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陸上の渚 ~異星国家日本の外交~  作者: 龍乃光輝
第二部 第四章 フェーズ1 捜査編 全19話

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第112話『0から1』

「我が国のスマホのオンラインストレージデータ、ですか」

 再び現地捜査本部に戻ったルィルとリィアは、最初の取っ掛かりとして日本の携帯電話のデータ閲覧が出来ないかを尋ねた。


「爆発の直前で撮影した浮遊都市内部の映像が残っていないか確認をしてほしいんです」

「それでしたら現在手続きを進めているところですよ」

「本当ですか?」

 最悪個人情報を盾に出来ないと言われると思っていたため、前向きな返答にルィルは驚きを見せた。


「ただ、私物のスマホは個人情報保護法が絡むので手続きに時間が掛かります。官給品の方はすぐに調べられるのですが、そちらでのデータは何一つありませんね」

「どれくらいで閲覧できますか?」

「それはなんとも……令状を含んだ法的手続きに遺族への説明と即日とはいきません。日本人だけでも三百名以上が被害にあってもいますので、並行で行っても一ヶ月以上は……」

「そんなには待てません。いつ次のテロが起きるのか分からないのに一ヶ月も待つなんて」

「急ぎたいのは我々も同じですが、法を順守する側が法を破るわけには行かないんです。ドラマなら正義のためと法を破るのはよくあっても、現実はそうはいきません」

 暴論を言っているのはルィル達だ。正論を盾にされてはそれ以上のことは言えない。

 少なくとも出来ないわけではないから止まってはいないのが救いだ。


「……では一つ要望を出していいですか?」

 少し間を開けてリィアが話す。

「まず知りたいのは都市内部なので都市内部を巡回していた警官から調べてもらえますか?」

「絶対とは言えませんが、大臣や官僚よりは調べやすいと思うので善処します。データは捜査本部にも送りますが、構いませんか?」

「情報は共有するべきなのでもちろん構いません」

 ルィル達と捜査本部との違いはバーニアンの真相の有無のみだ。純粋に得られたデータは共有して問題ない。

 例え純粋な調査でバーニアンの真相に触れる証拠が出てしまっても、遅かれ早かれ知られてしまうから隠蔽してしまうほうが証拠能力を消してしまう。


「いま現在日本側で入手している映像を含んだデジタルデータは貰えますか?」

「そう思って用意してあります」

 現地捜査本部責任者は言いながら日本製のストレージを用意する。すでにイルリハラン側からもデータは貰っているから、これで両国分のは揃った。

「我が国の機器になりますが、変換は可能ですか?」

「ありがとうございます。共有は可能ですのでそのままお借りします」

「調査資料ですので、くれぐれも管理は厳重に願います」

「もちろんです」

「他に手伝うことはありますかな?」

「いえ、今は十分です。一つでも内部映像が分かりましたら連絡をください」

「分かりました」


 そう建前としての返事はするが、テロの前に時間のロスは失態と言える。

 イルリハランは歴史の中でも今回に相当するテロと言うテロは無いが、テロに対する危機感は国際標準で知っている。

 ましてや次に狙われるのがエルマに羽熊、秘密裏にバーニアンを知っているルィル達となれば、時間の浪費は避けなければならない。

 攻めなければ敗けるのだ。

「リィア、どうする? 日本警察の返事を待ってる余裕はないわよ」

 捜査本部を出て、空に停泊させ続けている浮遊艇に向かいながらルィルは訪ねた。


「さすがに待てないな。とはいえどうやって通常に手続きを省かせる?」

「……羽熊博士か若井首相に頼んでみる?」

「二人の人生を破滅に追い込むんなら有効だな」

「……やっぱり終わる?」

「説教で済むなら刑務所はいらないだろ。あの二人が裏で動けば情報は早く手に入るかもしれないけど、バレたら責任を取らされて職を失うぞ」

「法は悪の味方をするから嫌いよ」

「法は社会を纏めるルールだ。善も悪もない。ただどっち側に立ってるかだけだ」

「常に正義の味方であってほしいわ」

「正義もやり方次第で悪にもなるからな。どちらかというと都合のいい法であってほしいってところだ」

「なにかいい方法はないかしら」

「正攻法じゃあ無理だな」

「なら映画みたいにハッキングを仕掛ける?」

「……出来なくはないか」


 イルリハランと日本がそれぞれ電子機器を交換して六年が過ぎた。

 異星間文明同士のパソコンの通信は接続地域で両陣による精力的な交流と活動によって数年前に成され、専用のシステムを必要とするが可能となっている。

 仕様の違いから完全な互換性とまでは行かなくとも、同じ技術水準が奇跡の繋がりを果たしている。

 よって理論的にイルリハランから日本のパソコンに侵入することは可能なのだ。


「けどな、ウチのメンバーの誰が日本の警察……じゃあないか、携帯会社のシステムに侵入できる。大手企業ならセキュリティは強いし、イルリハランから侵入されたとなれば問題にもなる」

 いくらエルマが選んだ各分野が得意なメンバーで構成しているとはいえ、プロと比べれば未熟もいい所だ。仮に仕掛けたところで返り討ちに会うのが目に見えている。

「あれもダメ、これもダメ……待つしかないの?」

「データは貰っても、これはイルリハランも日本も調べてるものだからな。俺たちが改めて調べて新発見があるか……」

「このまま帰るわけには行かないわ」

 本音を言えば羽熊に連絡をして時短要請をしたいが、どれだけ迷惑になるのか分からないルィルではなかった。

 データが確実にあるなら説得を考えても、そもそも服務違反となる撮影をしているかもわからないのだからごり押しは出来ない。


「瓦礫の中から稼働する携帯電話は見つかってない?」

 オンラインで時間が掛かるならオフラインで見つけるのが早い。現物があれば調査の一環として調べることが出来る。

「熱や衝撃が酷くてデータの抽出も出来ないらしい。まだ全部は見つかってないから抽出できるのがあることを願うしかないな」

「ここで口論をしても先には進めないわ。何か考えないと」

「ここで考えた所で先にも進めないぞ。今日はここまでだ」

「……配信……」

「なに?」

「雲をつかむような考えだけど、もしリアルタイムで配信をしていたらどうかしら。それなら動画サイトや個人ブログにデータがあるかも」


「動画サイトなら警察も調べてるだろ」

「ソーシャルメディアサイトじゃなくて個人ブログなら? 被疑者じゃなく被害者だから個人ブログまで調べたりしてないんじゃない?」

「被害者の名前でヒットするブログなら調べられるな。どうせ出来ることはないんだ。被害者リストから手当たり次第に調べてみるか」

「あとは検索の仕方ね。それくらいなら博士にも手伝ってもらいましょう」

 前に進めなければ別の道を探して前に進むしかない。

 例え後退を余儀なくされても、止まることだけは許されないのだ。

 ルィルとリィアは浮遊艇に乗り込み、一時駐日大使館への帰路に着いた。


      *


「サリア、ウチと日本の警察からデータを貰って来た」

 駐日イルリハラン大使館の一室に作られた捜査室は、リィア、ルィル、エルマの三人を除くメンバーが作業を行っていた。

「待ってました」

 パソコンに目を向けていた、元偵察隊七〇三で通信士をしていたサリアは二つのストレージを受け取るとそれぞれのパソコンへと接続をする。


「現場はどうでした?」

「テロと言うよりは災害現場って感じだったわ。日本の人々は懸命にがれき撤去して遺体回収してた」

「そうですか。歓迎されました?」

「身内からは邪険に扱われたよ。本家がいるのに王命だからってしゃしゃり出るなって感じ」

「まあ横槍を入れられるんですからいい気はしないですよね。俺たちは信用できないのかって」

 パソコン画面に取り込んだストレージ内容が表示される。

「素人新参チームでもこっちも一応正規なんだから本家チームと情報共有してほしいですよ」

「邪険に扱うからこそセキュリティも心配するんでしょ。オンライン接続は諦めるしかないわね」


 本家捜査本部と、ルィルたちのいる別働捜査チームはデータ共有を行っていない。

 衛星を経由しての通信は有線と比べて遅いとはいえ、それでも情報共有をするだけの十分な速度は確保出来ている。それでもオンラインでのデータ共有が出来ないのは、別動隊が出来たばかりで共有構築が出来ていないのがあった。

 一応非正規として活動するわけではないから、近日中には共有化される予定だ。

 それまではオフラインで操作をして行くしかない。

 サリアは吸い上げたデータを別働チーム内のサーバーにアップロードして共有化させる。


「で、何から調べます?」

「日本人被害者のリストを出して。特に警官から」

「了解」

「そしたら日本のインターネットで個人ブログをしてないか調べて。もしかしたらその中でライブ配信をしていて都市内部の映像があるかもしれない」

「浮遊都市のデータは吹っ飛んでますからね。別都市にバックアップはしないからそう調べるしかないか……。日本の携帯電話はどうなんです?」

「破損が酷くてデータの抽出は無理そう」

「じゃあそこから調べるしかないわけですね。でも警官が携帯電話で内部映像の配信とかしてますかね。それって服務違反だし、まだテレビの映像を探す方が早くないすか?」

「そっちは正規が調べてるでしょ。こっちは別動隊らしくやらなそうな別の視点から攻めてみましょう」

「了解しました」


 正規の手続きや常識から来る捜査は正規チームに任せればいい。ルィルたちは別動隊。なにも常識の観点から攻める必要はない。

 誰も考えない観点から攻めて摺り寄せればいいのだ。

 ただ、確率が低いのも確かだ。

 国際式典の警備に参加する警官が、舞台裏をライブ配信するメリットがない。

 確実な服務違反であり仮名を使っても個人が特定出来るはずだから、自滅覚悟でする理由がない。参加した政府職員ならありえるだろうが、だとしても意味のない室内撮影はしないだろう。まだ広報として撮影であるが、式典の真っただ中でする理由も待たない。

 なんとかして内部の状況を知りたいものの、直接撮影した映像の入手は絶望的だ。

 ルィルは考えながら用意された自分の机に腰かけ、イルリハランと日本の両方のパソコンのスイッチを入れる。


「色々と考えないと」


 腕を組み、ルィルは考えを続ける。

 配信がダメだった場合の次を考えなければならない。

 誰もが考えられることは正規に任せ、誰もが考え付かないことをルィルたちが考える。

 正規とのやり取りはしていないが、おそらくそうした考えで動くことだろう。実際、ルィルたちは正規では誰も知らないバーニアンの秘密を知った上で動いているのだから。

 ただ、考えても奇抜な考えは思い浮かばず、ともかく持って帰って来たデータを見てみようとマウスを動かす。

 さすが正規の捜査機関が集めた物だけあって、細かく分類されて整理されている。

 官民問わず得られた情報の中から、映像のフォルダを選んでサムネイルを表示させた。


「全部が定点カメラとテレビ……か」

 サムネイルに表示される映像の一部分は全て遠方と会場で、内部の映像は一つもない。

 イルリハラン側も同じだ。

「外側から中を見ることは出来ないかしら」

 浮遊都市は建物と同様に中から外が見られるように窓が取り付けられている。不純物の多さから地球の窓と比べて色が混ざったり歪んだりしてしまっているが、それでも中は覗ける。

 遠方から撮影された映像を一つ選び、何倍と拡大して台座の窓を見る。

 定点カメラその物は高画質ではあるものの、浮遊都市だけを画面いっぱいに捉えているわけではないので浮遊都市そのものは小さく、画面いっぱいにまで拡大すると粗さが目立つ。

 窓を拡大すると数ドットだけになってその中までは到底見ることは出来ない。見続けていると窓は画面の下へと沈んで白くなった。爆発したのだ。


「やっぱり無理か……」

 他の定点カメラに切り替えても同じだった。

 会場にあるカメラはそもそも室内を覗けるものは一つもなく、映るのはウィスラー会長の演説の途中で画面が真っ白になるシーンだ。

 定点カメラでは数秒の降下の直後会場を中心に放射状に爆発が起こり、衝撃波が起こす水蒸気が広がる。

 果たして入手できた映像からは内部の情報を知ることは出来なかった。

「はぁ……」

 分かってはいたものの、無いと自身の目で知るとため息が漏れる。

「サリア、ブログの方はどう?」

 全滅なのは残念だが、無いと言うことを知ることが出来た。ならば次を狙うまでだ。

「検索できる範囲じゃ個人ブログはヒットしないですね。ハンドルネームを使われたら本名で検索しても無理ですよ。一応配信タイトルで検索できないかしてもヒットなしです」

 別動隊チームは全員日本語の読み書きができる。だから日本語語表記のインターネットを調べることは造作もないが、通常検索では限界がある。


「まあ可能性が低いのは分かってたけど、無いとなると辛いわね」

「全然進めてませんからね。あとは両陣営が取得した情報から紐解くしかないです」

「それで犯人の目星が掴めればいいのだけど……」

「または犯行声明を出すかですかね」

「爆発物の成分から割り出しとかできない?」

「化学関係は自分では分からないですね。そこはメイビアに聞いてください」

 メイビアは元七〇三偵察隊ではなく、同時期に偵察にあたっていた別の偵察隊の兵士だ。

「ありがとう」

「いえ、自分はこのまま見つけられないか探ってみます」

 サリアはそう言うと二ヶ国のパソコンを使いだし、ルィルは化学担当のメイビアの机へと向かった。

「メイビア、現場から見つかった残留物から何かわかる?」

「あ、ルィルさん。まだ十分見れてないですけど、シルビーは今回使われた爆発物は新型と結論付けてるみたいですね。大半が爆発物に使われない物質なので、どれくらいの性能があるのかは再現しないと分からないですけど」

「性能までは分からない?」

「配合比率すら分からないですからね。そもそも残留物だけで再現できるかも分かりませんし。学士レベルの人員でやるより、専門機関で調べてもらった方が効果的です」


 ルィルたちは兵士だ。各分野に得意ではあっても専門ではない。

 理解が他の者より速くてもそれだけだから、その先は専門家や専門機関に任せる方が適切だ。

 秘密裏の調査故に信用できる者を集めたのは分かるが、素人に近い集団に対する期待値が高すぎる。

「これで私たちに何を期待するの?」

「気持ちは分かりますがね。でも、裏で動くにしても全員学がなくて理解が出来なきゃ進まないじゃないでしょう? 専門は本家に任せて、専門用語をかみ砕けるメンバーがいればルィルさん達は動けるでしょ」

「そうね。私たちには私たちなりのことをするまでよね」

 何のための別動隊なのだと、ルィルは自分に再度言い聞かせる。

 双方でプロ並みに調べれば効率は倍でも、正規と別動隊の目的は異なる。そこを見極めそこなうと別動隊で動く意味がない。


「とはいえ、ノーヒントで取っ掛かりを見つけるのも大変ですけど」

 いわば0から1を見つけ出すようなものだ。1を100にするよりも遥かに難しい。

 本来なら大量の1が現場にあるはずが、圧倒的な爆発力が悉く0にしてしまった。

「もう一度映像を見てみるか」


 ルィルに出来ることはそれくらいしかない。

 ルィルは再び自分の席へと腰を下ろすと、先ほどと同じように映像を見る。

 特に爆発の瞬間までの十秒を繰り返す。

 完全に内部からの爆発だ。外部からミサイルやバスタトリア砲の砲弾が撃ち込まれた可能性はない。

 さすがに日本方向に向けた定点カメラはないから、複数の定点カメラを持ってしても死角は出てしまうが、それでも遠方から撃ち込まれた線はまずない。

 そうなると爆発物は事前に内部に持ち込まれたことになる。

 資料を展開して搬入を見るも、内容不明の貨物は一つもない。紛れ込ませるにしても搬入はイルリハランが認めた商社で、その事前検査も行っている。

 イルリハランと日本、それぞれで検査をして紛れ込ませるのは買収をしても困難だ。

 ならば移動する前から仕込まれていたかとなるが、式典用浮遊都市が最後に改修工事を行ったのは記録上で八年前だ。日本が来る前に仕込むとは考えられないし、八年間誰も気づかないのもまたありえない。

 現実的に考えて爆発物は直前に持ち込まれたとするのが自然だろう。

 どうやって……。

 リピート再生で爆発の前後十秒間を見ていると、一つの違和感に気付いた。


「……あれ?」

 リピートして再生が終わって再び再開すると、浮遊都市の高さが違ったのだ。

 目算で数メートルは始まりと終わりで低くなっている。

「もしかして見つけた?」

 ルィルはすぐさま定規を探し出し、背景の地平線と浮遊都市の高さを確認した。

 定点カメラが動いていないか確認するためだ。

 結果として画面の中で地平線は微動だにしていないのに浮遊都市は数メートル程度低くなっていた。浮遊都市の大きさから、二枚の写真を連続で見なければわからないほどわずかな違いしかないが、確かに低くなっている。


「この中でシミュレーションに強い人はいる!?」

 ルィルはこの直感を信じ、部屋全体に聞こえるように叫んだ。

 当然メンバー全員がルィルを見る。

「ルィルどうした」

 最初に声を上げるのはリィア。

「浮遊都市が爆発の前に高度を下げているの。もしかして、重い物が乗っかって支えられなくなったんじゃないかしら」

 これが地球人目線であれば単に高度を下げたのではないかと思うかもしれないが、高度を下げるのは気象を除いてなく、国際法で軍用を除く全ての浮遊都市は高度三百メートルで維持することが決められているのだ。

 暴風雨や衝突の危険などで回避するも、再び元の高度に戻すのが決まりなので間違ってもより地面に近づくことはない。

 そして浮遊都市はその質量プラス一割を基準にしてレヴィロン機関に電力を送っており、それ以上の加重が掛かると下がる。


「この浮遊都市が十秒で……三メートルと下がるにはどれくらいの荷重が掛かったらなるのか調べてくれない?」

「それなら降下速度と時間で割り出せます。ちょっと待ってください」

 一人がパソコンに向かってマウスとキーボードを手早く動かし、ルィルたちはその画面を見る。

 画面にはシミュレーションサイトが映っており、入力した数字で諸々の諸元を自動計算してくれるものだ。

「……自動計算の上ですけど、分速二十メートル降下するなら千トンは荷重が必要です」

 少なくとも当時の式典用浮遊都市の浮遊設定は全て基準値だろう。そこを疑うとこの仮説は破綻してしまうが、当日だけ電力操作をしていたとは考えにくい。

 突然浮遊都市に荷重が掛かったと断定して問題ない。


「内部で浮遊していた貨物が突然床に落ちたか?」

「千トンも不自然な貨物があれば警備が気づきますよ。あ、降下が始まった時の会場の映像を出して」

 話している中で、日本人と接し続けていたルィルだからこそあることに気付いて指示を飛ばす。

 画面には共有フォルダから録画のテレビ映像が映し出される。

「地面に日本人が立ってるのを探して。降下する瞬間ね」

「分かりました」

 いくつか映像を開き、入り口付近で立つ日本人が映っているのを見つけて再生をする。

 爆発する十秒前、日本人の体が揺れて周囲を見渡すのが確認できた。

 千トンが床に落ちたことで疑似的な地震が起きたのだ。

 ついに憶測ではなく、確かな取っ掛かりを見つけた。

「間違いないですね。浮遊都市内部で爆発物千トンが床に落ちてます」

「事前に搬入して浮遊させ続けた貨物を落として爆発させたってことか?」

「だからそれだと前もって分かるわ。もう一つあるじゃない。考えなくないけど条件が当てはまるのが」

 実例は六年前に体験している。


「そもそも浮遊都市に貨物置場なんてあるのか?」

「ちょっと待ってください……あるにはありますけど、千トンも事前に置くスペースはないですね。やったとしても確実に不審物としてバレます」

「……けど、もしそれが事実なら大変なことになるぞ」

 リィアはルィルと同じ結論に達しているようで、犯行方法は分かっても浮かれることはしない。

 そもそもこれは公表できる物でもないからだ。

 すれば必ず世界規模でのパニックになる。


「爆発物は突然浮遊都市に現れてる」

「物質転送か」


 六年以上前ならフィクションとして一笑しているが、今は誰も笑わない。

 ここにいる全員がありえないとされた、国土ごとの転移を目の当たりにしているのだから。

 以前羽熊が話していたことがある。

 転移技術が確立されれば国や軍、テロリストが奪い合い、既存の安全保障が崩壊してしまうと。

 危惧していた考えられる最悪の形で転移技術が実証された。

 遠いところで用意された爆弾千トンを、転送技術を使って式典用浮遊都市に送り込んで爆発させたのだ。

 それなら事前の検査は無意味だし、爆発の直前ならば連絡をする前に全てを吹き飛ばせる。


「これが事実なら、エルマの言う通り無線でのやり取りは避けた方がいいわね。私たちが事情を知って捜査してるのが敵に知られたら、今ここに爆弾が送られて来ても不思議じゃない」

 ルィルの言葉に周囲がどよめく。

 エルマがここにいないのがよくわかる。

 敵はエルマが秘密を知っていることは知っている前提で、ルィル達も知らない所で大使と監督官双方の職務をオンラインで行っている。そのオンラインで位置がバレる可能性もあるが、大使としての仕事はしなければならないし、ここで殺されれば仮説が実証される。

 身を挺した囮をしているのだ。

「……けど、これが事実なら本家とも日本にも伝えないと」

 事実は事実で共有しなければ軋轢を生んでしまう。ルィルたちが秘密にしなければならないのはバーニアンの真相のみだから、例え良い話ではなくても事実は共有しなければならない。


「日本とシルビーに連絡をしてくれ」

「了解」

「転移技術が実際に使われたかどうかの検証は本家に任せるとして、俺たちはその前提で捜査をしよう。違えば振り出しに戻るだけだ」

 メンバーは全員頷き、各々の机へと戻っていった。

「ルィル、分かってたとは思うが敵は相当デカいぞ」

「国家規模、ね」

 表向き転移技術がない世界で転移技術を有しているのだ。生産性のないテロ組織が有するとは思えず、先進国レベルの資金と技術と野心がなければ難しいだろう。

 それをテロリストに横流ししたとも言えるが、横流しした国を隠滅攻撃をしない保証がないから、生産国が実行した可能性が高い。

「敵が誰でも関係ないわ。罪を認めさせないと」

 亡くなった人々は生き返らなけれど、実行犯がのうのうと自由でいることは許容できない。国家が相手だろうと罪を償わせるまで、事件は終わらないのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 まさかの超技術『物質転送』が爆破テロの真相!? ターゲットの『座標』さえ確定出来れば、防ぐ手段はかなり限定されかねない危険な技術ですが(><) 果たして対抗策は? そし…
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