第147話『物事は一方の都合だけで進まない』
チャリオス対日本の初戦に関して言えば、チャリオスの惨敗だ。
浮遊駆逐艦と戦艦は無傷でも、艦載機十五機を失った。
出撃した戦闘艦に対して艦載機は三十機。たった一度の戦闘で半数の戦闘機を失ったとなっては、空を主戦場とするリーアンにとっては屈辱の文字しか浮かばない。
陸海空と三均等しなければらないのと、空のみで負けたとなっては当然と言えよう。
だが、ルィルの目に映るバーニアン及びバーニアン側に寝返ったリーアンことネムラは、焦りや焦燥の色を見せなかった。
まるで負けることを前提に指揮を執っていたようにも見えて、体のいい人質とスポークスパーソンであり見学者としてルィルはチャリオス本島の戦闘指揮所にいた。
広範囲の情景を見渡せるように部屋の隅に留まり、腕を組んでただただ見る。
見た光景をそのままエルマ達に遅れれば敵情報を送れて有利になるが、残念ながら遅れるのは音声だけだ。しかも体内に埋め込んだ発信機だから、自身の声は骨振動で鮮明に伝えられても外部の声は籠ってしまう。
少しでも情報を送れればとしているが、果たしてどれだけの情報を送れているかは分からない。
独り言で伝えてもいいけれど、それでは勘繰られるどころではなく、限りなく黒に近いグレーから黒であるとバーニアンに伝えてもしまう。
ここは流れに沿うことで最小限で最大限の情報を伝えるにとどめる。
「大敗だって言うのにどうしてみな平然としているの?」
詳しい戦術や戦略は聞かされていない。日本の情報を話すだけ話してもチャリオス側のブリーフィングには参加していないから、どのようにして日本侵攻を企てているのかは分からない。
なのに司令部にルィルがいられるのは発信機のことを知ってか知らずか、大雑把であれば知られても構わないのか、一貫性が無くて逆に不安になる。
敢えて言えば判断力が散漫して「これ」と言うのが分からなくなるのだ。
「それはね、相手の出方を見るためだよ」
ルィルの呟きに答えたのはバーニアンの一員の女性だ。
「負け前提の小手調べってこと?」
「勝てば良し。負けても良し。相手の手を知らずに本腰を入れるわけにはいかないでしょう?」
「……そのおかげでパイロットが十五人死んだわ」
「フッ。無人機よ。落とされたのは全部ね」
それで合点が言った。
空を主軸に置くリーアンが、いとも簡単に日本に撃ち落されたのは人が乗らない無人機ゆえに反応が違ったからだ。
人的被害がない代わりに反応が落ちるから、爆撃や偵察などに無人機は使われて瞬時の判断を要する戦闘機で使うことはない。
戦闘員、非戦闘員合わせて五千人前後しかいない以上、無人機に頼るのは必然の帰結ではある。だがその分撃墜率も上がるから貴重な戦力を捨てることにもなろう。
備蓄以外物資の補給が難しく、戦闘機などを自島生産するには部品が足りない。
日本の唐突な暴露会見を開いたことで急遽動いたことで、バーニアンは現況戦力で日本を屈服させるほかなく、バスタトリア砲の脅威で勝てるかと思えば思いもしないシールドを展開して防いだ。
従来とは異なる装備を携えて向かってきた日本の出方をより知るため、無人機を飛ばして事前の情報とのズレの修正を計った。
「ルィルさん、貴女は知っていた? 異星国家にベーレットを保有していたこと」
「……そもそもベーレットってなに?」
純粋に初耳の用語にルィルは聞き返した。
「シールド発生装置のことよ」
「なんで他の国々が持ってない防御装置を日本や軍事企業が持ってるのよ」
ルィルの知識ではシールド発生装置は空想上の存在だ。あれば兵器事情ががらりと変わる代物。しかし開発に成功していないから、バスタトリア砲を日本が防ぐまでは頭の片隅にも無かった。
さらりとベーレットと呼称するシールド発生装置を明言するところからブラフではないのだろう。
「貴女達より頭がいいからよ」
厭味ったらしく事実を言う。
「だとしたら日本もあなた達並みに頭がいいってことになるわよ。しかも国土転移からたった六年で開発、実用化してるのだから。まあ、そうなると私たちの威厳がなくなるけど」
天才集団であるバーニアンが五十年近い年月をかけて転移技術やシールド技術を開発したのは分からなくもない。だが日本がたった六年で自力開発したのを目の当たりにすると、それすらできていないイルリハランや他の国々の威厳がなくなってしまう。
「それにしてもねぇ……事前の情報と随分と異星国家の戦力が違っているようだけど……」
女性バーニアンは含みを持った視線をルィルに向けながら呟く。
「私も知らなかったわ。水上艦の浮遊化計画は知っていたけど、私が軍を追放される前までは数隻だったはず。その三倍以上を浮遊化させるはずがないわ」
「……けど実際に浮遊化してベーレットまで実装してる。おかしいよね?」
「そう言われても同じ疑問を出だしてるから答えなんて出ないわ。多分日本は集中的に戦力の増強をしたんじゃないかしら」
「わずか数週間で?」
「さぁ、軍を辞めてから日本の情報は見てないからどうなってるのかさっぱり」
こればかりは本音だ。ルィルの知る最後の日本はフィリア社会でも対応できるように変革への最中で、軍事でも乗り物を浮遊化し始めた程度だ。訓練自体はしていても、ああもシールドも使っての高度な戦闘が出来るとは知らなかった。
今まで牙を隠してきたか、または暴露会見から今日までに一気に昇華させたかの二つ。
なんにせよ、地に付く人種として蔑むことは出来ない。
「ちなみに、あなたからみて脅威となる軍艦はあるかしら?」
メインとは外れた位置に並べられてるモニターには、ネットから引っ張って来たであろう水に浮かぶ状態の日本軍の軍艦が映し出されていた。要警戒としての定時であろう。
女性バーニアンはそのクラスごとに分けた軍艦らを指さして問う。
「……要注意なのは二種類。八角形のパネルと大小の四角形のパネルを艦橋に取り付けてる軍艦ね。あれはフェーズドアレイレーダーで広範囲を索敵できる高性能艦らしいわ」
さすがに虚偽は出来ないので一般的レベルでの話はする。画面には区別がつかないのか似たような艦はひとまとめにされているが、似たような形状でも年代別でクラスが異なっていることをルィルは勉強していた。
こんごうクラスを始めとするイージス艦は三クラス。あきづきクラスを始めとする汎用艦は二クラス。だが画面に映るのは各一クラスずつだ。
過小評価すれば形状だけでしか区別せず不勉強。過大評価ならルィルを騙すためにワザと混同させたか。
どちらにしても言い訳が出来るから、間違いを指摘したりはしない。
前者であれば利敵行為になるからだ。クラスが違うことで性能に違いがあるし、特にイージス艦の最新クラスは隕石を迎撃を念頭に作られたと聞く。
ここで詳細な情報を吐露して集中攻撃をさせるわけにはいかず、問われたこと以外は喋らないよう留意する。
「ならそのフェーズドアレイレーダーの無い軍艦は探索機能が低い?」
気にするのはたかなみ型であきづき型のひとつ前の世代だ。
日本のネットにアクセスすればすぐに入手できる情報を戦時中に聞くことではない。ネット以上の情報を仕入れておかしくないのに、わざわざ聞くのは不自然と言える。
だが質問された以上は言葉を選んで答えるほかない。
「その艦種は空より水の中の攻撃に特化してるらしいわね。対空戦闘も出来ないわけではないけど、自分を守るばかりで先の二クラスと比べたら格段に弱いわ」
「そんな艦種を前線に出して意味はあるの?」
確かにそうだ。日本の軍艦は元々海中の軍艦を攻撃することを主眼として作られ、一部対空に特化した艦が作られた。
しかしここに海中を進む軍艦はない。なのに前線に出したところでいい的になるだけだ。
だが日本はバカではない。必ず理由があって配備しているはずだ。
「さぁ、ひょっとしたら見せかけでも艦隊を作るために置いているのかもね」
真実を知らないのだから有利な返事をする必要はない。中立の返事に止めて煙に巻く。
「彼らはベーレットを突破できると思う?」
「それは貴女達が作り出したシールドを自分たちで突破できるか次第じゃない?」
兵器は通常対抗策とワンセットで開発される。直接的でなくても敵側も使う想定で策を講じなければ返り討ちに遭うからだ。
バスタトリア砲すら防ぐシールド技術なのだ。双方で存在すれば膠着状態となって進展しないから、何らかの策は考えている。
バーニアンがそれを問うのなら、双方で突破方法は見出しているとするべきだ。
「やはり貴女は優秀ね」
「それはどうも」
わずかな振動。バスタトリア砲を撃ったのだろう。
日が暮れて夜に突入しても、バーニアンの牽制としてバスタトリア砲を定期的に撃ち続けている。
バーニアン艦隊は本島から二百キロの地点で留まり、チャリオス本島も日本から八百キロのところで留まっている。
さすがに積極的な夜戦は無人機ゆえに避け、バスタトリア砲を使い続けることで精神的に休ませない方法を取っているようだ。
「今夜はなにか行動を取るの?」
「牽制ね。ひとまず異星国家の装備は分かったし、向こうから攻撃はないだろうから次の手は夜明けね」
「そう。じゃあ私は部屋に戻るわ」
「好きになさい。貴女は私たちの仲間なのだからいちいち許可なんていらないわ」
そういうと女性バーニアンはルィルから離れていく。
「これも探り……かしらね」
ボソッと呟く。
あまり意味のないやりとり。その内約は牽制と探り、さらにはエルマ達に欺瞞情報を渡すためであろう。
こうした探り合いが度々起こる。
ルィルがスパイであることはほぼ分かってはいても、その決め手がないから仲間として接しているのだ。ルィルもそれを分かっているから取ってつかずの返事にとどめる。
戦時中だと言うのにご苦労なことと思いつつ、エミエストロン対処のため動くことにした。
残念ながら未解雇者である父ことカリムが教えてくれた浄水フィルター室はまだ調べられていない。
通り過ぎるフリをして見てみたら完全武装の兵士が四人が確かにいて、ルィルの行動を注意深く見ていた。
仲間と言う体であっても不審な行動を取れば瞬時に捕らえていたであろう気迫を感じた。
警備を突破して侵入するのは単独では到底出来ることではなく、侵入計画も作れずに今日を迎えている。
なにせ建物の青写真がないから潜入できる場所も分からず、カメラの位置も不明だから下手に手が出せない。
露骨な天井にあるカメラなら視野角を予測できても、ピンホール並みの隠しカメラは場所も範囲も不明だ。そのため調べるべき場所は分かっても何もできないでいた。
念のため未解雇者のところには初接触以来近寄っていない。そもそも純粋に民間人なのかも疑わしいのに、露骨なスパイ行為はこれ以上したくなかった。
しかしそれではスパイとしているのにただ傍観しているだけだ。
なんとかして中を見たいが、入るためにはどうしても陽動要員が必要だった。
物音程度では動かないだろうし、四人もいれば一人確認するだけで終わる。映画みたいに露骨に持ち場を外れるようなことはしない。
自称民間人である未解雇者に頼むわけにはいかないし、同じく生き残っているティアに頼むわけにもいかない。
どう動いても正体がばれて人質か死の二つだ。
せっかく潜入したのに、内部情報を漏らすことは出来ても主なミッションが何も達成できなかったのは屈辱の極みだ。
こういう時、映画のような元特殊部隊工作員や本家スパイはどのようにミッションを達成するのだろう。
さすがに一兵士では限度があった。
ルィルは溜息を吐き、最後の手段を取ることを決めた。
元々この潜入ミッションは進展しないことも計画の一旦として考慮されている。
天才集団の敵地のど真ん中に潜入するのだ。何もできないことも当然考えなければならず、様々なパターンを不名誉除隊する前に考えていた。
成功したパターン。失敗したパターン。何も進まないパターン。それに加えて付随の文。
もちろん音声が届いていればエルマ達はルィルの状況は把握しているのだが、意図的にルィルの考えを伝えることはしていない。盗聴されている恐れを加味して、スパイと決定づける独り言を含めて言ってはならないことにしていた。
その上でルィルはエルマ達に一方通信として意図を伝えることにした。
伝え方は原始的な暗号だ。
あらかじめ決めておいた数字を合図とともに送ることで、口では直接伝えられない内容を伝えることが出来る。
まずは左鎖骨付近に埋め込んである通信機そばで指パッチンをして暗号を送る合図を送り、その後に鎖骨を四回指でノックをした。
あらかじめ決めた一方通信の四番目のを伝えたのだ。
こうすればバーニアンが盗聴していたとしても四回のノックの意味を知ることは出来ず、曖昧過ぎて意図しているのかどうかも判断できない。
伝えた内容は『任務停滞・特攻を掛ける』だ。
最もこの通信が活きているのか不明なため、もしかしたら特攻に失敗して死んだとしても知られることはないかもしれない。
一応どの暗号であっても二十四時間以内に返事をするとなっている。
ルィルの判断にエルマ達がどう対応するかの返事で、無ければ送受信が出来ておらずルィルの言動を把握していない証左となる。
そもそもシールドがこのチャリオス本島に装備されているならば援軍は望めないから、やはり単独での特攻しか手がない。
いよいよ覚悟を決めるときか。
ルィルはそう決意を固める。
*
『若井総理、折り入ってお願いがあります』
エルマから若井に直通電話が来たのは日が暮れた午後六時十分から三十分ほど経った頃だった。
彼がいる場所はコクーン内部にある駐日イルリハラン大使館で、一応無線を使っての通話は可能だが盗聴の恐れからせずに発光信号によるやりとりに限定していた。
しかし急を要する事案が起きたのか、エルマは直に日本領ユーストルの須田町に来て電話を掛けて来たのだ。
須田町に出現した土竜は服毒連鎖作戦によって効率的な駆除に成功し、一週間前から出現報告は聞いていない。だからエルマが須田町に来ても安全ではあるが、土竜がいた場所に来るとはよほどの精神力では難しいだろう。
それでも来て連絡をすると言うことは、それだけの理由があると言うことだ。
「……それは若井修哉個人にですか? それとも内閣総理大臣であり国防軍最高司令官に対してですか?」
『国防軍最高指揮官としてです』
「……内容によりますが」
『例の試作艦は稼働可能ですか?』
その言葉で何を指しているのかはすぐに分かった。
「アレはチャリオス攻略の要ですよ?」
元々はこの有事では運用するつもりではなかった。防装庁による技術発展の一環で研究されている代物だっだが、チャリオスにコクーンと同じであろうシールドがあるとなると、その試作艦が要になるとして防衛省内で重要度が変動した。
しかし試験艦であることに変わりなく、ようやく基本的なことが実証出来た程度だ。戦場に出て戻れるほどの安全性は出せておらず、いつどんな不調を来すかすらも分かっていない。
それでも要になるのはコクーンのある特性によるものだ。もし同じ発生メカニズムであればある程度予想できる。
「あれの存在は特別防衛機密に指定しています。貴方と共有したのは混乱を防ぐためで、安易に使える代物ではありません。乗員に死にに行けとは言えません」
『分かっています。ですが仲間のために必要なんです』
「……その仲間とは、いま前線にいる自衛官のことですか? それとも……」
『それともの方です』
言明しないと言うことは、スパイとして潜入しているであろうルィルのためと予測を立てる。
これから夜戦と言う状況からのエルマからの要請。ルィルの身に何かがあり、その対処のため試作艦が必要と策を立てたのだろう。
アレはイルリハランだけでなく、リーアンには作れるどころか発想すらしないものだ。
コクーン以上に自力開発は困難で、日本人だから考えて技術立証を込めて試作に持ち込んだのである。
しかも期間と予算の関係からたった一隻しかない虎の子だ。急を要するとしても「はい分かりました」とは言えない。
「……羽熊博士を絡めた対策室に話をして具体的な運用法を出してください。それで必要性が高いなら出動を許可しましょう。今ここで私と話をしても何も進めません」
命令を出すのは簡単だ。若井は国防軍の最高指揮官。出した命令は実行される。
それと同時に責任ものし掛かる。
具体的な作戦もなしに出撃したところで撃沈し、乗員を死なせて作戦を破たんさせることは断じて許されない。
若井は最高指揮官であっても軍事は素人だ。命令と責任はしても本質を理解せずかつ内容次第では双方ともに重くなる。
ルィルのためだからと示唆されているだけで許可は出せない。
だが羽熊率いる事情を知る対策室と策を練って出した答えならば一考する価値は出る。
あの正解を引き出す稀有な人材であり友人が出す答えならばだ。
「総理、エルマさんはなんと?」
受話器越しのやりとりだったため周囲には聞こえておらず、隣にいる官房長官が訪ねた。
「無茶ぶりです」
それしか言えなかった。
*
午後九時。土竜から解放された日本領ユーストル須田町にパトカーの先導で十台弱の車列が到着した。
土竜の被害がなくなったとはいえ、ここが最も被害を受けると予想される街だ。
日本各地の沿岸は避難指示であるがここだけは最上位の避難命令が出されている。
ゆえにひと気は国防軍の自衛官だけで、民間人は誰も残っていない。
ここが正真正銘の最終防衛ラインだ。
そのため浮遊化が間に合わなかった、または配置するため浮遊化をしなかった戦闘車両が待機し、自衛隊員は民間人が立ち入らないように警備をしている。
本来なら羽熊達もここには立ち入れないのだが、イルリハラン要人であるエルマがユーストル側須田町にいるためやってきた。
若井総理から指示を受け、エルマの要望に沿う案を対策室のメンバーと共に立案してくれとのことだ。
詳細は何も聞かされていない。ただ、エルマから至急の要望があったとだけだ。
それでもこの状況での要望はただ事ではなく、さらに真相を知っている対策メンバーだけで来ていることからある程度の推察は出来る。
推察と言ってもバーニアンと言う最大の暗部を公表した以上、周囲が知らず対策室が知っているのは片手で数えられることくらいだ。
ルィル・ビ・ティレナー。
アンチエミエストロン。
これらが筆頭に上がる。
そのどちらもが対策されるだけで致命傷になりえ、エルマが至急とするならまずこれらだ。
羽熊達一同は小銃を構える自衛隊員の誘導によって須田町内の境界線を越え、エルマのいるビルへと入った。
リーアンと日本人、双方の人種が難なく活動できるよう設計されたビルの最上階にある会議室に入ると、エルマとリィアが数人の自衛隊員と共にいた。
自衛隊員は入り口に待機し、エルマ達は浮遊椅子に座っている。
「羽熊さんお久しぶりです。雨宮さんも」
「お互いさまで」
防装庁に出向中の雨宮も対策室のメンバーだ。そしてエルマとの旧知の仲ともあって気楽に挨拶をする。
「この部屋の警備は大丈夫だ。機密に関わる内容だから外で待機してくれ」
「了解」
要人の警護として待機していた何も知らない自衛隊員は会議室の外へと出て、会議室にはあらゆる事情を知る十数人のメンバーだけとなり、各々浮遊椅子に座ってエルマ達と同じ目線になる。
「それで一体なにがあったんですか?」
積もる話は省き、羽熊は直球を投げかけた。
「……ルィルさんに援軍を送りたいんです」
「ようやくルィルの事言ってくれたか。まあみんな知ってたけど」
エルマのようやくの自供に雨宮は一同が思っていることを代弁する。
幹部自衛官であり、日本対策室の軍関係者ではトップだから彼の言葉が日本の国防軍としての方針となる。
「すみません。察しているのはもちろん分かっていましたけど公言するわけにはいかなかったもので」
「万が一チャリオスに漏れると立場が変わりますからね。なのでこちらも暗黙の了解でスルーしていました。けど、明言するとなるとルィルさん側で何かが起きたわけですね?」
「危機には瀕していません。ただ潜入したはいいけれど隙を見つけられず何もできない状況になっているんです。それでも音による内部情報は手に入っているのですが、何もできないことに嫌気が差したのか本人は特攻を仕掛けるつもりで……」
「特攻って指令室にいるバーニアンや協力者を皆殺しにするつもりか?」
「未確認ですがエミエストロンがあるであろう場所は分かっているのですが、潜入方法が見いだせていないんです。ルィルさんはそこに特攻を仕掛ける気なんです」
「エミエストロンか、そこを潰せば世界中のコンピューターが復活するな」
こちらの動きを衛星から悟られないため、近いラッサロンとはともかくマリュスを含め他の浮遊都市にAEは配布していない。それどころか人による情報伝達もしていないため、世界各国は何が起きているのかすら分からないはずだ。こちらも各国がどう動いているのか把握していない。
ひょっとしたら憶測を立てて行動しているやもしれないが、情報がない闇雲の行動は自滅を招く。
「ルィルさんは潜入した手前何もできないのが嫌なんです。あの人は正義感や責任感が強い人ですから」
「確かに。ルィルさんは自分が決めたことは頑なに実行しようとしますからね」
リーアンの中ではルィルが一番交流が長い羽熊も、性格を考えると納得してしまう。
「けどどうやってルィルはそっちにメッセージを送ったんだ? 無線機とか使えばすぐに分かるだろ?」
「軍が極秘に開発した探知機に引っかからない発信機を体内に埋め込みました。現在位置と音声を送信することが出来て、アンチエミエストロンを組み込んでいるのでバーニアンには見つかってはいません」
「X線にも引っかからないのか、そらすごいな」
「スパイ系の映画ではたまに出てきますね。実用化されてるんですか」
「元々潜入の目的はバーニアンからテロに関する言質を引き出させて証拠とする手はずだったのですが、私への罪の擦り付けが起きたことで予定が大幅に狂いました」
「それが引き金でバーニアンの公表に踏み切りましたからね」
全てが一方の都合や予定だけで物事は進まない。一方が動けばそれに合わせて相手も動く。
「話を戻します。残念ながら埋め込んだ発信機はルィルさんからの一方通信で、こちら側からの情報伝達は出来ません。何らかの方法でルィルさんに暗号を伝えて、可能なら援軍を送りたいんです」
「情報伝達は分かるが、援軍もか?」
「援軍を送る理由はルィルさんの救助と救援、エミエストロンの処理、バーニアンの確保とあります。これを彼女一人では出来ないので奇襲も込めて日本が開発中の試験艦を使って我々がチャリオス本島に乗り込みます」
エルマの発言に日本側の対策メンバーは騒めく。
「内部から制圧するのか。だが相当厳しい作戦だぞ。そら防装庁が開発中のあの試験艦なら奇襲は出来なくはないが、不確定要素が多すぎる」
「分かっています。超ハイリスクですがハイリターンでもあるとこちらは思っています」
まだチャリオス本島にコクーンが搭載されているかは分かっていない。していないなら多少楽だが、日本が保持してバーニアンが持っていないとは考えづらい。あると見てよく、もしあるならどこに発生装置を取り付けているかが重要だ。
その場所も大よその見当が付くから、コクーンの有無と発生方法が分かれば対処は出来る。
「……前提として、援軍としてチャリオス本島に突入することは揺るぎないのか?」
「はい」
即答だった。
二人の目は本気だ。おそらく大使館にいる他の仲間たちも同じ決意だろう。
男として無碍にするのは気が引けるが、同情で試験艦や乗員の命を天秤には乗せられない。
「……まとめると、試験艦にエルマ達を乗せてチャリオス本島まで秘密裏に近づいて、敵のコクーンを処理してエルマ達を島内に突入させる。その後ルィルと合流して中で大暴れ、か。その前にルィルに動くなとそっちで多分決めてる暗号を伝えなければならない」
「コクーンが相手にもあれば必ず膠着状態になります。直に日本のコクーン発生場所を探って攻撃を仕掛けてくるでしょうし、次にどんな奇抜な行動を取るのかもわかりません。仕掛けるなら早い方がいいかと」
「だがな、まずはコクーンの有無を調べるためにミサイルを本島に撃ち込まないといけないぞ。今のチャリオスとの距離は最短でも三百キロ。対艦対空どっちもギリギリ届かないな」
「それを可能とする作戦を考えたいのです」
拒否を前提とするならこの話し合いをする意味はない。承認の有無は総理に委ねられるのだから、作戦成功率を上げる策を出して上申するだけだ。
「そちらの意図は分かった。承認されるかは総理次第だが、ルィルの手助けの出来る現実的な案を考え出そう」
「ありがとうございます」
情報と目的の共有が果たされ、世間より一歩真相を知るメンバーは無理難題の策を徹夜で講じた。




