第139話『ブラックアウト』
「いくつか反応を考えていたが、まさか一番しないだろう反応を見せるとはな」
「我々〝パーシェ〟……向こうではバーニアンか。パーシェの存在は秘匿するべきことだったのに、それを敢えて公表するとは異星国家の元首は中々の冒険家だ」
「捜査状況はともかく、パーシェの存在を公表されたのは痛かったな。エミエストロンで妨害は出来なかったか?」
「あの開口一番の結論で無意味となった。捜査状況の途中なら結論を言うまでに封じ込めできたが、わずか開始二秒では間に合わんよ」
「その後で放送妨害すれば、我々に罪を着せるためか真実かの二択になる。どうあれ捜査は入るから拒否すればより疑われる」
「だがなぜエミエストロンは事前に調査内容を察知しなかった。優先的にクラッキングするようにしていただろ?」
「エルマの情報に関しては感知していない。捜査内容からウィスラーの別邸に忍び込んだのだろうが、それすらエミエストロンは感知していないし、忍び込んだのは火災が起きたときだな。レーゲンの秘密警察が押し入ってたがエルマ達の情報は上がってない。どうやってここまで隠蔽したか」
「テロ当初からエルマの行動記録は断片的だ。おそらく最初からエミエストロンを知ってたか、それくらいのシステムがあると読んでいたかだな」
「さすがは王位継承権が無い王候補と呼ばれるだけはあるな。先見の明と危機管理能力が高い」
「実行時に消せなかったのが痛かったな。ペオ二号機の製造はどうなってる?」
「突貫工事だけどあと二週間で運用可能だ。ただ、前回の失敗から検討して一度に転移できるのは五百トン未満だ。それ以上だと再び暴発する可能性がある」
「試射と称して行った実験では五百トン。それ最重量で八百トンだったからな。千トンにしたのは失敗だった」
「元々七五〇トンだったのを、証拠が残る計算結果から千トンにした。まさか千トンでするとエネルギー過多で制御できずに暴発するのは想定外だったな」
「ペオの反省点はともかく、異星国家の行動に我々はどう動く。すでに世界各国から問い合わせが万雷のごとく来てるぞ」
「従業員は気づいてるか?」
「時間が深夜ともあり、そもそもここは通話規制を徹底してるから誰も気づいてはおらんよ。各国の通話もこちらにしか来ないようにしてるしの」
「……ここはともかく各国支社はどうにもならんな。社内規制は出来ても外部とのコンタクトで気づかれる。いや、もう知られてるかもな」
「各国のネットの反応は?」
「軍事企業ゆえの陰謀論も合わさって苛烈だな。ウィスラーのビデオも決め手になってる。エミエストロンを使っても沈静化は不可能だろう」
「遺伝子検査をされては誤魔化しは利かん。外見は誤魔化そうとパーシェとしての根幹にメスは入れられない」
「エルマさえいなければ、誰にも気づかれずにユーストルに侵攻できたんだがな。奴が五十年計画のイレギュラーだ」
「それとウィスラーもな」
「あいつは断った時点で消しておくべきだった。おそらくエミエストロンに対応できるなにかを作って、それをエルマに渡したんだろ。証言ビデオと一緒にな」
「ここまでを警戒して奴のセーフルームごと別邸を壊すべきだった」
「過ぎたことを嘆いても始まらん。こうなった以上動くほかない」
「なに、こうなることも想定してこその実行であろう」
「よし、シャットダウンだ。ここに弾道ミサイルを撃ち込まれる前に世界をまずは黙らせよう」
「私は異論ないが、従業員はどうする」
「もちろん一斉解雇だ。仲間に引き込んだ〝ネムラ〟とリストアップした数人以外は今夜中に解雇する。〝退職金〟も渡してな」
「そうなればこちらも引き下がれんぞ」
「もとより引き下がるつもりはないさ。ユーストルと異星国家を手中に収めればもう奴らは手が出せん。ユーストル用〝ベーレット〟は完成しているだろう?」
「ああ。フォロンのない異星国家の反対側は時間が掛かるが、近くまで行けば展開は早めに出来る。そうすれば世界はもう手出しが出来ない。ユーストル規模の土地と、奴隷が一憶二千万いれば五十年計画の先も加速度的に進められる」
「懸念するといえば異星国家だな。エミエストロンはあくまでフィリア社会のコンピュータを前提だから異星国家のには影響が及ぼせない」
「現にイルリハランの調査記録は見れても、異星国家のは見れてなかったからな。支配も出来ない」
「だが一ヶ国で出来ることなどたかが知れている。他の国々を潰せば済む話だ。だからグイボラのクローンをステルス浮遊機でピストン運搬して放ち続けてユーストルにはいられないようにしたではないか」
「六年間の情報収集で異星国家の軍事力は把握してる。ラッサロン浮遊基地を落とせば異星国家は無血開城する他ない。何もできないのだからな」
「あの小さな島国で一億二千万と言う人口と経済、軍事力を維持するのは物理的に不可能だ。恐れるに足らん」
「しかし異星国家ゆえに未知数だ。覗き見ることも出来ないのだから過信は禁物だ。全力でつぶす、それに限る」
「では行こうか。世界を取りに」
*
シィルヴァス共和国、首都指定浮遊都市テオロール。
午前五時三十分(ユーストル時間、午後二十一時三十分)
電気、電球が発明され、夜間での活動が可能となってからは人の活動は少なくなれど無くなることはない。
ましてや夜明け前後ともなれば何割かの人は仕事や通勤で活動を開始、またはしていた。
この時間帯ともなれば時差があろうと各報道機関から日本首相の記者会見が放映され、テロの真相が特番を組む勢いで話題になりつつあった。
それでもギリギリ起き始めるころ合いの時間帯からまだ真相が広まる前に、前触れなくそれは起こった。
テオロールに限らず島の台座中心部にはデジタル制御の主電源と、アナログ制御の補助電源があり、二十四時間四百日常に浮遊都市を浮かすレヴィロン機関と、島全体の電力を賄っていた。
浮遊都市維持の根幹なためセキュリティは万全で、ハッカーが攻撃をしても幾重ものファイアーウォールで防ぎ、それでも突破されてもアナログの発電機で電力を維持する。テロにも対応していて、発電区画と送電線には爆薬にも耐えるほど強固な作りになっていた。
ここが落とされれば十万人以上の人が危険にさらされるため、人質を取られようと、自身に危険が及ぼされようと発電区画には入らせてはいけない規則まであるほどだ。
現実的に浮遊都市を墜落させるにはバスタトリア砲を放つ他なく、過去一度として事故を含めて墜落したことはなかった。
それだけフィリア社会が誇る強固な基盤であったが、突如停止した。
火力発電設備が停止し、そこをスタートとして発電システムの管理モニターに管理室の照明と、『電気』が絡む装置の一切が止まってしまった。
それは発電施設だけでなく、浮遊都市すべての電気も同じだ。
文字通り一瞬と言えて、夜間でも宇宙から点ではあるが見ることが出来た十万人を超える浮遊都市が真っ暗になった。
すぐそばを浮遊している居住用の浮遊都市も同じだ。
しかもその二島に限らず、経済国家だからこそ多数所持していたシィルヴァスの浮遊都市全てが、一瞬にして闇に包まれる。
それでも浮遊艇やライトなど外部電源に依存しない明かりは無関係に灯り続けるはずなのだが、浮遊艇やジェット旅客機と言った乗り物も浮遊都市と同じように一斉にブラックアウトした。
補助電源による浮遊維持は機能して何千台にもなる墜落事故こそ免れたものの、再起動することはなかった。
携帯電話を含む通信機器による警察への通報も叶わない。電源消失と同時に携帯電話もブラックアウトしてしまったからだ。
端的に言えば一瞬にして三百年前の、電気が発明される前の状態へと戻ってしまった。
シィルヴァスを含む小大陸の国々は止まった。
*
ユリタシア大陸。
午前八時三十分。(ユーストル時間、午後二十一時三十分)
ユリタシア大陸にある国々は、夜が明けて人々の大半が早朝の報道番組でテロの真相を知り、チャリオスに対する考えを改め、各国政府や関連省庁もそれに合わせた検討を始めていた。
ウィスラーの証言ビデオは本当なのか、日本の主張に信ぴょう性はあるか、その時はチャリオスに対してどう対応するべきか。
そんな折だった。
建物中の照明、パソコン、携帯電話が一斉に消えた。
再起動をしようとしても点くことはなく、バッテリー式のノートパソコンはオペレーティングシステムのロゴが浮かび、パスワードを打ってデスクトップ画面が十秒灯るもまたシャットダウンしてしまう。
ビル群の外でも浮遊艇が次々に自動停止してその場に滞空し、仕事を始めたばかりの人々が外へと出ては何があったのかを確認しだす。
携帯電話を耳に当てても通話が出来ないので画面を見直す人もちやほやと見られた。
離陸したジェット旅客機もエンジンが停止して緊急用レヴィロン機関で滞空状態になるが、ロケット旅客機は惨事を引きこした。
ジェット旅客機はシステムダウンすればエンジンが止まるが、ロケット旅客機は一度ロケットエンジン点火してシステムダウンしても火は消えない。
緊急停止システムは稼働してこそ働くのであり、システムがなければ暴走状態となった。
ロケット旅客機は精密な計算を経て目的の軌道に投入するが、ロケットに点火直後に停止した機体は制御が出来ない。さすがに第二宇宙速度までは出ない仕様なので宇宙の果てに行くことはなくても、適切な角度で大気圏に突入しなければ機体が持たない。
そのため、不適切な体勢と角度で侵入した機体は次々に分解し、数万人が焼け死んだ。
*
イルリハラン王国 首都指定浮遊都市イルフォルン
午後二十時二十分。(ユーストル時間、午後二十一時二十分)
「母上、どうしよう……」
ソレイは冷や汗を掻きながら記者の質問に答える日本の若井首相を見つつ、口に手を添えて苦悶の表情を見せる母ラネスを呼んだ。
「僕たちエルマ兄にひどいこと……」
「まんまと踊らされたってこと? そんな、シルビーに調べさせたのよ。間違ってるはずがないわ……」
ラネスはエルマに冤罪を掛けてしまったことを受け入れられず、しかし若井首相の会見を終始見ては認めざるを得ないことで葛藤をしていた。
それはソレイも同じだ。
エルマはずっとテロ事件を捜査して、身の危険も顧みずに他国に不法入国してまで情報を手に入れて、それらもソレイ達に王室総会で説明もしてくれた。
若井首相の話は、エルマからされたのとほぼ合致する。
エミエストロンと言う実物も性能も見たことない装置より、目に見える結果を重視してエルマの説明が嘘と決めつけた。
しかし、エミエストロンが本当のそれだけの性能があるなら、メールや金を送りつけて罪を着せることは出来た。性能を聞かされていたのにエルマを信用しなかった。
家族よりパソコン画面を信用したのだ。
「日付だって合ってたし、それに秘密口座だったのよ。エミエストロンはそれすらも見つけて書き換えられるの? そんなこと出来るはず……そうよ、日本だってエルマに騙されてるってことも……」
「母上、いくらエルマ兄だって日本政府まで騙せないよ。ここと違って日本はテロがあった場所に近いんだから」
「いいえ、そんなことない。エルマがした説明は日本がしたのと同じだもの」
「騙したってチャリオスの容疑が晴れたわけじゃないよ?」
エルマが裏切り者として意識が薄れてしまっていたが、チャリオスの容疑は別段晴れていないのだ。エルマに金を払ったペーパーカンパニーの出資にはチャリオスの名前があって、無関係を装っていない。
今日のことはエルマが敵か味方かのどちらかだったから、日本がチャリオスを容疑者として認識させるようエルマが騙すことに意味はないのだ。
そうなるとどうしてチャリオスの名前を残したのかは分からない。
ラネスがシルビーに依頼をしたのが十時頃で、分かったのが午後二時頃だった。
エミエストロンがラネスの依頼を盗聴して、それからの四時間で偽装をするにはチャリオスの名を完全に消すことは出来なかったのだろうか。
もしかして、バーニアンであることが知られてなければその程度の情報は気にならなかったのかもしれない。
「だとしてもこれじゃ政府の評価も、貴方の評価もただ下がりよ。エルマ、なんで同日に逃げて逮捕を否定するのよ……」
裏切り認定で逮捕しようとして亡命され、その数時間後にこれだ。
どう言いつくろうと周囲からの評価はただ下がりだろう。
父や叔父、歴代王たちが築き上げてきた信頼を自分で落としてしまった。
望んで王位を継いだわけではないけれど、そうさせてしまうと申し訳なく思う。
「もっとエルマ兄のことを信じるべきだったんだよ」
「違う……違う……」
取り返しのつかないことをしてしまい、ラネスは自分の判断を肯定するので必死だ。
頼れる母が混乱し、ソレイもその感情に引っ張られてどう考えればいいのか分からなくなった。
王に即位して一ヶ月。まだまだ王としては未熟。男児としても未熟で周囲の助言が必要なのに、その助言が聞けなければどう判断をすればいいのか分からない。
エルマを許せばいいのか、テロを受けた国としてチャリオスになにか指示をするべきなのか。
どれをまずやればいいのか不安が頭を覆い、ラネス同様ソレイもあたふたしてしまう。
「母上……」
動揺から手が震える。
どうすればいい。どうするのが正解だ。周りになんて言えばいい。
ソレイはまだ十三歳だ。王であっても子供で、親や大人の助言がまだ必要な年齢だ。ましてや王ともなればただの子供とは一線を画す。
それでもソレイは王である自覚はあり、子供なりにどうするべきか考える。
イルリハラン政府の評価やソレイの評価は置いておく。チャリオスが容疑者と日本が公表したのなら、世界もそれに合わせて動くからイルリハランも動かないといけない。
この場合、周りに合わせてなのかイルリハランが率先して動くのかどちらかだろう。
やはり攻撃を受けた国だから率先してするべきだ。
ソレイは深呼吸をする。
エルマはきっと自分たちの行動を怒ってはいない。そう仕向けられたとして考えて、だから亡命をすぐにして日本政府に公表させたのだ。
意趣返しとも言える。
チャリオスに踊らされたと考えた上で、進みを整えようとしているのだ。
エルマに謝るのは解決した後にして、何を置いても事件を解決するのが先決だ。
そう考え、ソレイは電話の受話器を取ろうとした。
人を呼んで指示しようとした矢先だ。
王執務室の照明が消えた。
「え?」
「なに、どうしたの?」
照明やテレビが消え、ソレイとラネスの頭髪の発光、扉の上にあるバッテリー式の非常灯が灯って部屋全体がうっすらと輪郭だけだが見えるようになった。
手を伸ばしていた受話器を頭髪の発光を頼りに掴んで耳に当てるも、一切の電子音が聞こえなかった。
王宮は停電に備えて別電源が備えられていて、消えてもすぐに電気が点くと聞かされていた。しかし電話すらならず、数秒経とうと電気が戻ることはない。
ドン、と扉が勢いよく開き、まばゆい光がソレイを照らされた。
「陛下、窓から離れてください!」
警護官だ。懐中電灯と銃を構えてソレイとラネスを照らし、机を飛び越えて背後に回って窓を塞ぐ姿勢を取る。
「なにがあったの?」
「停電です。通信も途絶え、補助電源も入らないようです」
「まさかテロ!?」
「不明です。狙撃の危険があるので窓から離れてください」
「ソレイ陛下とラネス王太后を確保。これからバスタシェルターに移動する」
バスタシェルターはイルフォルンにだけに存在す、バスタトリア砲が直撃しても耐えられるシェルターだ。同時に指令所でもあり、ソレイは存在こそ聞かされても秘密から入ったことはなかった。
警護官はソレイの肩にそっと手を当てると移動を促され、有無を言わさずに王執務室を離れた。
通路には備え付けか装備していた懐中電灯によって周囲を照らす職員や警護官が大勢いて、何が起きたのか分からない様子でソレイ達を見送る。
「通信は戻らないか?」
「戻らない。外も同じく停電している」
「浮遊都市自体の滞空は問題ないか?」
「連絡出来ないから分からない。例えサイバー攻撃だとしても、浮遊都市のレヴィロン機関は完全にアナログだ。ネットとは一切繋がっていないから墜落はしない」
「……あの、浮遊艇の明かりも見えないみたいだけど」
ちらりと見える窓の外を見ると、懐中電灯のような明かりしか見えない。停電であっても浮遊艇の明かりは見えるはずなのにそれすら見えなかった。
「大規模なサイバー攻撃の可能性があります。この様子では電子機器は全てダウンしたものと見るべきですね」
「まさか日本がチャリオスが犯人と言ったからチャリオスが動いた?」
「不確実なことは言えません。まずは陛下の身の安全が最優先です」
「バスシェルターも停電しているんじゃないの?」
「電気がなければ発電機を持ち込みます。監視システムが停止している以上、あそこが一番安全です」
「防務長官を呼んで。警察省長官も。停電はここだけなのか国中なのかを聞かないと」
「通話が死んでいるので呼びに行くしかありません」
「なら誰か行かせなさい。官僚、閣僚みんな呼んで!」
「それが出来るのは陛下だけです」
ラネスはあくまで王太后。政治に於いてソレイに意見出来る立場ではあっても命令を下せる立場ではない。
「この停電で関わる人、防務も含めて関わる人を全員呼んで」
「了解しました」
「あなたね、この非常時に……」
「非常時だからこそ指揮系統は遵守しなければなりません。それを無視すれば陛下は不要の存在となってしまわれます」
警護官に言われるほどラネスは混乱してしまっているようだ。
多分、ソレイが生まれる以前でもここまでの事態はなかったのだろう。
拳銃を持つ警護官だけでなく小銃を携えたフル装備の護衛も途中で加わり、懐中電灯を頼りに宮殿の地下にあるバスシェルターへと入った。
「陛下、入られます」
最上位の人物が入ることで一人が叫び、シェルター内にいる人全員が直立不動の姿勢を取る。
「あ、と……作業を続けて」
とソレイは言うも、バッテリー式の明かり以外灯らない部屋で職員たちがしていることといえば、どうにか電気やコンピュータ、通信が回復出来ないかと奮闘している復旧作業だ。
浮遊都市自体は落下していないものの、パソコンはおろか携帯電話すら使えないらしい。
「あの、今どういう状態なの?」
ソレイは近くにいる職員に問う。
「はい陛下。午後二十一時三十分に停電が起こり、補助電源も入らず電子機器もすべてがダウンしました。ネットも停止。バッテリー式のノートパソコンも起動してはすぐにシャットダウンしてしまいます。電話も繋がらず、完全に外部の情報が途絶えてしまってます」
「直る?」
「申し訳ありません。目途は立っておりません」
「こんな現象みたことないぞ。起動させてはすぐにシャットダウンする。電子機器の全部が使えなくなった」
「発電所はどうなってる」
「連絡できません」
「なら自分で行け!」
「行ったら私の代わりは誰がするんです」
「電気がなけりゃ何もできないぞ」
社会基盤の生命線である電気が消え、情報の伝達も出来ないことで職員たちはパニックになっていた。
多分テロに関する訓練はしているのだろうけど、一切の電気を失うことまではしていないのかもしれない。ましてや王宮でだ。他の浮遊都市とはバックアップの数が違うから猶更なのだろう。
「あの……」
「発電機はまだか!」
「これじゃ省庁と連携もそれない」
「完全に想定外だ。完全に失態だぞ。サイバー班はなにやってるんだ」
「あの!」
周囲が騒ぎすぎるからか、返って何も知識のないソレイは先ほどの動揺とは逆に落ち着きを取り戻していた。
この喧騒を止められるのはソレイしかいない。
何を言えばいいのかも分からないが、まずは落ち着かせようとソレイは大声を発した。
その声に職員全員がソレイを見る。
「あ、えと……多分訓練も想定もしてないことでみんな驚いていると思うけど、まずは落ち着こう。それからみんなで一つずつ考えた方が……いいと、思う」
「陛下、これは前代未聞の事態です。通信網も防衛もなにもかもがマヒしてしまっているので、一刻も早い回復をしなければ」
「だからってみんながみんなバラバラに、それも勝手に動いて直ることなの?」
「いえ……」
「だったら落ち着いて出来ることからやろうよ。まず絶対に最初にやらないといけないことは? えと、あなた」
さすがに職員の名前は数人しか覚えていないソレイは、近くにいる人を指して訪ねた。
「何を置いても電力です」
「じゃあ復旧班を作って、電力会社や施設を作った人のところに行って直るように動いて」
「分かりました」
「次に大事なのは?」
「防務……いえ、通信です」
「通信に必要な機械の電気は発電機で賄える?」
「調べる分であれば」
「じゃあ明るさよりもそっちに発電機を回して、そっちもチームを作って直るように動いて。他のしなきゃいけないのも、それぞれチームを作って直るように動いてほしい」
「了解しました」
「それと、停電がここだけじゃなくて島全体なら人々も驚いているから、何でもいいから声かけをするようにして。その場合は警察だから、だれか警察に言ってそうするように指示をして」
「私が行ってきます」
「連絡員を作って伝達をし続けるしかない。すれ違ってもいいからとにかく移動だ」
電話が発明されるまでは人が直接物でも伝言でも相手に伝えていた。
その訓練はしてなかったとしても歴史の一旦を担っていた通信方法で、それしか出来ないならするしかない。
するとさっきまでの喧騒とは打って変わってスムーズに動き始めた。各分野の人たちであろう数人が集まっては話をして、一人を残してバスシェルターを出ていく。
「……これでよかったのかな」
「ソレイ」
考えてみれば誰もが思いつくことだ。熟練の大人に対して子供のソレイがわざわざ言うべきことだったか考えてしまう。
「ソレイ」
肩に手を添えられ、振り返ると落ち着きを取り戻したラネスがいた。
「よくぞ皆をまとめ上げたわね」
「母上……いえ、僕が話したのは誰でも思いつくことだから……」
「貴方がそれを言ったのが大事なの。全員がバラバラに考えても連携なんて取れないけど、トップの貴方が言うことで纏まるのよ。さっきも言ってたでしょう、指揮系統は大事だって」
「よかった、のかな」
「貴方じゃないと出来ないことよ」
「そっか……」
「……言っても眠れないでしょうけど、明日はもっと大変だから寝なさい。ここには仮眠室があるはずよね?」
「ございます」
「ならそこでソレイを寝かせてあげて」
「分かりました」
「母上、今こんな状態なのに寝るなんて……」
「王であってもまだ子供だから、あとは大人に任せて今は寝なさい。明日は明日で貴方の力が必要になるから」
正直眠気がないわけではないが、大人がこの大変な事態に動いているのに、子供と言う理由で寝ていいのかと思ってしまう。
それでも周りは寝ろとしか言わないから、従うしかない。
「じゃあせめてエルマ兄と連絡を取れるようにして」
ラネスは静かに頷くと、職員がこちらにとソレイを仮眠室へと誘導する。
「おやすみなさい」
*
この日、世界中からほぼ光が消えた。
可視化すれば星を覆い隠すほどの高速で移動していたはずの通信ネットワークは消え、空を移動する数千数万の浮遊機も消え去った。
時代は逆行した。それも浮遊都市が建造され始めた三百年も前だ。
その中で『現代』を維持しているのは、一つの島国と一つの企業だけ。
異星国家日本と、民間軍事企業チャリオスである。
世界は何の前触れもなくブラックアウトした。




