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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第二部 第四章 フェーズ1 捜査編 全19話

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第120話『闇夜の不法入国』

 夜空に見えるは無数の星々。

 毎夜空から淡い光を注ぐ月は新月で見えず、代わりに余計な光がないからこそ満面の星々が良く見えた。

 浮遊都市の中心部であれば人工の光で見えないが、地平線まで人工物の無い平原では芸術作品と遜色ないほどに美しい。

 

そんな漆黒の言葉が似あう空域を、一切の光を発しない浮遊艇が移動する。

 ヘッドランプもテールランプも灯さず、室内灯もつけず静かにだ。

 少なくとも浮遊艇より高度が高い所からでは、数十メートルであっても光源なしでは見つけることは困難だろう。

 車内を見回しても発光体は最小光度に設定したナビ程度で、それ以外の光はない。

 リーアンは毛髪に発光バクテリアを寄生しており、昼夜や体調に関係なく黄緑色に発光し続ける。その光量は懐中電灯には劣るも十五平方メートルの室内なら全ての家具を視認できるほどだ。

 新月の真っ暗闇であれば、例え室内であってもその光は遠方からでもリーアンがいる程度は分かるだろう。


 それだけでなく、普段就寝する時も自身の光で寝付けないため基本的に寝間着の一つとして遮光性の高いフードを被っている。

 静かに移動を続ける浮遊艇の中には三人のリーアンがいるが、全員軍用フードを被っていて光が外に漏れないようにしていた。

 運転席に座るのはルィルで、ほぼ何も見えないフロントガラスをナビをしり目に見続ける。

 もし巨木が目の前にあっても、気づいた時には激突して大破だ。

 高度を上げれば安全でも、それではレーダーに探知される恐れがあるため地上付近を移動するほかなかった。

 高度計は地表から二十メートルを差し、円形山脈の麓まで五キロを示している。


「……ん、ルィルさん、あとどれくらいですか?」

 仮眠を取っていたエルマが目を覚まして尋ねる。

「あと五キロで麓よ」

 さすがに山沿いを沿うように高度を上げるのは危険なため、もう少し手前から高度を上げる予定だ。

「山脈の幅も五キロだから、あと二十五キロですか」

 今現在の速度は六十キロ前後。浮遊艇の最高速度の十分の一で航行していた。

 最高速度なら二分程度で着くが、自然界でそこまでの速度を出す生物はいないため敵のレーダー網に引っかかる恐れがある。

 イルリハランとレーゲンが隣接する山脈は一応の非武装中立地帯と定められていても、秘密裏にレーダー網を敷いている可能性は十分あるのだ。

 だから速度を著しく落とし、生物と誤認させるのと事故防止でゆっくりと移動をしていた。


「山頂を越えたら暗視ゴーグルを」

「遠回りしてもラッサロンに寄ったのは英断だったわね」


 浮遊艇には障害物レーダーが標準装備で備えられている。

 例えヘッドライトが切れて視界が途切れてしまっても、このレーダーで障害物への衝突事故を防ぐことが出来る。しかし、そのためにはレーダー波を照射する必要があるため軍に捕捉される恐れがあった。

 それを回避するため、千キロ以上遠回りしてラッサロンに立ち寄り、適当な理由を付けて公用から軍用の浮遊艇に乗り換えていたのだ。

 暗視ゴーグルを始め装備一式あり、万が一銃撃戦になっても戦力不足はあれど無条件降伏は避けられる。

 警戒アラートが車内に鳴り響いた。


『高度が下がっています。上昇してください。高度が下がっています。上昇してください』


 ルィルは高度計に目を向けると、二十メートルをキープしていた高度が十メートルを下回り、さらに高度を下げていた。

 どうやら円形山脈の麓に達し、地面に傾斜が出来始めたのだろう。

 ハンドル操作をして斜面に沿うように車体の角度を変え、同時に高度を上げて地面から二十メートルを維持する。

 円形山脈は二億年前に直系四百キロクラスの小惑星が落下して出来た巨大クレーターだ。山脈は平均五千メートルの標高を持ち、一番高い所で一万メートルを超える。

 山脈に切れ目はなく、そのために外界からは隔絶された生態系が作られユーストルと外界とは多少の変化が動植物には見られていた。

 標高が五千メートルともあって植物生えておらず、そのため高度二十メートルと小型の木々でも衝突してしまう高さでも安全に移動が出来たのだ。

 ナビも円形山脈に入ったことを示し、少しずつ山脈の中央へと光点は進む。

 いよいよ安全が保障されない区域に入る。

 捕まれば二度と母国に帰ることはないだろう。たった十五キロ。しかしとてつもなく遠い。

 山頂を越え、同時に国境も超えてレーゲン共和国へと不法入国を果たす。

 一般車両ならばここで国境越えの警告音が鳴り響くが、軍用車にそんな仕様は不要だ。ただ国境を越えた知らせだけがナビに記される。


「これを」


 そう言ってエルマは暗視ゴーグルを手渡し、ルィルはそれを装着した。

 赤外線を見る暗視ゴーグルは、月光がなくても星々の光さえあれば昼間のように見ることが出来るようになる。これによって一切見えなかった山肌が見えるようになった。

 草木が一本も生えず、岩と砂利しかない不毛の肌だ。

 ハンドルを握る手に力が籠る。

 ステルス性のある車体なため、レーゲンのレーダー網には引っかかっていないはずでもそれを確認する術はない。もしかしたら捕捉されてスクランブル出動している恐れもある。

 一刻も早く麓にある巨木林に逃げ込んで闇に紛れなければならない。

 ルィルはスピードを上げる。


「予定通り、屋敷から五キロのところで地面に停めてください」

「はい」

「んお……もうすぐ着くのか?」

 後部座席でエルマと同じように仮眠を取っていたリィアが目を覚ました。

「いまレーゲンに入ったところです。もうこの先に安全はありません」

「ハイリスクローリターンゾーンか」

「超ハイリスクノーリターンもありますが」


 浮遊艇は斜面を沿うように下り、ほどなくスピードを緩める。

 円形山脈を越えて群生する巨木林に達したのだ。

 無明とも言える暗黒空間だが暗視ゴーグルは巨木の位置をしっかりと露わにしていて、ルィルは接触させないようハンドル操作をする。


「ところで、ウィスラーの別邸の情報ってあるの?」

「私財を投じて建築したと小さな記事が一件見つかっただけですね。見取り図もなく、目的は人里離れて静かに暮らすためではないかと言う憶測です」

「さすがに前大統領とはいえ、プライベートに関しては情報はないか」

「日本問題でレーゲン国内でも色々と意見が割れましたからね。あの農奴政策会議でウィスラーは日本排除から保留に方針転換したので、支持率も随分と下がりました。そうしたのもあって大統領退任と会長就任しても、メディアの表舞台には出なくなりました」

「世論から興味が消えたらメディアは一切触れないからな。または情報規制か改ざんか、裏が取れなきゃなんでも疑える」

「詳しくしようとしたらバーニアンに知られるかもしれないので、市民レベルでの検索しか出来ません」

「そもそも情報戦で相手が上手ってのはこちらの想像よね」

「転移技術を保有している相手ならそれくらいは想定の範囲内ですよ」

「まあ、ね」


 浮遊艇の速度を時速十キロ程度にし、尚且つ地面から五メートルの高さまで下げた。

 空は二百メートルを超す巨木の木々で遮られ、低速低高度で移動することで樹海の中にあるかもしれないセンサーを回避する。

「……人工物が何もないわね」

 暗視ゴーグル越しに見る闇に灯る光は一つもない。

 元々この世界では単身で生活するには広すぎて逆に人口は少なすぎるのだ。地理的に有益な土地でなければ住むには不便すぎる上、自給自足を余儀なくされるからこうしたところでは人工物の一つもなかった。

 そうして移動しているうちに目的地から五キロに到着した。

『目的地に到着しました』

 ナビがそう知らせる。

「ここからは単身での移動よ」

「ルィルさん、エンジンを切って完全に地面に設置させてください。コールサインは私はアルファ。リィアさんはベータ。ルィルさんはチャーリーで」

「了解」


 フィリア社会の電気系統は、世界中で無尽蔵に取れるレヴィニウムによって熱を電気に変え、同時に遮熱をしている。

 これによって赤外線センサーはかなり騙せられるが、完全停止状態には遠く及ばない。

 人工物がない中で障害物だらけであっても熱源を持つのは敵地ではかなりのリスクだ。

 よって念には念を入れる考えでルィルは地面に浮遊艇を着陸させ、エンジンを完全に切った。

 狭い車内でする音は衣擦れの音と呼吸音のみとなった。風切り音もなければ野生動物の声もない。静寂の言葉がしっくりくる中、三人は真っ暗ながら次の行動に移す。

 全員が暗視ゴーグルを身に着け、全身を覆うギリースーツを身にまとい始めた。

 レヴィニウムの粉末が散りばめられた軍用対赤外線対策スーツで、体温を微弱な電気に変換し続ける。端的に言えば体温を奪い続けて表面温度を限りなく常温以下にするスーツだ。

 欠点として体温を奪い続けるため常に肌寒く、自身を浮かせる生体レヴィロン機関が不調になってしまうのがあった。

 しかし、民間人ならともかく軍人は鍛えているため代謝がよく、体温維持が出来たため活動に問題はなかった。


「音は立てず、ナビも二秒以内で……ってそこは現役軍人のお二人の方が得意ですね」


 無明の世界では機器の最少光量だろうと遠目で分かる。それゆえ、ライトなどはごく短時間でしかつけることは許されない。

 装備品を一式確認した上でギリースーツを身にまとい、三人は浮遊艇の外へと出る。

 ここから先は最先任であるリィアの指揮下に入る。

 リィアはナビを一瞬見て方角を確認するとハンドサインで移動を指示し、ルィルとエルマはそれぞれ左右を警戒しながら地面から一メートルの位置を移動する。

 両手には小銃を携え、誰もいない確率の高い虚空に銃口を向けながら進む。

 音も何もない。

 そよ風すらない巨木林下層空間を隠密に身を包んだ三人が進み続けた。

 杞憂か油断を誘うか分からないが、何も起きることなく目的地へと近づく。

 浮遊艇を出て二十分だろうか。リィアが止まるようにハンドサインをし、三人は巨木の幹を背に止まった。


 ナビを一瞬見て、この先が目的地とハンドサインをする。

 今背にしている巨木の先に、フィルミの言っていることが正しければ別邸があるはずだ。

 少なくともフィルミがチャリオスに協力している線が低いのは、ここに来るまでにエルマが言っていた。

 もしフィルミがチャリオスと手を結び、テロに加担していたのなら一番に消しておきたいエルマに何もしないはずがないからだ。

 いつ、どこに来るのか分かっていれば転移技術で爆弾を送ることも出来れば敵兵をフィルミ邸に忍ばせていることも出来る。なのに今この瞬間まで生きていると言うことは、フィルミは無関係と証明となる。

 絶好の奇襲機会を放棄し、騙すために泳がせる意味はないからまず問題ないのが三人の結論だった。

 ただ、チャリオスと繋がりがないのとウィスラーの真偽については別の話である。

 リィアが最初に幹の陰から目的地を黙視する。

 周囲は依然と暗闇から別邸の有無に関わらず光を発していないのが分かる。

 ひと気に加え家主が死去し、テロから二週間以上経っていることから警備がいないか、そもそも最初から屋敷はないか。

 幹の陰からリィアがのぞき込む。


「…………フィルミの言っていたことは本当のようだな」


 小声でリィアは呟き、ルィルとエルマも幹の陰から覗き込んだ。

 フィルミに言われた座標と全く同じ位置にあった巨木は、他の巨木と違い人の手が加えられていた。

 浮遊都市や巨木林都市では巨木の下部から上部まで全て使うところ、個人所有の私邸だけあってか百メートル付近が居住区として建築されていた。

 窓らしき枠とガラスが見え、入り口である庇も作られて浮遊艇を停めるための駐車場用庇も下部に取り付けられている。さらに下方にはインフラ設備を設置しているだろう配管がむき出しの区画も見られた。

 ウィスラー邸のものかは不明だが、確かにフィルミの言う通りに家屋はあった。


「警備はいなさそうだな。俺たちと同じように潜んでいたら分からないが」

 巨木林は隠れる場所が多すぎる。たった三人で周囲の安全を確保して別邸に行くのは不可能だ。

「危険を承知でも行きましょう」


 ここまで来て臆して逃げるわけには行かない。かといって分担して安全確認は愚の愚だ。

 ならば誰もおらず、いたとしても気づかれていないと信じて行くしかない。

 三人は、日本に関わりを深く持っているばかりにわずかな耐性を得た低空移動で別邸へと移動を開始した。

 その高さは地面からわずか十センチ。民間人なら発狂する高さだ。

 一般兵でさえ精神に支障を来す高さだが、六年に及ぶ日本との関わりがルィル達に異端とも言える耐性を与えた。

 無論平気と言うわけではなく、緊張が迸るのだが冷や汗は掻かなくなっていた。これも全て、リーアンから見たら非常識でしかない地面に平然と立って活動を行う日本人を見続けたからだ。

 空に立つことの出来ない日本人が平然としていて、空に立って尚不安に駆られるリーアンが滑稽でたまらなくなる。

 そうした感情を六年抱き続け、尚且つ幾たびと日本に入国していれば以前の訓練以上の成果を得られた。


 地面を背にして上空をルィルは警戒する。

 風がないので木々の葉っぱがこすれ合う音もなければ揺れ動くこともない。

 ただ、暗視ゴーグルとて万能ではないから遠方まで見えることはないし、機械的に視界を確保するため光のノイズが判断の邪魔をする。

 目的地の巨木に到着したルィルたちは、再び幹を背に周囲を警戒しながら高度を上げる。

 庇のある両開きの扉の前に到着した。

 何も動かない。

 リィアはドアノブに手を当てる。


 首を左右に振った。主人が死去しようと鍵が開けっ放しであるはずがなかった。

 鍵の形状からピッキングツールがあれば開けられないことはないだろうが、ドアを破城槌で破って押し入ることはあってもピッキングして密かに入る訓練はルィルもリィアも受けてはいない。

 ならば次は窓と幹沿いに移動して窓に近づく。

 しかし、扉がダメだからと言って窓ならいいわけではなかった。

 空に立つ以上、扉や窓にさして意味はない。日本ならば『高さ』と言う制限があって施錠はある程度簡素化出来ても、フィリアは窓も扉も頑強さは変わらないのだ。

 フィリアで不法侵入を防ぐには高さではなく硬さでしかない。

 当然窓にも内側から鍵が掛けられてリィアが押してもびくともしない。扉と違って外から鍵は掛けられないからピッキングも出来ない。

 窓を割る方法もあるが、音が大きい上に定番の侵入方法だから当然対策もされている。

 窓には鍵穴はあっても摘まみはないのだ。

 つまり、窓の鍵を開け閉めするにはいちいち鍵を差し込まなければならない。

 面倒ではあるが、それによって窓その物を破壊しない限り侵入は出来ず、したところで標準装備の警報がけたたましく鳴り響きくので防犯に大きく貢献していた。

 ただし、警報に関しては通電しているに限る。


「……通電はしていないようだな」

 当然の状態と言えた。主人が不在で、元々ひと気のない巨木林の中の一本をくり貫いて建築した孤独の家屋だ。インフラもこの一本のみに集中しているから、インフラ設備を無駄に稼働させ続ける意味はない。

「壊すしかないな」

 鍵を近くに隠してくれていたなら楽だが、真っ暗闇の中で自然物だらけの中に隠した、あるかも分からない鍵を探すのは得策ではない。時短を考えれば鍵を壊す方が早く確実だ。

「このスーツを重ねて、銃声と破壊音を減らしましょう」

 鍵を壊すなら銃を使うのが早い。

 エルマは来ているスーツを脱ぐと、それを三つ折りにした。


「お二人も」

「けど、必ず大きな音がするわよ?」

「他に手がありますか?」

「物音を立てずに入る方法はないな」

「けどそれは空いている窓がないか探してからでは?」

「そうですね。すみません」

 急いていることに気付いたのか、エルマは再びギリースーツを着込んだ。

「俺は上層、アルファは中層、チャーリーは下層の窓を調べよう。全て調べずとも五分後にはここに集合だ」

 全員が時計を確認し、それぞれ動き出した。

 背後に注意しつつ、正面玄関から見て階下に窓に軽く手を当てて動くのかを確認する。動かなければ幹沿いに進んでまた。開かなければまたと延々と続ける。

 果たして鍵をつけ忘れた窓はなく、時間の五分となって正面玄関へと戻った。


「どうでした?」

「下層は開いていないわね」

「私も同じです。当然と言えば当然ですが」

「上もだ。さすがに戸締りはしっかりしてるな」

「では……」

 改めてエルマはスーツを脱ぎ、ルィルとリィアも脱いだ。

「監視がいたらまず気づかれると思え」


 リィアはそう言いながら脚にあるホルスターから拳銃を抜き取り、上着のベストにしまってあった筒状の砲身、サイレンサーを取り出して拳銃に装着する。

 狙うは両開きの窓の中央内部の金具部分。

 三人分のスーツで銃と窓に押し付け、銃声が従来の三分の一の音量で響いた。

 消音器ことサイレンサーは、映画やドラマみたいにほとんど音が無くなるほどの性能は実はない。実際のところ名前負けしていて、銃声を誤認させるほどでしかなかった。

 生活音が活発な場所であれば気づかれにくくとも、無音の空間では不自然な音が響く。

 ガラスが割れる音も聞こえ、三人に緊張が走る。

 周囲でもしここを監視している者達がいれば確実に察知されてしまう。

 が、暗視ゴーグルの視野に動くものは無い。


「開きました」


 弾丸は窓の金具を壊したようで、衝撃でガラスが割れもしたが両開きの窓は開いた。

 再びスーツを身にまとい、三人は別邸の中へと入った。

 巨木林の中でもそよ風すらない無風から自身が発する音しかなかったが、密閉された家屋内ではまた別の無音の世界であった。

 密閉されていたからこその圧迫感ある環境で、無音と無明と無の言葉がふさわしい。

 それでも暗視ゴーグルのおかげで、常人であれば自分の手すら見えない世界でも目で捉えられない光を増幅させて見渡すことが出来た。

 侵入した部屋は応接間なのだろう。対面式のソファーが電源がないために床に置かれ、ホコリ対策かビニールシートが敷かれている。

 人の気配はやはりなく、通電も同じくないようだ。


「さて、どこを探すか」

「パソコン回りは無意味ね」

 露骨な場所は最初から論外だ。パソコンや外付け記憶媒体は真っ先に調べられる定番中の定番で、今更調べたところで有益な情報はない。

「……ここは彼がリーアン側の味方である前提で考えを読んでいきましょう」


 ウィスラーはリーアンと地球人のハーフだ。

 医学的に二種の星人の異種混合して生まれた子供は、例外なく天才的な頭脳や肉体を持って生まれ、以後その血筋さえ残れば因子は次世代にも引き継がれて薄まることがない。

 平たく言えば、ハーフの家系では全員子孫は天才児として生まれるわけだ。

 ただし、天才的なメリットに対して肉体的特徴のデメリットがある。それは黒髪と足が五本指が必ず生まれてしまい、偽装をするには中々に難しい特徴だ。

 それでもウィスラーは戦地で負傷したとして足は一部がなく、黒髪も永久脱毛をして隠し通した。

 これも全てリーアン側に立つためであり、日本が転移してから死去するまでひたすらにリーアン側であり続けた。

 であれば今でもウィスラーはリーアンの味方であるのが妥当だ。いや、そう信じたい。

 そんな彼が、ひょっとしたら来るかもしれないバーニアンに奪われるような情報を残しはしないだろう。家宅捜索をされても気づかれない所に隠しているはずだ。


「すでにレーゲンの捜査機関が手に入れた可能性もあるぞ」

 真犯人の情報と言う国際規模のテロでは外交カードとして有効的に使うことが出来る。すぐに公にはしないだろう。ましてやレーゲンだ。真相解明ではなく国益重視でなんらかの譲歩を仄めかしてくるに違いない。

「それはないでしょう。なにで前大統領ですからね。自国が情報を手にすればどう扱うかは熟知しているでしょうから」

「なら尚のこと情報を渡して国益に使わせるのでは?」

「であれば最初から情報を手渡してますよ。ですけどレーゲンも他国と同じ対応なので、情報は渡ってないと思います」

「そもそも、隠してあるのかも希望でしかないしね」

「隠し扉を含めて探しましょう」

「……一晩で見つかればいいけれど」


 窓の位置から四階建てだ。インフラ区画を含めれば五階から六階はあるだろう。

 小型の記憶媒体であれば隠し扉を作って隠すとなればスペースは小さくて済む。

 ありていに言えば、探す範囲が広すぎるのだ。

 あるかどうかも分からず、たった三人で、尚且つ暗闇の中で探すのは大変以外の何物でもない。

 しかし、だからと言ってやめる選択肢もなく、リィアは外の見張りをしてもらいルィルとエルマは一つの部屋ごとに探索を開始することにした。

 まずは家具に隠されていないか、薄手の手袋をした手で弄る。

 侵入した痕跡は残してしまっても、誰が侵入したのかまでは知られてはならないためだ。

 素手の方が感覚が鋭いから探るには便利だが、指紋や遺伝子情報は残してはならない。

「ライトが使えないのが辛いわね」

 せめて頭髪の発光が使えればより鮮明に見えるようになるのだが、使えば人がいることがバレてしまう。

「いくら遮光性の高いカーテンだとしても、こうも無明では頭髪の光でも外から見えてしまいます。我慢して続けましょう」


 目先の楽さから後の苦労を考えれば今苦労するべきだ。

 分かっていながらもつい愚痴を零してしまい、自己反省して探索に集中する。

 家具をまさぐりながら、ルィルは自分が隠すならどこに隠すのだろうかと考える。

 凡人が考える隠し場所と天才が考える場所は異なるだろう。

 ただ見えにくい隅に置くようなことはせず、デッドスペースに隠すのも考えにくい。

 例え長期間目が届かなくても安全が保障できるところを確保するはずだ。

 考えられる有力なのは壁の中。それも外からでは見分けがつかないほど偽装して、本人以外は見分けがつかないようにする。

 より確実なのが埋め込んでしまうのだが、それでは出し入れがしにくい。

 いくつかある絵画の額縁の裏をひっくり返して覗くも、あからさまな隠し金庫用の扉は見えない。


「……クリア」

 三十分ほど探してそれらしい物は確認できず、ルィルもエルマも確認が終わった言葉を放った。

 ワンフロア四から五部屋はあるだろうから、あと二十四部屋は探す必要がある。

「ベータ、窓に音響トラップを掛けて探索に回ってもらえますか?」

「分かった」

 さすがに二人で全部屋を探索するのは現実的ではなかった。

 一部屋で根を上げたエルマは、リィアにそう指示を出す。

 早期警戒は失われるが、二人と三人では効率ははるかに違う。この選択が幸か不幸、どちらに傾くかは未来だけが知ることだ。

 目先の楽さに手は出したくはないが、広さを考えたら致し方ない。

「アルファ、念のため言っておくがもし音が鳴ったら九割詰んだと思ってくれ」

 音が鳴ると言うことは侵入を許した証だからだ。

「一人で防戦もまた九割近く詰んでいます。どうあれ厳しいなら前に進みしましょう。危険は覚悟の上です」

「……了解」

 リィアはカーテンに触れると音が鳴る簡易音響トラップを手早く仕掛ける。

「これで音がなれば侵入したと分かるだろ」


 仕掛けたトラップはカーテンレールに金物を置き、金物とカーテンを糸で繋いだ簡単なものだ。硬く結んでいるわけではないから、カーテンが動けば金物は床に落ちて甲高い音が鳴る。

 今日は無風だから風で靡くこともないだろう。

 三人は不安と焦燥を胸に、別の部屋の探索に向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ウィスラー別邸への潜入ミッション・・・・ 未だ目当ての物は見つからず(><) ハーフならではの意外な隠し場所にあるのか? 日本ならよく冷蔵庫や下駄箱、米びつの中とか貴…
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