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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ2 潜入偏 全15話

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第134話『コネクション』

 ラネスは握り拳を作ってダンと机に叩きつけた。


「なんてことなの……!」


 目の前にあるパソコンに映し出された画面には『三組織、民間企業の協力で壊滅』の題名からなるネット記事が表示されていた。

 この三組織の母体がチャリオスであることを時期を見てリークすることで、テロ捜査を進展させる予定だったはずが、自らによって消されてはその案は無意味だ。

 母体だった情報をリークしたところで、すでに三組織が壊滅してはいいように捏造やもみ消しが入るだろう。

 母体であるならば組織の詳細など知っているから潰すのは簡単だ。

 そもそもエルマが主張する情報の真偽すら、ラネス側は見せられていないから不明だ。

 エルマへの信用からフィルミに言質を取らせることを許容したが、今思えばエルマもチャリオス側ではないのかと疑ってしまう。

 いや、不名誉除隊したルィルも含めて多額の報酬で寝返ったと考えたほうが自然だ。


 情報漏えいを危惧してとの名目でエルマは頑なに今何をしているのか話そうとしない。

 捜査上でチャリオスが容疑者に上がり、万能情報収集システムエミエストロンと物質転送システムペオ・ランサバオンのことを聞いても、それが事実である根拠をエルマは示していない。

 これも全てエミエストロンを理由にしているが、果たして本当なのだろうか。

 今ならまだソレイの判断でチャリオスの進出を阻止することは可能だ。

 前向きな検討に留めているから、最新早期警戒艦やロームウォーの導入を突っぱねることは出来る。

 出来るが、世論では導入の賛同率は九割を超えていた。

 ここでソレイの命で突っぱねれば、その怒りは全てソレイに行ってしまう。

 その他の閣僚や職員ならば替えが利いてもソレイにはそれが出来ないため、この流れを強引に変えるわけには行かなかった。

 土竜問題を早期に解決しなければユーストル産フォロンの流通も滞って経済にも打撃を受ける。

 チャリオスの進出は断固拒否も土竜問題でそれが出来ない。


 これではチャリオスの一人勝ちだ。テロ事件に関係なくチャリオスが勝ってしまい、国が一企業に負けると言うあってはならない汚点となる。

 エルマは王室では数少ない男でありながら王位継承権を持っていない。それでも自分の立場を理解して王室の品位を守り、軍人として国防に努めていた。

 過去六年の日本関連の業務にも充実に努め、その信頼からテロ事件捜査の別動隊の指揮の許可もした。

 だが、その結果はチャリオスにとって有利なことばかりだ。

 身内が手引きしているのならそら計画もスムーズに行く。

 出来れば避けたい内部調査をする頃合いか。

 ラネスは固定電話に手を伸ばし、短縮ダイヤルから情報省(シルビー)長官を呼び出す。


「ラネスよ。急な電話で悪いけれど、一つ頼みたいことがあるの」


 依頼内容を聞いたシルビー長官は違法行為として難色を示すも、そこは王室の立場を利用して秘密裏に処理するよう頼み込んだ。


      *


 スマホを耳に当て、コール音を聞きながら羽熊は片手だけで腕組みをする。

 電話の相手は真相は察しつつも説明なしに離れていったルィルだ。

 バーニアンに知られないために羽熊達にも知らせずに不名誉除隊と言う体で軍を離れ、爆破テロの首謀者のいるチャリオスに単身乗り込んで捜査に挑んでいる。

 どのような策で潜入捜査をしているのか、羽熊達には知る由もないため非干渉が良いのだろうが、羽熊達にも羽熊達の事情がある。

 せっかく知り合いがロームウォーを独占している企業にいるのだ。これを利用しない手はなかった。

 そもそも日本側に正規ルートでの入手は検討にすら値していない。

 テロ組織が所有しているのだ。どんな細工がされているか分からない上に、足元を見て価格を吹っ掛けられることもありえる。よって日本政府はチャリオスからロームウォーの導入することは却下されてしまった。

 そこで羽熊が考えたのは、ロームウォーの情報をルィルからエルマに、エルマからイルリハラン軍、次に日本と経ることで仕様の伝達をすることにした。

 可能かどうかは二の次として、イルリハランを挟むことで細工を防ぎつつイルリハランとニホン双方にロームウォーの情報を伝えられるのではないかと考えたのだ。

 もちろん情報漏えいになるからルィルには負担をかけ、そもそも不可能とも言える。

 ちなみにルィルの携帯にAEが組み込まれているのか分からないから、エミエストロンに盗聴されている前提だ。

 四度、五度とコール音が鳴る。

 発信者に羽熊の名前が出ているだろうから無視しているか。

 ルィル視点からすればなんでこんな時にと思っているのかもしれない。


『もしもし?』

 出てくれた。

「久しぶり。羽熊です」

『久しぶりね』

 羽熊とルィルは友人関係で、仕事であれプライベートであれ気軽に会話をする仲ではある。

 それでも互いの立場が特殊過ぎるばかりに言葉に詰まってしまった。

『何か、用があって電話をしたのでは?』

 ルィルも同じ気持ちか、少し声色にぎこちなさがある。


「ルィルさんはこっちで問題になってる土竜のことは聞いてる?」

『ええ、さすがに知らないとは言えない話題だから……』

「回りくどい説明を抜きにしてお願いしたいんだけど、ロームウォーを日本が作れるだけの資料を手に入れることって出来る?」

 変に世間話をして徐々に要点に触れていく間柄ではない。羽熊は遠慮せず簡潔に言いにくいお願いをする。

『……久しぶりの電話なのに、とんでもないお願いね』

「ルィルさんにはルィルさんの都合と立場があるのは分かってる。けれどこちらの都合を考えるとルィルさんしかお願いできないんだよ」

『それに私は皆を裏切ったのよ? それなのにまだ頼ってくれるの?』

「まあ、ルィルさんが裏切ったのは自国であって日本ではないからね。もっと言えば私は裏切られてないから気にしないよ」


 報道では日本の防衛省に機密情報を売りつけようとして、防衛省はそんな事実はないと否定している。迷惑と言う意味では日本にも欠けているが羽熊自身には関係は薄かった。

 それに潜入調査であろうことは分かっているから、ルィルへの信頼は何ら揺らいでいない。


『ロームウォーは確かに自社で扱ってるし、どこかに設計図もあるでしょうけれど私は直接扱ってないの。権限も手に入れられるほど高くないし、無茶をして解雇されるわけにはいかないから、そのお願いはちょっとできないわ』

 ルィル側からすれば当然そうした反応をする。

 自分を偽り、不名誉除隊と言う業を背負って潜入調査をしているのに、日本の都合でかき乱して懲戒免職となればすべてが水の泡となるからだ。

 羽熊も逆なら無駄な危険は冒したくない。


「ルィルさんからすればそこが最後の砦だから守りに入りたいのは分かるんだけど、このままじゃ日本は身動きが取れなくなるんだ。アルタランもそろそろ何らかの動きを見せるだろうから、干渉されない状態にしたいんだよ」

 百年ぶりの地中生物の出現でアルタランでもどう対応するかに苦慮しているも、そろそろ安保理が動く予想だ。

 日本は駆除こそ出来ても人命の安全確保には至れていないから、このままではまたもや外部からの干渉を受けてしまう。それを回避するためにも人間の活動区域の安全確保をする必要があるのだ。

『なら尚のこと協力は出来ないわ。知ってるでしょうけどチャリオスはユーストル進出派だから、妨害されるならむしろ協力できないわよ』

「だからチャリオスじゃなくて、ルィルさんに直接連絡したんだ。正規ルートじゃブラックボックスの詳細を渡してくれるとは思ってないからね」

『それは私も同じよ。さっきも言ったけど、私は広報課で技術や兵器の部署じゃないからいろんな意味で閲覧も出来るか分からないの。出来れば協力してあげたいけどリスク以前に出来ないのよ』

 もしルィルが入社して三年か四年経っていれば築いた伝手を使って入手可能だったかもしれないが、入りたてでは伝手も何もない。

 むしろ企業スパイとして疑われてしまうだろう。

 羽熊が無茶で、ルィルが正論を言っているからこれ以上要求は出来ない。


「分かった。無理なお願いをしてすまない」

『そちらの事情は分かっているから気にしないで。逆だったら多分同じことをしてたと思うから』

「……そっちの生活はどうだい?」

 これ以上しつこくお願いをしても先に進まないなら話を変える。

 気持ちを切り替えて世間話をすることにした。

 もしこの会話がエミエストロンに盗聴されているなら、潜入調査やそれに付随する話題を出さずに表面的な話をし続ければルィルの信ぴょう性が上がるだろう。

 安全保障は諦めてしまっても、テロ事件解決の手助けになるならまだこの電話も無駄にならない。

『何とかってところかしら。元々ヘッドハンティングされていたのもあって高給で、それゆえに入ってすぐに大きな仕事をさせられたりしてるわ。傭兵課とかなら前職の経験が生かせても、広報だからほとんど未経験の仕事だけど』

「順調そうで何よりだよ」

『そうね。イレギュラーなこととかあるけど、概ねイメージ通りってところかしら』

 当初の予定通り潜入調査は進んでいるようだ。


『そうそう、ティアがいたの』

「ティア?」

『最初に会った時の部隊にいた私のバディ。あまり絡みがないから忘れちゃったかしら。えっと……日本が転移してからすぐのどこかのタイミングでイルリハラン政府に対して中立の意見を求められた女性兵士がいたの覚えてるかしら。その人よ』

「……ああ、確かにいたね。参考人招致で話していたあの人か」

『彼女も同じように六年前にヘッドハンティングされてて、その時は断ったんだけど異動して別れた後でチャリオスに転職したみたいなの』

 ルィルと同時期の転職ではない。ならば味方とするのは危険だ。

 この電話でわざわざ言うのだから、そうなのだと言っているものと解釈する。

「じゃあ知り合いがいて心強いね」

『まあ、ね』

 このぎこちない返事で、ティアに対する羽熊の解釈は確定となる。

 事実はともかくルィルもそういう前提で動いているはずだ。


『そういう羽熊はどうなの? 日本が土竜で大変なのはわかってるけどあなた自身は?』

「前と同じように土竜対策で意見を求められてるよ」

『美子と生まれたばかりのお子さんは?』

「元気にしてるよ。さすがに須田町には置けないから実家に帰ってるけどね」

『そうね、あそこは危険だから離れた方があなたも安心でしょ』

「でもあそこで生計を立ててる人も大勢いるから何とかしたいよ」

『駆除は成功しているんでしょう? 日本の記事を見てると成功してるみたいだけど』

「あの日を皮切りに毎日出没してるから切りがないんだ。一日に数体は駆除してて、出ない日はないね」

『だからロームウォーを欲してるわけね』

「詳しくは言えないけど、ロームウォーのシステムを土竜対策に取り入れたくて連絡をしたってわけ」

『それでもロームウォーは無理』

「ダメか」

『ダメ』


 数瞬の沈黙の後、二人は軽く噴き出した。


『久しぶりに笑えたわ。もう過ちを犯してから笑うことなんて出来なかったから』

「四面楚歌だもんね。新参者でしかも高給待遇なら周りはいい顔しないだろ」

『ただのヘッドハンティングだったなら羨望の眼差しだったでしょうけど、不名誉除隊での厚遇なら思うことは逆よね。嫌がらせとかはないけど、お陰でいろいろと裏側が知れたわ』

「まあティアさんとか元同僚がいれば支え合えるからなんとかなるか。いや、ライバルになるのかな?」

『そうね、一応先輩だしライバルってのは違いないかも』

「転職ってこういう時ややこしくなるよ。後輩が先輩だったり、年下が肩書きを持ってたりさ」

『そうね。羽熊だって年上の部下とかいたりするんでしょ?』

「そうそう」


 学校生活なら年功序列でも、社会生活ともなれば様々なズレが起きる。

 羽熊も多くの年上の部下を持ってその対応に苦慮していた。

 それは今のアドバイザーも変わらない。


『羽熊、出来ればもっと話をしたいけど仕事があるからそろそろ切るわね』

「いきなりでごめんね」

『いいの。また話をしましょう』

 通話が切れる。

「やっぱりダメか」


 通話からホームに戻った画面を見ながら羽熊は残念がった。

 ルィルの事情を考えれば当然の反応に、分かっていながらも拒否をされると少し胸に来る。

 こうなるとロームウォーは考えから離れて、鉄杭による移動阻害を中心に駆除効率を上げていくしかない。

 ともあれ羽熊にできることはなくなった。

 ルィルのコネが使えないと伝えたあとは、政府と対策室で頑張ってもらうだけだ。

 また意見を求められたら考えるが、羽熊に頼らずとも名案や妙案を出すだろう。

 そう思いながらスマホをポケットにしまおうとしたら着信コールが鳴った。

 着信画面には『ルィル』の名前があり、切った直後で再び電話を掛けてきたことになる。

 何か話し忘れか、誤操作をしてしまったか、何であれ羽熊は通話ボタンを押して耳に当てた。


「はい、もしもし?」

『ハーラン』

 マルターニ語で「こんにちわ」と年齢を重ねた男の声が聞こえた。

 完全な不意打ちで羽熊の鼓動が大きくなる。

「……」

 電話を切った直後の発信だ。すぐ近くにルィルはいるはずで、彼女に何かあって連絡をしたわけではないだろう。

 不意打ちに動揺しながらも数秒で思考を巡らせて、同じようにマルターニ語で返した。

「こんにちは。どちら様ですか?」

『突然の電話失礼する。私はチャリオス会長のハオラ・テオ・コンロードと言う』

「っ!」


 羽熊は目を見開き、心臓が逆に止まるのではないかと大きく再び弾んだ。

 チャリオスの会長ともなればバーニアンのトップである可能性が高い。つまりテロの主犯格だ。

 主犯格から見たら羽熊は仕留め損ねたターゲット。敢えて話しかけてくる意図は読めないが、羽熊と同じ挑発か牽制だろう。

 またはこの会話を利用してペオで爆発物を送ってくるか。

 何にせよ切るか会話をするかの二択を迫られる。

『もしもし。声は聞こえているかな?』

 考えている猶予はない。


「失礼しました。声は届いてます」

『貴方は羽熊洋一でいいかな?』

「はい。私が羽熊です。ただ、ルィルさんの電話だと思うのですが」

『驚かせてすまない。彼女は私のすぐそばにいてね。君たちの会話をたまたま聞いて無理を言って電話を掛けてもらったんだ』

「……私に何か用ですか? あいにくと私と貴方とは接点はないと思っているんですが」

『確かに接点はないよ。だが君は異星人の中では世界一有名だからね。一個人として話をしたいと思っていたんだ』

「いやはや、世界有数の企業の会長からも注目をされるとは恐縮です」

『世界の為政者から比べれば企業の会長など格下もいいところだよ』

 口調こそ温和ながらも、前提としてテロの首謀者ともなれば真逆の意味として受け取ってしまう。

「私など、幸運によって成り立ったに過ぎず私一人で成ったわけでもありません。大勢の仲間の尽力があって成しえた結果です」

 羽熊は勲章を授与する前後から今日まで、自分の才覚だけで著名になったとは微塵も思っていない。結果的に有名人となっても、その過程に数えきれないほどの人と運があってこそと理解しているからだ。

 だからその点に関して決して天狗になることはない。


『噂に違わない謙虚さだ』

 不自然なほどに持ち上げるハオラ会長。意図的か天然か判断に迷うもここは流れに乗るべきか。

「それで、わざわざ賛辞のために電話をしたのでしょうか。それはそれで嬉しいのですが……」

『先ほどルィル君との会話で興味深いことを聞いてね。ロームウォーがどうとか』

 テロ首謀者であろう会長からの電話のことだから、ルィルの潜入調査を疑われたものの電話の内容だけでは伝わらないはずだ。

 それを見越してか知らずか、こちらにとって都合のいい話題を出してきた。

 都合を持ち出すなら、ルィルとの電話の中でどうして会長が近くにいたのかもなるが、そこはいったん棚に置いておく。

 羽熊は簡潔にロームウォーを求めていることを伝えた。もちろんどのように使うかはアイデアを無償で渡すことになるため、技術提供の意味合いに止めておく。

『ロームウォーでしたら我が社の正規ルートでお求めになられては?』

 当然会長だろうと社長だろうと、自社製品を買えと言ってくる。

「いえ、出来れば自国生産をしたいので」

『異星国家の科学水準ならばロームウォーの再現は難しくはない。ならばこそ技術提供は考えてしまうな』

「ですが、リーアンにとっての天敵が突如復活して世界経済の中心地に居座っています。会社の利益からすればロームウォーの販売はそれこそ天井知らずでしょうが、自社製造のみで需要に対処できますか?」


 話をしているうちにふと疑問点に気づいて羽熊は問いかけた。

 いかにチャリオスが巨大企業で、世界中に支部や工場を持っていようと通常の兵器事業を展開しながらロームウォー特化の製造維持は出来ないはずだ。

 今のところ出現はユーストルのみでも、各国は自国にも出るやも知れずチャリオスに発注をかけているだろう。

 五十年間見向きもされなかった兵器を買いたいともなれば、たとえ自演だとしても需要を賄うだけの設備投資はしないはずだ。

 もし対応できる製造ラインを持っていれば不審がられてしまう。あくまで無関係を装うなら最低限のラインしかないはずだから、自社製造だけではまず無理だ。

 そこに羽熊は気づいて駆け引きを仕掛ける。


「土竜、ここではグイボラと言いましょうか。グイボラは私たち日本人もですがリーアンにとっては古代からの天敵です。対抗策を独占することによる利益のために出し惜しみをして、日々募る世論の不満を背負うの、どちらが有益でしょうか」

 中長期ではこの考えは再開発されることから意味はなくとも、ごく短時間であれば大きな意味を持つ。

 世界共通の敵として技術を広める意義があるのだ。

『……あなたは政治家でもなければ外交に携わる方でもないと聞いていたが、中々に外交をしていらっしゃる』

「いやいや、素人の思い付きですよ。本業ならこの程度のこと容易に思いつくでしょう?」

『そして入札方式にして他の国より高値で導入しようとする輩しかいない。現場レベルでは分からないが、私の耳に世界で共有しようと提案する国はいないよ』

 グイボラを前にしては視野も思考も狭窄する。共有財産として広めるよりも前に、まずは自分の国に導入する考えが優先されるようだ。

 驚異ではあっても本能で天敵とまで認定していない日本人とリーアンの主観の違いが垣間見える。


「あー、これだけは前もって言わせてもらいますが、この提案は私の独断であって日本政府の判断ではありません。なので仮に了承を得てもそれまた困ることになります」

『ルィル君経由で打診をするあたり予想は出来るよ。だがね、もし彼女が了承をすれば社内で非常に危うい立場になることも承知なのだろうね?』

「ええ、なので駄目元での相談でした。ダメならダメで別の考えをするだけですので」

 ロームウォーの導入でより効果的になるだろうなだけであって必須ではない。

「軍を除隊されて行き場のない彼女が唯一いられるのがそこらしいので、その居場所を奪うほど私は彼女を安く見てないです」

『……確かに現在の製造ラインでは各国からの注文に対して製造が追いついていない。共通の敵を駆除する団結力を示すのであれば、情報共有して一斉駆除に乗り出すのは人道上、道徳的にもアリだな』

「もっと言えば情報を一旦アルタランに供与して、アルタランから各国に配るとなればチャリオスはアルタランと言う上顧客を堅持出来るのではありませんか?」


 アルタランは存在意義上グイボラを黙って見過ごすことは出来ず、尚且つユーストルも狙っている。だがロームウォーの技術提供をすれば安保理上世界に分配し、アルタランのみでのユーストルへの介入は軽減出来るかもしれない。

 イルリハランも情報を享受し、日本もアルタランからにしろイルリハランにしろワンクッションを経て情報を得ることで小細工の妨害にもなる。

 この考えをハオラ会長がどう受け取るかは分からないが、表向きでは理にかなっていると羽熊は話しながら思った。

 懸念としてはどの国も気づかれないようにシステムに細工をされ、ロームウォーが蔓延したところで細工を一斉発動するのも考えられる。


「多分自国優先の国々はともかく、アルタランからはそうした提案か要求があったと思いますけど」

『いや、アルタランも武器供与で情報に関しては発言はしていない。五十年前に遺棄した兵器だから、再開発する考え自体なくなってしまったのだろう。新たに作るより買う方が早いからな』

 さすがにアルタランや政府関係者でその考えをしない人はいないだろう。おそらく時間的問題から封殺されたのだと思う。

 だがこのまま一社独占では納入に時間が掛かって返って時間が掛かってしまう。

「ならばこそ利益は二の次として情報を売り、情報を売った分だけ損する部分をロームウォーの価額に上乗せして、ある程度のリカバリーに当てれば損失は低いのではありませんか?」

 それでも超長期で見れば損となるも、今はユーストル開放が優先だ。

 自社製造だけで対処しきれるか分からないなら、やはり他国でも製造して数を増やさなければ世界経済が冷え込んでしまう。

 チャリオスはテロやグイボラを利用してユーストルを狙っているのだから、駆除されたら逆に困るだろうが今はその前提で話をしていない。

 駆除に向けて前向きな発言しかしないはずだ。


『……面白いな』

「はい?」

『貴方がなぜ未曽有の事態に対処できたか分かった気がするよ』

「いやいや、正解と言うか最適解? 妙案が思いつく人は大勢いても、決定権を持つ人のそばにいないだけですよ。私はそうした責任からは少し外れているので自由に出来たまでです」

『だからだよ』

「はぁ……」

『ロームウォーの情報提供は前向きに検討しよう。今は利益より安心が大事だ。それは同時に経済復活にもつながる』

「それは良かった。いや、偶然とはいえ会長と話が出来てよかった。図々しいかったかもしれませんが、ありがとうございます」

『なに、死の商人と言われる企業が世界貢献すれば利益以上の価値があると言うものだ』

 ただ、チャリオス会長以前にバーニアンがそんな思いつきそうなことに思い浮かばないはずはないだろうから、この会話を使って羽熊をテストしたといったところか。

 確証はないし、憶測だが直感としてそう訴えてくる。

 なによりハオラ会長事態話をしたいと言っていた。

『羽熊さん、出来れば電話ではなく直に会って話すことは出来るかな? もちろん移動費など経費は全額こちらが負担しよう』

 悪魔の提案を、おそらくそれが電話をした真の目的としてしてきた。

「私が、あなたと?」

『史上初の異星人であり言語を最速で習得。異星国家間でのやり取りを迅速に執り行った才覚を持つ人材。数万人を束ねる企業のトップとして是非とも対面して話をしたい』


 羽熊を殺そうとした張本人が、その事実を偽って呼び寄せようとする。

 千人中千人が罠だと答えるだろう。

 証拠こそなくても、エルマ達の努力でその真相は知っている。

 罠と知りながら突っ込むか、それとも断って巣穴である日本に閉じこもるか。

 しかし、断ることで先の話をなかったことにされるのも面倒だ。

 この奇貨、取るべきか取らぬべきか、どっちだ。

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