第121話『ウィスラーの誇り』
まず最初に別邸全体の間取を把握することから始めた。
建売住宅ならば間取図がネット上で公開されてようと、注文住宅ならばネットで拾うことは出来ないからだ。
ウィスラー邸は当然注文住宅なので間取図がないため、全体を把握するためにどうした部屋割りなのかを調べた。
階層は全五階。最下層は全て倉庫で複数の棚が柱の役割として天地を繋ぎ、大量の保存食や水、燃料があった。二層は洗濯機など水回りが三部屋。玄関のある三層は応接室や来客用の寝室の四部屋。四層は一層丸々キッチンとダイニング、リビングの三部屋。五層は主寝室と書斎の二部屋。
最後に独立した地上付近にあるインフラ設備が集中しているインフラ区画。
計十四部屋を家宅捜査を行うのだが、案の定あからさまな隠し金庫的なものは無かった。
既知として隠し金庫は天井以外の床と壁に仕込むことが多い。
天井は単に落下の危険があるためで、壁や床に設置するのが主流だ。
それでもルィルたちは天井に奇をてらって設置した可能性を排除せず、隠し扉がないかノックをしながら探し回った。
非破壊検査キットがあれば、例え巧妙に隠した隠し扉を貫通してその先の遺物を感知できるが、さすがのラッサロンにもそうした装備はない。
果たして三人で四時間以上かけて探し回ったが、隠し金庫どころか金庫その物がなかった。
別邸なのだから貴重品を長期保管するほうが危険ともなるが、在宅中の管理用はあるべきだ。
時間は午前五時を回る。
日のでは午前六時過ぎなため、あと一時間で次第に明るくなり始める。巨木林によって日差しは遮られても、裸眼で地上を見通すことは出来るから浮遊艇を見られかねない。
つまり家宅捜索できるタイムリミットは一時間だ。
「完全なる探索とはいきませんが、ないですね」
「ノック音で区別はつかなかったな。感触も全部同じだ」
「資料にしろ貴金属にしろ、貴重品をしまう金庫なら縦横四十センチはあるはず。手早くとは言え取りこぼしの無いように調べたからそれはないはずよ」
手間以外にないが、危険を冒して来たのに手間を惜しんで手を抜く訳には行かない。
三人は目算だが等間隔で調べたから、何かしらの細工があれば分かったはずだ。
「映画みたいに家具に偽装した隠しスイッチがあって、それで分厚い壁ごと動くか……」
隠し扉の厚みが壁と同じなら音で聞き分けることは出来ない。
「天才ともなると隠し場所は私たちの発想の上か、斜め上よね」
「銀行の貸金庫なら捜査機関が令状を持って行きそうだからな。バーニアンなら偽装して入りこんでも驚かん」
公共施設は逆に安全性がない。故に個人所有の家屋に隠す方が安全だ。
「この巨木の径と比べて間取はそこまでズレもないので、隠し部屋もあったりはしませんね」
どの部屋にも窓があるため、窓の厚みから不自然な空間は間取図がなくても知ることが出来た。
少なくとも無駄に壁が厚かったり、壁に凹凸があることもなかった。
強いて言えば柱だが空洞は確認されない。
「……ウィスラーはリーアンの弱点を知り尽くしてるんだ。屋敷じゃなくて大地に穴を開けて埋めてるって線もある」
そうなれば、可能性として頭を過っても誰も探そうとはしない。
誰もが安全度の高い隠し場所でありながら、誰も手を出そうとしない禁域が大地だ。
ルィルたちは特殊な環境下に六年といたから耐性を得られても、捜査機関であっても安全な保障できる。
「そうなると短期間での入手は不可能ですね。範囲が広すぎる」
屋敷の中の限定空間と、大地と言う莫大な範囲では見つかる確率は比べるまでもない。
「まあ元々あるかどうかも分からないからな」
「せめてあると確証があればモチベーションも上がるのだけど……」
「もっとウィスラーの気持ちとなって考えるしかないですね」
「より地球人への考えに寄せるか。なら尚の事地面に埋めたんじゃないか?」
「これは勘なんですけど、もしウィスラーが自分の死を予感していたのなら自身にしか分からないところに情報を隠すことはしないと思うんです。必ず必要な人に情報に行くような隠し方をすると思うんです」
「その必要な人が俺たちか」
「レーゲンの捜査機関なら国益優先で隠し持つでしょうしね。むしろユーストルから私達を追い出すために暗躍しそう」
「レーゲンから見れば私たちが有益に使うか疑問に思うでしょうけど」
「で、どうやってウィスラーの考えに寄り添う? いくらウィスラーがリーアン側であっても、俺たちの常識じゃ計り知れんぞ」
六年と地面に付く地球人と接して来ても、その常識はリーアンにとって非常識だ。その感性を常識レベルで理解することは難しい。
「……なら聞いてみる? 向こう側の常識」
ルィルは提案する。現段階では危険極まりないことを。
これは完全なルィルの私物であるが、通常の携帯電話の他にもう一つ特別な通信機を持っていた。
衛星電話だ。
原則的に浮遊都市から浮遊都市に連絡を取るには衛星を経由するしかないため、不全ての携帯電話には衛星通信機能が備わっている。
そうした意味ではごく普通の携帯電話だが、相手先が限定的だった。
日本である。
日本はナビ用衛星と通信衛星を自国のロケットで打ち上げている。これはユーストル内に基地局を設置するには数が大量に必要であるため、通信衛星を打ち上げることでカバーするのが目的だ。それに伴って日本では電波法の改正などややこしいことがあったと羽熊はぼやいていたのを覚えている。
範囲はユーストルの倍らしいので、円形山脈から十五キロしか離れていないここでも通話は可能だろう。
彼ならば、常に正解を出す彼ならば何らかの突破口を出してくれるかもしれない。
「チャーリー、分かってるだろうな。すれば通話は筒抜けかもしれないし、発信源を特定される可能性だってあるぞ」
実際のところ『電波』をキャッチすることはそう難しい事ではない。電波単体は指向性を持たず放射状に広がるため、何らかの発信源があることは機材があれば分かる。
しかし、正確な場所は三角測量など手順を踏まないと分からず、瞬時に場所を特定することは出来ない。映画ですぐに分かるのはテンポを意識してだ。
ただ、それは一般常識の中であって転移技術を保有するバーニアンならば、瞬時に座標の特定や通話内容を傍受できる機材がある恐れがある。
要は、衛星電話を使えばすぐに敵にこちらのことがバレてしまうかもしれないわけだ。
バーニアンだけでなく、レーゲン軍にも誰かがいると知られる恐れもある。
これもまたハイリスクローリターンと言えよう。
精々通話をしても数分な上、この時間で起きている確証もない。
「アルファ、どうする? このまま三人で闇雲に探し続けるか、バーニアンの地球人視点を取り込むか」
暗視ゴーグル越しにルィルとリィアはエルマを見る。
「……チャーリー、手短と直接的な表現は避けてください」
「どんどん首を絞めてくな、俺たち」
「すみません」
「ここまで来たら大差ないさ。とことん行こうじゃないか」
承諾を得たことで、ルィルは日本に繋がる衛星電話を使って突破口を切り開いてくれる人。
羽熊洋一に電話を掛けた。
コール音が受話器の奥で鳴りだす。
この瞬間から電波を発する物か人が誰もいないはずのここにいることを知らせてしまう。
ルィルの脳裏にタイマーのスイッチが入ったイメージが過り、ピッ、ピッ、と擬音まで幻聴が聞こえだした。
何コールで出るのか。最悪出ない可能性もある中、意外にも二コール目でコール音が途切れた。
『はい』
「名前は言わないで。盗聴されているかもしれないから」
出るやすぐさまルィルは余計な証拠を残さぬようくぎを刺す。
「私が誰なのかは分かってると思うけど、色々と察してほしいの」
羽熊からすれば突然の早朝の電話に加えて名前を言うなと言われたのだ。ディスプレイに名前が表示されているとしても、いたずら電話として切られても不思議ではないが、言うわけには行かないのだ。
『……何かありましたか?』
どうやら察してくれたようだ。しかしホッとしている暇もない。
「時間が無いので手短で簡潔にさせてほしいの」
『分かった。話はなに?』
羽熊は時間とルィルの声を聞いて察したのだろう。手短な言葉で訪ねて来てくれた。
「もしあなたがこちら側の家屋に国家機密級な物を隠すならどこに隠す? 壁や床に穴を開けたりしてもいいし、専用の部屋や空間を作ってもいいわ」
『国家機密級の物を隠す場所? そうだな……こっちならタンスの奥か机の引き出しを二重底にして隠したりするかな。あとは普段見えないところにデッドスペースに箱を取り付けて、その中にいれたりもするよ。けどそっちなら……』
「タンスの奥や書斎の机の引き出しの底を調べてみて」
家宅捜索でタンスの中や引き出しの中は当然調べたが、二重底かどうかまでは調べてはいなかった。
ルィルの指示でリィアが書斎へと向かう。
『専用の空間や部屋を作っていいなら隠し部屋を作るか。それも銀行の金庫クラスみたいに侵入できないセーフティルームみたいなのを作って。あ、でもそれだと後付けは出来ないから、最初からそれ込みで建てるしかないか……』
先入観がないからこそ自由な発想が出る。
『ただそれは常識の範囲内だから、こっち側の概念も入れてまさかを入れるなら地下室を作るかな?』
「地下室?」
『浮遊都市の土台は疑似的な地下室だから非常に広い設計だけど、個人宅の地下室はそうはいかないからそもそもないだろ? 本人もキツイけど、地下室を設けたらそれだけで誰も入らないから効果はある。巨木住宅なら尚更無理だろうしね』
鉄則として、地面の下に居住区を設けることは断じて行わない。
地上ですら近づけないのに、地中ともなれば発狂は必至だ。
人工の土地である浮遊都市でさえ、安全が保障されても土台部分は資材の保管や配管などインフラしかなく、地下室は例外中の例外と言えよう。
ただ、地球人の血を引くウィスラーであれば地下室を作る発想はするかもしれない。むしろ、人里から離れた隔絶された場所だからこそ作るべき代物とも言えた。
問題はこの別邸に地下室に通じる縦穴も扉もないことだ。
「隠し地下室を作るならあなたならどうする?」
『フィクションの域まで絡めるなら隠しギミックを入れる。現実的なら、壁際にある家具が扉と一体化していたり、床に設置した家具がスライドして入り口を隠したりしてるね』
「隠しギミックって?」
『定番はその部屋にあって不自然でない物を動かすと、それがスイッチになって開閉したりしてる。有名なのは本棚にある本を引き抜こうとしたら壁が開いたり、照明器具を動かしたらスイッチが入ったりする。その他は思い浮かばいな」
「ありがとう。参考になったわ」
『役に立てればうれしいよ』
ルィルは通話を切った。
「チャーリー、どうでした? 地下室やら隠しギミックとか言ってましたけど」
「ひょっとしたら地下室を作っているかもしれないって案を貰ったの」
「地下室……確かに私たちの発想にはまずない案ですね。地面より上にある最下層ではなく、地面よりしたの地下室ですか……」
「この巨木の根っこは地中深くまであったわよね?」
「ええ、成木で地下三十メートルまではあるらしいので、地下室を設けることは可能です」
「インフラ区画を調べてみましょう」
インフラ区画は居住区とは独立して地上付近にある。地下室を作るなら入り口は雨水も考えて外ではなくより内からだろう。
合理的に考えてインフラ区画にあるべきだ。
「アルファ、チャーリー、二重底みたいな細工はなかった」
ちょうどそこにリィアが戻ってくる。
「ベータ、またインフラ区画に行きます」
「下にか? 分かった」
今の通話でバーニアンだけでなくレーゲンにも知られた可能性がある。
少しでも早く何かを見つけるためにも三人は移動を始めた。
簡易的な音響トラップを解除し、壊した窓を通って地上から三メートルほどの高さにあるインフラ区画へと降りる。
インフラ区画は電気、ガス、貯水、浄水と社会基盤が集中的に置かれ、その搬入用に三メートル四方の扉が取り付けられていた。
当然防犯として鍵が掛かっているが、その鍵は書斎に名札とセットで保管されていたので開けるのに苦労はなかった。
開けると電気がないため暗く、暗視ゴーグルが無ければ何も見通せない。
インフラ区画は中央に仕切りがあり、その左右に電気とガス、浄水と貯水と区分けされていた。
水気で電気設備が壊れるのを防ぐためだろう。巨木をくり貫く際に、中央部分を壁として残したのだ。
貯水と浄水にしても、貯水は上部で浄水は下部で区分けもされている。
浄水は床全てで使われているから隠し部屋への通路はないだろう。あるとすれば電気とガス区画だ。
三人が入ったところで扉を閉め、ようやくライトをつけて数時間ぶりの明るさを灯す。
「で、どこを探すんだ?」
鍵を閉め、暗視ゴーグルを外しながらリィアは訪ねた。
「もしかしたらの範疇だけれど、この床に地下室に繋がる通路があるかもしれないの」
「地下室か……地下室!?」
一度目は気づかずに復唱し、二度目で意味に気付いたようだ。
「正気を保てりゃいいが……」
例え今いるここと同じ間取だったとしても、その先入観で抱く感情は全く違う。
地上だからこそ密閉空間でも精神を保つことが出来ても、地下となれば誰であれ精神に異常をきたすだろう。
多額の報酬を約束しても、地下資源採掘事業が常に人手不足なのはこれだ。
「調べましょう」
エルマの号令で三人は再び調べ始めた。
先ほどは金庫が入る穴がないかを調べたが、今度は通路の有無を探す。
固定されている物に触れて稼働するかを確認する。
「……どれも動かないな」
発電機に蓄電池、配管にガスボンベと人工物に触れても、完全に固定されて動く素振りもない。
「やっぱりそもそもここにはなかったんじゃないか? やつにしてやられたんだろ」
「元々確証の無い話からここまで来ましたからね。そうなると上に頼み込んで、圧を掛けてもらうしか……」
「けどそれをすれば、あの人もアルファも信用を落としちまう」
「仕方ありません。手掛かりがないんですから」
「チャーリー、悔しいがここまでだ。戻るぞ」
「…………」
「チャーリー」
「ねぇ、この穴は何だと思う?」
電気とガス、浄水と貯水を隔てる壁にライトを向けながらルィルが呟いた。
ライトの光には、正方形で四ヵ所に小さな穴が開いていた。指を入れるには小さく、触れても木のままでギミックは仕込まれていない。
「……なにかを取り付けた跡、ですね」
「壁に細工はないな。取り付けたにしてもなんだ?」
壁に取り付けるもので色々と逡巡するなか、ルィルは天井を見上げる。
「この壁、もしかしたら動くかも。ほら天井を見て、一体に見えるけどうっすらと線が走ってるわ」
天井近くまで高度を上げて、壁と天井の角に光を当てる。
遠目では一体に見えていた壁と天井に線が走っており、一体ではないことを表していた。
「レヴィロン機関か!」
リィアが閃く。
「なるほど、携帯式のレヴィロン機関を取り付けて壁を浮遊させたわけですね。ってことは」
エルマも何かに気づいて、仕切りの先端へと移動する。
「壁の厚さがかなりある。機材を入れるには十分ですね。それに壁には縦に線がうっすらと入っているので、おそらく上方向に動くと思います」
壁の厚さは三十センチあれば厚い方だ。だがここの仕切りは一メートル以上ある。
そしてインフラ区画と居住区の最下層には数十メートルと何もないから、上方向に持ち上げるのは筋が通る。
「確か装備品の中に……」
携帯レヴィロン機関は瓦礫を撤去するのに使われる装備品の一つだ。空に立つリーアンにとって瓦礫は障害でも何でもないが、過去に瓦礫が邪魔をして部隊に大損害を出したことと災害救助にも使えることから世界規模で標準装備となっていた。
さすがに一つでは出力は足りなく、三つを足して何とかだろう。
三人はそれぞれキューブ状の携帯レヴィロン機械を取り出し、壁に押し付けてキューブの四隅についているネジを回して木に食い込ませる。
こうすることでレヴィロン機関は壁と一体化したと認識して浮遊するのだ。
「同時に上に持ち上げるぞ。せーのっ」
三つレヴィロン機関を取り付け、リィアの声で三人は上方向に力を込めた。
人力では決して動くことがないだろう壁は、三つのレヴィロン機関の力もあり、ゆっくりと上へと動いた。
「本当に隠しギミックがあったとは……」
フィクションでもお目に罹らない、日本の概念が合わさってこその事象にリィアは感嘆とする。
「ウィスラーは地球人の父と面会は無かったはずですから、地球から伝わったのではなく自力で考えたんですね」
壁はどこまでも上り、外付けした携帯レヴィロン機関が天井に触れるまで上昇した。
入り口付近の壁の始まりがあった床には、横一メートル、縦四メートルの穴が現れていた。
「こりゃ期待できそうだな」
「ですね。早い所行きましょう」
発見の余韻に浸っている猶予はない。荷重と携帯レヴィロン機関のバッテリーを考えても長時間持ち上げることは出来ないだろうから、早い所お目当ての情報を得て退散しなければならない。
三人は壁から手を放し、壁が落ちない事を確認して地下へと向かった。
インフラ区画から降りる縦穴は十メートルほどで、その壁は日本で使われているコンクリートのような人工の石で出来ていた。
ウィスラーはコンクリートを開発していたのだろうか。
床まで近づくと二メートルほど水平に窪みがあり、鋼鉄の扉がお目見えした。
「ここが終着地点か」
「別邸を隠れ蓑にして、これを作るのが本命だったのでしょうね」
「けど、簡単には開きそうにはないわよ」
隠し部屋だからこそ、万が一見つかっても入れないようにするものだ。
ドアノブがある部分の少し上のところに、キーボードが取り付けられていたのだ。
「これは、メーラン二一〇だ」
「メーラン二一〇?」
「最新式のセキュリティルームですよ。アナログ式の鍵で、特別な道具を使っても開けられない泥棒泣かせと、王宮でも取り入れようかと話が出たこともあります」
「アナログ式ってことは、電源を必要としないから電気を切っても意味ないわね」
「パスワードも文字列に制限がありません。さすがに毎日変わることはありませんし、何度間違えてもロックも掛からないですけど、所有者の好みで何でもできるので難しいですね」
「……どうやらここまで来た連中はいそうだな」
「え?」
「ドアや枠を壊そうとした痕があるぞ」
その指摘でよく見ると、キーボード部分は無傷だが、ドアノブ付近やドア枠は酷く損傷していて床には削りカスが落下していた。
「レーゲンの捜査機関か、またはバーニアンかは知らないがここまではたどり着いたが開けられずに止めたのかもな」
「メーラン二一〇は既存の部屋にリフォームする形で設置出来て、その入り口は軍用にも使われるほどの頑丈さを持ちます。ドリル程度では歯が立ちませんし、外からもまず無理です。開けられないならバレないのと同じなので、スルーした可能性もあります」
「もしかしたらパスワードを解いて中に入ったか、ね」
「で、肝心のパスワードはなんだ? 書斎とか調べたけどそうしたメモ書きとかそれっぽい単語もなかったぞ」
「パスワードは文章でも成り立つので、数字だけなのか文字も絡めたものなのか……」
「ヒントみたいなのはないわよね。ウィスラー自身忘れた時ように」
「ない……ですね。もしこの中にバーニアンに関する情報があるならバーニアンには渡せないですし、自分の命を失うことを考えたなら私たちか捜査機関なら分かるもののはずです」
「はずと言ってもな……とりあえず回数制限がないなら誕生日から打ち込んでみよう。誰か覚えてないか?」
ウィスラーは公人だから生年月日は公表されているが、個人の名前をいちいち覚えているはずがない。
「知ってますよ」
エルマが生年月日を言い、リィアは打ち込んで決定キーを押す。
反応がない。
「さすがにこれはないか。母親は……知らないよな」
「ネットに繋がらないので確認する術はないですね」
「レーゲンのスローガンはなんだったかしら」
「『押せよ力、手にせよ誇り』」
「アルファ、よく知ってるな」
「隣国なので勉強しました」
しかしそれも開かない。
「誰もが思い浮かぶのはないな」
「意図的に文字を間違えるやり方もありますしね」
簡単に言えば候補は無尽蔵にあるということだ。制限はなくてもこれではキリがない。
「もう一度ウィスラーの心境に寄り添って考えましょう。多分この部屋には真相があります。そしてその真相はバーニアンには渡したくない。渡すならこうした部屋は作らないでしょうから、渡さないと信じれます」
「バーニアンに関する真相があるなら、単にテロ事件を操作する連中じゃあ見つからないようにするな。闇に葬る必要があるんだからただの情報機関にゃ渡せない」
「そうなると渡したいのはバーニアンの真相を知った上でたどり着いた私たちや、その前情報を持ってる人ね」
「ならバーニアンとしてウィスラーの想いがパスワードに現れてると思います」
「地球人……中国人の父とリーアンの母を持つゆえの考えか……」
「同時にリーアン側にアイデンティティを持ってます」
「ウィスラーはリーアンであることに誇りを持ってるのよね」
「……まさかな」
リィアは何かを思いついたのか、キーボードを打ち込み決定キーを押す。
ガチャ。
ドアから開く音が聞こえた。
「マジか……」
「開いたんですか!?」
「ベータ、何を打ったの!?」
「いや、アイデンティティや誇りつったから、リーアンかなと思ってな」
「なるほど。ウィスラーがリーアンであることは捜査機関は当然の認知なので打ち込むことはしませんね。バーニアンがそれに気づいているかは分かりませんが」
「とにかく入りましょう」
まごまごはしていられず、ルィルは取っ手を握り重く分厚い内開きドアを押した。
背後で、何やら音がした。




