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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ2 潜入偏 全15話

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第135話『急展開』

「申し訳ありませんが、その提案はお断りさせていただきます」

 羽熊はハオラ会長の提案を断った。

『なぜだね? 私では身分が低いかな?』

「気を悪くされたらすみません。理由としては単純に、グイボラの脅威が去るまで出国禁止命令が出ているからです」


 空に浮けるリーアンなら高度を保てば安全を確保できても、日本人は機械を用いらなければ出来ないし、石橋を叩いて渡るように日本は安全に対して過剰だ。

 訓練された軍人等ならともかく民間人は極力出すべきではないが政府方針で、それはもちろん羽熊にも適応される。

 特に外交官的な肩書きを持っていない羽熊が、チャリオス会長の要望だとしても了承するわけにはいかないのだ。

 なにより敵陣のど真ん中に入るほど羽熊の度胸は大きくない。

 この提案に乗らないことでどう未来が変わるのか分からないが、それでも家族を持つ羽熊は堅実を考える。


「私ごときに好印象を持たれるのはうれしいのですが、政府方針に反する答えは出せません。申し訳ありません」

『それは残念だ。非常に残念だ』

 その残念はどちらの意味だろうか。羽熊には確認する話術は無い。

「出来ればもう少しお話をしたいところですが、仕事がありますのでこれで失礼させていただきます」

『そうか。大事な時間を浪費させてすまない』

「いえ、では失礼します」

 羽熊が通話ボタンを切る前に向こうの方で先に通話が切れた。

「……はー……!」

 羽熊はその場にしゃがみこんで深い溜息を吐いた。

「まさか首謀者本人が出るなんて卑怯にもほどがあるだろ」

 なんとか営業スタイルは保てたものの、内心は冷や冷やだった。

 互いに事情を把握し合っていることを秘密にしてのやり取りだ。何がきっかけでボロを出すか分からず、声の揺らぎなどでプロファイリングされていないか心配もしてしまう。

「……けどルィルとの話をした後ですぐに来たってことは、ルィルはすぐ近くにいられる立場なのか?」


 世界有数の企業の会長ともなれば会長など役員トップは雲の上の存在だ。一般社員が軽々に会うことはまずないだろう。なのにヘッドハンティングされたとはいえルィルの近くを移動するほど、彼女の立場は高いことを示唆する。

 バーニアンとエルマ達、どっちがコントロールしているかは知らずとも、下っ端ではないことには意味があるはずだ。

 もしここで羽熊までバーニアンの中枢に連れ込まれ、ルィルと出会ったらよりややこしくなったかもしれない。

 多少の独断専行ではあったものの、致命的ではないと信じたい。

 そして誘いを断った報復としてロームウォーの情報提供がご破算になったとしても、元に戻るだけで新たな対処を考え直すだけだ。


「……とりあえずこのことを若井総理に話さないと」

 併せて対策室にも口頭でだが前向きな検討をする言質を取ったことを伝えるため、羽熊は移動をすることにした。

 その突然の未公式の電話会談から七時間後。結果として、チャリオスはロームウォーの仕様をアルタランに、ではなくイルリハランと日本の二ヶ国に提供する談話を発表した。

 その点については向こうの都合なので必ずしも羽熊の意見が反映されるわけではないが、提供に対して厄介な条件を提示して来た。


      *


「やっぱり日本側にも支社設置の要望を訴えてきましたか」

 須田町郊外に浮遊している駐日イルリハラン大使館、テロ特別別働捜査班室でエルマはパソコンに表示したネット記事を見てつぶやいた。

 記事の内容はチャリオスが昨今の土竜問題解決のため、人道的と社会貢献の観点からイルリハランと日本にロームウォーの技術情報と従来の三分の一以下の価額で提供すると記載されている。

 まずは実物を売って早期対処し、自国生産で中長期で対処してほしいと言う世間一般からすれば嬉しい配慮だ。価額も抑えている点も高評価だろう。

 先日の発表ではユーストルに職員を常駐する話は濁されていたが、今回は堂々と条件として職員の常駐を盛り込んで来た。

 これさえなければ警戒しつつもイルリハランも日本も受け入れるだろうが、この一つの条件が躊躇させてしまう。

「日本の反応はあるか?」

 リィアが問う。


「特にないですね。向こうも向こうで判断に困ってるんでしょう。受けても受けなくてもまずいですから」

 だから羽熊は技術提供をアルタランにしようとしたのだが、向こうもそれを分かっているからアルタランは無視して直接提供する案にしたのだ。

 ここで日本にしろイルリハランにしろ、アルタランに提供するのは不自然となるから受け入れか拒否の二択しかない。

 そのどちらもが両国にとってはデメリットだ。

「……もう少しルィルさんが信用を得てからとしたかったけれど、タイムリミットですかね」

「ちっ。羽熊め、余計なことを……」

「まあまあ。羽熊さんからしてもなんとかしようと動いたことですし、そもそもこちら側だって容認するように動いていたじゃないですか。羽熊さんだけを責めるのは違いますよ」

「そりゃそうだが……」

「そもそも事情を知らない人からすれば、導入する商品のためにメーカーの人が出張として来るのは自然なことでしょう? すでにこちらから容認していたことが起きただけだから責めてはいけませんよ」

「そうだな。過ぎたことよりこの先だ。日本がどう決断するか分からないが、一人でもユーストルに入らせたら厄介ごとになりかねない。まだルィルの信用はそこまでじゃないが、仕掛けるときじゃないか?」

「いえ、今仕掛けてもルィルさんにペオの情報は触れさせもしないでしょう。日本の女王にするとしてもその教育を始めたばかりですし、より信用させるならもう一つ裏切りをさせないと」

「だとしてもどうやってだ? ルィルからは音声が届いてもこっちからは連絡取れないんだぞ」


 情報伝達は一方通行だ。ルィルからエルマ達に情報は伝わってもエルマ達から伝えることは難しい。すれば必ず何らかの繋がりがあると悟らせてしまう。

 ルィルからすれば今エルマ達が何を考えているのかも知らないのだ。なので事前の打ち合わせた目的に向けて臨機応変さを混ぜつつ守っていくしかない。

「ルィルさんからの情報を注視しつつ、事によって始動しましょう。王室には私の方から連絡を入れます」

「ラッサロンには俺から言っておこう。チャリオスと対決するならラッサロンが主力基地になるからな」

「エミエストロンに拾われないように注意してください。ラッサロンにはアンチエミエストロンをインストールしてないんですから」


 一応、ラッサロン浮遊基地の装備一式からチャリオス製の類は全て不具合があるロッドがあると偽装して外郭区画の一つに集めている。

 万が一遠隔で爆破されてもバイタルパートから離れ、外郭は消失するが基地運用には支障はないはずだ。

 ただ、他の基地にはさすがに手が及ばず、遠隔爆破が可能なら国防に致命的な被害を受けるも、アナログで事を済ますにはこれが限度であった。

 そもそも懸念事項の一つに過ぎないから過剰な心配とも言える。試しに一つのチャリオス製の弾薬を調べてみても、別段細工らしい細工はされていなかった。

 それでも大丈夫と過信して主力基地の機能不全を起こすわけにはいかない。

 と、エルマの携帯電話が静かに震えた。

 数メートル下の床に落とさぬようしっかりと握りしめながらポケットから取り出して画面を見る。

 発信者はラネスだった。


「……はい、エルマです」

 部屋の隅に移動して応答をする。

『エルマ、今あなた一人?』

「いえ、捜査班のメンバーと同室です。いかがなされました?」

『緊急で重要な話があるの。捜査班のメンバーといるなら場所は大使館ね。今すぐ執務室に向かってビデオ通話に切り替えて』

「それは構いませんが、要件はなんでしょうか」

『それはビデオ通話の時に話すわ。捜査班のメンバーは全員そろっているの?』

「え、ええ。次のフェーズに備えて全員待機しています」

『それじゃ移動して』

「……分かりました」

 返事をすると同時に通話は途切れる。

「…………」


 エルマは通話が途切れた携帯電話を画面を見ながら、短い会話ながら強い違和感を抱いた。

 抑揚こそ普段のラネス王太后だが、その奥底にある別の感情がある気がする。

 要件について題材すら話さないのもそうだ。考える時間を与えずに急がせたい意図も感じる。

 端的に言えば、いやな予感がする、だ。

「エルマ、どうした?」

「ラネス様からオンライン会話を所望してるんですけど、なんか違和感があるんですよね」

「違和感?」

「……ひょっとしたら〝ミルバ〟かもしれない」

 そのエルマの一言に、リィア達捜査班のメンバー全員の顔色が変わった。

「おい、それは最悪の符丁だぞ」

「かもしれないですけど、メンバーが全員いることも確認してたので。その前提で動きましょう。間違えればそれでよかったとなるので」

 ミルバは捜査班別動隊で共有している最悪の展開を意味する符丁だ。

 そうあってほしくはないが、この電話はその可能性を抱かせる。

 ともかくエルマはラネスを待たすわけにはいかないため大使執務室へと向かい、他のメンバーはミルバに備えての行動を静かに移し出した。

 別動隊本部から同じ館内にある大使執務室へと移動し、パソコンを起動してはビデオ通話のソフトを立ち上げる。


「お待たせしました」

 ヘッドセットを身に着け、マイクを口元に運んで声を掛ける。

『いま貴方は部屋に一人ね?』

 画面に映し出されたのは会議室で、中央にラネスを置いて王室のメンバーが揃っていた。ラネスの隣にはソレイもいる。広角で撮影しているのだろう。

 異質な光景に嫌な予感が増幅される。

「み、皆さんお揃いでどうされました? あ、いえ、いま部屋には私しかいません」

『そう……』

 遠目でラネスを含めて顔が小さいため表情は細かくは見えなくも、どこか悲しみや不満など負の感情が見える。

『もう、この状況で分かっているんじゃない?』

「いえ、少なくとも皆さんに秘密にしていることはありますが、疚しいことはありません」

『これでも認めないのね。残念だわ』

「それで一体何なんですか?」

『今朝、シルビーに貴方の身辺調査をさせたわ。それで分かったの。貴方がチャリオスと通じていて多額の報酬を受け取っていたことを』

 何らかの悪い知らせを予感していたが、完全に斜め上を行くことにエルマは目を見開いた。

「は、はい? 私が、チャリオスから報酬を受け取っていた?」


 自分で復唱している最中に、エルマがハメられた経緯を推察する。

 おそらくエミエストロンでエルマの口座を改ざんしたのだ。

 エミエストロンはコンピュータにとって神的な性能を持っている。その真偽はともかく、その能書き通りなら日付を含めて過去の経歴と関連する項目すべてを改ざん出来る。

 さすればエルマがチャリオスの味方としてデジタル証拠をそろえることは可能なのだろう。

 ならばより以前から儀装することは可能なのだが、そこはエルマ達の実働との整合性が揃うのを待っていたところか。

 何であれ、ラネス達王室は完全にエルマはチャリオス側と信じているだろう。

 何を言ってもおそらく無駄だ。

「……私が伯父上らをたかが金のためにテロの片棒を担いだと?」

 それでもエルマは言い返す。

 いくら騙されているとはいえ、テロの加担していると思われるのは遺憾だ。


『ならテロから三日後に振り込まれているこの証拠をどう弁明するの』

 画面が二分割となり、その半分には確かにエルマ名義の口座が表示されて二十億セムが振り込まれていた。振込先は聞いたこともない企業名だ。

『シルビーに調べさせたら、三つのペーパーカンパニーを経由しているところまでは分かったわ。その先までは分からなかったけれど、最初のペーパーカンパニーの出資にチャリオスを含む企業が複数あったらしいわ。しかも二十億セムを気軽に出せるのはチャリオスのみ。よって最初に金を出したのはチャリオスである可能性が高い』

「私はこの瞬間までそのような入金があったこと自体知りません」

『白々しいウソを。二十億セムと言う巨額をボランティアで振り込むとでも? メールでも機密フォルダに報奨金のやり取りをするメールの削除データが日付ごと復元できたわ。それでもまだ白を切るつもり?』

「知らないのだから知らないとしか言えません。それに、たかが二十億セムでこんな大混乱を起こすなんて本当にお思いですか!? メールなんてもっと知らない」

『貴方には失望したわ。六年前の日本の出現に大使として尽力していたというのに、このテロのために裏で暗躍していたなんて。これ以上ない裏切りよ』

「していません」


『金以外で報酬ともなれば、貴方にはない王位継承権かしら。テロに加担してソレイを含めて王室全員を殺害すれば、王の血筋を持つあなただけになる。王政を守るために王として君臨することも不可能ではないわ』

 確かに王家の血を受け継いでいるのはエルマと画面の先にいる王室だけだ。ここでソレイたちがどんな理由であれ死去すれば、王の血はエルマだけが持つことになる。

 法的にエルマに王位継承権がなかろうと王家を守るために法改正を議会はする可能性はあるだろうし、エルマが主導すればよりスムーズになるだろう。

 筋書としてはエルマが共犯で成り立つが、あまりにもエルマを侮辱した推察だ。

 エルマは何度も唱えているように王になるつもりなどさらさらない。王位継承権がないことを知っても特に思うこともなく、むしろその煩わしさから軍に入隊したほどだ。

 たとえソレイから頼まれても困るほどにエルマはなるつもりがなかった。

 しかし、ラネス達の頭の中ではエルマの真意は捏造とされ、テロの一派で固着してしまっている。

 会話による解消は不可能だ。

「どんな推察をしようと私は否定しつづけます。なにより、私も日本の病であるインフルエンザに感染していなければ式典に出席して死んでいたんですよ」

『欠席の理由などどうとでもなるわ』

 式典に出席の是非で直前で変更したのは羽熊とエルマの二人だけだ。羽熊は妻の出産の立ち合い。エルマはインフルエンザによる感染防止による隔離措置。欠席せざるを得ない理由で欠席したのに、それ以外の理由では参考人として行動は制限されていただろう。

「……何を言っても通じないようですね」

『大犯罪者に聞く耳はないわ』

『エルマ兄ぃ、どうして……』


 今にも泣きだしそうな表情でソレイが問う。

 ソレイからすれば一番年が近くて信用できる親族が、実の父を殺す片棒を担いだとなるのだ。悲しみと怒りが込み合う表情をするのは必然だ。

「今、何を言っても意味はないから何も言えないよ」

 言ったところでラネスの横やりが入る。言うだけ無駄なら言って黙っているのがまだ吉だ。

「それで、王室総出と言うことで私への処遇はもう決定なのでしょうか?」

『ええ。現時点を持って全ての役職を解任。あらゆる権限の凍結。王室名簿からの除名。テロに加担した凶悪犯としてエルマ・イラ・イルリハランを逮捕となったわ』

 文字通り最悪の展開だ。


『そしてテロ対策と銘打ちつつ捜査の停滞、妨害をしている可能性から別動隊は解散。メンバーもテロ組織に加担してる可能性から容疑者として拘束させてもらうわ』

 ラネスが画面外に向けて合図を送った。

 同時に執務室の扉が開き、大使館を警護する警備員が四名入ってきた。

『抵抗すれば手錠を掛けさせるわ。せめてもの情けとして、無抵抗なら丁重な扱いを保証する』

「……分かりました」


 エルマは一度目を閉じ、最悪の展開を受け入れる返事をした。

今年の投稿は以上となります。

次の話は来年の1月中旬か下旬になると思われます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 まさに最悪の展開・・・・ 世界とイルリハラン、そして日本を救う為に動いていたエルマらが逆に『獅子身中の虫』として排除される憂き目に!? 果たしてこの逆境から這い上がる術…
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