第149話『国家総動員』
日本が実施した国家総動員は、平時にとっては非常識の一言で尽きる非日本的国家事業と言える。
基本的に憲法に則って政府は日本国民に何らかの強要をさせるには条件がある。
一般的には天災による避難などだが、何らかの仕事をさせることは原則的に出来ない。
それは私権に関わるし、職業選択の自由を無視する形になるからだ。過去の大戦でいや応なく国民はそれを強いられ、それを教訓に政府は国民に仕事を強制させることはしなくなった。
しかし、国土転移を果たした今の日本には例外的に国民にではなく企業に対して企業理念や規則を無視して命令を下すことが出来た。
防衛出動と緊急事態宣言である。
防衛出動はその防衛に必要な後方支援を関連企業に強要することが出来、緊急事態宣言もその緊急性から政府を雁字搦めとする憲法的私権保護を一部無効にすることが出来る。
この二つを悪意を持って使えば大日本帝国時代とまではいかないがそれに近い状態には出来るため、国会でも相当論及する。
だが明確に敵が世界的戦略手段を用いて攻撃を仕掛け、尚且つ日本に向けて侵攻しているとなればきっかけがあの暴露会見だとしても突き進むほかない。
若井政権は自分の全てを棒に振るう覚悟を持って国会の新旧入り混じる議員たちを言いくるめ、日本全国規模による事業を強要した。
もちろん非戦闘員である国民に戦場に出させるようなことは防衛出動と緊急事態宣言を用いても不可能で、鉄則として後方支援を願う形となった。
そして大原則として国民一人一人による任意は妥協しない。
関連企業こそスタート時点なのでその企業が抱える社員は事実上の強要となるが、社員の場合は『間接的』と言う政治的解釈でそれを突破し、契約企業に限らず携われる技術を有する企業も全国を対象として大中小零問わず片っ端から要請をした。
当然寝耳に水でしかも三週間と言う非常識では収まらない期間に、日本全国の対象となった企業は憤慨した。
通常のラインを停止し、特注製品に必要なパーツを製造をする。元受けが政府であっても企画や設計、製造や運搬と既存の設備があっても手順としてはほぼゼロからだ。
産業を甘く見過ぎてる要請ゆえに、これは経団連も黙っておらず若井総理に会長が直談判する事態にもなった。
しかし現状の装備では国防軍は自身はおろか日本すら守ることすら困難なため、若井総理以下防衛大臣、星務大臣など閣僚らは上場企業から自ら出向いて懇願行脚を実施し、対策チームが出した叩き台を元に各省庁が文字通り不眠不休で計画書を制作して各企業に配布。
防衛出動発令から四日目にはしぶしぶ企業らを納得させて国家総動員事業がスタートした。
対策チームが出した国民に要望することは三つ。
・自衛隊装備品の浮遊化。
・コクーンの製造と設置。
・特殊装備の製造と運用。
これらの存在有無で日本の行く末が決まると結論付け、各パーツは企業が製造して組み立てを国民にお願いしたのだ。
強いて言えば自作PCのようなものである。
複数のパーツを各企業がラインで製造し、それを一か所に運搬して人海戦術で組み立てを行う。
もちろん製造用ロボットによる自動組み立ても行うが、必要数が万単位なため企業レベルでは納品が追い付かないのだ。
そのために国民と言う一億人規模の人材を使い、例えパーツが足りずに人手が余ろうと効率性は度外視してとにかく国家規模による製造ラインを構築したのだ。
ただ、当然であるが国民がすんなりと協力はしてくれず、組み立て開始日は必要人数の一パーセント以下だった。
ある日突然国家防衛のために働いてくれと言われて、よしやろうと言う国民がどれだけいるのか。一般常識で考えれば少ないのは分かり切ったことだ。自身の仕事をしないで三週間だけ後方支援に回ってほしいと言われて縦に振る国民は少なく、むしろ政府の怠慢などと非難する国民の声の方がはるかに大きい。
与野党からも非常識の極みとして非難され、あの会見がきっかけなのに責任を国民に押し付けるなと挙がる声は正論とも言える。
あの会見が無ければ何も準備できずに終わったと釈明したところで開き直りと言われておしまいだ。
この政府への不信感渦巻く国民の非協力的思考を打破したのは、意外な人物だった。
皇室と戦時中を生き抜いた高齢者の方々だった。
天皇を始め皇室が組み立てを行いたいとお声を出したのだ。それを宮内庁が公表した。
そして戦時中に生きた人。戦後直後に生まれた人と、敗戦の恐ろしさを根強く分かっている人々が再び次世代で同じ境遇は味合わせたくないと手を挙げたのだ。
皇室が動くのに行政が動かないわけにはいかない。
これは国会議員の重鎮も選挙と言うある意味邪な考えがあれど動かない選択肢は取れず、内容の有無にかかわらず作業を示して、それをメディアが大々的に報じた。
そこが起爆剤となって国民も動いた。同調圧力ともあるが、権力者や年長者がやっているのに自分たちがやらないわけにはいかないトップダウンの国民性が働き、随時メディアが報道することもあって日に日に参加者のパーセンテージを上げていった。
実際に完成品が出来始めたのは開戦四日前頃からで、コクーンが日本を覆ったのも五日前である。コクーンに関しては専門知識が必要なため業者以外頼めず、これだけは独立して動いていた。
そして国防軍の浮遊化や防護装備の製造は現在進行形で続いている。
出し惜しみはしない。日本のウィークポイントは装備品の少なさなのだ。
究極のコンピュータ。転移技術。最強の砲塔。人類を凌駕する頭脳。あるであろうシールド装置。
これらを相手に予算などを気にしてはいられず、文字通り総力戦で当たるべく兆単位の予算を惜しげもなく消費して事に備え、バスタトリア砲による一方的な蹂躙を防いだのだった。
これが三週間に渡る戦後最大の国家事業の全容である。
装備品の浮遊化によって国防軍はディスアドバンテージとなる地上からの攻撃を回避した。
コクーンの設置によってバスタトリア砲の被害を限りなく低く出来た。
そして第三の、それこそ国民総動員して生まれた装備品が二日間の戦闘で得た情報を元に使われることとなる。
*
日本にとって優先的に解決しなければならないのは敵コクーンの突破である。
流動する力場を転用してのシールド技術ゆえに、フィクションでよくある集中攻撃による一点突破が難しい。
常に攻撃を受けた部分を流動する力場が補修してしまうため、一発でコクーンを貫く威力が出なければ不可能なのだ。しかもコクーンの強度は電力によって増減するため、莫大な電力があれば低速度バスタトリア砲なら防いでしまう。
前日の無人機編隊の攻撃によってシールドの性質がコクーンと同質であることが判明した。
コクーンと同じか否か。それだけで無人機編隊、当時の為替相場として六百億円を失っても十分な成果と言える。
これが浮遊化した護衛艦であったならば最悪バスタトリア砲の直撃を受けて乗員含めてそれ以上の損害を出していたかもしれない。
人為的損失がないだけ十分だった。
そしてコクーンと同質のシステムであれば解決できなかった弱点も同じなはずで、であればどこにその弱点があるのかも推察出来る。
ただし、この弱点は既存のミサイルなどの重火器ではおそらく突くことは出来ない。
敵の防空網を突破できないのもあり、なにより位置取りが出来ないからだ。
しかし、国家総動員で製造した新装備であれば敵防空網も位置取りも出来る。
元々は別の要因のためであったが転用することが可能だった。
若井総理は佐世保司令部から上がる情報を元に、敵コクーン突破の可否を問われた。
チャリオス本丸を落とすためにもまずは前哨戦として展開中の無人艦隊を落とし、その成果により士気向上を現場と国民に与える。
人為的被害がない今だからこそ勝機があることを国民に与えるべきだ。
若井総理は熟慮の末、新装備の〝鉄甲〟の出動を国防軍と国民に命じた。
新装備鉄甲の第一ロットが出来たのが一週間前。
国内の資源を消費しながら作られる鉄甲の一日の生産数は一万。
一億人と言う潜在的人手はあっても、実際の作業者を基準とした需要と供給と運搬を考えるとそれが限度だった。
それでも今の日本にとっては頼もしい味方だ。
九州沖のコクーンの外のユーストルには、開戦前から空から見るとまるで緑の床に小粒の砂を巻いたかのように黒い点々が不規則な間隔で点在している。
数は握った砂粒ほどもあり、それは万にも届いていた。
その万に届く数の黒い点々は対角線上で一メートルの六角形をしており、厚さは十五センチある。
端的に表現すれば薄く巨大化したネジの無いボルトの頭だ。
その厚みの無い六角柱の平面にはカメラやセンサーが前後左右に埋め込むようにして取り付けられ、上部にはシート状のソーラーパネルが張り付けられている。さらにレヴィニウム被膜がソーラーパネルより下層にて機体全てを包んでもある。
動力は電気で電源は太陽光とその熱。母艦を必要としない日本産異地仕様のドローンである。
なにせ地球時代のドローン産業と異地のレヴィロン機関はすさまじいほどに相性がいい。
地球のドローンの欠点はローターの音がうるさく、電力消費が大きく長時間飛行が出来ない。それをレヴィロン機関は全部解決するのだ。レヴィニウムやレヴィロン機関の存在を知ってから日本の関係者は真っ先にドローン改良を考えた。
よって日本産異地仕様ドローン自体は四年以上前には完成しており、それに修正を加えたのが遠隔無人多目的防護盤〝鉄甲〟である。
万を超す鉄甲は各々時差を持って地面から音も出さずに浮き、様々な高度と速度で移動を開始した。
それを俯瞰して見ればさながら池から飛び立つ白鳥か。
開戦から三日目。鈍重な戦闘ではあるが、日本は敵艦隊を落とすべく行動へと移したのだ。
鉄甲はドローンとしての特性が強く、他の航空機と違って速度より飛行時間を念頭に設計されている。
速度は最高時速三百キロ。飛行時間は最高速度を常に維持して丸四日。
そして最大の特徴が武器を特別仕様機を除いて九十九パーセント以上が搭載していないことだ。武器だけでなく欺瞞弾すら搭載しておらず、もちろんステルス仕様でもなければコクーンも搭載していない。
数をそろえるためにコストを減らしたことで、素人目からしたら一般ドローンを浮遊化したような形となる。
値段は一機百五十万円。
縮尺が違えばUFOと間違えられなくもない六角形の円盤ドローン群は、概ね三つのグループに分かれる。
一つのグループは天自艦隊の周辺数キロを半円を描くように静止。
もう一つのグループは天自艦隊と敵艦隊の中間の宙域で待機。
最後のグループはそのまま敵艦隊へと進む。
先陣を切るは約三千機の鉄甲。
座標による移動のため一見すると一糸乱れず、多数の点が空中をそのまま移動しているように見える。だが細かく見ると直線的な軌道変更をしている機体が幾分か確認できた。
それでも向かう先は敵艦隊だ。
天自艦隊と敵艦隊の中央付近に先陣鉄甲が差し掛かったところで敵艦隊が動く。
鉄甲は特殊仕様を除いた機体は非ステルスで、しかも大半が民製だ。大きさが1・5メートルで水平にして正面から見て面積を低くしても、突然三千個もの反応が起きれば誰だって仕掛けたことがわかる。
つまり敵艦からは鉄甲をバッチリ把握しており、向こうからすれば正体や用途は不明でもその数から対空ミサイルを発射した。
敵艦隊の対空ミサイルに対して天自艦隊は動かない。
敵対空ミサイルは先頭付近の鉄甲に命中した。
命中した鉄甲も避けようとするも相対速度は時速千キロを超える。秒速三百メートルの速さで来ると遠隔操作だけでなく有人飛行であっても目視や簡易センサーでの回避は困難だ。
敵ミサイルは全弾で鉄甲を落としていく。
が、鉄甲は先陣だけで三千機ある。数十機落としたところで損害は百分の一なため特に支障はない。
さらに敵艦隊はミサイルを発射して鉄甲を撃墜していくが、数十に対して三千では太刀打ちできない。
鉄甲群は犠牲を厭わず進み続ける。
広範囲に展開する大群に対して局所的な攻撃ではらちが明かない。
そこでチャリオスは鉄甲群に対してバスタトリア砲を放った。
直接ではなく範囲攻撃であれば一発で多数を攻撃できる。
敵艦隊はコクーンを展開して衝撃波を回避しつつ、チャリオス本島は味方艦隊の側を通る弾道でバスタトリア砲を放った。さらに天自艦隊の至近弾にもなる弾道だ。
コクーンを装備していない鉄甲は、衝撃波で失墜することはなくても破壊は免れず、至近弾から一気に外装が壊れて破壊されてしまう。
内燃機関を持たないから爆発することはないがリチウムバッテリーからは火が灯り、無数の破片となって硬く赤い雨がユーストルの草原へと降り注ぐ。
一発のバスタトリア砲でその射線上の鉄甲が一気に撃墜し、艦隊同士の中間と天自艦隊周辺の鉄甲群にも被害が及んだ。
それでも進みは止めず、数を減らしても鉄甲群は敵艦隊まで五十キロに迫った。
敵との距離が近まったことで敵艦隊からの対空攻撃が止まった。何をされるのか作戦が不明である以上、攻撃を妨害するコクーンを展開して身を護った方が良いと判断したのだろう。
チャリオス側からすれば一撃で撃墜できる無数の小型航空機は恐るるに足らないが、作戦の用途が分からず初日から使わなかったことから警戒を強めるのは当然だ。
安易に考えれば使い捨ての特攻であろう。だが使うタイミングが初日ではなく三日目であることで敵に必要以上の判断時間を作らせた。
敵艦隊からの攻撃は止まり、チャリオス本島からのバスタトリア砲だけでは数発は一気に数を減らせても数が減ると衝撃波を含めても大量撃墜は困難になる。
敵艦隊からの攻撃とバスタトリア砲によって先陣の損耗率は七割近くなったが、それでも鉄甲は八百機近くは生き残って艦隊をカメラで視認できる距離まで来た。
このままでは鉄甲は敵艦隊それぞれのコクーンによって破壊されてしまう。
もちろん日本はそれはさせないように、生き残った鉄甲は敵飛行艦の艦底より低い高度を取った。
ここでチャリオスは日本の意図を悟ったようだ。敵艦隊は後退しながら艦首を前に傾け艦尾を上に向けて鉄甲らの死角に艦底を持っていく。
日本もその動きに対応し、大半を占める非武装の鉄甲は速度を落として待機。生き残った全体の一パーセントに属する特殊仕様の鉄甲が、敵艦隊戦艦と駆逐艦を含む十一隻に対して一隻数機ずつ分かれた。
いかに最高速度では鉄甲を上回る飛行艦も、その質量から加速は鈍重だ。
加速度に於いては鉄甲に分配が上がり、飛行艦が動くより前に武装型の鉄甲が十分な距離を取って艦底へと滑り込んだ。
艦首から艦尾に進みながらカメラで確認しつつ、飛行艦に合わせて鉄甲自身も動いてコクーンに触れないよう注意する。
そして見つける。船体の中心から少し後方に正方形のパネルを。
既存の物で言えば日本のひゅうが型以降に使われている白いパネルのフェーズドアレイレーダーのようなものだ。
それが一つ三メートル四方で設置されている。
複数の武装型鉄甲がそれを確認すると全機が間髪入れずに銃撃をした。
武装型鉄甲はバッテリーを減らすことで飛行時間を減らす代わりに自動小銃機構が組み込まれ、一回撃ち切りだが三十発の5.56mm弾を発射することが可能だ。
それを一隻に対して少なくとも三機以上が付いての発射。百発前後の小銃の弾丸がパネルに向かって放たれる。
事前情報が無ければコクーンによって阻止されてしまうと思ってしまうが、この弾丸はコクーンで阻止されない。
全てが無抵抗でパネルに当たり、ガワを破って内部へと食い込んだ。内部メカが弾丸によって致命的な破壊を受け、ショートして白煙が出た。
銃弾を打ち終えた一機の鉄甲は、確認を取るためパネルとは違う場所の艦底に向かって加速した。
ガン。
音だけを聞くと断じて軽くとは言えない重音が低範囲で響き、その音は至近の鉄甲がしっかりと受音する。
コクーンで守られていたはずの敵飛行艦のコクーンが機能していない。音はその証左だ。
日本がいま破壊したのはコクーン発生装置。
コクーンはパネルから流動する力場を放出して対象物を包み込む性質を持つが、弱点としてパネルそのものはコクーンは覆わない。パネルの縁から出るため中心部が無抵抗なのだ。
それを確認するために前日に攻撃を仕掛けて流動する動きを確認。パネルが死角に入りやすい艦底にあると読んで行動し、見事的中させた。
日本も同じような位置に設置しているから予測を立てるのは簡単だった。
バーニアンもまさか日本がコクーンを開発して弱点を知っているとは思わなかったのだろう。その慢心を突くことで、日本は難関と思われた敵コクーンを突破した。
*
官邸では歓声が上がった。
難所の一つであったコクーン突破を対策や疑念を持たれる前に早期で果たせたのだ。
司令部としては冷静沈着でなければならない。戦争中に意識が逸れたり高揚して判断に後れを生じてはならないからだが、現代日本がSF的アイテムを自力で作り出し、相手のSF的アイテムを突破したのだ。
フィクションでしかない存在を現代日本が突破したとなれば高揚しない現代人を逆に探す方が難しい。
それでも成果を直に確認した若井はすぐに自身を律した。
「皆さん、喜ぶのは分かりますが落ち着いてください。今はまだ作戦続行中です」
いくら鉄甲は半ば使い捨て前提であっても血税と国民の生活を犠牲にして作られたものだ。
可能な限り使いまわすことも使用規約として定めているから、無意味に落とさせるようなことは出来ない。
「第八護衛隊群が対艦ミサイルを発射しました」
幕僚長が報告。中央モニターに映る地図に表示される天自艦隊から敵艦隊に向けて輝点が現れる。
「予定通り、敵艦からの迎撃は非武装鉄甲の体当たりで防いでください」
「分かりました」
鉄甲の九十九パーセントを非武装にして半ば使い捨てにしたのは、体当たり防御と疑似的な壁を作るためだ。もう一つ重大な理由があるが、使い道としてはこの二つのために鉄甲は運用されている。
体当たりは敵ミサイルに人為的にぶつけることで、護衛艦の対空ミサイル消費を抑える役目と固定性を利用して敵艦や戦闘機に対して壁として妨害することも出来る。
今回命じたのは天自の対艦ミサイルを迎撃されないよう、敵対空ミサイルに対して体当たり特攻して防ぐやりかただ。
体当り率は速度から見て低いが、そのために万を超す機体を製造させた。一機では当たらなくてもそれが百機ともなれば一機は当たる。
数打ちゃ当たる戦法だ。
そのために鉄甲を前中後と配置したのだ。
敵艦隊もミサイルを察知してか迎撃ミサイルを発射する。武装型鉄甲の武装は使い切り、あるのは非武装にはないコクーンのみだ。
垂直発射管付近に移動してコクーンを展開。壁にして妨害する考えはあったものの、武装型は数が少なく貴重だ。非武装型より高価で数がない。そして何度も使いまわす使用上から武装型がとるのは帰還の一択だ。
敵艦のコクーン無力化に貢献した武装型鉄甲は帰還に付かせ、天自艦隊の対艦ミサイル護衛は非武装型鉄甲に委ねる。
生き残った鉄甲は約七千機。前線はバスタトリア砲やミサイルで数を減らしても、ばらけた中間のは半数以上が残っている。
その中間に位置する鉄甲群は、多方面から得た情報をスパコンによる高速処理によって最寄りのミサイルの位置を鉄甲の操作画面上に表示し、不必要に右往左往させず鉄甲群を密集させて特攻率を向上させているはずだ。
なにせ無人機だ。壊れたところで痛いのはコストのみで人命は失わない。
鉄甲群はコンピュータにより指示された標的に向かって移動し、敵艦隊ミサイルを次々に体当たりして撃墜していく。
代わりに天自の対艦ミサイルは鉄甲の妨害を受けずに飛行して敵艦隊へと進み続ける。
行け、行け。
現場の映像ではなくコンピューター上での輝点ではあるが、若井はその移動する輝点を見ながら願う。
この敵コクーン突破しての艦隊撃沈は恐らくこの奇襲一回切りしか成功しないだろう。
次からは必ず対策を取るから、戦力低下のためにもこの撃墜は成功させなければならない。
ミサイルを示す輝点は前回迎撃された地点を超えて敵艦隊に最接近する。
「行け、行け!」
閣僚の一人が叫ぶ。
おそらく敵艦隊も迎撃ミサイルは撃てずとも主砲や近接防御火器システムで対処をする。
それらから守るのも非武装型鉄甲の役目だ。
前線にいる生き残りが主砲や近接防御火器システムに近寄り、例えそれらに撃たれても砲塔の前に居座って数発であっても迎撃を阻止する。
数発を妨害することで得た数秒が、より対艦ミサイルを近づけるチャンスとなる。
そして輝点は敵艦隊を示す輝点と接触した。
司令部にいる人たちは固唾を飲んでモニターを凝視する。
輝点が、消えた。
幕僚長に電話が鳴ってそれに出る。
「早期警戒機から連絡です。敵艦隊に対艦ミサイルが命中。浮遊能力を失い墜落したとのことです」
歓声、は上がらなかった。
ルィルからの情報を隠匿するため敵艦隊に人がいることは指揮系統に含む人しか知らされていない。よって司令部にいる大半が数百人はいたであろう艦隊を撃墜したと言う認識だ。
コクーン突破は喜ばしいことも、非戦を謡った日本が大勢の人を殺したとなっては素直に戦果を喜ぶわけにはいかない。
もちろんこれは戦争だ。向こうから仕掛けてきて殺すことに罪悪感を抱く必要はない。日本もコクーンがなければ万単位での死者を出していたのだ。
命のやり取りには命を持って返す。政治的にそれを防ぐのが最優先でも、起きてしまってはそれが現場の掟だ。
そうでなければ大きな被害を出してしまう。
実際は人的被害はなかったとしても、周囲の人々はその認識の下で次に挑んでもらいたい。
「これは我々にとって大戦果ではあっても、浮かれて次に挑んでは負け戦です。勝って兜の緒を締めよ。次も同じく通用するはずがなく、相手も未知なる手を使って来るでしょう。今回の勝利は今回のみで受け止め、次に戦闘に向かいます」
勝利経験は美酒であり毒だ。今日勝ったからと次も勝つとは限らない。
先の大戦がそれを証明しているし、苦い経験でもある。
経験は経験として受け止めて初心に帰るのだ。
若井はそれを強く周知させる。
「今回成功したのは、こちらがコクーンを開発していることを知らなかったこと。同質かどうかの判断が出来なかったからでしょう。次は素直に攻撃はさせないと思います」
実験の結果、二つのコクーンの放出口同士を近づけて無防備を解消することは出来ない。放出口から離れた幕同士なら問題ないが、何らかの科学的干渉によつて放出口が近くにあるとコクーンの展開自体が出来ないのだ。
少し離れると双方ともに展開が再開されるも、その隙間は分かっているだけでコクーンの代償に関係なく十メートルは必要とされる。
日本もコクーン発生装置から周囲十メートルにはコクーンは展開出来ないため、同じ戦法をされると日本も落とされてしまう。
だからこそ無数の鉄甲を国家総動員で作ることにしたのだ。
そして向こうがこちらより頭の巡りが早いのなら、同等かそれ以上の対策を打って出るだろう。
過大評価をしても油断は出来ない。
それでも艦隊を落とした戦果は、相手に心理的ショックは与えられただろう。
どれだけ考えても補給がない事実は変わらないのだ。
若井はコップに注がれたミネラルウォーターを飲んだ。




