第165話『パラダイムシフト』
いっそのこと撃ってしまおうかとルィルは邪な考えを抱いてしまった。
敵か味方か判別出来ず、幸か不幸か残った民間人と避難と言う名目で追い出すことで不安要素排除した。そのつもりだった。
まだグイボットは放出されておらず、攻撃が続いても地表スレスレで日本に向かえば双方の攻撃を受けずに保護してもらえる。敵側であったとしても保護されればそれで何もできずに脅威はなくなるはずだったのに、不安要素は目の前にあらわれた。
これには偶然ではなく作意があると思うしかなく、ここまで邪魔をするなら同僚であり友であっても撃ってしまおうかとも考えてしまった。
もちろんそれは思うだけで撃つわけにはいかない。
ルィルは高速で考える。
今後の動き次第ではリィア達と共同をするかもしれない。今は別行動を取ってるとしても、ネムラやグイボットとの戦いで合流することはありえる。しかしティアと言う最大限の不安要素を持って合流するわけにはいかなくなった。
ならばいっそのこと……。
「ティア」
ルィルは改めて声を掛けた。
「……ぁ……」
扉の陰から顔を覗かせるティアがルィルに気づく。すると不安な表情から見る見るうちに歓喜の表情となって飛び出してきた。
「ルィルさーん!」
両手を広げて抱き付こうとして来るティアを、ルィルは後ろに下がって逃げる。
下手に抱き付かれて死角に仕掛けをされては困るため一定の距離を取る。
「どうして逃げるんですか」
「いきなりくれば避けるでしょ。それよりなんでここにいるの。昨日ここから逃げたはずでしょ」
「逃げましたよ。でも見えない壁に阻まれて出来なかったんです。それで六人巻き込まれていなくなっちゃいました」
ベーレットことコクーンが展開して巻き込まれたのだろう。全員脱出するまでの時間があると思ったが、二基目の展開が予想より早かった。
「それでしかたなく中に戻ったんですけど、そしたら空飛ぶグイボラが襲って来て逃げてるうちにみんなとバラバラになったんです」
「じゃあ父も?」
「はい……今も生きてるか分かってません」
「そう……」
「ってルィルさん、フル装備じゃないですか。どうしたんですか?」
「チャリオスを辞めるのよ。ここまでボロボロにされて残っても待ってるのは破滅だからね。辞表届を出すついでにハオラの身柄を捕らえてイルリハランに差しだすの」
それならバーニアンと対立する動機付けとなる。
あくまで利害の一致でチャリオスに入っただけだから分が悪くなれば裏切る。元々母国を裏切っての入社でさらに裏切っても外聞的には自然と言えよう。
「そうすれば裏切った不名誉はチャラに出来るわ」
「じゃあまた寝返るんですか?」
「ここまで被害を受けて向こうの仲間でいる意味はないもの」
そうルィルはティアと即興の話をしながら自身の方針を定める。
こうなればリィア達とは別の勢力として動く。最悪ティアがバーニアン側で寝返りもしなかったとしても犠牲になるのはルィルだけだ。武力の差からリィア達は万全の状態でバーニアンと対峙してほしい。
だからリィア達とは合流も共闘もせず、第三の勢力として動くことにする。
「私はこれからハオラの所に行くわ。この戦いを止めるためにね。ティアはどうする? もしかしたらこの爆発でベーレットは壊れてるかもしれないし」
「無理ですよ無理! 空飛ぶグイボラがいるのに外になんて出られません!」
天敵の前に無防備では餌として投げ出されるのと同じだ。一晩グイボットの脅威で疲弊しているのか激しく左右に首を振って拒否する。
「私……家に帰りたいです。実家に……」
「泣き言を言っても私は自分の身を守りながら前にしか進めない。貴女を守ることは出来ないけど、武器は渡すことは出来るわ。どうする?」
ルィルはそう突き放しつつ選択肢を与えて拳銃をホルスターから抜く。
「……ハオラ会長を捕まえたら、軍に復帰できますかね」
「ソレイ王が特赦を出して、私たちは元からスパイとして潜入していたと言ってくれたら可能かもね」
「私もチャリオス辞めます」
「そっ」
一応の言質を取ったところで、ルィルは拳銃と予備マガジンを二つ渡した。本音で言えば渡したくはなくも、状況から不自然ではない動きをするには渡すしかなかった。
少なくともこれでティアは不意打ちでルィルを殺すことが出来る。
拳銃を渡されると、ティアはマガジンをポケットに入れてチャンバーチェックをして弾丸や装填されていることを手早く確認する。
「ルィルさん、ひょっとしてなんですけど外から援軍とか入ってたりしてます?」
「私は直接確認してないわ。でも昨日の大穴を開けた攻撃に乗じて入った可能性はあるかもね。それが日本なのかイルリハランなのかは分からないけど。または来てないか」
「だったら合流して一緒に行動したほうがいいんじゃありません?」
「しない。向こうからしたら私たちの本音なんて分からないんだから、味方と言って近づいで背後から撃つと思うはずよ。だったら敵の敵は味方程度で行く方がいいわ」
いままでルィルやリィア達が抱いていたティアの印象を、自分にまで落とし込んで方針の正当化を説明する。客観的に見ればルィルもティアと同じなのだ。スパイと言う前提だからティアにだけその目が向けられるが、無関係の第三者から見ればルィルも同じである。
ならばそれを根拠に第三勢力として動くほうが不安要素の解消となるのだ。
「分かりました。じゃあもし見かけたとしても、ただ標的が同じなだけの無関係のチームと思っておきます」
「そうね。ただ貴女に渡した銃だけじゃ戦力にならないから背後の警戒をお願い」
「了解」
拳銃一丁でグイボットやフル装備の兵士を倒すのは不可能に近い。ルィルが出来たのは完璧に近い不意打ちだから出来ただけだから、ティアに頼るのは背後の目だ。
久しぶりのバディではあるが即興でフォーメーションを整えて移動を始める。
「……ルィルさん」
「なに?」
「結局のところ、ルィルさんの芯ってどこに向いてたんですか?」
中々嫌らしいところに目を付けてくる。
「ルィルさんの中にあるのがチャリオスなのかイルリハランなのか、日本なのか、ここに来た時からそれがブレブレに感じたんですよね。だからスパイかもって思ってました」
「私は私よ。私が決めてやりたいことをしてるだけ。どこの組織かは関係ないわ」
言って政治的な返答に辟易する。嘘でも「いいえ」と言えばいいものを、「はい」か「いいえ」ではなく抽象的な返事にしてしまう。だがティアの言っていることももっともだから嘘でも「いいえ」とは言えない。
「……そういうことにしておきます」
ティアもそれを察してか追究はしない。
「そういうティアもどこに芯があるのか分からないわよ」
「私は安泰とお金ですよ。軍に入れば食いっぱくれることはないから入って、ここは高給だから入っただけです。でも大事なのは自分の命です」
「なら勝率の高い方に付くべきね。間違いなく優勢なのはイルリハランと日本側だわ」
「いえ、ルィルさんの所にいる方が生きて出られそうなので」
「それでもいいけど、不利になったからって私を後ろから撃たないでよ」
「撃ちませんよ」
「……」
ルィルは握りこぶしを顔の位置まで上げて静止のハンドサインを送る。
それを見てティアは喋るのを止めた。
吹き抜けに達したのだ。吹き抜けは音が反響して存在を教えてしまうため黙らせ、壁際に背を当てて吹き抜けをのぞき込む。
下は何もなし。上もなにもいなかった。
グイボットが野生化してネムラも狙われるようになって出歩かなくなったのだろう。グイボット自身も本当の外に出てしまって数が少ない。
ルィルはティアに上を指さし、小銃を構えながら吹き抜けへと出た。そのすぐ後ろを後ろ向きでティアが付いてきて下方向に銃を構える。
グイボットが外に出て数が減り、エミエストロンで野生化してネムラが動けない。コクーンが健在かは分からないが大爆発でそれなりの数の兵器システムがダウンしているだろう。
移動するならこれ以上ない好機だ。
障害が手薄になった隙にルィルとティアは階層を移動して司令部と同じ階層へと入った。
小さい衝撃音が響き、床に落ちた瓦礫がカタカタと音を鳴らす。
「これ、日本の攻撃?」
「かもね。ということはベーレットは機能してないのね。あの大爆発で壊れたのかも」
「いよいよチャリオスはお終いってことですね」
「どうかしら。まだ保険を持ってるかもしれないから一気に制圧しないと」
「後ろから物音」
そう囁くような声と同時に背中を叩かれ、二人は十メートルほど離れたドアの無いトイレへと飛び込んだ。
二人は視線を交わして息を殺し、物音を立てないようにして近づく何かに意識を向ける。
「エルマ様だ」
小声で気づいたティアが報告する。少し遅れてルィルの目にも周囲を警戒しながら通路を進むエルマとリィアを含む小隊の列が映った。
「しっ」
本音では味方でも建て前から敵でなければならない。馴れ馴れしく合流すると面倒になるためここはやり過ごす。
もしかしたらトイレの中に入ってくるかと思ったが、移動重視なのか入り口は警戒しても中までは見ずに通り過ぎて行った。
「……やっぱり合流しませんか?」
「したところで警戒されるだけよ。いくら私たちが味方をするとしても、短い時間でも敵だったんだから毒されてると考えるはず。だから味方と信用されるより味方だったと結果を出す方が早いわ」
「じゃあ先にかいち……ハオラのところに行くべきだったですね」
「そうしたら背後からリィア達に銃を向けられて挟み撃ちよ。するなら脇からね」
なんとしてもティアに余計なことをさせないため、瞬発的に尤もらしい言い訳を考えて話す。
「了解。では別口ですね」
リィア達が向かった先から銃撃が聞こえて来た。
「……始まった」
「どうします。もう少し待ちます?」
「いえ、向こうに意識がリィア達に向かってるなら好都合よ。手薄になる隙に司令部に行きましょう」
「了解」
ルィルは小銃を構えながらトイレから出て、左右を確認して安全を目視。ティアの肩を叩いて外へと出た。
司令部はリィア達が向かった通路の先百メートル先だ。そこに戦力が集まってるとなるとその他の警備が手薄になる。
遠回りになるがルィルたちにとってそれが最短として、リィア達とは逆方向の通路を通って迂回することにした。
通路から銃撃音。壁から衝撃音が続く。
警備兵から奪った装備品の中にある無線機に通信が入った。
『ウォーラー、あの女を殺して司令部に来い。敵兵が攻めて来た』
あの警備兵の名はウォーラーらしく、あの女とはルィルのことだろう。ここまで被害を受けてはルィルの価値はもうないということだ。勧誘するように誘導したとはいえ、勧誘した挙句に悪者に仕立て上げて邪魔になれば殺せとは、さすが悪党と言ったところか。
元とはいえほぼ現役の軍人を野放しにするほうが敵からすれば厄介だから処分としては妥当だ。
『ウォーラー、返事をしろ』
「…………」
出ても出なくてもルィルが自由の身になっていることが明るみになる。下手に応答をすると警備が厚くなるからどうするかを考え、一つ案を思いついて無線機をティアに差し出した。
「私は出られないから貴女が答えて」
「え、私ですか!?」
「一応仲間内の貴女が答えれば誤魔化せられるわ。男はそうね、爆発のショックで死んだことにして、それを身を守るために装備を取ったとして」
「私演技なんて出来ませんよ」
「ついこの前にスパイで潜入調査してるって嘘をこいてたじゃない」
「うう、バレても許してくださいよ」
「その時はその時よ」
「……スゥ……こちらティア・セル・フランミア。この無線機と装備を持っていた兵士は死にました。送れ」
ティアは一度深呼吸し、意識を切り替えて軍人としての体で無線の応答ボタンを押して答えた。
『死んだ!? どういうことだ。お前が殺したのか。答えろ』
「いえ、先の爆発の余波と思われる。私が来たときには床に倒れていて脈はなく、空飛ぶグイボラから身を守るために装備を拝借した」
『お前、ネムラじゃないな? いや、ティア……広告塔か』
そう言えばティアはチャリオス社員であってもネムラではなかった。
「運よく生き延びたただの従業員です」
『おい、その装備を奪った男の近くの部屋は開いてるか?』
「天井は崩れていたが部屋は全て閉じていた。女って誰かいたの? 送れ」
『いや、開いてないならいい。お前は今どこにいる』
「……答えたら殺されそうだから言わない。ともかく私は逃げるから。終わり」
下手に長引いても無意味な会話だ。上官かどうかも疑わしい相手の言うことを聞く義理はなく、ティアは無線を切った。
「……とりあえずこれでいいですかね」
「上々よ」
ひとまずこれで表面上、ルィルは逃げ出してないことになった。相手がティアとバラしてるから真に受けることはないだろうが、それでも複数の可能性を与えられる。
「行きましょう」
無線で時間を食ってしまった。リィア達の被害が気になり、ルィルたちは速度を上げて通路を移動した。
直後爆発音が二度起きた。
*
イルリハランことラッサロンと日本は共通認識として、この一戦を境に戦い方が根底から変わることを理解していた。
シールド発生装置〝コクーン〟
多目的防護板〝鉄甲〟
試験地中潜航型潜地艦〝でいりゅう〟
この三種の武器が無かった過去と、有る未来では軍事に携わる者からすればどう変革をもたらすかは即興でいくつも思いつくほどである。
特に顕著なのがシールド発生装置〝コクーン〟で、これだけは破格の性能を誇っていた。
なにせ人間大から国土レベルまでシールドを貼れて、出力次第では原理的に星一つ包むことも可能なのだ。
例えば小惑星が落下するときにコクーンがあれば、被害を出さずに防げるのだから破格と言って過言ではない。
人間大サイズでも、人間にとって致命傷になる攻撃や衝撃を防げれば生存率は何倍も膨れ上がる。
デメリットとしてコクーン展開中はこちらからも攻撃は出来ないが、手りゅう弾など範囲攻撃や弾幕を恐れる心配がない。
パラダイムシフトと言える戦い方の改革はリィア達に大きな前進を促した。
目的地である敵司令部に通じる通路は、リィア達を食い止めるためバリケードが築かれていた。行き止まりと思うほどに床から天井に掛けて家具や剥がれ落ちた瓦礫を積み上げて壁を作り、射撃用の窓を作って小銃を突き出している。中にはマシンガンが覗かせられる大きな窓もあり、リィア達を視認してきたところで通常装備なら肉片になるほどの弾幕が張られた。
リィア達ナオミ(703)隊の基本行動として、先頭を進むラビオト(08)がコクーンを展開しながら単縦陣で移動している。対人コクーンは作動時間が短いため切れる前に交代をしながら正面への守りを厚くして集中攻撃を防いでいる。
その行軍が成功して、バリゲートのある通路にリィア達が達すると集中砲火を受けたが、コクーンによって一網打尽は防がれた。
正確にはラビオトが出たところで攻撃を受けた。二人目のガンビ(09)は角の陰に隠れていて問題なく、ラビオトも後退して陰へと隠れる。
「敵の防衛は?」
三番手にいるリィアが聞く。
「天地全てバリケードあり。銃座が四つ」
「なら無反動砲だ」
チーム全員が同じ装備で出撃しているわけではない。用途に合わせて必要な武器がことなるため、全員が少数だが異なる武器を持ってここチャリオス本島に出撃した。
こうした防壁を突破するための成形炸薬弾を装填した無反動砲も一人が持っていて、手早く発射準備を始めた。その間、チームは全方位に銃を構えて挟撃に備える。
準備が出来ると肩を叩き、壁役としてラビオトは敵射線上へと半身のりださせた。当然敵は落とそうと射撃をするが、コクーンによって防がれる。
対人コクーンの発動範囲は出撃前に徹底的に正しい目測が図れるように訓練をしており、無反動砲を持ったマルバンド(07)はラビオトが展開しているコクーンに触れないように距離を取って回り込み、一瞬の弾幕の隙を突いて引き金を引いた。
フィリア製の無反動砲は砲塔自体にレヴィロン機関が備えられており、引き金を引くと同時に砲塔はその場で固定される。慣性の法則から砲弾を発射すると反対側に吹き飛ばされてしまうが、固定してしまえば旧世代のように後方に反動をつける必要はない。つまり全ての推進力を前方に向けることが出来て、速度と破壊力を倍増させることが出来るのだ。
発射された砲弾はバスタトリア砲にははるかに劣るものの、それでも目にも止まらぬ速さで通路を移動し、通路いっぱいに築かれたバリケードを吹き飛ばした。
爆風が破片と共にリィア達のところまで吹き飛ぶ。本来なら耳を塞ぐほどの爆音も響いているだろうが、コクーンによって音は限りなく遮断されてわずかな音しか届かない。
リィアはすかさずハンドサインで突撃するように指示を出して、全員コクーンを展開して突っ込んだ。
爆風で粉塵が舞うも、コクーンを展開すれば流動する力場に巻き込まれて当人たちまでは達しない。見えにくさは変わらなくも動きやすさと流れ弾防止に一役買ってくれる。
十三人は互いをカバーし合いながら破壊したバリケードを突破し、衝撃で床に落ちたネムラ達に向けて止めを刺す。
戦闘不能になった戦闘員に止めを刺すのは条約違反だ。非人道的で断じてしてはならない行為だが、拘束して制圧する余裕がないためエルマの判断で条約と軍規無視を決めている。
例えこの先露見して非難されても、今は人道的配慮より任務達成が至上命令だ。
見方によってはバーニアンとしていることと同じであっても、正義の反対は別の正義だ。正義だの悪だの矮小な感情論で問うのではなく、任務を果たすか果たさないかの二局で考える。
「……クリア」
「クリア」
ネムラを排除してナオミ部隊は安全を確認する。
そしてついに元凶であるバーニアンが指揮する司令部の前へと来た。
感傷に浸る暇はない。ラッサロンからの通信でチャリオス本島の攻撃能力がほぼ停止していることは聞いている。
それでも想定外の行動をしてくることが予想できるため、一刻も早く司令部を制圧する必要があった。
爆発物担当のフォーラは残った少ない爆薬を仕掛けようと両開きのドアへと近づく。
「注意しろ。コクーン解除は極力減らせ」
突然扉や壁を爆破することもあり得るため、制限時間はあってもコクーン展開はし続ける必要がある。
フォーラはドアの前に近づくとコクーンを解除して手早く蝶番に爆薬をセットした。
「セット完了」
「よし、ば――」
爆破指示を出そうとした次の瞬間。フォーラのすぐ近くの壁が閃光した。閃光弾と思うほどの光に思わず皆が目を閉じるか、腕で隠すか首をひねって直視を目を保護する。
それでも一瞬は見てしまったから視界が失われた。
音は先の無反動砲より大きかった。コクーンで遮断しても聞こえると言うことは相当なエネルギーが発した証拠だ。これはフォーラが仕掛けた爆薬ではなく、向こうからの攻撃であろう。
対人コクーンは対空ミサイルまでは守ってくれる。発光からしてそれ以下だろうからフォーラは無事のはずだ。
しかし、司令部と言うおよそ戦闘とは真逆の場所でそれだけの攻撃を仕掛けるとは、向こうも追い込まれている証拠か。
だとすれば五千人はどこにいる。司令部にいるのはせいぜい二百人程度だろうし、無人機の運用でも数百人ほどだ。無人機を操作する以外に戦闘員が二割はいるとして千人がいるが、遭遇した敵兵は数人だ。それもバディすら組んでもいない。
基地全体に分散していたとしてもかなり不自然だ。であれば何らかの策を用意していると見ていい。
「全員無事か?」
コクーンの防護力は信頼している。だがバーニアンからの攻撃にリィアは点呼を取る。
02のエルマからコールサインが順次無線で知らせてくる。が、06であるフォーラの反応がない。
「06、06答えろ」
フォーラからの点呼はない。
「……07答えろ」
07のマルバントを呼ぶと返事が来て13まで確認する。
応答しないのはフォーラだ。
「06……フォーラ答えろ」
リィアの脳裏に嫌な予感が過る。
フォーラが爆破する前に起きた爆発で生まれた粉塵が邪魔で、五メートル先にいたフォーラの姿が見えない。
『01、コクーンがもう……』
対人のコクーンは連続で一分四十秒しか持たない。ここが正念場と言うことで連続使用し続けた結果、再充電しなければならない時間帯になってしまった。
やむを得ずコクーンを解除してコクーン展開の内側に粉塵を招き入れる。
それと同時に粉塵が明けて来た。
「……フォーラ死亡」
無線から聞きたくない報告が上がる。
通路の下を見ると粉塵に紛れながら上半身と下半身が分裂したフォーラの姿があった。
「全員広がれ」
もうリィアの指示は周囲に聞こえるため小声で無線で伝え、全員不規則に三次元で距離を取る。
そしてリィアは気づく。フォーラがいた近い壁に穴があり、その向かいにも穴があったことに。その穴の周囲には黒い焦げ跡が放射状にあって威力を物語っていた。
対人コクーンを突破する破壊力を持つ武器。コクーンだけでなく壁すら容易に貫通する武器をチャリオスは持っているのだ。
ちらりと視線を下に向けると、真っ二つとなって戦死したフォーラの体から真紅の血が流れ出て広がる。
途中解散したとはいえ再結成した仲間の死を直視するのは辛い。だが悲痛に暮れる暇はない。
「全員、覚悟を決めろ」
向こうの出すカードをかわし切り、こちらもカードを出し切って任務を達成するのだ。




