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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ3 ユーストル決戦偏 全36話
155/192

第144話『〝コクーン〟』

 テレビ画面いっぱいに日本列島が映る。

 北は千島列島の得撫島から南は鹿児島の屋久島。六年前から新たに定められた新日本の領土だ。

 元々あった沖縄諸島や小笠原諸島など、国土転移に伴わず来ることのなかった離島は地球に残ったままで、新日本地図には記されない。

 その日本列島には五つの円が重ねられるように表示されている。

 五つの円は、北海道、東北、関東及び関西、中国、九州。円同士が重なるところは曲線ではなく直線で表示され、四島だけでなく有人島含めて全てが円の中に入るようになっていた。

 そのため共に転移して来た海の一部は円の中に入れない部分もある。

 が、無人であれば些末な問題だ。

 テレビに映る日本の縮尺が小さくなり、ユーストル全体が画面内に収まる。

 さらに縮尺は変わり続け、日本を中心に半径五千キロにまで地図は広がった。

 ユーストルの円形山脈を収めて尚も倍ともなれば、日本は指のサイズにまでなる。

 そうなると日本を包む五つの円は消えて、代わりに直径九千キロの円がユーストルを包み込むようにして表示され、その円の外縁に一つ微動し続ける輝点が映し出された。


『現在ご覧になっている地図は、リアルタイムで日本政府が公表しているテロ組織、チャリオスの天空島と日本の位置情報です』


 特別報道番組として全てのテレビ局は、企業努力できる部分を除いてほぼ同じ情報を報道している。

 微動し続ける輝点は東京と鹿児島の延長線上の位置にあり、直径九千キロの円に触れるか触れないかの距離だ。


『防衛省予報で、間もなくチャリオス天空島は予測線に触れます。防衛省が発表した危険区域は以下のとおりです』


 微動し続けるチャリオス本島から台風の進路図のように左右に広がる予測範囲が表示され、鹿児島を中心に日本がすっぽりと包み込まれた。


『ですが必ずしもこの予測線から始まるとは限りません。最寄りの鹿児島県の皆様はくれぐれも慌てず、政府発表と〝コクーン〟を信用して秩序ある行動をしてください』


 戦闘地域はユーストル全域だ。日本国内すべてが危険地域に含まれるため、避難指示は必要なくそれぞれ自分の家に留まることになっている。

 むしろ一まとめにしてそこが万一攻撃を受ければ犠牲者が一気に増えてしまう。

 それならば少しでも被害者数を減らすためにも一まとめにしないことを政府は決定し、国民もそれに従っていた。

 これが平時から一気に有事になれば国民を見捨てるのかと非難となろうが、初の防衛出動発令から今日までの国家総動員の二十五日間で、国民の意識は一つとなっている。

 日本を守る。自分の生活を守る。自分の家族を守る。

 最初はどうして自分がとか、全国民が対象なのだから自分はしなくてもいいだろとか、政府がもっと準備をしていればこうはならなかったとか、批判理由を挙げれば多種多様で湧き出てくる。

 しかし、日本人は良くも悪くも集団行動を得意とする。同調圧力でもあるが、多勢が動けば少数も引っ張られていつしか一致団結で動くのが大和民族の特徴だ。

 前代未聞の期間での国家総動員。まぎれもなく百年後の歴史書に記される二十五日間で、百%とは行かなかったらしいが、十分なことを日本人は成し遂げた。


 そして訪れてしまった決戦日。

 あと数分で日本から四千五百キロ。バスタトリア砲の推定射程圏内へと入る。

 木星並みに巨大な地球型岩石惑星フィリア。

 ユーストルの円形山脈の標高は平均五千メートルで、その高度からの地平線は一万キロを超える。

 そして秒速三百キロから三千キロまで初速を出せるバスタトリア砲であれば、重力と空気抵抗が合わさっても十分届く。

 なにより天空島を含めてレヴィロン機関の有効高度は六十五キロだ。その高さになると弾頭ミサイルよりも距離は長くなる。

 さすがに重力と空気抵抗からそれは出来なくて、威力と命中精度、チャリオスの意外性から鑑みて四千五百キロと距離を定めた。

 ちなみに国際基準でのバスタトリア砲の最大射程は三千キロだそうだ。

 もっとも『日本列島』を狙うだけなら多少の誤差は無視できるが、向こうの狙いはユーストルを実効支配したうえでの日本人と言う労働力の確保だ。一億人いるとしてもインフラを含めて人口を減らすことはないだろうと言うのが防衛省とラッサロンの判断である。


『利敵行為防止のため現在国防軍がどのように展開しているのかは公表されていませんが、可能な限りの映像を伝えられるよう尽力していきます』


 防衛出動が発令し、尚且つ戦闘間近となっても報道の自由は保障されている。

 ましてや二十五日間国防軍が全力で戦えるように国民が総出で後方支援に努めたのだ。なのに戦況を伝えないのは裏切りに等しい。

 そのため遠方から撮影することは自己責任と付け加えた上で無条件とした。

 画面は切り替わり、地図上で九州を囲う円の最南西の位置となる鹿児島県屋久島の中間浜海水浴場とライブ映像のテロップと共に表示された。

 映るのは浜辺と海と雲一つ尚空。

 時刻は午前九時過ぎで、浜辺でありながら波もなく静止画とも言えるほど変動がなかった。

 画面はパンして周囲を映すと、島民であろう人々が集まってきていた。

 チャリオスから距離的に最も近く、そして最初の一発を受けやすい場所だけあって好奇心か、それともいてもたってもいられないのかスマホを片手に見守っている。

 ただ、映像的には静かな海岸線で本当に攻撃が来るのか疑わしく思える。

 要は緊迫感が無いのだ。


「……本当に攻撃が来るのか怪しく思いますね」

 その平穏とも言える風景を見ながら、羽熊はテレビを見ながら呟いた。

「いかに天空島そのものが来ても相手にするのは国家ですからね。戦意と戦力を削ぐために先制攻撃するのは定石です」

 そう答えるのは同じ部屋にいる国防軍隊員だ。

「ちゃんと〝コクーン〟は機能すればいいけど」

「機能しないと日本人は全員人質です。大丈夫。ギリギリまで確認してるから機能しますよ」


〝コクーン〟は日本防衛の要だ。これがあって初めて日本や国防軍はチャリオスと戦うことが出来る。無ければ即無条件降伏だってありえる。

 ただ、あくまで理論上であって確証がない。もし破られればそれで終わりだ。

 地球時代であれば民間人は攻撃しないと言う制約がある。守るかどうかは別としてでも、バーニアンは復讐心を原動力としての侵攻だ。軍人や民間人の線引きはしないだろう。


『いま、バスタトリア砲推定射程圏内に入りました』


 地図上で輝点がバスタトリア砲推定射程圏の円に触れた。

 横にいる隊員が操作するノートパソコンにも、テレビで表示されているのとほぼ同じ地図が表示されていて、それでも輝点が円に触れる。

 日本政府と防衛省は、国民に可能な限り情報を伝えようとして行動上機密にしなければならない情報を除いてほぼリアルタイムで報道メディアに公表していた。

 その報道を羽熊は腕を組みながら政府関係者の集う部屋にて見続ける。

 なぜ羽熊が再び政府関係者としているかと言えば、一度は政治的責任から逃すためにアドバイザーを解任されたが、事態が他力本願から自力作善に急変したことで再度アドバイザーとして召集を受けていたのだった。

 そのため本来なら美子の実家で家族と事の成り行きを見守るところ、また首相官邸へと来ていた。任意だから断ることも出来たが、国家存続の瀬戸際に必要とされて嫌だとは言えず、少しでも勝利に貢献できる意見が言えればと美子の後押しもあってここにいる。


「これ、撃ったら分かるんですか?」

「残念ながら分かりません。静止衛星で常にユーストルを捉えてはいますが、秒速三百キロから三千キロの砲弾は速すぎで見えないですね」

「では気づいた時には着弾してると?」

「はい。けどそれは衛星の話で、地上であれば捉えられます」


 再び画面は地図から屋久島に切り替わった。

 相変わらずの静止画であった。

 静止画にしか見えない風景に突如変化が起きた。

 水平線まで見通せた風景が歪んだのだ。


『え、い、今空間が歪みました。何かが〝コクーン〟に当たった模様です。カメラ上上!』


 突然のことにレポーターは実況をしながらも動揺を隠しきれず、カメラマンも慌てて画面を上へと向けた。

 空では対象物がないから距離は分からないが、地図上だと〝コクーン〟は平均二十キロは土地から離れた場所に設置しているから、ソレが当たったのもまたそこから二十キロの地点なのだろう。

 空気が透き通っているのと波紋のような歪みがソレを遠目でもあることを確認させた。

 さすがに実物こそ人の目でもカメラの望遠でも捉えられないが、波紋が現れて約一分後。


 バドゥン!


 粘度の高い液体にボールをたたきつけたかのような音が爆音として空気を震わせた。木々に止まっていた鳥たちは飛び出し、風も吹いていないのに葉音がする。

 何かが〝コクーン〟に激突し、二十キロもの距離を物ともせず衝撃音をとどろかせた。

 バスタトリア砲。

 確証は持てずとも、それが日本列島に放たれて〝コクーン〟が防いだのだ。


『これが生物なのか、バスタトリア砲によるものなのか、ミサイルの類なのかは分かりません。ですが何かが〝コクーン〟に当たったのは間違いありません』

 憶測で実況してしまっては無駄に混乱を生んでしまう。そのためリポーターは客観的事実を述べるに留まる。

「ついに来たか」

「ええ、来ました。バスタトリア砲です」


 この実況はテレビ、ネット、ラジオとあらゆる媒体で放送されている。

 二十五日間で日本国民全員が紛争の当事者となった今、全員がこの事実を捉えているはずだ。

 開戦。

 すでに戦略上でチャリオスは日本に対して先制攻撃をしている。それを根拠に日本は憲政史上初の防衛出動を発令し、国民総出で不足していた戦力の向上を後方支援の形で行った。

 そして準備を不十分ながら待っていたところ、向こうから先制攻撃が来た。

 最早政治的選択で国防軍が武器使用を躊躇する必要はなく、国防軍は持てる戦力を使ってチャリオスに攻撃できる。

 バスタトリア砲第一射を確認するや、職員たちの行動は一斉に活発となった。

 部屋の外に駆け出す職員。電話を掛ける国防軍隊員。手早くパソコンのキーを叩く人と、ただでさえ皆不眠不休で仕事に就いていると言うのに、さらに通常の倍の活動を見せる。

 対して羽熊は以前と変わらない権限のないアドバイザーだ。直接関与するわけではないから気を楽にして全体を俯瞰する。

 その上で有効的な考えが浮かべば上申して、あとは若井総理らが判断を下す。

 それだけならば簡単な仕事とも言えるが、羽熊の閃きで戦局に影響が出るとなると気が気ではない。

 国土転移黎明期でも緊張感はあったが直接の死には関わっていなかった。しかし今回は国民もだが現場で動く自衛隊員の命にも関わるかもしれないのだ。

 生半可な思い付きは出来ない。

 もっとも、求められるのは戦術面や戦略面ではなくさらに外側の考えだ。素人が戦闘に口出ししてよかった試しもないから、そこは考えずに学者の面としての知恵を絞りだす。

 ピロンピロン。


『鹿児島県沖にて、バスタトリア砲による物と思われる砲弾が着弾した模様。防衛省発表』とテレビ画面の上部にテロップが現れた。

 併せてライブ映像からスタジオへと切り替わり、アナウンサーが口早に報道する。

『たったいま、防衛相よりバスタトリア砲によるものと思われる砲弾が〝コクーン〟に着弾したと発表しました。えー、映像を見る限り〝コクーン〟は秒速が最遅でも三百キロもあるバスタトリア砲の砲弾を受け止めているように見えます。〝コクーン〟は突破されていません』


 やはりこうした情報は報道が早い。

〝コクーン〟の外には国防軍が浮遊化した装備と共に待機している。そこからの情報ももちろん入ってくるだろう。それでも時としては報道の方が早いこともある。

「攻撃位置特定。予想射程より百マイル外側」

 誰かが報告する。

 マイルは確か一・六キロだから百六キロ。バスタトリア砲の威力からすれば差異な距離だ。

 過大評価をして射程を従来より長くしたが、予想通り射程を伸ばしたバージョンアップ版のようだ。

 報道番組とここで表示されている地図にはいくつが違いがあり、その一つが展開している国防軍の配置だ。

 一応AEによってチャリオスに情報は漏れてないとしても、一般放映しているテレビを通じて自軍の配置を知らせるわけにはいかない。そのため報道では客観的に手に入る情報は止めずとも、公式発表での自軍の情報は利敵行為をしないため公開していなかった。

 主な展開場所は接続地域。最寄りの都道府県となる鹿児島県沖。最遠が屋久島から五百キロ。ちょうど沖縄県がある位置だ。

 この三ヶ所でチャリオスを迎え撃つ。


『また着弾です! 和歌山県沖の〝コクーン〟に砲弾らしきものが着弾した模様です』

『こちら和歌山県潮岬灯台です。ご覧ください。砲弾らしきものが〝コクーン〟に接触。波紋が広がっております!』


 報道スタジオから今度は別の海岸へと切り替わった。

 上空では同じように波紋を作りながら小さな点が見え、そこを中心として円形に波紋が浮かんでいる。

 それが数秒ほどすると、その点は左斜め下に弾かれるように落として海面へと激突した。

 相当な運動エネルギーと質量を持っているらしく、砲弾らしき点が水平線の下に落ちて尚すさまじい高さの水しぶきが上がった。


『〝コクーン〟はバスタトリア砲の砲弾を受け、らせん状に流動している特性から空から海へと砲弾を移動しました! 〝コクーン〟はバスタトリア砲を防いでいます』

「とりあえず最難関で最優先の目的は果たせましたね」

「ええ、三週間不眠不休で動いてくれた民間の方々のおかげです」


 そうでなければこの二発で鹿児島から鳥取のどこかと和歌山から東京のどこかで大勢がなくなっていた。

 最低でも秒速三百キロ。マッハ換算で九千だ。戦闘機でさえマッハ一や二で、その九千倍となれば純粋物理でも破壊力は凄まじい。

 それを難なく防げるのだから〝コクーン〟の性能は素晴らしく、よくぞ六年間で先駆者であるリーアン達より発見して実用化にこぎ着けたものである。


「……さすがに二度と撃たれて無傷なら向こうも警戒しますかね」

「戦果確認は衛星か、はたまた最大速度の出せるドローンによるものか、チャリオスの装備の性能が不明なのでどう把握されているのか分かりません。ですが何らかの手段で早めの確認は取るでしょう」


 あくまで日本やイルリハランは、バーニアンが天才と言う認識で諸々を仮定している。下手に過大評価をせず事実のみを捉えて対処するべきらしいが、相手が未知数だからこそ未知数にも視野を向けなければ思わぬ攻撃を受けてしまう。

 実際、想像の斜め上の攻撃を幾度として来ているのだ。

 常識であればエミエストロンでクラッキングした衛星を使っての戦果確認であろう。しかし、今自衛官が言ったようにチャリオス本島より速度の出せるドローンを先行させて確認を取ることも考えられる。

 国土転移島嶼と同じだ。常に考えられる最悪を想定して可能な限りの対策を施して事に挑む。

 対策チームが打ち出した三つの案は、その考えられる最悪への対処なのだ。


『三発目が〝コクーン〟に接触しました。場所は長崎県沖です』

『市民の皆様、〝コクーン〟は想定通りの性能を発揮しております。近隣の方々は多大な不安を抱きますでしょうが、〝コクーン〟を信じて冷静な行動をお願い申し上げます』

『えー、ではここで〝コクーン〟について解説をしたいと思います』


 三発と最強と言われる砲弾を防いだとなれば〝コクーン〟の性能を信用するには十分な根拠となる。

 そこで報道では安心材料である〝コクーン〟の解説にはいった。


『〝コクーン〟は一言で言えばシールド発生装置です。詳しいことは利敵行為防止のため話せませんが、レヴィロン機関の応用で物理的に干渉できるシールドを発生させることに成功しまして、それを国土規模で展開しています』


 キャスターらの背後にあるモニターに現在の日本地図が映し出され、実際とは異なる形で点線が日本列島全体を覆う。これも正確な〝コクーン〟の範囲を伝えないためだ。

〝コクーン〟はバスタトリア砲の応用で生み出された、いわば真逆の防御装備だ。


 Controlled Orbital Cooling for Object Obstruction Nullification(冷却発電式立体浮遊機関を転用した流動壁によるシールド発生装置)の頭文字と、繭のようにシールドで包み込むことから〝Cocoon〟と名付けられた。


 バスタトリア砲はレヴィロン機関が生み出した力場を流動させることで物理的な干渉を発生させ、砲弾を秒速三百キロから三千キロまで加速させられる。

 ならばその力場を使って接近物を防げないかと雨宮達が出向していた防装庁が気づき、研究することで防げることに気づいたのだ。

 バスタトリア砲の発射システムの応用だから、バスタトリア砲そのものを防げるのは道理だ。

 驚いたことにこの逆転の発想を異地社会では至ってはいなかった。

 そこは核兵器と似ている。威力を発揮する前に迎撃する以外では対処が出来ない。バスタトリア砲も撃たれる前に飛行艦を落とすのが主流なため、撃たれた砲弾を防ぐ発想はしなかったようだ。

 だからこそ有効的で、日本は六年の間にほぼ完成していた〝コクーン〟のブラッシュアップに三週間を捧げ、日本本土を覆う構築をしたのである。

 これで少なくとも国防軍もイルリハランも、市民の心配をせずに戦うことが出来る。

 もしシステム復旧を果たしている接続地域沖のラッサロンに撃たれたとしても、本州を守る〝コクーン〟の影に入るから、チャリオスからすればラッサロンは未だシステムダウンした機能不全状態にしか見えず、万が一当たったとしても設置した〝コクーン〟が守ってくれる。


「チャリオスの移動速度に変更なし。あと十二時間で円形山脈を越えます」

 第一波をチャリオスに許してしまっても、日本が攻撃するにはまだ距離があった。

 幸い、今の日本には元アメリカ海軍第七艦隊のミサイル駆逐艦があるため、長距離対地ミサイルのトマホークを所持していた。

 それでも射程は千五百キロな上、撃ったところで迎撃される可能性が高い。

 だから日イはチャリオスが近づいてくるまで待つしかないのだ。


「四発目、千葉県沖に着弾」

「……全部違う場所か」

 鹿児島。和歌山。長崎。千葉。

 全てチャリオスのいる場所からほんの少し射角を変えるだけで届く範囲だ。


「距離から見て角度が一度変わるだけで百キロ以上ブレます。移動しながらであれば同じ場所に着弾させるのは困難なのでしょう」

「自衛隊も戦車をスラローム射撃で当ててませんでした?」

「距離が違います。四千キロも離れて当てるのはまず無理ですよ」

「……けど、多分これ意図的に当ててると思います」

「千葉県沖のは……接続地域にラッサロン。和歌山は東京。鹿児島や長崎は最短人口密集地域……」

 隣にいる自衛官はチャリオスの現在位置と着弾地点を線で結んで延長線上を見る。

「同じ場所に着弾出来るかはともかく、一キロ単位での命中精度はありえそうですね。一方的に攻撃を与えて降伏勧告をしやすくするためか?」

「いえ、それならすでに降伏勧告をした上で攻撃します。〝コクーン〟は電磁波は通すので無線は通るはずです」

「または〝コクーン〟の範囲を調べてるか」

 羽熊の呟きに自衛官はハッとしてノートパソコンのキーを走らせる。

「一発目と二発目の間隔と、二発目と三発目の間隔は……開きがある。一発目ですぐに被害がないことを知って〝コクーン〟の存在を知った。そうなると……」

「バーニアンも〝コクーン〟を開発してる?」

「少し席を外します」


 確証はないが、その懸念が生まれては全部隊に共有しないと致命的なことになる。

 自衛官は上申するためか席を立つと小走りで部屋の外に出て行った。

「予想はしてたけど、やっぱり持ってるよなぁ」

 異地社会では〝コクーン〟システムの発想すらないので、秘密裏な開発や所持を除いて存在していない。だがバーニアンは日本同様イレギュラーな存在だから、〝コクーン〟的なシステムを見出しても不思議ではない。

 出来れば無ければ一方的に攻撃できるのだが、ともなると互いにどうやってシールドを突破するかがカギとなろう。

 さすがに日本がどこまでそれを想定しているのかまでは羽熊は把握していない。〝コクーン〟を突破する術を持ってるのかも分からないから、そこに言及は出来ない。

 出来ればしていることを祈りつつ羽熊は自分なりの着想で諸々を考えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 日本のお家芸?『バリア』ならぬ『コクーン』で異地の脅威バスタトリア砲を防御!^^ チャリオス側の驚愕の顔が見ものでしょうね^^ 果たして反撃手段は? 次回も楽しみにし…
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