第140話『反撃への狼煙』
ユーストル時間午前九時三十分。
世界同時ブラックアウトから十二時間が経過。
空は曇り空。日本の天気予報では雨が降るとされ、時期に日本を含めユーストルの広大な草原に恵みをもたらしてくれる。
風は微風で、気温は十三℃とジッとしていると肌寒くとも浮遊するためのシバリングを続けているとちょうどいい気温だ。
そんな天気模様のユーストル上空を、静かに移動する編隊がいた。
日本製防弾チョッキを身に纏うエルマ達別動隊チームだ。
出発地点は日本領ユーストル須田町で、目的地は昨日まで活動していた駐日イルリハラン大使館である。
須田町からすでに見えている大使館用浮遊島は静寂そのもので、そこには数十人の大使館職員が働いているが、突然のブラックアウトでシステムがダウン。なんとかアナログの緊急用レヴィロン機関浮遊で落ちずにいられるだけで、何一つ業務は出来ていないだろう。
そこにエルマ達は日本国防軍が使用している防弾チョッキを着て近づいていた。
もちろん武器と言う武器は持っていない非武装で、大使館の警備員が発砲してきても何もできない状態だ。
これは自分たちはテロリストではないし、近づく目的は占拠ではないことを示すためである。
昨日の若井総理の会見でエルマ達がテロリストではないことは職員たちには伝わっているだろうけれど、撤回指示が出る前にシステムダウンしたのなら指示の更新がないことで逮捕してくることもあり得る。
それでもエルマ達はメンバー同士や亡命先の日本政府と相談した結果、危険を承知で再び大使館に向かう決断をした。
「向こうは俺たちに気づいているか?」
大使館まで五百メートルのところでリィアが呟いた。
「窓からは丸見えですからね。突然撃たれることもありえますよ」
「全隊散開。距離を五十メートルまで広がれ」
大使館の警備員の武装は拳銃のみだ。有効射程は二十メートル前後だから、それだけ離れればまとめて撃たれる危険はなくなる。
撃たれないのが一番だが、接触するまでは警戒するしかない。
大使館まで残り五十メートルに迫ったところで大使館に動きがみられた。
リィアがハンドサインで止まれの指示を出して全隊が止まる。
大使館から人が出て来たのだ。
全世界との通信が途切れたのがちょうど十二時間前。会見を見たあとで通信が途絶えて孤島となった。
何が起きたのか分からない中で、本国が犯罪者と断定したエルマ達が近寄れば出てくるのは道理であろう。
「そこで止まってください!」
最初に叫んだのは副大使のヒスリーだ。外務省の職員で、エルマが務めなければ正規の大使となっていた人である。そのためエルマが別動隊の指揮を執っている間は大使として活動してくれていた。
「ヒスリーさん、我々に敵意はありません。防弾チョッキこそ着ていますが銃もナイフも持っていません」
「それをどう証明しますか。私たちはもう貴方達が敵が味方なのかも分からないんです。通信もパソコンも全てが止まって、本国とも連絡も取れない。なのに日本は変わらずに電気が点いている。この状態で何を信じればいいんですか」
声を聞くだけで冷静さを失っているのが分かる。
無理もない。音信不通だけでなく生活の全てが奪われたのだ。おそらく職員の多くが寝ていないだろう。
「これから日本の携帯電話を渡します。そこに日本政府から電話が来るので話を聞いてください。少なくとも私たちの話を聞くよりは信用がありますよね?」
メンバーの一人が無防備であることを示すように両手を上げ、見えるように日本の携帯電話を見せるようにしてゆっくり近づく。
それに合わせて大使館警備員が拳銃を構える。
「携帯電話を渡すだけです。撃たないで」
秒速一メートルのペースで近づき、断じて不審な動きを見せずに携帯電話を手渡した。
「こちらも日本政府に電話を掛けるので、電話を掛けさせてもらいます」
エルマはそう言ってゆっくりと自分の携帯電話を取り出して、事前に登録した官邸の番号にかけて渡したことを伝える。
するとヒスリーに渡った携帯電話が鳴り、エルマ達を警戒しつつその電話に出た。
「イルリハラン副大使のヒスリーです。はい、はい。音信不通で本国とは連絡が取れず……はい。いやですが……」
日本政府がエルマ達が来た理由と無害であることを伝える。
現状、イルリハランは日本とは外交上では友好的で敵対関係ではない。だからエルマよりは話が通じる。
「……分かりました。本国からエルマ様への命令は撤回されていませんが、事が事なので黙認します」
どうやら話はついたようだ。
ヒスリーはエルマへと近づいて携帯電話を手渡してきた。
「日本首相の会見は見ました。本国と連絡が取れないので、逮捕をしていいのか分かりません。なので連絡が回復するまでは皆さんの容疑は保留とします」
「ありがとうございます」
「ですが、昨日から何度試しても主電源は点かず、小型発電機で電気を作ってもパソコン一つまともに起動しません。なにか策があって来たのでしょうが、なんとかできるんですか?」
「それを探るために来ました。この状況は私たちも想定外のことですが、一つだけ可能性のレベルで策はあります。ダメなら文字通り詰みますが」
何もエルマ達はこの混乱に乗じて元に戻ろうとは考えてはいなかった。
十二時間前のブラックアウト現象から自分たちだけで考え、仮眠を取り、緊急会議を開いた日本政府とやり取りをしてここに来ている。
目的はただ一つ。システムの復帰だ。
「おそらくチャリオスは今ここに向かってきています。邪魔者を排除するために全世界の生活基盤を官民問わずにダウンさせ、悠々と乗り込むつもりだと思われます」
「いくら天才集団だからと、全世界を同時にダウンさせるなんて不可能だ」
「いえ出来ます」
テロ事件の全容を詳しく知らない人らの常識ならそれが自然でも、全てを把握しているエルマは即断で断言できた。
「奴らの持っているエミエストロンは、文字通り神と言えるほどの電子機器に対して何でもできる性能を持っています。さすがにここまでする想定はしていませんでしたが、性能的には可能なんです」
「復旧できるんですか? そんな〝神〟を相手に」
「分かりません。それで一つ聞きたいんですが、復旧作業で私たちが使っていたパソコン類は触りましたか?」
「いえ、テロの容疑者と言うことで現場保存するために部屋にも入ってません」
「ならまだ出来るか……」
確証が取れてないならまだ検証する余地はある。ここで調べてダメだったらどうにもできないが希望は残った。
「調べましょう。もし仮説があってたら少なくともラッサロンは戦えるようになる」
そのためにエルマ達は再び戻って来たのだ。
一同は大使館用浮遊島へと向かった。
大使館は昨日と変わらずの高度で滞空し続けているが、その中は静寂そのものだ。ありとあらゆる電気製品が動かず、照明も灯らず天気が曇りともあって異様なほど薄暗い。
火事を恐れて蝋燭により明り取りも行わずに自然光に任せていた。
備え付けの懐中電灯はあっても、電池を気にしてランタンを含め点けっぱなしにはして内容だ。
「とりあえずノートパソコンを調べるか。小型発電機を部屋に持ってきてくれ」
リィアが指揮を執り、メンバーは捜査本部に入ると各々の机の前へと向かう。
「逃げ出す前に電源を全て落としてたからノーパソのバッテリーはまだあるはず。さて、どうだ」
ノートパソコンの電源を入れる。
「パソコン自体は普通に起動するんです。ロゴも出てデスクトップ画面も出るんですけど、十秒くらいで勝手にシャットダウンを……って消えない?」
別動隊本部に設置されているバッテリー搭載のパソコンは、その全てがデスクトップ画面になっても自動でシャットダウンすることはなく起動し続けていた。
「よしっ! 落ちない!」
「こっちも落ちません!」
「問題ないです!」
「よし、よし、よし!」
仮説ではあったが理論的には確率は高かった。それでも駄目だったら正真正銘詰んでしまうだけに、成功したことで別動隊メンバーはガッツポーズを取った。
これでラッサロンの機能を回復する可能性を高められる。
「なんで、こっちのパソコンは何度つけ直してもすぐに消えるのにどうして消えないんですか!?」
ヒスリーはずっとうまくいかなかったのに、戻って来たばかりのエルマ達があっさりとパソコンを起動し続けることが理解できず、驚きの表情を持って叫んだ。
「ああすみません。ここの機材にはAEを組み込んでるんです」
「エーイー?」
「アンチエミエストロン。日本の略し方でAEと呼んでいて、エミエストロンに対して効力が及ばないソフトがインストールしていたんです。クラッキングも盗聴も通じないので、もしかしたらシステムダウンにも影響がないかもしれないと」
「あのおっさん、いったいどんだけ死んだ後でも俺らを助けてんだ」
「まったくですね。けどそのおかげで光明が見えました。あとは後付けですでに影響を受けてるパソコンが復帰するかですね。一つ空の記憶メディアにAEをコピーして挿してみましょう。あと誰か日本に成功したことの連絡を!」
先に進めると分かれば善は急げだ。
チャリオスがいつユーストルに現れるのか憶測が立てられないため、可能な限り最短で準備を全力で行っていくしかない。
オリジナルのAEが入っているメディアは保険で使えないから、AEをインストールしたパソコンに空の記憶メディアを差し込んでAEのコピーを開始し、一人は被害を受けているノートパソコンを取りに向かった。
「可能な限りコピーをして、一つはここに主電源のコンピューターに繋いでください。あとはインフラの管理システムにも」
まずラッサロンを復帰させる前に実験的にここを復帰させる。
本当にAEが有効かどうかを調べなければ、いざと言うときにまた落とされたらいよいよ負けだ。
「エルマさん、突然のことで色々と混乱しています。簡潔過ぎる答えではさすがに理解が追い付かないので、少し順を追って説明をもらえませんか? 私だけでなく職員一同置いてけぼりを食らってます」
ヒスリーの困惑した声で、上手くいった高揚感がゆっくりと沈静化していく。
声の方を見ると、喜べばいいのかすら分からない表情を見せる職員が入り口付近で立ちすくんでいた。
「すみません。ここが最大の難関だったので、クリアできたことで少しゆとりが生まれました。ただ、私たちも全てが分かって行っているわけではないので、そこを前提で聞いてください」
日本は日本で動く。だから亡命をしながらもエルマ達は戻って来たのだ。
ここを出発点として対決への糸口を作る。そのためにもヒスリー達職員たちの理解は必須だ。
「掻い摘んで話します。このブラックアウトは、昨夜日本がチャリオスことバーニアンの陰謀を暴露したことで、水面下での作戦が出来ないことで起こした強硬策だと思われます。奴らはおそらくここに直接乗り込もうと移動をしていると思われ、その時間は楽観的に見て一ヶ月です」
「一ヶ月……その根拠はなんです?」
「数字上ですけど、ここからチャリオス本島や最寄りの支部は五万キロは離れています。浮遊都市の移動上限は時速四十キロですけど、その二倍は出すだろうと言う判断で計算すると約一ヶ月かかります。まあそれでも楽観的な時間ですが」
「最悪の場合は?」
「ペオを使って今日中に来るか、特殊部隊を転移または先行させてラッサロンを一方的に落とすかが考えられます。なのですでにラッサロンには日本の防衛省が出向いて警戒するように伝えています。駆逐艦や戦闘機は動かなくても重火器は使えますから」
この日数も従来より優れている前提と、楽観的な考えがあってのものだ。
レヴィロン機関が出せる最高速度七百キロ。それだと約三日で着く。
ペオを使われればそもそも時間に意味はないが、それ以外なら心身共に準備する時間はある。
「一ヶ月でラッサロンの復旧……それだけあれば出来ますかね」
「パソコン関係は倍々で増やしていけるのでおそらく大丈夫ですが、問題は容量の足りない電子機器ですね。後付けのチップを基盤に付けることで同じように回復出来ますけど、それを製造する必要があるので時間が掛かります」
ソフトならコピーで済んでも、ハードは製造ラインを確立さえなければならない。
そこは日本が協力してくれる。日本は半導体に対して高い技術を有しており、元々輸出を念頭に研究をしていてすでに製品レベルのものは出来ているらしい。さすがにAE内臓のチップを作るのは数日で出来るか分からないが、若井総理は日本の国力を結集させてこの事態に対処するとしている。
ラッサロンのインフラ設備も大事だが、まず第一は戦力の確保だ。
「コピーできたぞ」
「じゃあまずは大使館の電力が復旧するかやってみましょう」
「おう。ここの主電源室はどこだ?」
「こちらです」
一つコピーが完了し、それを持ったメンバーが大使館職員の案内で主電源室へと向かって行った。
ヒスリーの話の通りなら、システムを破壊するのではなくシャットダウンを強制して使用不可としている。システムが破壊されないなら、AEを認識出来ればエミエストロンからは見えないものとなって制御を取り戻せるはずだ。
完全に壊して使い物にならなくさせなかったのは、おそらく今後に使い道があるからだろう。
だからこそチャンスが残った。
もっと言えばここまで見通してAEをバーニアンたちに気づかれずに作ったウィスラーが凄すぎた。
「ところでどうして日本はエミエストロンの被害を受けていないんですか?」
「それは分かっていません。楽観的に考えれば日本のシステムをエミエストロンが対応できていない。悪い意味で考えれば敢えて何もしないことで油断を誘って、ここぞって時にダウンさせて混乱を誘うかですね」
「前者を期待する意味はねぇからするなら後者だな。それで何もなきゃよかったで終わる」
だから日本政府も、正常であることを喜ばずにダウンしたことの想定して対策を講じるとしている。
パッと、薄暗い部屋が明るくなった。
電気が復旧したのだ。
半日ぶりの電気に、苦悩を強いられた大使館職員は歓喜の声を上げる。
「よし! これでラッサロンを復旧させられる」
「たった十二時間で回復するなんて、さすがにバーニアンも思ってはないですよね」
「そう思いたいですけど、エミエストロンの管理下にあった機器が無効化されたら察知する仕様だったらバレてるかもしれません。常に相手はこちらの上に立とうとしてくるので、決して油断はしないでください」
相手は常にこちらの想定を上回る手を打って来る。対処すればさらにだ。
ウィスラーの取って置きの置き土産でなんとか一矢報いたものの、それを上回る手を打って来ることは想像に難くない。
なら考えられる『ありえない手』を考えて事前対策していくしかないのだ。
「ヒスリーさん、これは無駄かもしれませんが日が暮れ始めたら明かりは消すようにしてください」
「明かりを?」
「もしかしたら衛星で見ているかもしれないからです。こちらが復旧をしていることは知られたくないので、明かりだけでもいいので外から見たら電気は点いてないようにしてください」
「分かりました。明かりはバッテリー式のライトでなんとでもなるのでそのようにします」
「ただし、小型の無線機はまだ使わないでください。AEのチップを基盤に付けずに使うと、無線機同士の通信であっても傍受される恐れがあるので」
エミエストロンの恐ろしさは、ローカル通信でさえ傍受するところにある。
小型の無線機はその出力の低さから短距離で、周波数を合わせた通信機同士でしか出来ないがエミエストロンにはそれが出来る。
そのためここでAEを組み込まない通信機器を使えば、貴重な情報をバーニアンに渡すことになるのだ。
「寧ろ欺瞞情報として、嘘のやり取りをするくらいつもりで通信機を使ったほうがいいかも」
「それでAEを施した通信機で本来のやり取りをすると」
「バーニアンからの情報がないので、有効かどうかは分かりませんが出来ることは何でもやりましょう。ダメだとしても損はないはずなので」
ここが使えるなら逮捕命令からこの瞬間までの間のルィルの動向は把握できないが、以後が使えるようになる。
ただ、ルィルの身の安全のためにも色々と暴露した今でもこれだけは秘密にしなければならない。
「ヒスリーさん、申し訳ないんですが退室を願いませんか。今後のことを検討し合いたいので」
「……分かりました」
仲間はずれにするようで申し訳ないが、そこは事情を察してもらうほかない。
ヒスリーはそれを察してくれてルィルのことを知らない職員一同は捜査本部から退室していった。
「ルィルさんからの音声は届いてますか?」
職員がいなくなったことでエルマは十人目の仲間のことを話す。
「ちゃんと届いてる。ただ逃げ出す前にすべての電源を落としたから大体十八時間分の動向が分からん」
「通信が来てるってことは通信衛星は生かしてるみたいですね。多分向こうも利用してるんでしょ」
「ここからはルィルさんからの情報が何よりも価値があります。一言一句聞き漏らさず、二人体制で諦聴してください」
チャリオスの現在位置はエミエストロンの影響を受けていない日本の偵察衛星が調べてくれて、代わりに内部情報はルィルから得る。
外と中、双方から敵の情報を手に入れて迎え撃つのだ。
エルマはそう決意を胸に、ヘッドホンを装着した。
*
世界同時ブラックアウトから二十四時間過ぎた。
社会全般が停止したことで集計は不可能となり、推定ではあるが核被害状況をたたき出した。
死者は全世界で五百万人。負傷者は四千万人と出た。
死者の直接の原因は複数あり、最も多かったのが医療関係である。
生命維持装置に繋がれた人。システムが停止したことでデータが見れず、適切な治療がされなかった人。手術中、または緊急手術が必要な人だ。
次に多いのが事故死であった。
特に多かったのがロケット旅客機の大気圏突入時の空中分解で、これによって少なく見積もって九十万人はいるとされる。
それだけでなく個人所有の浮遊艇も、システムダウンによる緊急浮遊が働いても慣性によって予期せぬ動きを見せて交通事故が世界各地で多発。それで死者重軽傷者が数百万単位で出た。
これがブラックアウトから数十分で起きた被害者数だ。
そして、それから二十四時間で死者負傷者の原因が事故から事件へとシフトしていった。
犯罪による犠牲者だ。
なにせ警察への通報システムが全滅したのだ。
誰が何をしようと警察も来なければ防犯カメラに記録に残ることもない。
そうなればどさくさに紛れて欲を満たそうと、ありとあらゆる犯罪が自然発生する。
強盗、殺人、放火、暴行等々、人口比で言えばたった数パーセントであろうが、抑止する警察が機能しなければ潜在的に犯罪をする予備軍だけでなく、健全な一般市民もまた感染するかのように理性のタガを外して犯罪に便乗してしまった。
一種の集団心理で、大規模な災害かつ通報システムが崩壊するとどうしても発生してしまう。
それによって本来なら事故以外では被害を受けるはずもなかった人々が犠牲に遭い、結果として五百万人に至る死者を世界中で出してしまった。
まさに無法。
暴力こそが全てと言う原始的思想の社会を一瞬で作ってしまった。
これが三百年前の社会で起きればそうはならなかった。当時は電気や通信が発明された頃で、社会心理も現代とは全く構造が違ったからだ。
デジタルが全てと言えるほど侵食した社会だからこそ、システムダウンは現代社会にとって壊滅的な被害を生んだ。
ただ、これでもなお発生から二十四時間である。
この先もインフラが復旧しなければより深刻な被害が生み出すことを、各国の関連省庁は予見していた。
発生初期は事故による被害。
発生二十四時間で事件による被害。
発生一週間後には自殺者が急増する見込みだ。
死者負傷者も二倍から三倍は増えるだろう。
特に経営者や投資家など、お金のやり繰りをして生計を立てる人がダイレクトに被害を受ける。他には仕事の全てがコンピュータに頼っている人々もで、文字通り何もできなくなった。
為替市場は数時間の停滞が数年の後退を意味し、一日となにも出来なければ億単位の金が吹き飛ぶ世界だ。
一週間も何もできないとなれば人生計画の破たんは必至となる。
ともなれば生にしがみつく人が一体どれだけいるだろうか。
大規模の災害ともなれば自発的に炊き出しなど救助や援助を行う自治体や自警団が動き出すが、局所的ではなく世界全部ともなるとボランティアで出来るレベルを超えていた。
ありていに言えば全てが自己責任でなんとかしてくれとなり、無法から成る無秩序にして弱肉強食の世界に人々は放り出されたのだ。
いくら理性的で人間的な生活を目指そうと、やはり物をいうのは暴力であった。
情報伝達が崩壊したため、治安維持のための警察も軍も出動させることが叶わず初動が遅れに遅れ、職員を伝達員として派遣しようとナビが使えなければ現代人では迷子になってしまう。
軍は基本的に内地の治安維持には動かないため、要は警察であるが警察もどこに出動すればいいのかすら決めきれず、さらには管轄浮遊都市全域ともなれば人手が絶対的に足りなかった。
それでも警察は管轄ゆえに各浮遊都市の要所を熟知しており、そこに適切に人員配置することで完全な食い止めるまでは行かずとも抑止力とするべく、情報が断片的にしか入らない中で最善の対処していった。
しかし、社会システムは復旧の見込みがまったくない。
各国の優秀なエンジニアに見込んでも操作をする前にシャットダウンしては手が出せず、ネットが原因として物理的にネット接続できないことで動くパソコンで動かないパソコンに繋いでも、間接的にネットに繋がっているとして動くパソコンも落ちてしまう。
日本の会見が引き金でチャリオスが引き起こしたと世界各国が分かったとしても、捜査も派遣も何もできず治安維持に全力を注ぐ他なかった。
混乱はまだ終わらない。




