きは裏切り者扱いだ。ルィルがそれを貫くならリィアたちもそれに合わせて以前のようななれ合いはしない。
『隊長、ラッサロンより通信が来ました。政府はムルートに関して日本の行動を黙認するとのことです』
「政府ってことはソレイがそう決めたと?」
ミスティからの連絡に反応するのはエルマだ。
『らしいです。ラネス王太后は猛反対したそうですが、ソレイ陛下がそれを突っぱねて通したそうです』
「叔母上らしい。あの人なら人類や国益より体裁を取ると思った」
「陛下は母の言葉に背いたってことか。不敬でも十三歳にしちゃあちゃんと王様やってるな」
「ええ、フィルミや周りの補助があるとはいえ、王として動いてくれてうれしいです」
『けど向こうでひと悶着あったそうですね。ラネス王太后は危機管理指揮所から退室されたみたいです』
「追い出されたのか?」
『口ぶりからそうっぽいです』
「多分グイボットやグイボラ、チャリオスをどうにかするよりもムルートを優先して反感を買ったんでしょう。怒ったのは多分ソレイかな」
王室の一員だけあってエルマは報告から何があったのかを推察する。
「チャリオスが大爆発をしてエミエストロンも止まった。そこでムルートとなったらグイボットよりムルートを優先してしまったのでしょう。向こうはまだバーニアンの面倒くささを分かっていないから」
「あいつら次々に後出しを小出ししてくるからな。そら一番の脅威がなくなればその他を見るわな」
「けどソレイは戦争を終わらせることを優先した。その判断は自分自身なのか入れ知恵があったのかは分からないけど、それが正解ですよ」
「やらない後悔よりやる後悔……か」
ムルートに何もさせないことで人類存亡の確率を上げるか、ムルートに手を出して宗教問題程度で抑えるか。後悔を語るなら後者だ。
「ムルートに手を出すことを黙認するなんて、日本が来る前じゃ考えられなかったな」
「まったくです」
「……次を右に曲がると吹き抜けに出る。そこから一気に浮遊小島への接続口に行けるぞ」
「敵影は?」
『こちらミスティ、吹き抜けには十体のグイボットを確認。ネムラはいません』
「司令部と同じで他の人間は全員殺したのか」
「同じ血筋ではなくても味方をしてくれる者たちを殺すなんて、自ら首を絞めてどうするつもりかしら」
ルィルの呟きはもっともだ。奴らの思想に共感か、脅しでも報酬でも、ネムラはバーニアンにとって一応の味方だ。離反や裏切りが残るとしても味方を殺すのは悪党としても邪道である。いかに天才で新人類の位置づけだとしても、仲間を見捨てる奴に『人』を語る資格はない。
「問い詰めりゃわかることだ」
「吹き抜けに出ます」
「全員コクーン展開! グイボットに飛び込め!」
通路の先にある吹き抜けへ隊列は飛び込み、重力に従って下層へと降りる。ミスティの報告の通り吹き抜けの中で遊弋するグイボットがおり、リィア達はそれぞれグイボットへと近づいた。
グイボットもリィアの声で気づいたのか顔を向けて威嚇するかのように口を開ける。
隊列はルィルとティアを除いて散開し、十体のグイボットの口の中に飛び込んだ。
人類の天敵である魔獣の中に飛び込む。確実に殺せる方法とはいえ狂気の沙汰ではないことを身を持ってみな知る。
グイボットの口の中は人間や動物にある口蓋縫線があって舌もある。歯はなくてくちばしでついばみ丸のみするタイプの動物だ。リーアンの天敵で魔獣と称されても生物である。
飛び込むと同時に口を閉じたのか一気に暗くなった。合わせて口内の組織が展開したコクーンに触れて巻き込まれ、口内の肉を引きちぎられる。
おそらくコクーンの外では肉を引きちぎる身の毛もよだつ音がしているだろうが、音も血もコクーンによって使用者には届かず、グイボットは爆弾を食べたかのように頭部が吹き飛んだ。
醜い鮮血が白い吹き抜けを紅に染め上げ、吹き飛ばなかった胴体が底へと落ちていく。
コクーンにまとわりついた血もすぐに吐き出されて視界がクリアになり、リィアは周囲を確認する。
全員無事だ。
「クリア。このまま下りるぞ」
グイボットが進行の邪魔にならないことを再確認し、リィアは再度指示を出して吹き抜けを降りていく。
「グイボット……グイボラがあんな簡単に……これ、コクーンが世界中に広まったら地面近づいて生活できるようになりません?」
「そうね。けど攻防一体のコクーンが普及したら犯罪も対処が難しくなるから、どこまで広げるかね」
地面に対する恐怖感がなくなればリーアンは地面に接して生活することが出来る。いちいち水をくみ上げたり土を運んだり、コストばかりかかる浮遊島を作る必要もない。
コクーンが生み出す恩恵は計り知れないが、ルィルの言う通り便利な道具は須らく犯罪にも流用出来てしまう。
どこまで解禁するべきか慎重にならざるを得ないが、この戦争を終わらせなければそれすら考えられない。
「それは終わってから考えろ。着くぞ」
タブレットに表示されているルートが終点に差し掛かっていた。
「全員注意しろ。また扉越しにデッジロットを打ち込んでくるかもしれない」
ペオを使って逃げるならここが最終防衛だ。何も仕込んでいないはずがない。
「ミスティ、中の様子はどうなってる。送れ」
『中の様子は分からない。電気は繋がってるから信号だけカットしてる』
「ペオが起動してるかどうかも分からないか。送れ」
『不明。ただしバスタトリア砲はモニタリングが出来る。浮遊小島と接続してるバスタトリア砲は沈黙したままですね。多分爆発を恐れてでしょう』
鉄甲の持つコクーンによって砲塔内で暴発することはヘッドクォーターから伝わっている。それが先の大爆発の原因だから、ペオを破壊させないためにも使いたくても使えないと言ったところか。
そもそもハオラらバーニアンがここにいるかどうかもわかっていないが、逃げ場がないここではペオが唯一の望みだ。必ずいる。
『あ!」
無線から不吉な声が響いた。
「どうした。送れ」
『データ転送が五十%に達したところでカウントダウンが出た。時間は三十分から減少中。ゼロになるのは……ヒトゴヒトヨン』
「……明らかに良い傾向じゃあないな」
『データ転送は続いているけど、アクセスは受け付けない。無反応だ』
データ転送を見越してか遠隔操作か。何であれゼロになったら何が起こるかは想像できる。
「分かった。お前とサリアは直ちにチャリオスから離れろ。フォーラの遺体は運べるか?」
『当り前です。仲間を置いて逃げられませんよ。私たち三名は脱出します。終わり』
「自爆装置に火を入れたな。全員時刻を確認しろ。ヒトゴヒトヨンだ」
リィアの指示で全員が腕時計にタイマーをセットする。
この先何であれ、三十分後には良くないことが起きるのは間違いない。時間を見誤れば自分たちの脱出も困難になるから時間調整が大事になる。
「で、どうやって浮遊小島に入る?」
リィア達にあるのは台座から台座に移動することが出来る大扉だ。
基本的に台座同士が接続すると水道、ガス、電気などインフラのパイプラインが接続され、資材の運搬用の通路が繋がる形となっている。人が往来する目的には作られておらず、扉の大きさは一般的な通路と同じだ。
しかし、ここの接続扉は三十メートルはあった。座標的に今いる場所はバスタトリア砲の右真横で、バスタトリア砲と並行する形で本島と小島は行き来できる形となっていた。
ネムラもグイボットもおらず、インフラの稼働音が静かにする程度の音しかしない。
静寂とも言えるが、司令部の例もあってメンバーは全員不規則な立体運動をして壁越しの狙撃を警戒する。
「マルバンド、デッジロットの弾数はいくつある?」
「四十七発。マガジンに七発と十発入りマガジンが四つあります」
巨大扉の周囲に人が通る用の扉がない。見えないように作られてないのなら人も物資も巨大扉で入出するのだろう。
自動ドアのように左右に開くのではなく両開きの扉だ。であれば必ず蝶番があり、そこを撃ち抜けば扉は扉の意味を無くす。
リィアは両開きの右側。壁と扉の間に見える蝶番と思われる四つの異物に小銃を単発で撃った。
「あそこを撃て」
「了解」
マルバンドは四メートルはあるデッジロットを軽々と掲げて、リィアが撃った目印に銃口を向けた。重さにして四十キロはあるが、レヴィロン機関が搭載されているから重さと反動を無視できる。
次世代ライフルは初見時こそ無人で使われていたが、元々は人が使うことを前提として作られており、グリップもあれば引き金。スコープも備わっている。
基本的な使い方は通常の狙撃銃と同じで、マルバンドはデッジロットを構えると安全装置を解除。ボルトを引いてチャンバーチェックをした後、狙いを定めて引き金を引いた。
砲身になんらかの加速装置が組み込まれたデッジロットは、従来の二倍の砲撃音を発して五〇口径の弾丸を発射した。
音が聞こえるより前に目印の弾痕に二十倍近い穴が開き、さらに三発撃って同じように穴を開けた。対人コクーンを軽々貫通する威力であればこれくらい造作もなく、蝶番が壊れたことで右側の扉が鈍い金属音を発しながら左斜め下に回転するようにして倒れた。
「構えろ!」
コクーンを展開して銃を構える。
待ち構えての猛攻撃、はなかった。巨大な扉が落下する衝撃音だけが響くだけで、人工物の中だからデッジロットの砲撃以外煙などは立ちこまない。
デッジロットの砲撃による煙も、吹き抜けと吹き抜け自体が広いこともあってすぐさま風で流されていった。
「クリア」
敵影も迎撃装置も見当たらない。
「……これ、本当にペオにハオラたちがいるのか気になるわね」
「ですね。グイボットが邪魔してても、取り残されたのだけで抵抗らしい抵抗はしていないですし」
罠と見るか、そもそもいないのか、罠や小細工をする余裕すら向こうにはないのか。
三番目であってほしいが、検証材料がないから全部を想定して進むほかない。
「だとしても進むしかないんだ。入るぞ」
カウントダウンが始まって三分が過ぎた。ゼロになったら定番なら自爆。またはバスタトリア砲を発射してのペオの起動か。
なんであれリィア達に有利に働くことはありえないから迅速に動かねばならない。
巨大扉の先に広がるのは資材置き場なのか百メートル四方に広がる空間だった。
布が覆いかぶさった何かが床に置かれ、さらに保管庫なのか壁からせり出すようにして設置されている小屋も等間隔で設置されていた。人はいない。
「気を付けろ。迎撃が来るかもしれない」
壁に扉があるのではなく、後付けのような小屋が取り付けられているため死角が小屋の数だけ生まれる。どこまで奴らが想定しているかで変わるが、リィア達がするのは常に最大級の危機だ。それ以下なら何とでもなる。
「ここは見てのとおり保管庫ですね。この小島は技術開発島だから、それに必要な資材をここに置いて、あとは全部ペオの機能に使ってるのかも」
「島を変形させるのもだが、技術開発とペオを併用してよく社員を騙してたな」
「またはここだけはバーニアンとネムラしか入れてないかだな。技術開発となれば極秘性が高いから産業スパイ防止の名目で立ち入り禁止くらい出来る」
「右奥に通路」
一人が報告を上げる。しかし各方向を警戒する仲間たちは報告を受けた方角にだけ意識を向けることはせず、担当する方角を警戒を続けた。こうした広く死角が多い場所では多数の目が物を言い、全員が同じ方向を向いて襲われては意味がない。
仲間の報告を無条件で信じ、その方角に通路があることを理解する。
「通路に向かう」
資材になにがあるのか。デッジロットより有力で新技術の武器があるのではないか。天才集団が作った未公開の技術には惹かれる思いがあるが、リィア達はそれを無視して左奥にぽっかりと開いている十メートル四方の通路へと向かった。
今いる場所はチャリオス本島に接続したL字の二画目の横線の部分だ。左の一画目はバスタトリア砲のエネルギーを得るための筒で、ペオの管制や転送室は通路の先にあると判断する。
「……通路クリア」
資材室から通路の入り口で一時止まり、通路を見るが邪魔をする顕著な物は見られない。
「行け」
リィアの指示で先頭のヤリットが通路に入り、リィア達も隊列を組んで通路を進む。
全周警戒をしていつ何が起きても対処できるよう緊張感を高める。
バーニアンがペオを使って逃げるなら、おそらくこの通路が最終防衛ラインだ。ここまで追い込まれることを想定しているなら準備はしているのだが、通路を進んでも不気味なほどに静寂だ。
床、壁、天井から突如機関銃が出てきて攻撃をする素振りも見せず、グイボットもネムラも見られない。
何もないのが返って不気味さを助長する。
メンバーは誰もしゃべらず全周警戒をして前に進む。
直線しかない通路を進み続けていると、先頭を進むヤリットが握りこぶしを上げた。
止まれのサインに全員がぴたりと止まる。
続けて耳に指を指して音がしたことも伝えてきて、耳を澄ますと確かにインフラの作動音とは違う物音が聞こえた。
リィアは後方のメンバーに注意するようハンドサインを出し、目の前にいるシィンの肩を叩いて前進させる。
扉らしい扉がない一本道の通路に扉の無い入口があった。人が通るだけを想定しているような小さなもので、そこから物音がする。
規則的な物ではなく不規則な、人が発する音にリィアはここにやつらがいると確信した。
物音がする入口に着くと壁に背が触れるギリギリのところで隊列は並び、ヤリットに中を見るようハンドサインを送った。
ヤリットは音を出さないようにポケットから棒付きの鏡を取り出して少しだけ通路の影から出して部屋の中を映し込ませる。
少し遠いがリィアもその鏡を凝視すると、鏡の中にモニターとコンソールが並びその中心に一人の男がいるのが見えた。動きからして機械を操作しているのだろう。
いるのは一人だけで他の人間はおらず、武装もしていない身一つだった。
その様子からネムラではなくバーニアンと推定出来て、リィアは決断をする。
罠であっても行く他ない。
リィアはシィンの肩を叩き、シィンはヤリットの肩を叩いた。
合図を貰ったことで鏡をしまい、銃を構えて無音で部屋へと入る。
カウントダウンは二十分を切った。
侵入した部屋は印象からしてペオ管制室だろう。二十人が入れば窮屈な部屋の壁にはコンソールが取り付けられ、いくつものモニターやキーボードが置かれて稼働している。
モニターには一見だと何を表示しているのか分からない文字列やバラメーターが映し出されている。ただ、その中のモニターには座標を定めるためか大陸の地図と浮遊都市の位置が映し出されていた。
名前は出ていなかったが、大陸とその浮遊都市の位置で何を表しているのかは分かり、悠長には出来ないと悟る。
管制室に入ったのは変わらずに隊の半分で、ルィルとティアは一緒に入ってもらう。
これで罠だとしても半分は対処できる考えだ。有利で勝てる状況であっても慢心と油断によって一瞬で全滅を招く。
「……」
管制室にいる人間――男は振り返らずにキーボードのキーを叩き続ける。
「……スゥ」
リィアが喋ろうとした瞬間。
「腹立たしい……」
メンバーに緊張が過ぎる。
「これだけ圧倒的に支配していたと言うのに、たった一人の裏切りでひっくり返されるとはな……流石は同胞だが、最も憎いよ。ウィスラー。お前が仲間になるのを拒否した時に殺しておくべきだった」
独り言ではなく、リィア達に語り掛けている。
「チャリオスは廃業だ。これ以上抵抗はせず降伏しろ。ハオラ・テオ・コンロード」
男は振り向く。
見間違えることはない。チャリオス会長でリーアンと地球人のハーフ。バーニアンのハオラ・テオ・コンロードだ。
「廃業……か。確かにチャリオスとしては終わりだろうね。けど負けたわけではない」
ハオラは振り返る。
圧倒的にこちらが優位で、追い込んでいると言うのにハオラの表情に負けの印象はどこにもなかった。
「ここまで来たことは褒めてあげよう。だがね、勝つのは我々パーシェだ」




