第156話『パンドラの箱』
「天女、厄介者を取り除いた」
ルィルの音を聞き続けていたエルマがそう報告をする。
「取り除いたのか」
ここで取り除いたとは死んだのではなくこの島から脱出させたことを指すだろう。
目の上のたん瘤だった未解雇者たちを脱出させたのは非常に大きい。
彼らが使っていたサービスルームを拠点として使うことが出来るし、スパイや人質にされる心配もなくなる。
任務上彼らの生命と安全は二の次であるため、人質に取られようと見捨てるしか出来なかった。仮にスパイがいれば後顧の憂いを絶つためにも全員を排除しなければならない。
軍人として民間人の虐殺は避けたかったからルィルの機転は称賛に値する。
「ならばこちらも手早くいくぞ」
いまリィア達がいる場所は、エミエストロンがあるかもしれない浄水フィルター室の階下のさらに斜め下の部屋だ。
その部屋は配管の分配に使われているようで、フィルター室の真下の部屋から配管が伸び、それが何本にも分配されて四方八方の壁へと伸びている。入り口の壁の上部にも管は伸びていた。
つまり人が普段常駐する場所ではないし、工作をするにしても配管が邪魔だ。
そしてフィルター室の斜め下ともあって工作には不向き。監視カメラの妨害装置と合わさって交戦することなく来ることが出来た。
十三人の内、四人は外で警戒して二人が室内入り口。一人が工作をして残り六人は部屋で待機している
爆発物担当のフォーラは自身の装備品から爆発物を取り出して、それをフィルター室への最短となる部屋の角に設置をする。
爆発させれば警備を無視して一気にフィルター室に入ることが出来、エミエストロンを無力化すればその制御下にある全世界のシステムが回復する。
しかし、エミエストロンの存在の確認はされていない。未解雇者からの情報からアタリを付けただけで確実にあることをリィア達は持っていないのだ。
そのためこのアタリが欺瞞情報でエミエストロンがなければ、ただただリィア達の侵入と居場所を敵に教えるだけになる。
もちろんエミエストロンがあったとしても援軍に対する結果は変わらない。
「爆薬設置完了。いつでも行けます」
作業をしていたフォーラが完了の報告をする。
「では行くぞ。罠の可能性が十分ある。全員コクーンをすぐに展開できるようにしておけ」
リィアの声が届くメンバーは全員頷く。
「01、03、04、05が先行する。罠でやられた場合は02の指示で次に当たれ」
「……了解」
戦術上、指揮官が先頭に立つことはあってはならない。
悲しい話だが、指揮官は頭で他の隊員は手足だ。頭がつぶれれば手足は動かせないが、頭が残れば手足は動ける。
指揮官が先頭に出て死んでしまえば、指示を出す人が不足して手足はどう動けばいいのか分からなくなる。そのため基本的に指揮官が先頭に立つことはない。
それでもリィアは自分から出ることを買って出る。
情報の不確実性からリスクが高く、部下に死にに行けとは言えなかった。
「カウントダウンやれ」
「カウント五秒」
フォーラの言葉にリィア達は全員コクーンを展開する。。
「四……三……二……一……爆破」
タイマー方式ではなく遠隔操作による爆破で、フォーラは手に持つ起爆スイッチを押した。
一瞬にして赤、白、黒の順で視界の色が変わる。合わせて爆音がコクーンによって遮られても小さいながら伝わる。その音は物が床に落ちた程度の小さいものだ。
だが音とは裏腹に爆破の威力は大きく。爆炎によって生まれた煙が一瞬で部屋を満たし、電気系統を破壊して停電が起きる。
コクーンがあるから部屋の中にいたが、いたら一瞬で全員全滅だ。
軍事作戦を行うに対してコクーンの恩恵は凄まじい。自爆特攻でも身の安全を確保できるのだから強行的にも作戦に組み込める。
展開時間が短いのが難点でも実用性は絶大だ。
爆破から時間にして二秒過ぎたところで、停電と煙で見えずとも直前まで見ていた記憶とコクーンを頼りに爆発で出来たであろう穴へと突っ込んだ。
浮遊都市ゆえの特徴として軽量化が求められるため、壁の中に行動を阻害する鉄筋や鉄板は使われない。バーニアン製と言う例外の可能性を考えると不安が残るが、もう考えるだけ無駄だ。
その願いは叶い、リィアの体は障害物に止められることなく移動し続け、体感で上階へと移動したことを悟る。
「扉確保!」
いかに警戒をしても突発的な爆発を聞けば数秒は状況判断に時間を要する。その時間を無駄にしないためにも、共に先行する03(マンロー)、04(サリア)、05(テジ)に入口へと向かうよう指示を出した。
が、指示を出した直後に思考が停止する光景を目にしてしまった。
先行する三人も同じだ。エミエストロンがあってほしかった浄水フィルター室にエミエストロンはなく、罠は想定していたがリィア達が想定していない存在が部屋に満ちていた。
「なっ!」
事前資料によると浄水フィルター室の体積は一万立方メートル。その八割を島すべての水を生物学的、科学的に飲料水として再利用する最終工程システムで満たしている、はずだった。
しかしそこにあったのはそんな設備ではなく、部屋中に蠢く数多の生き物だった。
爆破によって生まれた煙で全身の判別は出来ずとも、本能がソレが何なのかを瞬時に理解させられた。
日本の報道でその姿を目にし、だが今見ているソレは形状が違っても同種であることに疑う余地はない。
グイボラ。
浄水フィルター室にあったのはエミエストロンではなく、空を飛ぶ縮小したグイボラだった。
「……退避!」
突入してから三秒。状況の危険度からリィアは退避を決定。指示により扉に向かおうとした三名をすぐ引き戻させた。
コクーンで身を守られているとはいえ生理的衝撃は守られない。長居すれば身も心も危険となることから即座に元の部屋へと戻った。
「03から05、異常はないか!?」
「問題なし!」
爆発によって向こうも反応が遅れたのか、四人は無事だ。
「01、なにがあった」
煙でフィルター室が見えないエルマが問う。
「グイボラだ。それも十や二十ではない。百、いや千以上はいた」
「全員穴を警戒! 銃を構え!」
事の重大さに気づいたエルマは、指揮官を差し置いて穴に銃口を向けるように指示を出す。
指揮系統は無視してもその判断は正しい。
穴の大きさは三メートル幅の長円。グイボラは成体で直径五メートルだが、今しがた目撃したグイボラは小型だ。秒単位の目視なため目算に自信はない。けれどこの穴を通れる大きさなのは間違いなく、地中を移動するのに空を飛んでいた。
爆破で作った穴を通って逆侵入することは容易に想定できる。
「全員、警戒しつつ通路に行け」
計画はご破算。罠の可能性も想定を上回る結果に次への動きに鈍りが出るが、まずは部屋を出ることが先決だ。
「一体侵入!」
リィア達がいる部屋は停電でもフィルター室には明かりがついていて向こうの様子が見れる。煙で視界は不明瞭でも影は見えて、小型化か幼体のグイボラが一体配管分配室へと入って来た。
「03撃て!」
ここで全員が撃てば一気に弾薬を消費する。けん制と追い返す意味を込めてマンローは小銃の引き金を引いた。
単発でも三連発でもないフルオートの連続射撃。グイボラまでの距離は十メートルとなく、直径が成体の五メートルではなく二メートル未満まで縮小しても命中は出来る。
グイボラの口は鳥のくちばしのようになっていて、その硬度は鉄に近い。
対物ライフルでようやくくちばしを破壊できるが、それ以外ではある程度は通用する。
リーアンの天敵であるグイボラにも当然生物として痛覚がある。
マンローが撃った弾丸はくちばしやそれ以外の皮膚に当たると、外皮が弾けて血しぶきか体内組織が飛び出た。
「ギュオオオオ」
しかし絶命には至らず、顔を覗かせて来たグイボラはフィルター室へと引っ込んでいった。
その隙にリィア達は通路へと出て扉を閉める。
「ヘッドクォーター、ヘッドクォーター、こちらナオミ、例の部屋に最優先処理物は無し。最優先処理物は無い。代わりに空を飛ぶグイボラを発見。空を飛ぶグイボラを発見」
リィアは部隊の司令部があるラッサロンに状況を伝える。
『……こちらヘッドクォーター、状況を確認した。空を飛ぶグイボラへの詳細を送れ』
今回の事が罠である可能性は司令部共々共有しており、リィアの報告に司令部は大きな混乱の色を見せず返答をしてきた。
「一瞬の目視なため詳細は不明。大きさは直径一メートルから二メートル、長さは五メートルから七メートル。グイボラ特有の地中を移動するのではなく、我々同様に自在に空を飛んでいた。一体近づいていたため射撃を行ったところ、くちばし部分にダメージは無くそれ以外の外皮には多少のダメージを確認。しかし致命傷には至らない。以上」
『……了解。貴隊は引き続き任務を遂行せよ。終わり』
「任務を続ける。終わり」
司令部から指示がないことから裁量権はこちらにあると言うことだ。ようは好きに動け。
今送った情報はすぐさまラッサロン全体と日本に共有され、何らかの対応を取るだろう。
空飛ぶグイボラがバーニアンによる品種改良なのか、突然変異なのかは分からないが、千以上いるとなれば意図的であることは間違いない。
しかも地中ではなく空を自在に飛ぶとなればリーアンにとってはこれ以上ない脅威だ。
断じて一島でも外に出してはならない。
「ここを離れる。この爆破で敵も動くはずだ」
「離れるとしてどこに向かう?」
「例のサービスルームに行くか?」
「いや、確証を得なかったとはいえミスリードされた以上、スパイが紛れ込んでいたと見ていい。であればあの部屋は使えない」
もちろん全てが未確認だ。偶然かもしれないし罠だったかもしれない。その確証が得られないのだから警戒を前提で行くしかないのだ。
自ら苦行を選ぶのは辛くも、軍事作戦上で『楽』を選んで最良の結果を得たことは原則的にない。何故なら敵もその『楽』を潰しにかかるからだ。
人は意識的でも無意識的でも楽を目指したがる。苦行の真っただ中であれば猶更で、当初の目的が失敗して考える『楽』は一休みできる拠点の確保だ。
そして未解雇者がいたサービスルームは格好の場所であり、敵側からすれば一網打尽に出来る。
リィアが敵なら狙わない理由がない。
事を起こしてから三週間強。五千人しかいないとはいえ未解雇者が三週間無事であるのも不自然だ。
故にリィアはそこを頼らない。
ただ、それだと自分たちはどこに行くべきかを別途判断しないとならない。
分配室に繋がる扉にグイボラが衝突したのか衝撃音が起きた。
生物なのに人工物の扉を理解して突破しようとしているようだ。
「行くぞ」
一度の衝撃で扉が凹んでいる。体重は数トンはあろうから数回で突破するだろう。
野生動物としてリィア達を獲物として見たのか、またはバーニアンによって生物兵器として操っているのか、現時点では何も分からない。
分からないからこそ離れるべく、リィア達はその場を移動した。
*
小さく爆発音が聞こえた。
時間的に突入班が浄水フィルター室付近に近寄る頃合いだ。外ではなく中での爆発音だから部屋に侵入するための爆破をしたのだろう。
上手くいけばエミエストロンを封じれて世界中の社会システムが復旧するはずだ。
しかし、奇襲に加えてベーレットの突破。敵に侵入を許しても警報システムすら鳴らないこの状況は異常だ。
未解雇者たちをすんなりと脱出させたことも気になる。
一体どこまでが意表を突き、どこまでがバーニアンの手のひらで踊らされているのか判別できない。
奇襲攻撃があった時は援軍と合流するべきと判断したものの、ティアたち未解雇者を無事に解放した今となっては懐疑的にならざるを得ない。
まだルィルは明確なスパイと認定される言動はしていない。自身の教義によって動いてはいても、だからと言ってスパイとは言い切れない。
ならば下手に合流するより向こうから新たな合図を来るのを待つべきか。
ここで恐ろしいのが、スパイ認定行為をした挙句に援軍と合流できないことだ。
けん銃一丁しか入手できていない中でスパイ認定されると、奥の手以外打つ手がなくその奥の手では決定打にならない。
動くべきか否か。
判断を下す前に携帯電話が鳴った。
「……もしもし」
『ルィル君、今どこにいるんだい?』
着信画面で分かっていたが声の主はハオラだ。
バーニアンのリーダーが直々にルィルに電話を掛ける。やはりルィルの目的を知りつつも確信が得られないからいじくる気か。
「最下層よ。向こうがベーレットを越えて攻撃したみたいだから様子見にね」
『おおそうか。こちらではまだ被害状況が確認できていなくてね。それで様子は?』
「かなりの大穴だったわ。大きさから見て対艦ミサイル級の威力ね」
『写真を撮って送ってくれたまえ』
「分かったわ」
『それと侵入者の痕跡はあったかい?』
「いいえ、そんな痕跡はなかったけど、いないとも言えないわね」
嘘を付きたくも突っ込まれると面倒だから中立的な返答に留める。
ルィル自身援軍を確認していないから決して嘘を言っているわけでもないから、このすれ違いは都合がよかった。
『分かった。写真を送ったら司令部まで戻ってきなさい』
「分かった」
『それとティア君はどこにいるか分かるかい?』
ルィルは苦虫をかむような顔をしながら耳から携帯を遠ざけた。
やはり全部見通した上で聞いてきている。
「……逃がしたわ。他にも生き残ってた人も含めてね」
ここで見ていないと嘘をついても、次に新たな嘘を付くことになって矛盾が生まれる。
おそらくハオラらバーニアンはティアの現状を把握しているからこその確認だろうから、本当に知らなかったとしても後々苦しむのは自分だ。ならば正直に話したほうがいいとルィルは自白した。
『それはどういうことかね?』
「そのままの意味よ。ティアを戦闘に巻き込ませたくなかったから逃がして、あと貴方らが見逃してたチャリオスの従業員を幾人か逃がしたの」
『詳しく話をしてもらおうか。すぐに上がってきなさい』
全部把握しておいて白々しい。仮に知らなかったとしても押し通す。
通話は切れて、ルィルは日本が攻撃したであろう破壊痕を撮影して司令部に戻ることにした。
*
「ラッサロンより緊急入電。チャリオス本島、エミエストロンがあるとされる部屋にて小型で飛翔するグイボラを千体以上を発見」
この有事は日本とラッサロンの共同作戦であり、情報は双方で綿密でフィルターなしでやり取りをしていた。
それによってエルマ達が得た情報はラッサロンに伝わり、すぐさま日本へと情報伝達された。
「空を飛ぶグイボラだと!?」
「先月接続地域を襲ったグイボラとは別か?」
「飛翔グイボラは先月から接続地域を襲っていたグイボラとは別種と推定。大きさは目算で直径一メートルから二メートル。全長は五メートル前後と、地中を這うグイボラとは三分の一と小型です」
「その情報は本当なのか? 空飛ぶグイボラなんて脅威以外ないぞ」
官邸地下の危機管理センターでは、予定していた奇襲に伴う結果が予想外のことに閣僚らは驚きの声を上げる。
「現場からの報告なら真実なのでしょう。エミエストロンがなかったのは残念ですが、空飛ぶグイボラがいたことを知れたのも大きな成果だ」
若井総理はそう告げて動揺する閣僚らを嗜める。
大事なのは得た情報をどう処理して活かすかだ。
やることは膨大でも得る確定情報は少ない。それでも若井達は最適解を出していくしかないのだ。動揺したり答えを見出せなければそれだけ下が困惑して被害を増大させてしまう。
「少なくとも空飛ぶグイボラはバーニアンが完璧に管理してると見ていい。変異種を繁殖させたのか生物兵器として品種改良したのかは不明でも、グイボラが外に出ることを前提で対策を一時間以内に出してください。そして戦場にいる全自衛官にこのことの連絡を」
ここで恐ろしいのは空飛ぶグイボラがリィアたちを襲うもだが、島の外に出て国防軍に牙をむくことだ。
数が千体だけなのか、本島の他の場所や随伴小島にもいる可能性も視野に入れると数は何倍にも膨れ上がる。
それらが人為的にコントロールされて国防軍と相対すれば、日本の鉄甲と同じで数のアドバンテージが一気になくなってしまう。
空飛ぶグイボラは脅威でも、それを今知れたのは大きい成果だ。
もし情報を得ずにグイボラが空に解放されてしまったら現場はより大混乱となろう。対策がなくても知っているだけでまだ冷静に動ける。
「空飛ぶグイボラがバーニアンの隠し玉か? エミエストロン、ペオ、コクーンに空飛ぶグイボラ。どれだけ手数を持ってるんだ」
「……エミエストロンで社会基盤を壊し、ペオでどんな所でも破壊。コクーンで身を守り、空飛ぶグイボラで持続的に人類を減らし続ける。空飛ぶグイボラが繁殖するか分からないが、出来るならこれは文字通り人類の危機では?」
一人の閣僚が、今わかるバーニアンの手札から筋道を立てる。
すべてはいやらしくも繋がっていた。
「防衛大臣、ラッサロンの司令官と島の外に出たグイボラへの対処の協力を仰いでください」
ラッサロンは今現在でも戦力投入は控えている。現時点でもまだラッサロンが完全復旧していることは知られていないため、意表を突くためにも予備戦力として待機してもらっているのだ。
だが空飛ぶグイボラが解き放たれるなら待ったなしだ。総力戦で駆除してチャリオスを叩かなければならない。
これは日本とラッサロンが歩調を合わせなければ事故につながるから、今の時点で対策と協力を進めていかなければならないのだ。
「佐世保基地から報告。2、5、8護衛隊の燃料と弾薬の補給が完了。ヒトナナサンマルに出港予定」
「九州沖の戦況はどうなってますか?」
壁のメインモニターが、関東沖から九州沖に切り替わる。
「コクーンによって護衛艦に被害はありません。ですがミサイルは対艦対空双方で消耗が九割を超え、鉄甲も二十五パーセントが落とされてます」
護衛艦が無事なのは朗報だ。しかし鉄甲が五千機以上墜とされたのは痛い。
毎日一万機とロールアウトするとはいえ、物量作戦にも限度はある。
「相手の被害は?」
「ありません。コクーンを突破する戦術が知られたことで対処がされ、武装鉄甲が優先的に落とされています」
武装鉄甲で特攻して相手駆逐艦のコクーンを破壊する。そうして丸裸にして攻撃する戦法も、方法が分かれば対処がされてしまう。
しかも武装鉄甲は自衛官の操縦だが非武装鉄甲は民間人だ。
技能の差から区別して狙い撃ちしているのか、特攻の機体をとにかく撃ち落としているのか、やはり無人機であっても侮れない。
「今後の懸念は?」
「鉄甲の数の不足もですが、敵艦隊にバスタトリア砲搭載艦がいることが確認されています。どの艦からなのかは不明ですが、チャリオス本島の方角以外で一発、九州コクーンに命中しています」
「やはり搭載艦がいるか……」
「どうしてその報告が今なんだ」
バスタトリア砲搭載艦がチャリオス艦隊に紛れ込んでいる情報ならば、察知と共に知らされるべき案件だ。それが遅れたことに閣僚の一人が怒鳴りつける。
「その初弾が発射されたのがチャリオス奇襲作戦時刻だったためです」
奇襲作戦は本日のメインミッションだ。一つ間違えれば損害が大きく注視するべき時に余計な情報を与えられない。職員はそこを考慮して報告を遅らせた。
それを知ると閣僚は一言「すまなかった」と謝る。
「……護衛艦のコクーンが耐える弾速はいくつですか?」
若井総理の問いに、計算上ではと付け加えて天自幕僚長が答える。
「常時出力で秒速千百キロまでは耐えます。全ての艦内電力をコクーンに集めれば秒速二千キロまでは耐えますが、それ以上は貫通します」
「これは現場が重々承知でしょうが、とにかく搭載艦の無力化を最優先で動いてください。一国一門の原則も無視してるでしょうから、落としたとしても油断はしないように」
「分かりました」
バスタトリア砲搭載特務艦は国際法で一国一門しか持つことは許されない。自己開発規制はせず、自力で開発する分でどの国でも所持は可能でも持てるのは一門のみだ。
しかしチャリオスがそれを守る義理はないし、それ以前に本島全周に搭載しているのだから間違いなくある。
天自幕僚長は頷くと佐世保基地へと連絡を取りに動いた。
「……やはりアレは必要か」
若井総理は口元を手で覆いながら思案する。
筋書としてバーニアンはシステムも人も支配しようとしている。他にカードがあるのかは分からないが、断じて全てのカードをフリーで使わせるわけにはいかない。
国防軍とラッサロン。潜入中のリィア達だけでこの四枚のカードを打ち破れるのか、確信は得られない。
こちらももう一枚カードを使えるようにする必要がある。
まだそのカードは使う条件が整っていない。何としても明日中には可決させる。
正真正銘の切り札として。
若井総理は小声で総理秘書官に指示を出した。




