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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
フェーズ2 潜入偏 全15話

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第126話『ロケット旅客機』

 移動時間短縮を図るなら、浮遊都市は密集する方が効率的だ。

 巨大岩石惑星フィリアの表面積に対して人口が少なく、尚且つ居住が不動より遊動が多い社会基盤から固まった方がいいのは自明である。

 それでも国中各地に分散しているのは、戦争時のリスク軽減の他その気候や地形が一因となっている。

 川沿いや海沿いの重要性は生物であれば語るまでもなく、ある程度の乾燥または湿気、地下に地上資源、畜産物などあらゆる用途で一塊になると逆に不便になることから、リーアンは世界各地に分散していた。

 海沿いの浮遊都市ヤーラットも例に漏れず、海沿い故の産業を基盤として建造された。

 漁業と製塩。さらにロケット旅客機の空港もあって入国拠点兼ハブ空港がヤーラットのメイン産業だ。

 それ故大型化して十万人を収容する特区級浮遊都市が二つ連結してある。

 流行の発信地になることもあるので地方都市と違って情報の速度は速く、当然イルリハラン王国の英雄の一人と言われるルィルの情報は伝わっていた。


「イルフォルン並みの街並みね」


 度の入っていない細フレームの伊達メガネに肩甲骨あたりで束ねた髪を垂らしながらルィルは、始めて来た街を眺めた。

 しかも海沿いだから海からの風が強いこともあってか、イルフォルンよりビルは低く移動する人も浮遊艇も合わせて低く移動している。


「場所が違えばこうも違うのね」


 ルィルは今まで内陸の浮遊都市にいたことから海沿いの浮遊都市には来たことがない。テレビやネットで知ってはいたが、実際に目にすると別の国のような印象を受ける。

 もっとも異星国家を知るルィルに言えた義理ではないか。

 周囲を軽く見回しても特に注目されることはない。

 誰もルィルがここにいるとは思っておらず、微妙に印象を変えることで気に留めなくさせていたのだった。

 特徴的な顔立ちをしていれば眼鏡や髪型程度では悟られてしまうが、特徴的ではない顔立ちであれば眼鏡や髪型と言った印象に残る部位を変えてしまうとたちまち別人に成り代われる。

 逆に顔を隠せば隠すほど不審者になるから、敢えて少し変えるだけでルィルは日常に溶け込んでいた。

 最もヤーラットはトランジットで来たに過ぎないから、変装は報道関係者に付きまとわられないためだ。

 あの輩はどこにでも湧いて出てくる。


「空港の入り口側で待ち合わせってことだけど、まさか変装で気づかないってことはないわよね」


 入出国に加えて国中の中継空港としても機能しているだけあって、空港には多くの人々が各々の目的で移動をしている。

 待ち合わせ場所は空港の第一出入口で、ルィルは約束の時間の少し手前から来て待ちの様相を見ながら待っているが、約束の時間を越えても来る気配がなかった。

 プラカードを持つ人もいなければ、そもそも待っている人すらいない。

 さすがに詐欺に掛けられたわけではないだろう。イタズラはありえなくはないが、チャリオスがするとは思えないし、すれば品位の暴落だ。

 ただ、スパイとして近づこうとしていてバカにしたとも捉えられなくもない。

 それでは大変困る。そうなるとどうやって入りこもうかと考えなければならないからだ。バカにされた会社に無理やりでも入る酔狂は少ない。

 特にプライド高いルィルがそれを演じると不自然だ。


「主導権を握りたかったけど、やっぱり人事権を握られてると難しいか……」

 愚痴りたくてもその相手が相手だから無意味で、次に考えるのはどうやって潜り込むか。

 まずはチャリオスに電話をして、どうなっているのか問うべきとルィルは携帯電話を取り出す。

「ルィル様」

 どうやら杞憂に終わったようだ。

 目線を携帯電話から声の方向に向けると、同年代だろう一人の女性がいた。


「チャリオスよりお迎えに上がりました。ミュイと申します」

「ルィル・ビ・ティレナーよ。身分証も出す?」

「いえ、眼鏡や髪型を変えてもその前提で見れば分かります」

 変装はあくまで市民に注目されないためで、ルィルを探していればバレない変装ではない。

「約束の時間にいなかったからてっきりダマされたかと思ったわ」

「すみません。自社用機による出国手続きに時間が掛かってしまいまして」

「自社用機? 定期便はないの?」

「ございません。輸送船の定期便はありますが、人員の定期便はなく自社の各旅客機で移動します」

「なら私みたいにチャリオスに用がある人はどうするのよ。取り引きとか契約で依頼人が行き来するのでは?」

「契約や営業は各国の支社にて行われてまして、本社に来る人は基本的に各国の防衛組織のトップです。その方々は大抵は自国の旅客機で来ますので定期便はありません。産業スパイもありますしね」

「噂じゃチャリオスが所有してる技術は他の国の一世代から二世代は進んでるって話ね」

「その点につきましては正式に入社されましたら分かるかと」


 今はまだ勧誘を受けている段階だから詳細は教えられないらしい。

 ミュイと言う案内人は笑みを見せつつも笑っていないのが分かる。あくまで仕事で来ているだけで、本心では表面的なルィルとしか思ってないのだろう。


「いいわ。それでチャリオス行きの便には乗れるの?」

「はい。三十分後のロケット旅客機で弊社に向かいます」


 今のルィルは嫌われて上々だ。ミュイの表情に対しては成果として受け取ってチャリオス行きの手続きに入った。

 自社用機ともなれば手続きは他のと比べて簡素だ。

 国境を超えるためパスポートの提示など国家としての業務は怠れないが、金属探知機など危険物持ち込みや列に並ぶなどの手間は全て省けて専用ルートで短縮できる。

 チャリオス所有のロケット旅客機は、定期便とは違うため空港の端にある離着陸場に駐機していた。

 ジェット旅客機とロケット旅客機の大きな違いは、大気圏外に脱出するための大型ロケットが備え付けられているかだ。

 人が乗る本機部分は円柱五十メートルあり、その機尾に連結する形で三つのロケットが備わっている全長百メートルのロケットだ。

 ジェット旅客機はその機尾にジェットエンジンが備わっていて、二種類の旅客機の違いを明確に表している。


 駐機の姿勢は共に水平で床から十メートルほどの高さで浮遊している。

 フォロンの無い地球では、宇宙に飛ばすロケットは垂直に立てねばならないから大変だ。

 燃料も大量に使い、総重量の十パーセントしか宇宙に打ち上げられないことを考えると宇宙開発に関してはフィリア社会の方が進んでいると言える。

 ターミナルから出たミュイとルィルは浮遊艇に乗って移動。たった二人しかいない乗客としてチャリオスのシンボルマークである、赤い円にグイボラを模したシルエットを斜めに線を入れた意匠があしらわれたロケット旅客機へと乗り込んだ。

 ロコトスからヤーラットへもロケット旅客機で来たが、自社用機だからか内装は一般用と異なって座席数は半分ほど少ない。その分全座席がファーストクラス並みに豪華だ。

 人の大量移動が目的ではないから人より内装に用途を割いているのだろう。


「お好きな席にどうぞ」

 自然と窓際を選んでしまうのは子供じみているだろうか。

 ルィルは窓際の席をチョイスして、三重の窓から外を見る。

『当機はこれよりチャリオスに向け飛行を開始します。シートベルトの着用を必ずお願いします』

「失礼します。シートベルトの確認を取らせてもらいます」


 一度大気圏に出るため急激な加速をする。そのため大気圏脱出と突入以外はシートベルトの着用が義務付けられており、キャビンアテンダントは腰と両肩から掛けるシートベルトがしっかりと掛かっているかの確認を取る。

 キャビンアテンダントも席に座るとゆっくりと機体は移動を始めた。

 ロケット旅客機の推進はレヴィロン機関とロケットエンジンの二つなため、まずはレヴィロン機関での移動だ。

 旅客機がヤーラットの縁を抜けると徐々に角度を上げ始める。

 そのまま空港から垂直に上り、万が一落下して空港に被害が行かないようにするためだ。

 ヤーラットから数キロ離れる頃には機体は垂直となり、背中に荷重が掛かりだす。

 フィリアにあるフォロンの平均有効圏は高度六十五キロ。大気密度は関係ないから六十五キロまでは時速七百キロで上昇し、フォロンが途切れる十秒前にロケットエンジンが点火する。

 地上からロケットエンジンを使う必要がないからその高度分の燃料を節約でき、さらに助走として時速七百キロもあって安価な大気圏脱出が可能となった。

 目の前の座席に備えられたモニターには地上と宇宙の間が映し出され、本機の位置が地上から四千メートルの位置で表示されて五百メートル単位で数字と位置が上昇していく。

 高度六十五キロの位置には点線が引かれ、そこでフォロンが終わることを示していた。

 ロケットエンジン点火まで五分と言ったところだ。

 いかに空に住む人種でも外部要因で加速されては手を動かすのも重くなる。アルタランみたいに慣性を合わせる服を着ていれば多少は変わったとしても、それをいち移動手段で着ることはないから生身でその加速度を味わなければならない。

 ジェット旅客機に年齢制限はないが、ロケット旅客機は急激な加速度によって十五歳以下は乗れない制限が掛けられている。

 軍人であるルィルも重く感じるのだから、民間人からすればそれなりにつらいだろう。

 それでも移動時間の短縮に加えて健康面では問題ないことから主要な移動手段として確立している。


『まもなくロケットエンジンが点火します。衝撃に備えてください』


 ロケット旅客機の速度は時速七百キロに達して上昇を続け、レヴィロン機関では最高高度である六十五キロに達しようとしていた。

 機体後方から振動が始まったのが背中越しに分かる。

 モニターにロケットエンジンの点火のカウントダウンが十秒前から始まった。

 カウントダウンに合わせて機体はフォロン有効圏の境に近づき、ゼロと高度が重なった瞬間、轟音が背後から轟き、自身の数倍の重圧がかかった。

 先の数十倍にも至る加速だ。

 窓の外を見ると地上が急激に遠ざかり、青い空もかすれて黒が迫ってくる。

 高度はたちまち百キロを超え、機体は大気圏を越えて無重力空間に入った。

 ただ、加速はまだ続いているから圧迫感は続く。

 

 さらに数分とするとび振動が後方から響いて来た。

 大気圏を突破するために使われたメインロケットブースターが、燃料を使い切って切り離されたのだ。

 ロケットブースターは再利用されるから、このまま落下しては内臓レヴィロン機関でコントロールされ、地上に用意されてある回収ポイントへと向かっていくだろう。

 再び後方で爆発的な音と衝撃が襲う。二段目のロケットが点火したのだ。

 機体は陸地に対して垂直から水平へと変わり、窓の外も下方にフィリアの縁が見える。

 海に陸地、雲と宇宙から見る星の一部が窓の外ではじけていた。

 つい数時間前にも見たと言うのに、宇宙から見る星は綺麗だ。

 すると振動がもう一度起きた。

 最後のロケットが切り離されたのだ。そのロケットも近隣の回収場へと向かっていくだろう。


『現在当機は上空五百キロの大気圏外を飛行中です。大気圏突入は九十分後。大気圏突入の十分前にはシートベルトをご着用ください』


 ようやく加速も終わって慣性航行に移り、シートベルトを外しても大丈夫となった。

 天井にある指示マークからもシートベルト着用のマークが消え、ルィルはシートベルトを外した。

 すると体が宙に浮きだした。

 フォロンと重力が消えたことで自然的に浮きだしたのだ。

 同時に自由意思による移動も出来なくなり、両手と一本脚を使って機内を移動する。


「お飲み物をお持ちしましょうか?」

 席から離れ、無重力の中を移動するキャビンアテンダントが声を掛けて来た。

「いえ、大丈夫よ」

「かしこまりました。何かありましたらお申し付けください」

「ありがとう」

 席を離れてもすることは特にない。無重力空間では用足しも大変だから着陸までは我慢して、ただ窮屈な座席に固定されるよりは体を伸ばしたかった。

「一日に二度の高高度移動は疲れますか?」

「推奨は一日に一度だからね。衝撃で体が痛むわ」

 国際規定で、ロケット旅客機は一日に三度までと定められている。

 それ以上では第一宇宙速度の負荷に体が悲鳴を上げるからだ。それは軍人も変わらない。


「そう言うあなたたちは今日二度目ではないの?」

「いえ、私たちは昨日来て一泊しています」

 定期便ではないからこその融通だろう。そこは専門外だから特に追及はしない。

「だとしたら大変ね。仕事とはいえ、私の出迎えで一泊の出張なんて」

「そうですね。正直断りたいとは思いました」

 おっ、とルィルは声を掛けて来たミュイに姿勢を合わせる。

「詳しいことは聞いてませんけど、なんで英雄から落ちぶれた女を私の十何倍以上で雇うのか理解できません」

「本音が出て来たわね。まあ貴女が思ってることは当然だけど」

「出張手当が出るから来てるだけで、正直会いたくもなかったわ」

 ミュイからすれば真面目に働いていたと言うのに、一方で犯罪をしたにも関わらず高給のヘッドハンティングされたのだから不満を抱くのは当然だ。


「好きに罵ってもらって構わないわよ。ああ、もちろん何を言っても誰にも言わないから」

「余裕ですね。お金がたくさんもらえるからですか?」

「そのお金の中身って多分機密情報だから減額はされるでしょうね。それを条件に求められても断るから」

「は? 情報を売ろうとしておいて売らないって意味わからないんだけど」

「売主を限定していたからね。そこ以外に売る気はないの」

「……余程高値で買ってくれるわけか」

「どうかしらね」

 信ぴょう性を高めるために情報の売買は事実ではあるが、それを細かく教える義理はない。

 ミュイは軽蔑の眼差しでルィルを見続ける。


「私の処遇に不満があるなら人事部か幹部に言いなさい。私に勧誘を掛けて来たのはそっちなんだから」

「私みたいな平が何言ったって通じるわけないでしょ」

「あなたはどうしてチャリオスに?」

「税金が持っていかれないのと、高給だから」


 国に属さないから税金がそもそもなく、国と安易に行き来しないから不便性から給与は割高になる。もちろん各国に商売をするから関税などはチャリオスは支払うものの、それは経費だから社員にまで負担が及ばないのだ。

 各々理由があって民間軍事会社に就職するが、ミュイは一般的な考えによるものらしい。


「そういうあなたはどうして勧誘を受けたわけ? 何年も断ってて有名だけど」

「そりゃ前職をクビになってのもあるし、チャリオスならユーストルに行くチャンスが幾分かありそうだから。お金は二の次ね」

「……ユーストルに戻りたいってこと?」

「そうよ」

「ふーん。でもウチの会社、どこかの国のせいでユーストルに支社置けなかったと思うけど?」

「だからって今後もってわけではないでしょう? ひょっとしたらユーストルに進出するために私を勧誘し続けていたのかもね。あそこに工場でも研究所でも立てられたら一気に発展できるから」

「元英雄で落ちぶれたあなたの働きで国が動くとは思えないけど」

「それには同感。なんであれ食い扶持が稼げるならある程度のことは目を瞑って働くわ」


 潜入捜査の傍ら、向こうに沿う形で働きを見せなければクビにされてしまう。どんな思惑で勧誘するにしても心を無にして働かなければならない。

 例えイルリハランに敵対する形となってもだ。

 最も、すでに汚名を背負っているのだから更なる汚名を背負ったところでバーニアンから信頼を得るだけだ。

 これでフィクションの定番である、潜入捜査を知る者達が殺されてしまったらいよいよ帰る場所がない。

 だが、今は帰りの心配はせずに証拠を見つける折り返し部分まで突き進むだけだ。

 ルィルはミュイとの会話を切り上げて窓の側へと向かい、宇宙から見るフィリアを眺める。

 ロケット旅客機はマルターニ大陸とシィルヴァス大陸の間の大海峡上を進み、南南西へと超音速で飛行する。

 もう少しすれば陸地も途切れ、浮遊都市レベルでなければリーアンにとって生存すら危うい南方海へと突入するだろう。

 さすがに高度が高すぎて比較対象がないから、今この機体が高度を下げているのか維持しているのかも窓の外を見るだけでは分からない。

 モニターでは高度は維持され、予定軌道ではあと八十分ほどで大気圏へと突入する。

 それまでは暇なので、ただただ美しい母星の青き空を見続けた。


      *


 大気圏に突入した物体は、その速度から触れた大気が圧縮されて高温となり燃えだしてしまう。

 耐熱処理が施されていない小惑星や人工天体は発生する千五百度近い高温に耐えきれず燃え尽きてしまうが、ロケット旅客機など人や持ち帰る資材を乗せた物は大気圏突入に耐えられるよう耐熱処理を行っている。

 熱関係では無類の信頼のあるレヴィニウムだ。

 レヴィニウムはアルミ並みに軽量な上に融解温度がリーアンの科学力で出せる温度以上なため、受けた熱を電気にして放電することによって高熱から船体を守ることができた。

 進行速度に対して垂直に大気圏に突入したことでロケット旅客機の機首部分は千五百℃を超すが、レヴィニウムが熱を電気に変換し、その内側は五百℃程度にまで減衰して熱から機体内部を保護する。

 高度六十五キロにまでなるとレヴィロン機関の有効圏内に入り、六十キロの距離を使って減速をする決まりだ。

 短距離で減速すると速度の相殺に機体が耐えられず砕けてしまうため、六十キロの距離を使って減速するのが国際規定で定められている。

 大気圏外を航行する超高高度旅客機の民営化に至るまでには多くの事故を経験してのことで、膨大な犠牲のもとで今の安全が成し得ていた。

 高度五キロになる頃にはロケット旅客機の機体は水平へと向きを変え、ジェット旅客機と同じように横移動を始める。


 同時に窓の外には目的地が見えて来た。

 眼下に見えるは周囲三六〇度水平線の彼方まで海しかない中にぽつんとそびえる浮遊都市が一つ。

 世界有数の民間軍事会社チャリオス本社。

 表向きは全うな企業ではあるが、その裏ではリーアンと地球人のハーフであるバーニアンが幹部として暗躍し、暦史上最悪のテロを実行した。

 チャリオス本社の浮遊島は十万人規模の特区で、その上部は海辺の浮遊都市ヤーラットと同じように建物は低めだ。

 他の浮遊都市と違うのは、絶海故か一万人規模の中級の浮遊島が六つパイプで連結されていた。


「……ミュイ、あの本島以外の浮遊島ってインフラ施設?」

「はい。電気は各島々で発電しますが、貯水、技術開発、食料生産、資源貯蔵庫、兵器実験場、居住が本島の補助をしています」

 営業モードになったミュイが各島々を説明する。


「絶海の孤島だから、浮遊島一つでは賄いきれない部分を小型の浮遊島でサポートしているのね」

「そうです。随時輸出入を行っているので枯渇することはありませんが、補給が途絶えても一年は耐えられます」


 一年は持久戦や戦争が出来るわけだ。

 ロケット旅客機は高度をチャリオス本島へと合わせ、本島の縁にある空港へと着陸態勢へと入った。

 本島の側面には隔壁が等間隔で並んでいて全てが閉じている。おそらくあそこから浮遊駆逐艦や戦艦などを搬出しているのだろう。

 小島で技術を開発し、もう一つの小島の資材から搬入して本島内部の製造工場で製造、各国に発送するのが流れか。

 空港から一機のロケット旅客機が飛び立った。

 傭兵かミュイのような出張か、他の国に行くのだろう。

 ロケット旅客機よりは遅いが、大陸間移動が可能な超長距離用浮遊タンカーも行き来している。

 まさに世界有数の大企業と言えて、テロの首謀者でなければ活気ある企業として印象に残ったのに残念だ。

 ルィルの乗ったロケット旅客機は空港の敷地へと入り、地上から数メートルの位置で滞空しながらターミナル側で停まった。


「長旅お疲れさまでした。忘れ物にご注意ください。外の気温は三℃ですので上着の着用をお忘れなく」

 キャビンアテンダントの声を合図にルィルは席を立ち、ようやく長い道のりが終わった。

 ルィルは自前のコートを羽織って機体の外へと出た。

「さすがに五万キロもあると遠いわね」

 ユーストルの直径と比べて十倍以上の距離だ。ただでさえユーストルから出るのにも時間が掛かるのだから、その十倍となれば想像もしにくい。

 そもそもルィル自身これだけの大移動は遠征訓練でもしたことがなかった。

「んー!」


 背伸びをして何年もいたユーストルとは違う空の香りを堪能する。

 絶海のど真ん中ともあって潮の香りが強い。緯度は南極に向かってやや高いこともあって寒く、体感では氷点下と言ったところだろう。

 そして思い込みもあるだろうがやや息苦しさを感じる。

 これは緯度が高いとフィリアの遠心力が弱まることから気圧が低くなるのだ。北極や南極では酸素ボンベが必要なほど薄く、チャリオスがいるところも緯度が南極に対して高いからやや低い。

 それでも自呼吸出来ないほどではなく、減圧症の心配もない。


「そう言えば国に属してはいなくてもターミナルはあるのね」

「ここから出向く先は全て他国ですから、疑似的な出国手続きをしないと向こうが受け入れてくれないんです」

「なるほどね。どこから来たのかの証明が出来ないから……」

 事実上の国家だけのことはあるわけだ。

 ミュイの先導でルィルたちはターミナルへと入り、通常の入国手続きを行う。

 出入国の人は少ないから、出国と同じで手続きは簡素だった。

 そしてようやくルィルはチャリオスへと到着した。


「それで、私はどこにいけばいいのかしら」

 空港の最終セキュリティゲートを抜けたルィルは、共にゲートを抜けたミュイに問いかける。

「えっと、執務ビルの第一大会議室で面談ですね。ひとまずあっちです」

 携帯電話を操作しながら答え、出口の方角を指さして二人は進む。

「執務ビル?」

「会長以下役員が集まるビルです。要はチャリオスの完全なる中心地ですね」


 この浮遊島全体がチャリオス本社だから、各々の目的に沿ったビルを持っていると言うことだ。

 役員しかないビルとは、何ともスケールの大きな話と言える。

 逆を言えばそこにミサイルを撃ち込めば一網打尽に出来るか、と邪推をしてしまう。

 いっそのこと日本の核兵器を炸裂させるか。


「浮遊艇を準備してるらしいので、それに乗っていきます」

「大小七つの島で一つの会社か……探索のし甲斐がありそう」

「探索って、高給取りなんだから働きなさいよ」

「地理知らなくて効率のいい仕事なんて出来ないでしょ。そもそも採用かどうかも決まってないし」

「ここまで来て不採用なわけないでしょ」

 ほぼ決まってなければ本拠地まで呼び出したりはしない。さすがにルィルもここまで来て不採用の考えはなかった。

「まあさっきも言ったけど、情報の提供が高給の条件だったら断るわ」

「それで採用自体拒否されたらどうするわけ?」

「……その時は交渉次第、かな?」


 売ろうとした情報も、欲しがる機密情報も、求められても渡すつもりは一切ない。

 それをネタに脅しをかけて来てもだ。

 脅しに対して拒否できる流れは事前に作ってはあるから、例え吹っ掛けられても猜疑心を植え付けずに逃げきれる。


「安月給になればいいんだ」

「ふふ……」

「なに」

「変に自分を偽られるより、素のままで話しかけられる方が気が楽と思ってね。特に貴女は」

「バカにしてるってこと?」

「信用できるってこと」

「国を裏切った人に言われても嬉しくないんだけど」

「それもそうね」


 敵地のど真ん中だというのに、ミュイはごく自然な反応を示してくれて気持ちが落ち着く自分がいる。

 彼女からすれば嫌っているとしても、ルィルからすれば逆に安心できた。

 自分が偽っているからこそ、偽らずに話しかけられて嬉しいのだ。

 それが不満や憎悪と言った負の感情であっても。

 そんな不思議な感情を胸に抱きながら、ターミナルの外へと出た。


「ところであなたの国って……」

「ルィル」


 ミュイに向かって質問をしようとしたところでの背後からの呼びかけに、ルィルは一瞬反応が遅れた。

 どこか聞き覚えのある呼びかけのあと、一秒も経たずに全身に軽い衝撃が襲って両腕が動かなくなった。

 誰かに両腕ごと抱き付かれたのだ。


「な、なに?」

「ひさしぶりっ!」

 声の主を見た瞬間、ルィルは手に持っていたカバンを落とした。

 レヴィロン機関などない鞄は、十メートル下の床に叩きつかれる。


「な……な……」

 この場に絶対にいないはずの人物がここにいて、ルィルは自分の目を真剣に疑った。

「久しぶりだな、ルィル」

 衝撃はもう一度ルィルを襲った。

「なんでここにいるの……」

「十五年ぶりに会って最初の返事がそれか」

「父さん……ティア」


 ルィルの実の父。カリム・ビ・ティレナー。

 ルィルの元同僚。ティア・セル・フランミア。


 ここにはいてはならないはずの二人が、いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] むしろ第一宇宙速度まで出してしまったら星に帰ってくるのが面倒になるので、気になりませんでした。
[一言] 鞄の中身は落下と言う犠牲になったのだ
[一言] 更新お疲れ様です。 思いがけない再会・・・・ やはり踏み絵と人質でしょうか(><) 次回も楽しみにしています。
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