第163話『目まぐるしく変わる戦況』
「総理! ラッサロン基地から朗報です! 世界各国でシステムの再起動が行われてるとのこと。時間差からして二発目の核弾頭でエミエストロンが破壊されたようです!」
「それは本当か!」
イルリハラン王国所有のバスタトリア砲搭載特務艦が破壊された映像が情報収集センターのメインモニターに映し出され、二発目が撃たれなかったのと一発目の効果が出なかったことから作戦は失敗したとして意気消沈していた。
だが、ラッサロンからの入電でその落ち込んだ空気が一掃される。
「星務省から報告。イルリハラン王国の各浮遊都市との連絡が回復しています。レーゲン、シィルヴァス、メロストロとも通信可能となりました」
作戦成功を告げる報告があがり、情報収集センター内で歓声があがった。
目の上のたん瘤であったエミエストロンが沈黙したのだ。これで情報戦で後手に回ることがなくなるので、厄介な武器は残っていても見えないところを気にしなくて済むのは大きい。
「全員落ち着け、この作戦の成功は大勢の犠牲があってのことだ。犠牲となった者たちのためにも引き締めて事に当たれ。これで終わりではないんだ」
結果的に世界を救う一打となったものの、その代償としてイルリハランはバスタトリア砲を失い、日本は核弾頭二発と自衛官三名を失った。
最高司令官である若井を始め首脳陣の判断による代償だ。彼らの命を前にして軽々な反応は不謹慎にもほどがある。
任務として就いていたとはいえ、彼らの命と思いに報いるには兜の緒を締め直して勝利を届けること。それ以外に手向けることはない。
若井は作戦成功に歓喜する室内の者たちにその思いを込めて戒める。
「エミエストロンの停止で少なからず向こうの動きに変化が出る。これを好機として次の手を打つんだ」
「はい。すでに次の手は上申した通り、敵コクーンを突破します」
歓喜した閣僚や職員を除き、天自幕僚長は気を緩ませることなくパソコン画面を凝視しながら発言をする。
「エミエストロンの破壊でグイボットが野生化する可能性がある。一匹とユーストルから出すことなく処理してくれ」
「承りました。ここを契機に攻勢に回ります」
「総理、イルリハラン王国首都より通信が来ました。ソレイ王からです」
「分かった。皆、ここからが正念場だ。現場で戦う者たちのためにも全力を注ぎ続けてくれ」
各々から力強い返事を受け、犠牲を払いながらも成功したからこその活力注入と分かり、若井も少しばかり晴れやかな気持ちでイルリハランとの電話会談しに席を外した。
*
エミエストロンが破壊されたことで、にらみ合いが続いていた九州沖の天自艦隊とチャリオス艦隊で急展開が起きた。
元々国防軍もとい防衛省ではエミエストロンがチャリオスの戦力にどう作用しているのか、ある程度の予測を立てていた。
イルリハラン側の情報提供もあって、単なる情報関係に留まらず無人機などの補助もしていると睨んでいた。
たった五千人しか人員がいない中で無人機の操縦をするには補助役またはAI的なシステムが必要になる。完全なスタンドアローンのAIが確立して搭載されれば、飛行艦や戦闘機は完全に無人で動けるだろう。
しかしルィル経由からの情報で、遠隔操作で無人機が操縦されていることからAI搭載ではなく人の補助をシステムが担っていると分かっている。
情報処理に於いてエミエストロンより上がなく、世界中の電子機器を支配できる出力から無人機の操縦も出来ると踏んでいたのだ。
それがエミエストロンが破壊されたことで疑念が確証へと変わる。
エミエストロンが破壊された情報はラッサロンの一報から三十秒以内に全国防軍に伝わる。そして破壊された際の予測も立てていた。
予測の通り、行動と攻撃の同時行動が止まったのだ。
これは好機と、九州方面に配備されている武装型鉄甲とF‐35、第2・8護衛艦隊は動く。
手順としては以前と同じで、敵コクーンを破壊して飽和攻撃で撃沈する、だ。
エミエストロンが健在の時は艦隊が一つの意思で攻防移動を行うため、一度目は成功しても対策をされて二度目は上手くいかなかった。それが中核システムを失ったことで連携が崩れ、一つの意思で動けず烏合の衆となったのだ。
いくらコクーンで艦体を守っても弱点は露出している。その露出を艦隊防衛システムで守っていたのが、攻防移動を個人で動かすとなると手が回らない。
コクーンを解除しなければ攻撃できず、攻撃をしようとしても照準と移動を同時にしないといけない。攻撃の手段の選択の即時判断もしなければと、エミエストロンに頼り切っていた問題点が浮上したのだ。
よって武装型鉄甲に対してチャリオス艦隊の防衛網は希薄となり、F‐35の支援もあって艦底へと潜り込んで機銃をコクーン発生装置に攻撃。破壊してコクーンが解除されたところを天自護衛艦は対艦ミサイルを複数発射する。
フィリア社会の飛行艦にも近接防護装置として機関銃によるミサイル迎撃システムはあるが、それは最終手段で防護率も高くはない。
しかも飽和攻撃には対応しきないこともあって、次々に敵飛行艦が撃墜されていく。
エミエストロンが破壊され、それを国防軍が共有してからわずか五分のことである。
チャリオス艦隊に紛れていたバスタトリア砲搭載特務艦も攻撃をするも、エミエストロンの補正が無ければ照準して発射までに時間が掛かり、攻撃をするときには天自艦隊の攻撃が早かった。
エミエストロンが健在だったときは均衡または不利だった戦況は、破壊後には怒涛の攻撃で一気に天自艦隊へと形勢を逆転させたのだった。
数が多い駆逐艦級は黒煙を次々に発し、艦の中心が折れて落下する。
護衛艦〝いかづち〟を落とした一隻だけのバスタトリア砲搭載特務艦は、艦首砲門が吹き飛んで艦首から地面へと落ちていく。
最大の防護力と弾数を誇る戦艦級は、何発もの対艦ミサイルの直撃を受けても持ちこたえ、複数ある主砲やミサイル攻撃を繰り返して抵抗をする。
しかし、コクーンを破壊されて行動より攻撃に意識が向いたことで防御が手薄となり、天自艦隊の異方向同時攻撃を受け、終いには弾薬に引火して艦体全てが爆発した。
護衛機となる飛行艦に艦載されていた敵戦闘機は、エミエストロンの破壊と共に制御を失って落下。
九州地方沖で起きた天自艦隊対チャリオス艦隊。最終的に空に残ったのは天自艦隊だ。
損耗で言えば、チャリオス艦隊は文字通りの全滅。天自艦隊は護衛艦〝いかづち〟とF-35を四機。武装・非武装鉄甲は数千機が地に落ちた。
決して軽くない被害だが、勝ったのは日本だ。
これにて2・8護衛艦隊の戦闘は終わり、佐世保司令所は九州沖における有事の状況終了を宣言した。
とはいえ護衛艦〝いかづち〟の乗員やF-35乗員の救助活動と戦闘以外の仕事は残るため、艦隊はその場にとどまり続ける。
それでもこの地域での戦闘が終わったことに乗員たちは気を引き締めつつも内心ホッとしていると、一発の超音速の砲弾が関東地方から九州沖を通って空の彼方へと消えていった。
天自艦隊から遠く離れた空域を飛んでいき、艦隊が捉えたのはソニックブームだけで被害はない。
チャリオス艦隊が全滅したからチャリオス本島からの砲撃か、と天自艦隊の各艦長は警戒をするも二射撃目はない。そしてここに来て無意味なことをするはずもないから、何らかの考えを持ってしたのだと警戒を厳にするよう命令を下した。
その直後、常時データリンクしていた七隻の護衛艦からの通信が途絶えた。
*
「大変だ……総理! コクーン搭載護衛艦からの通信が途絶えました!」
エミエストロンの破壊確認から五分三十秒後。九州沖に展開していた第2・8艦隊がチャリオス艦隊を撃破した一報を佐世保司令所から防衛省経由で首相官邸の情報収集センターから受けた直後、さらに緊急通報が防衛省中央指揮所から届いた。
日本を五つに分割して守っていた、コクーンを搭載していた護衛艦七隻が一斉に信号が途絶えたのだ。
「〝いずも〟らがか!?」
報告に対して叫んだのは冷静沈着な反応を示し続けていた天自幕僚長だ。
「五ヶ所の監視所から連絡。護衛艦の反応消失と同時に護衛艦に繋がれた高圧ケーブルの落下を確認。高度六十五キロから護衛艦が落下中と判断して退避をするとのこと!」
「佐世保から連絡。第2・8艦隊が関東方面から飛来するバスタトリア砲の砲弾を確認。チャリオス本島から発射されたと推定しています」
「ラッサロン下の空母ロナルドレーガンに被害はなし!」
「コクーンを載せた護衛艦に人は!?」
「各艦に十五名ずつ乗艦していました」
「七隻の護衛艦との連絡は出来ません。完全に沈黙しています」
「退避中の自衛官から再度連絡! 空に黒煙を発する物体が落下中。ケーブルも落下し続けていることから護衛艦と断定」
「周辺への被害は!?」
「護衛艦が滞空している周辺二十キロは避難勧告を発令し、現在住民はいません」
「接続地域から連絡。コクーンが解除されて行き来可能。関東と関西地方は無防備になりました」
「なんてことだ……コクーンが突破された!」
北海道の〝ひゅうが〟。
東北の〝いせ〟。
関東と関西の〝おおすみ〟〝しもきた〟〝くにさき〟。
中国の〝いずも〟。
九州の〝しなの〟。
日本を敵バスタトリア砲から守り、無ければ推定一千万近い人命と三〇〇兆円を超す被害を防いでいた防護システムが一斉に崩壊してしまった。
「コクーン艦の護衛をしていたイージス護衛艦から連絡。イージス護衛艦は健在。連絡によると攻撃の兆候はなく、突然コクーン発生装置付近から爆発があったとのこと」
「ペオ・ランサバオンか……!」
それしかない。戦闘機も来ず、ミサイルも来ないで爆発を起こすとなればペオによる転移技術で爆弾を送りつけない限り不可能だ。
いずれ来ると思っていたが、いきなり日本のアキレス腱を狙ってきた。
おそらく九州沖に発射されたバスタトリア砲を使ってペオを起動したのだ。そして七艦全てを破壊した。
「落下地域の被害予測はどうなってる」
「はい。こうなることを予測してコクーン艦は可能な限り爆発物は撤去しています。燃料もほぼゼロで外部電源によって浮遊していました。兵器類も弾薬は自衛装備も含めて取り除いているので、誘爆はないかと」
「太平洋沿岸の全ての都市に緊急警報を発しろ。すぐに地下に避難するように」
「Jアラートを発令。太平洋沿岸の全都市に避難勧告を発令します」
「総理、チャリオスからビデオ通話です」
「コクーンを破壊しての通話と言うことは降伏勧告か」
コクーンが破壊されてから二分。まだ敵バスタトリア砲からの砲撃はない。
射程からここ首相官邸をピンポイントで狙うことも可能なのにしないと言うことは、インフラや人材確保を狙っているからだろう。
頭を潰して混乱させると事態の収拾が難しくなる。ならば都市を人質にして脅せば降伏すると思っているのだろう。
若井は選択を迫られる。
最強の補助ツールであるエミエストロンを破壊して一気に攻勢に回ろうとした矢先に、最強の壁を破壊された。まだ向こうには最強の武器が残っている。
さらにイルリハランのバスタトリア砲もないから相互確証破壊が成立しない。
向こうは降伏を迫るだろう。それを突っぱねて民間人に被害を出しつつも国防軍による攻撃をするか、世界が再起動を果たしているからこれ以上の戦闘は無意味と和平交渉に持っていけるか。
ムルートも近づいてきている報告もある。
かなり苦しい交渉となるだろう。
「コクーン艦が全て地上に落下しました。全て森林なのと爆発物を積んでないため被害は酷くありません。爆破で艦体が粉々に破壊されていたのもありますが……」
「……ふぅ、繋いでくれ」
「分かりました」
一度深呼吸をして若井は指示を出した。
中央モニターが切り替わって机に座るハオラが映し出された。
『やぁ若井総理』
「ハオラ会長、ご機嫌はいかがかな? どうやら眠ってた社会が目を覚まし始めたようですが」
『やかましいほどの目覚ましが鳴ったおかげで起きてしまったようだね。だからこちらも力いっぱい目覚ましを壊させてもらったよ』
「ラッサロンはまだ壊れてないようですが?」
『あそこは何もせずとも干上がるさ。君らを封じ込められればね』
ラッサロンの資源は日本の供給で維持されている。それが途絶えれば逃げ場のない檻に閉じ込められているのと同じだ。五万人の人員を維持するには常に供給が欠かせず、そう長くない先に餓死者が出るだろう。
だからかは向こうしか分からないが、おかげでラッサロンを守る原子力空母は破壊されず、放射能汚染の心配はしなくていい。まだ、であるが。
「ハオラ会長、ここらで一度話し合いをしようではないか?」
『そのつもりだよ』
最強の補助ツールを失い、世界が敵意を向けてくる。しかしハオラの表情は余裕を見せていて焦りがまったくない。
日本に対しては攻撃手段があるからだが、その後の世界の対応も問題ない表情と見て取れる。
『総理、簡潔に言わせてもらうよ。手を取り合わないか?』
てっきり降伏勧告と思っての斜め上の提案に、若井の思考は一瞬止まった。
反射的に断りたいところ、時間稼ぎも込みで次に話す言葉を考える。
視界の片隅で天自幕僚長が音を拾わせないように口元を覆いながら何かしゃべっている。
この状況で打開策があるか分からないが、ここで大事なのが時間だ。
「それは面白い提案だな。先の降伏勧告と真逆のことを言うとは」
『ハーフとはいえ、私たちと貴国は同じ母星の血を受け継いでいる。互いに理不尽にもこの星に翻弄されているのだ。これまでの事を水に流せとは言わない。これ以上の理不尽に抗うためにも手を取り合わないか?』
最初の宣言と真逆のことを言うと言うことは、優勢と同時にでも焦ってもいると言うことだ。
いくらバスタトリア砲とペオが健在でも、資源不足がどうしても出てくる。
日本も決して潤沢ではなくてもチャリオスと比べたら資源は豊富だ。チャリオスの技術力と日本の国力を使えば、ユーストルを完璧に実効支配してそれを全世界に向けることも不可能ではない。
『我々の目的は発展だ。貴国の邪魔で単独の目的は達成できなくなった以上、責任として貴国の協力を求める。もちろん対価は払おう』
「全世界を敵に回しても構わないほどの対価か。敵を取り込もうとは面白い思考だな。天才ともなると矛盾も無視するのか?」
『そちらには敵兵を自軍として徴用出来るボードゲームがあるらしいではないか。まさにそれだよ』
「王は徴用出来んぞ」
『そもそも君らに拒否権はあるのかね? いま命令を出せば十秒も経たずに数百万を殺すことも出来るんだぞ?』
「……天才と謡おうと、結局は武力をチラつかせての抑圧か」
社会性生物の弱点は星が違っても変わらない。
「それは人間性の欠陥か、それとも限界なのかは分からない。だがそれを回避するために人間には対話による協調と、武力ではなく法による支配へとシフトして来たんだ。地球もフィリアもそれに違いはない。ハオラ会長、あなた方の歴史は苛烈を極め、その怒りは世代を経ても消えることはないのかもしれない。復讐は復讐しか生まないような月並みの言葉は使わない。しかし、今は亡きウィスラーもハーフでありながらその怒りを抑えてリーアンとして生きることを決めた。生き方は変えられるんだ。発展が望みとあれば世界を敵に回さず、自身の有用性を利用してその道で上に立てばよかった」
『……若造が説教をするか』
「若造であろうと私は日本の首相だ。言うことは言わせてもらう」
『このはち切れんばかりの怒りを飲み込んで協調しろと、よくもそんなことを言えるな』
ハオラの表情が怒りへと変わっていく。
地雷を踏んでしまったと直感で理解するも、ある意味既定路線だ。どう路線誘導しようと向こうの結論は決まっている。
「はち切れんばかりの怒りを我が国が理解していないと? 我々はあなた方の歴史を知らないが、あなた達も我々の歴史を理解していない。過去にどれだけぶつけることのできない怒りを抱えて生きて来たのか、その累積はあなた方の非ではない。不幸は自分たちだけだと思うな」
『では協力するつもりはないと。母星と不幸を共有する我々が手を組めば、発展と支配が手に入るのだぞ』
「傷のなめ合いをするつもりはない。我が国の首相を始め、各国の元首を殺害した罪を白日の下に晒して償ってもらう。なによりテロ組織と交渉する考えは我が国にはない」
『……よかろう。その言葉を出したことを心底後悔させてやる』
ハオラとの通信が切れた。
答えなんてこれしかなかった。
国家としてテロリストに敗北するのも、手を組むのも選ぶわけにはいかない。
国民の命最優先なら降伏でも、首相としてその選択を選ぶわけにはいかない。
テロに屈しては、この戦いのために生活をなげうって後方支援を務めてくれた国民と、前線で戦う自衛官の努力は何だったとなる。
敵に屈しない選択が正しかったのか、それともまずは命と屈するべきだったのか。この究極の二択に正解はない。どっちも正解でどっちも間違いだからだ。
あの一九四五年。大勢の軍人と民間人を犠牲にしながらも、本心とは別としても経戦を続けた当時の首相。
若井も奇しくも似たような状況だ。
国民の命が今まさに消え去ろうと言うのに、命を消したくないのにそれに反することしか言えない。
自ら望んで総理の椅子に座ったわけでもなく、たかが四十数年しか生きていない政治家としても中堅かどうかの自分に、日本と言う国家と大勢の国民の思いを受け止めるには小さすぎた。
逃げ出したい。放棄したい。楽になりたい。
けれど、今、決断できるの日本国総理大臣は若井修哉以外にいないのだ。
百年後に史上最悪の冠を貰って名を残そうと、『総理』としてこの決断は必然だ。
それが公人の宿命だから。
「可能な限りチャリオス本島に攻撃を。少しでも被害を減らすんだ」
するべき発言だったか、するべきではなかった発言だったか、未だに感情が揺らいで声に覇気が乗らない。
閣僚や職員も言葉に迷っているようだった。いっそのこと罵ってもらうか、賛同するか賛否両論してくれたほうが紛れるも、誰もが正しい答えを出せないため言葉がない。
バスタトリア砲が発射される。
北海道、東北、関東、中部、関西、四国、九州。全てが射程内で無抵抗で秒速三百キロ以上の運動エネルギーが襲う。
やめろ、やめてくれ。
若井は握りこぶしを作り、歯を噛みしめ、目を強く閉じた。
「なにっ!? それは本当か!」
報告を受ける天自幕僚長が叫び、全員が幕僚長を見る。
ついに最悪の事態が起きたか。
鏡を見なくても若井の今の顔が苦悩に歪んでいると分かる。
「チャリオス本島で爆発! 本州側外壁が大爆発をしたもよう!」
「爆発!? バスタトリア砲は、国内の被害は!?」
「国内での被害は現時点でありません。爆発はチャリオスのみです」
「映像出します!」
中央モニターに武装型鉄甲が見るチャリオス本島が映し出された。
報告の通り直径五キロとある正六角形の台座の外壁が大きく損傷し、黒煙と火を噴きながら瓦礫を地面に落としていた。
その望んでも出来なかった光景が実際に起きているのを見て、室内にいる者たちは各々驚嘆の声を漏らす。
日本ではなくチャリオスが被害を受けているのは僥倖ではあるが、どうしてチャリオスは爆発をした。
移動式コクーン発生装置で国防軍はチャリオスコクーンを破壊できていない。通常兵器ではコクーンを突破できず、ましてや対艦ミサイルでもキロ単位の破壊なんて不可能だ。
もしや内部に潜入したエルマ達の工作だろうか。
結果と理由がかみ合わず、若井の思考は止まってしまった。




