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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ3 ユーストル決戦偏 全36話

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第162話『世界再起動』

 人の知覚では到底分かることも出来ない速度で撃ちだされた核弾頭。

 通常の手法と違って薬莢が要らず、弾頭のみで撃ちだされた核弾頭は一瞬でチャリオスの頭上を越え、三秒未満でユーストルの円形山脈を越えた。

 空気抵抗によって撃ちだされた瞬間から減速が始まるも、初速度が凄まじいため減速をしても人知からすればとてつもない速さを維持し続ける。

 わずかに空に向けて放ったことで、弾頭の高度は見る見る上昇してそれに比例して大気圧が低下。空気抵抗が落ちて速度低下も次第に緩やかになる。

 超々音速で移動する弾頭は断熱圧縮による空気加熱で鉄の融点をはるかに超す熱が弾頭前部で発生するが、砲弾全体に施したレヴィニウム製の被甲によって熱を電気に変換する。生み出す電力は熱に比例するので生み出された大電力は大気中に放電され、後方に置き去りにするように雷が発生した。

 弾頭の中では確実に起爆できるように、遠隔でスイッチを起動するのを除いてタイマーは機械式のアナログが採用されている。デジタルの発展が著しい現代でも、デジタルでは対抗できない特徴をアナログは有しているのだ。特に『絶対』が必要なシステムにはアナログが採用されていることが多い。

 それをまさに体現しており、デジタル仕様の起爆システムであれば撃ちだした瞬間に壊れていただろうが、アナログ式のタイマーは核弾頭の中で着実に時間を刻んでいた。

 下方の景色は秒ごとにその様相を変えていく。

 減速しつつも一秒で数百キロ移動するのだ。フィリアの地表の大部分が自然であっても地域によっては荒野であり森であり山々である。文字通り瞬きをする間にその景色は変わり、いつしか下方は海となった。

 重力によって弾頭は緩い放物線を描くも弾頭は熱圏を越えて尚高度を上げ続けていく。何もしなければフィリアの重力圏も抜けて二度と戻ってくることはないが、それ込みでの軌道だ。

 スーパーコンピュータで割り出されたあらゆる数字は、現実でもその数字通りに進む。

 発射から百五十秒。タイマーが0を差すと同時に、目標海域から数キロ手前の上空四百キロで起爆した。

 太陽の光を上回る瞬間的な光が生まれ、ありとあらゆるものを吹き飛ばして蒸発させる衝撃と熱を発生させた。

 通常であれば起爆地点を中心に熱と衝撃波が放射状に広がり、特徴的なキノコ雲が生まれるも今回は大気がほぼない真空と秒速数百キロの移動中での起爆なため、その特徴的なきのこ雲が出来ることはなかった。

 衝撃波も熱波も全てが放射状ではなく進行方向に引き伸ばされる。生まれる光も点ではなく線として地面に緩やかに向かう形で生まれ、大気が無いから雲自体が発生しない。

 端的に言えば真下で直視すれば失明するレベルの光の線が数秒間発生したのである。高度が高すぎるためすさまじい爆風は低高度では大した被害は出さない。

 ある意味では無意味で眩しく、汚い花火だが真髄は他にある。


 電磁パルスだ。

 電磁パルスは電磁波の一種で、自然界では太陽フレアが地球の地磁気と干渉することで電子機器に作用して過電流を起こして破壊してしまう。

 核爆弾はそれを人為的に発生させることができ、核戦略の一つとして保有国は考えていた。

 全てではなくても広範囲で作用する電磁パルスは現代社会では致命的な攻撃手段で、爆風による直接的な破壊では局所的でも電磁パルスは超広範囲で被害を出すのだ。

 気体フォロンを流動することで物理的な接触を遮断するコクーンも、電磁波を遮断することは出来ない。それによって確実に使われているであろう敵コクーンを突破し、ピンポイントでなくてもエミエストロンを破壊できる数少ない攻撃手段だった。

 一発目の核弾頭の目標はチャリオスが元々いた海域だ。弾頭はチャリオスがあった真上で起爆し、爆発線は二百キロに渡って生まれ、その二百キロから電磁パルスが発生した。

 理想的な爆発であれば起爆地点から直径四千キロに渡って電磁パルスが発生するのだが、一つ日本側に誤算で起爆時の速度を考慮していなかった。

 秒速数百キロで移動している中で起爆しても、慣性の法則は残るから『爆心地』は移動する。

 そのため発生する電磁パルスも移動した分だけ減衰してしまうのだ。

 電磁パルスを軸とした作戦の着想を出してから発射するまで十二時間未満。単純ながら初故の誤算に気づく者はいなかった。

 それでも電磁パルスは発生し、最大範囲は減衰しても十分な範囲の影響下にはあった。

 特に真下のエミエストロンと思われる球体と、沈没船に偽装しているであろう稼働している飛行艦には濃厚な電磁パルスが降り注いだ。


      *


 ルィルの目の前に映し出されているモニターには、無情にもチャリオスのバスタトリア砲で爆破されるラッサロンのバスタトリア砲搭載特務艦が映っていた。

 目の前で友軍の、しかも最強の武器であるバスタトリア砲が容易く破壊される場面を見せられて、ルィルの心境は怒り一辺倒だ。

 今すぐにでも感情に従って動き出したいところだが、状況がそれを許さず全力で平静の仮面をつけ続ける。

 いまの境遇は裏切る以前に考えた想定を全て塗りつぶすほどのことだからだ。昨日以上に見極めをしなければならず、裏切り者のルィルを演じる。

「特務艦が墜ちた……」

 裏切り者であっても見限ったわけではない。だからこれくらいの反応は普通だろう。

「ようやく厄介なのを排除したよ」

 そう答えるのは一緒にモニターを見るバーニアンのリーダーのハオラだ。

 飄々とした表情で何を考えているのか読めない初老の男はモニターの側に立って覗き込みながら戦果を喜ぶ。

「我々に致命打を与えるとすればアレくらいだからねぇ。消えてくれて楽になるよ」

「……私にとってはリアクションに困るんだけど」

「喜びたまえ。君は我々の仲間なのだからね」

「昨日、私を殺しておいてよく言うわ。それでいて生かしているし」

 ルィルは昨日、銃を突き付けられたが撃たれることはなかった。

 代わりにスタンガンを突き付けられて失神し、気づけば外から施錠するタイプの個室に寝かされていたのだ。状況的に向こうからしたらもうルィルの存在意義はないのと、スパイ疑惑から殺されたのかと思えばそうではなく、しかし殺すことはしなかった。

 代わりにディープフェイク動画では処刑動画がラッサロンと日本に流れて、疑似的にルィルは死んだこととなっている。

 個室は窓一つない懲罰房のような部屋で、ベッドと洗面台だけでトイレはない。元々はなく持ち込まれたであろうモニターが一台あるだけだ。


「結局のところパーシェとして私をどうしたいのよ」

「なに、当初の予定からは大きく外れてはおらんよ。君が死に、異星国家が負けて我が軍門に下り、その絶望の最中で死んだ君が現れて反旗を起こす煽動をすれば民衆はどう思う?」

「……日本にとって希望になるってこと?」

「神話にしろ宗教にしろ、その始祖は大抵は死を乗り越えた者が成る。異星国家に関わりたい君からすれば女王兼教祖は羨望の境遇ではないかね?」

「私が日本を奮起させつつ、実際はそうさせないようにコントロールしろってこと?」

「徹底的に痛めつけた中で死を乗り越えた君が現れれば、精神の拠り所として妄信することは歴史が証明している。人はね、縋るべきモノがあれば思考を止めて縋るものなのだよ」

 だから偽装とはいえリアルなルィルの処刑動画を作った。

 荒唐無稽で不確定要素はあるも、規模が大きければ押し通すことが出来るのは確かに歴史が証明している。

「悪いがこの戦争が終わるまでは大人しくしてもらうよ。また勝手に動かれては困るからね」

 ルィルの存在が最大限生かされるのは、日本が負けて徹底的に理解をさせられた後だ。降伏してすぐではないから、下手をすれば年単位で軟禁となる。

 それは体のいい証拠不十分化での軟禁する理由で、ルィルがスパイであることはほぼ黒と見ているだろう。昨日の失神させられる前の島内放送がそれを表している。

 いまのルィルは人質であり日本を傀儡とする都合のいい人材だ。それは昨日と変わってはいないが、よりパワーアップしていると見ていい。

 そういう意味では今ここで真の意味で死んでしまえばバーニアンの思惑は潰せるが、それは最終手段だ。あからさまな黒と認定しない限りは利用するだけ利用するつもりなのだろう。それまではルィルも抗い続ける。


「ハオラ、ハミットからの通信が途絶えた」

 個室のドアが開き、バーニアンの一人が顔を覗かせるとハオラにそう報告する。

「通信機の不調ではないのか?」

「突然あらゆるデータが途絶えた。ベーレットは展開してるから攻撃を受けたとは考えにくいが、もし奴らのバスタトリア砲による攻撃だとしたら……」

 イルリハランのバスタトリア砲は爆散する一分ほど前に一発撃っていた。てっきりここを狙ったと思ったが当たらなかった。ではどこを狙った。

「ハミットってなに?」

「ここチャリオスが元々あった場所に配備している駆逐艦の名だよ」

「元々あった場所って海じゃない。なんでそんなところに駆逐艦を置いておくのよ」

「聡いキミならこれだけで分かると思うんだがね」

「……もしかして、何かをそこに隠して……じゃないわね。置いて来たの?」

「エミエストロンだよ」

「え……この世界をシャットダウンした万能コンピューターがそこに?」

「正確には偽物だがね。もし異星国家にしろ他国にしろ、衛星を復活させてあそこを調べて攻撃を仕掛けても無駄にするためさ。高い確率であそこを調べると思ったよ。どうやって復活させて我々に気づかれさせなかったのかは分からんがね。まったく、異星国家は謎が多いよ」

「そもそも偽物を置く必要なんてないんじゃないの?」

「ただの敗北と、数少ないチャンスと期待させて失墜させる。人心を掌握するなら後者のほうが楽だからね」

 偽の希望をわざと置いてそこに全力を注がせ、失敗となれば相手は敵わない格上と認定して抗う気概を失ってしまう。その絶望に縁にいる中で死から蘇ったルィルが手を差し伸べることで人心を掌握する。

 えげつない洗脳作戦だ。全員ではないにしろそれなりの割合で浸透してしまいそうだ。

「なら本物は別のところにあるの?」

「君に教えると思うかな?」

「……まあ教えないわね」

 茶番とはいえスパイ疑惑をしたのだ。流れを作ったところで教えるはずがない。

「おそらく先のバスタトリア砲で通信障害を起こすなにかを打ち出したのだろうね。それでエミエストロンを妨害できると思ったのだろうけど、エミエストロンは健在さ」

 向こうは向こうで得た情報を使い、バスタトリア砲まで使って対処をしようとしたけれど失敗してしまった。しかも友軍はバスタトリア砲も失い、本当の場所を知っても何もできない。

「向こうの最強兵器さえ潰してしまえば時間の問題さ。敵のベーレットを突破して一気に――」


「ハオラ大変だ!」

 さらにもう一人扉を開けてバーニアンの一人が入って来た。

「次は何だ」

「エミエストロンからの通信が途絶えた」

「……は?」

 飄々として余裕に満ちたハオラの表情が、一瞬で呆気にとられた顔をする。

「五回確認したが間違いない。二分前からエミエストロンからの全ての信号が途絶えた。駆逐艦のゲッタもだ!」

「何をバカなことを……あれは我々の最高傑作だぞ。通信が途絶えるなどあってたまるか」

「だが事実だ。エミエストロンの信号が停止したことで、次々に世界中でシステム復旧してる。世界が再起動してるぞ」

「…………」

 ハオラ同様ルィルも呆気に取られ、どう自身を表現するべきか見失った。

 念願であったエミエストロンが止まったのは喜ばしいが、誰がどうやって止めた。破壊されたイルリハランのバスタトリア砲の攻撃は失敗したし、バーニアンはその攻撃も予想して対処をしていた。

 どうして止まった。止まってくれた。


「……本物のエミエストロンはどこにあったの?」

 エミエストロンが壊れた以上隠す意味もないだろう。聞きやすいとしてルィルは尋ねた。

「破壊した居住島の瓦礫と共に海流に流した。それだけでなく途中で海流に逆らう方向に移動もさせたのだよ。海流に乗せていると予想しても、途中で逆らえばもう分からないからね。なのにどうして……その流れ先とは二千キロと離れているんだぞ……」

 バーニアンのやり取りからルィルを騙すための演技とは考えずらい。トップが騙しに加担すれば信ぴょう性は高いが、ルィルはそれでも裏切り者としてのルィルとして対応をする。

 なぜなら世界が再起動していることを自分の目で見ていないからだ。

 スパイたるもの、自分の目で確かめない限り敵の情報を真に受けるわけにはいかない。

 しかし、それは真実だとすれば形勢は一気に逆転する。

 孤軍故に大軍となる世界を奇襲で黙らせた。その条件がなくなれば、いかにチャリオスとて不利と言わざるを得ない。さらなる隠し玉があれば別だが。

「……ペオの準備は出来ているかね?」

「準備は出来てる」

「なら例の作戦の実行に移れ。今すぐだ」

「分かった」

 ハオラの指示で報告しに入ってきた二人のバーニアンは退室する。


「大変なことになったわね」

「全くだ」

「エミエストロンの予備機とかないの?」

「あれの製造には莫大な予算が必要でね。秘密裏に製造費を捻出するのは難しいのだよ」

 エミエストロンと言う非常識なシステムを開発した割には、企業的な問題で予備機がないと来た。

 だからこその信ぴょう性も生まれる。

「でも負けないんでしょ?」

「もちろん」

 エミエストロンを封じられたことで焦りの色が出たが、今はもう普段通りに戻っている。

 手があるのか策があるのかは分からないが、負ける気はないようだ。

 何はともあれ、世界が再起動するのはルィルにとってこの上ない喜びだ。

 チャリオスに潜入してから常に曇っていた心が少し晴れた気がする。


      *


 神のイタズラかまたは施しか、単なる運なのか奇跡かは誰にも分からない。

 だが、ありとあらゆる因果関係が結び、綻び、一つの結果と言う未来を出した。

 イルリハランのバスタトリア砲搭載特務艦の二発目の発射と、特務艦に照準を合わせていたチャリオスのバスタトリア砲の発射は同時だった。

 二門の距離は約二五十キロ。最低初速度でも一秒未満で到達する距離だ。

 体感ではほぼ0秒で到達することから、視覚情報だけで見るとイルリハラン側の射撃は失敗したと思ってしまうが、実際は発射は成功していた。

 イルリハラン側が設定した初速度は秒速三百キロ。チャリオス側は千キロ。チャリオスの砲弾はわずか0・25秒で到達するが、その初速度と発射タイミング、さらには照準の違いが絶妙な変化をもたらした。

 秒速千キロで撃つ場合、単純計算で千分の一秒で一キロ進む。逆に三百キロは三百メートルだ。コンマ単位の世界だがその差は如実に結果に表れ、砲門同士が正対していないこともあって二つの砲弾は空中で衝突することはなく、ほんのわずかな隙間を作って交差をした。

 これが通常の火薬式の砲弾であれば特に物理的な変化は起きないのだが、通常物理を超越した砲弾同士の交差は、単なる交差するだけでは済まされない。


 なにせ音速の九百倍と三千倍だ。発生する衝撃波も凄まじく、砲弾も速ければ後方で発生する衝撃波も速く広がる。

 初速度が速いチャリオスのは大した影響を受けずにイルリハランの特務艦に着弾したが、イルリハランの砲弾は強く衝撃波を受けてしまった。

 もちろんその程度で起爆システム破損する仕組みではないし、被甲も合わさって核弾頭に影響はないのだが軌道に変化が起きてしまった。

 元々はチャリオスがいた場所を起点として海流に沿った三週間後の海域の上空がターゲットだ。そこから半径二千キロに電磁パルスを放射することで、瓦礫に偽装して流したかもしれないエミエストロンを破壊するつもりだった。

 それが凄まじい衝撃波によって角度がわずかに変えられてしまった。

 レーダーにも捉えられない速度なため二発目の存在は両軍共に見失い、発射した根拠を得られないからどちらも二発目はないと判断してしまう。

 二発目は空に在り、軌道は変えられてもそれは横方向なため重力圏は突破せず、ギリギリ果てしない宇宙に抜けない軌道を通っていた。

 核弾頭内部の時限信管も正常に作動し続け、予定していた海域から南の方向に千五百キロ離れた上空三百五十キロで核弾頭は起爆した。

 そして起爆地点から電磁パルスが放射され、その放射範囲の際涯にエミエストロンがあった。

 つまるところ、当初の予定地点から三千五百キロと離れた場所にターゲットとなるエミエストロンがあったのだ。もし敵から撃たれることなく二発目が発射された場合、本物のエミエストロンに電磁パルスは当たらずにこの作戦は失敗に終わっていた。

 元々チャリオス本島が在った場所。そこを起点とした海流の先。この二つ海域を捜索することはチャリオスも予測しており、敢えて途中までは海流に流しつつその途中で意図的に外れることで無駄打ちにさせるつもりだった。

 直前まで目論見通りに進んでいたのに、自ら手を下したことで自らのメインシステムを台無しにしてしまったのだ。

 この一連の事象を完全に把握する者は誰もいない。


      *


 電磁パルスの放射を受けたことで、常時シールドで保護されていたエミエストロンはそのシールドを突破されて内部機器を破壊されてしまった。

 文字通り万能の性能を持つエミエストロンも所詮はソフトでの話だ。ハードに関してはシールドで守ってもらわなければ銃でさえ破壊できてしまう。

 電磁パルスの存在は自然界にもあるから把握しても、核爆発による発生までは知らなかったことで対策は施されておらず、エミエストロンは完全に機能停止。内包しているレヴィロン機関も停止して家屋二軒分の大きさを持つエミエストロンは海中に沈んでいき、二度と浮上することはない。護衛として側にいた駆逐艦も同様だ。最新式故にアナログ式ではないためレヴィロン機関も機能せずに乗員を乗せたまま海中へと沈み、圧壊して海の藻屑となった。

 エミエストロンが破壊されたことで影響下にあった世界中の電子機器が一斉に回復を始めた。厳密には起動してもすぐに強制シャットダウンしてしまう現象が解消され、通常の起動が可能になったのだ。

 問題点として物理的にネットに接続できる環境下でないと継続してシャットダウンされるが、多くのシステムは繋いだままなため起動が出来ていき、連絡などをして接続をしてその数を爆発的に増やしていく。

 残念ながら燃料を調達できずに墜落した浮遊都市も多くあり、三週間から四週間ばかりのシャットダウンでも被害総額は天文学的数字で、死者数も数千万に至る。

 現代社会から原始的生活への対応は困難を極め、戻ったとしてもまた対応にフィリア社会は苦慮するだろう。

 それでも世界は再起動を始めた。


      *


 電気を含め全てのシステムが起動し始めたことで、国家の中枢もまた活動を再開した。

 イルリハラン王国首都指定浮遊都市イルフォルンも、レヴィロン機関のみに回していた電気が島中に通電され、シャットダウンし続けるあらゆる端末が正常に稼働し始める。

 イルフォルンの中央に位置する王宮でも同じで、地下にある危機管理指揮所では職員たちが迅速に職務についていた。

 辛うじて準備が出来た短波無線を使って周辺の都市とやり取りは出来ていたが、距離がありすぎて隣国や海外諸国の情報は入っておらず、職員はここぞとばかりに遠距離通信で他国と通信を行う。

 軍の浮遊基地とも連絡が行われ、危機管理指揮所はまず最初にラッサロンとの交信を行った。

 事の発端が日本政府によるテロ事件の真相を話したことから始まったから、現段階で日本付近で何かが起きていると分かっていたし、もし復旧したら最優先でするようにも定めていた。


「陛下入られます」

 システムが復旧してから二分後、王執務室で政務についていたソレイ王が危機管理指揮所へと入る。

「システムが起動しているのは本当?」

「はい。二分前から全てのネットに接続する電子機器が正常に起動しております」

 ソレイに問いかけに近くにいた職員が答える。

「ユーストルの状況はどうなってます?」

「今現在問い合わせ中です。システムが復旧したことによって官民ともに回線がパンク寸前で低下しており、少しばかりお時間を要します」

「多分……いや間違いなくユーストルは戦場になってる。だったら少しでも戦力を回して手を貸してあげたい」

 デジタル的に出来ることはなくても考える時間だけはたっぷりあった。

 ブラックアウトする前に得た情報から、今現在世界とユーストルでどうなっているのか予想を立てることは容易に出来て、ソレイはその予測に則って指示を出す。

 システムが直れば何をするのか職員たちは熟知している。

「まずは情報収集を最優先にして、あとは前もって決めた通りに動いて。この復旧がずっと続くのかすぐに終わるのか分からないからとにかく早く」

 はい!

 危機管理指揮所にいる職員から力強い返事が来た。

「陛下、ラッサロンと回線が繋がりました。このモニターで基地司令官と話が出来ます。ヘッドホンをどうぞ」

「ありがとうございます」

 職員からヘッドホンを手渡されたソレイは、少しぶかぶかするも両手で抑えて席に座る。

 目の前のモニターが切り替わるとヘルメットに防弾チョッキを身に着ける今期ラッサロン基地司令官が映った。


「ソレイです」

『陛下。お話が出来て大変光栄であります』

 疲弊している表情と身に着けている物から戦闘中であるのがすぐに分かった。

『回線が繋がったと言うことは作戦が成功したようです』

「この復旧はそちらが狙ってやったことなんですか?」

『はい。詳しい話は敵傍受を考えてお話しできませんが、日本と共同作戦で実行しました』

「今そちらでは戦闘中ですね?」

『現在チャリオス本島と交戦中です。敵は人員の少なさを覆うため、品種改良した空を飛ぶグイボラと鳥形のドローンを放出しております。我々ラッサロンは戦力を温存のため戦闘の参加は控え、主に日本軍が前線で交戦して数で言えば拮抗と言えます』

「……今、空飛ぶグイボラと言った?」

 向こうにとっては当たり前の情報だからか、さらっととんでもない名を報告に乗せたことでソレイは呆気に取られた。

 空を飛ぶグイボラ。比喩でもなんでもなくそのままも意味か。

『戦況を含めてブラックアウトから今日までの資料を送ります。敵はグイボラをこの世に再生させただけでなく、空を飛べるように品種改良までしていたのです。さらに単為生殖も可能で、絶滅させなければ二年もせずに総人口を越えます』

「なんだって……!」

『この戦いはユーストルや生態的地位を守るだけでもなく、人類の存亡が掛かった戦いとなりました。わが国だけでなく世界中の支援と援軍が必要です』

「分かりました。こちらに出来ることは全力でやるので資料を送ってください。それで、被害は今どんな感じですか?」

『日本が開発したシールド発生装置で敵の攻撃は防げています。しかし敵のバスタトリア砲によってわが軍と日本の駆逐艦が轟沈しました』

「シ……そう……ですか」

『ですが、エミエストロンの破壊に成功したことで形勢は変わると思います』

「……エルマはいま何をしてますか?」

 エミエストロンに翻弄されて冤罪を掛けてしまっても一人戦い続けてくれた従兄。この三週間、ひたすらに謝りたかった。王としてでも家族としてでも。

『現在危険な極秘任務についています。この通話が安全か不明なため詳細は語れませんが、いま基地にはいません』

「そうですか。では安全に通話が出来たら伝えてください。許してくれないだろうけど謝りたいって」

『必ず伝えます』

 画面の中で司令官が揺れた。同時に衝突音のような轟音が小さく聞こえる。

『陛下申し訳ありません。通信はこれにて終了させていただきます』

「分かりました。資料、お願いします」

 向こうは戦闘中だ。基地のトップをこれ以上拘束するわけにはいかないから、聞きたいことは山ほどあるけど通話を切った。


「空飛ぶグイボラ……シールド発生装置? それも日本が作った? 向こうはどうなってるの?」

 一ヶ月も満たない間隔離されただけで、ユーストルだけ未来にいるような気持ちだ。

 ブラックアウトするまでシールドなんてテレビの中の話だったのに、それが実際に使われている。それだけでも驚きだ。

「ソレイ、困惑する気持ちはわかるけれど、今は的確に情報を理解するのが先よ」

 ソレイと共に指揮所に入っていた母ラネスが落ち着かせる。

「表面的なことだけでなく、その中身も理解して考えなければ正しい判断は出来ないわ」

 こういう時は相談役のフィルミの担当なのだが、立場が立場なので指揮所に入る権利を持っておらず、フィルミは監視員がいる部屋で待機をしている。

「うん」

「送られてきた資料は他の人が精査して、より重要な情報をソレイに渡して」

「……ううん、僕も読む」

 母の考えに背くようにソレイは自分で考えて判断を下す。

「みんなで読んでまとめたほうがいいよ。難しいことはまだ分からなくても読まなくていいってことじゃないよ」

 子供だからって分かりやすく、見て気持ち悪くなることは省いた情報だけを渡されているのは分かっていた。ソレイはまだ十三歳。社会から見ればまだ守るべき存在で大人の世界に入れていいはずもない。

 ソレイ自身王としての職務は荷が重いし、分からないことだらけで嫌になる。もっと遊びたい気持ちでいっぱいだけれど、父を失い、目の前で大勢の大人が懸命に今できることをしている。

 なのに子供と言う理由で王としての職務を放棄するのは、幼いながらも築いた男としてのプライドが許せなかった。

 全部は出来なくても今出来ることをする。それしか、それをすることで父と叔父にようやく顔向け出来る。子供だからって逃げていいわけではない。

「みんなで調べて、みんなで考えて、みんなで動こう」

 ハオラともリクトとも違う、ソレイとしての王を示す。

「反撃だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえずこの無能極まる母親に責任取らせないとチャリオス滅ぼしたあとに同盟の継続どころじゃないな コクーンの技術供与なんてもってのほか
[一言] 更新お疲れ様です。 祝!ルィル生存&エミエストロン撃破!! やはり『駒』生かしてこその謀略に使用出来・・・・ 特務艦の自らの命を懸けた第二射が、チャリオスのエミエストロン進路の偽装工作…
[一言] なかなか簡単に勝たせてくれませんね~
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